第五話 破られた約束
2017/06/15 サブタイトル追加&本文を細かく訂正
2017/07/14 本文を細かく訂正
2017/08/18 本文を細かく訂正
--sideロック--
ナイトが遊びに来たらしい。
そう聞いた私はすぐさま駆け出し、謁見の間へと向かって行った。
私の名はロック=A=タートル、この国の王子をしている者だ。
とは言え好きでやっている訳ではない。
私の父上はこの国の国王陛下だ。
だから自動的に王子様になってしまっただけなのだ。
更に言えば私は今代の『土の勇者』でもある。
これもまた好きでなった訳ではない。
『勇者』となる者は生まれた時から額に『勇者の印』が浮き出ている。
理由は不明。
今を持って誰がどういった理由で勇者に選ばれるのかは分かっていないらしい。
だから私は理由も無く勇者になってしまっただけなのだ。
『勇者』とはこの世界における人類の切り札にして英雄だ。
勇者はスキル授与の儀式において例外なく10のスキルを与えられる。
それは最高レベル100に届くという証であり、そのままズバリ強者の証だ。
おまけに『勇者』には『ハズレスキルを引かない』という特典まで存在する。
だから限界まで鍛え上げた勇者というのは総じて強い。
今代の勇者の中で有名なのは朱雀の国の『光の勇者』殿だろう。
彼の活躍はこの国にも轟いている。
私も来月にはスキル授与の儀式をすることになっている。
そこで10のスキルを授けられ、英雄への道を歩まされるのであろう。
ちなみにスキルを貰っていない段階でどうして土の勇者であると分かるのかと言えば、これは簡単だ。
髪の色と瞳の色とが関係しているのだ。
普通、この2つは両親の特徴が遺伝すると言われている。
しかし勇者というのは、その性質によって髪の色と瞳の色が変わるのだ。
現在闇の勇者をしている幼馴染の両親は黒髪黒目ではなかったらしい。
しかしあいつは生まれた時から黒髪黒目だったそうだ。
らしいというのは伝聞だからだ。
あいつが生まれたのは、私よりも数ヶ月前だ。
だから私はあいつの赤ん坊の頃を知らない。
私があいつや他の幼馴染達と出会ったのは3歳の時だった。
私は王子で勇者だ。
それはつまり優良物件という奴らしい。
将来国王になり、英雄になる事までが決定している私の周りには甘い汁を吸おうとする有象無象の大人達が群がって来ていた。
だから私の周りにはいつも彼らから派遣された沢山の子供達が『友達になりたい』と言って寄って来る。
しかし私は知っているのだ。
彼らは別に私と友達になんかなりたくない、という事を。
親に言われてそう言っているだけで、私の事は王子や勇者という記号でしか見ていないという事を。
子供というのは正直だ。
「私と友達になりたい」とか言いながら、私の事は見もしないで、本当の友達と一緒に遊んでいるのだから。
そんな彼らと友達になんてなれる訳がない。
だから私には友達がいなかった。
私に初めて出来た友達は、奇人と変人と危険人物だった。
やたらと物知りなのに、変な事を勘違いしている、父上の親友の息子。
ありとあらゆる事に興味を持ち、大人達を質問攻めにして煙たがられている、宮廷魔道士長の娘。
物心付く前から闇の勇者としての訓練を受け続けた結果、殺気を撒き散らし、無口になった同い年の勇者。
この三人が私の初めての友達だ。
それから他の友人も何人か増えはしたが、やっぱりこの四人で遊ぶ事が多かった。
特に子供の頃は奇人として一部で有名だった父上の親友の息子、つまりナイトは同じ男同士だということもあり、親友だと思っている。
勘違いではない。
ナイトも親友だと言ってくれたのだ。
私は18歳になったら勇者として旅立たなくてはならない。
ナイトはその時になったら、一緒に旅立ってくれると約束してくれたのだ。
父上も若い頃は、ナイトのお父上と共に諸国を巡ったと言っていた。
その時のことを話す父上はとても楽しげだ。
だから私もナイトと共に世界を旅して、楽しい思い出を作るのだ。
そうでなければ勇者なんてやっていられない。
そもそも私は戦闘訓練も魔法の勉強も嫌いだ。
部屋に篭って絵を描いたり、音楽を聞いたり、本を読んだりして暮らしたいのだ。
ナイトと一緒に旅立つ事になっているから、辛い勇者としての訓練も耐えられるのだ。
そんな私の親友が、私と共に旅立つことを断りに来たという。
謁見の間の外、扉を薄く開けて聞き耳を立てていたらそんな話が聞こえて来た。
私はびっくりして扉の前に立っている兵士達を振り返る。
彼らは私のわがままを聞き入れ、盗み聞きを許してくれる良い兵士達だ。
そんな彼らも驚いた顔をしていた。
つまり事実なのだ。
ナイトは私と共に旅立たないのだ。
そんなのは駄目だ。
止めなくてはならない。
だから私は止めに行った。
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--sideナイト--
「ダメだぁ!!!」
突如謁見の間に大声が響き渡る。
声がした方向を振り向くと、謁見の間に通じる扉の1つが開け放たれ、陛下をそのまま子供にして少し細くしたような子供が仁王立ちしていた。
茶色い髪に茶色い目、10歳にしては背が高いが筋肉が無いのでひょろ長の印象。
奴の名はロック=A=タートル
玄武の国の王子にして今代の『土の勇者』が泣きながら突っ立っていたのだった。
奴は俺の親友だ。
その親友が泣きながら「駄目だ、駄目だ」と呟いている。
あいつは恐らく謁見の間の話を盗み聞きしていたのだ。
間違いない。此処に遊びに来た時、俺もあいつと一緒に良くやっているからだ。
俺はロックに話しかけた。
話したくは無かった。
しかし話さざるを得なかったのだ。
約束を破ることになるのだから。
「よう親友、景気はどうだい?」
「ぼちぼちでんな~。って誤魔化すな! ナイト! どういう事だ、説明しろ!」
「盗み聞きしていたんだろう? どこまで聞いたよ?」
「最初から全部聞いてたよ!」
「話が分かる兵士ってのも考えものだね」
――やっぱり最初から聞いていやがった。
この城の謁見の間は城のほぼ中央に位置している。
だからここに来ようと思えば城の中のどの場所にいてもすぐに来れるのだ。
そもそもロックは俺が父上と一緒に王宮を訪れた時は、最初の挨拶が終わるまで扉の向こうで待ち構えていることが多かった。
だから今日も俺達が入室した時には既に扉の向こうで待機して居たのだ。
だから俺の身に起きたことも聞いている。
俺は説得の為にロックに話し掛けた。
「最初から聞いていたのなら分かっているだろう? 俺は今日、スキル授与の儀式で『一般人』というスキルを1つだけ授かったんだ。俺のスキルは1つだけだけど、勇者の仲間になるためにはスキルが最低5つはなくちゃならない。俺は資格を失ったんだよ」
「でも! 約束したじゃないか! 一緒に冒険するって! 私を助けてくれるって!」
「それについては素直に謝るよ。本当にごめん。俺は約束を破った」
「謝るなよ! 一緒に旅に出ようよ!」
「だから無理だよ。旅どころか1人では町からも出られないんだから」
「え?」
「知らないのか? スキルの数で制限があるのは勇者のお供だけじゃないんだぜ?」
そう、この世界にはモンスターが蔓延っており、町の外には山賊や盗賊といった連中も多数存在している。
だから町から出るにあたってもスキルの数での制限が存在しているのだ。
具体的には『スキルの数が3つ未満の者が町の外に出る場合は、専属の護衛を雇わなければならない』という法律が存在しているのだ。
随分と昔に出来た法律であり、対象者はスキルの数が1つと2つの者のみなので対象者は殆ど居ないのだが、たまに引っかかる者が存在している。
スキルの数が少ない者は命の危険があるために出来た法律であるが、その為に俺の活動範囲はこの町のみに限定されてしまったのだ。
「なら話は簡単だ。私がお前の専属護衛になれば良い!」
「馬鹿言うな、勇者が直々に護衛してどうするんだ。そもそもお前は王子なんだから、護衛される側だろうが」
「だったら誰か雇えば解決するだろう!」
「そりゃ解決するさ。でもな、お前は18歳になったら勇者として旅に出るんだよ。勇者の供の1人に専属護衛が居るなんて悪い冗談だぜ」
「でもほら、物語の中には要人を護衛して旅をしたって話もある訳だし……」
「仲間を要人扱いしてどうするんだよ。……分かってくれよロック。俺はお前のお荷物にはなりたくないんだよ」
「お前がお荷物な訳ないだろナイト!」
「お荷物なんだよ。スキルが1つだけって事はレベルは最高でも10止まりだ。お前はレベル100まで到達出来るし、他の仲間も60~80って所だろう?
レベル10なんてお呼びじゃないんだよ」
俺だって本当はロックと共に旅に出たい。
しかし俺がいては確実に足手まといになってしまう。
それは取りも直さずロックの安全が脅かされる結果に繋がってしまうのだ。
だから俺はこの心優しい幼馴染を諦めさせなくてはならないのだ。
「でも……だって……そうだ! これは何かの間違いだ!」
「は?」
「間違いだって、最大レベルが10とかありえないよ!」
「いや実際俺のスキルは1つだけでな……」
「『一般人』なんてスキル聞いたことも無いし! ひょっとしたら特殊スキルかもしれないじゃんか! レベル10を超えて上がるとか! 試してみようよ!」
「どうやってだよ」
「おじさん! おじさんがナイトと一緒に町の外にモンスターを倒しに行けば良い。おじさん強いから護衛としては何も問題ないし! モンスターを倒し続ければレベル10なんてあっという間なんだから。沢山倒してナイトのレベルが10以上になれば問題ないだろ?」
「そりゃそうかもしれないけどさ」
「ならそうしようよ!」
ロックはどうしても俺と一緒に旅に出れないことが嫌なようだ。
だから俺に本当は一緒に行けるだけの力があると認めさせたいらしい。
まぁ理屈は分かる。
この世界で重要なのはスキルよりもレベルだ。
スキルが1つだけだったとしても、そのスキルだけでレベルが上がり続ければ問題は無いという事になるのだ。
ただこの世界のルール上それは有り得ない筈だ。
筈だがこの案には掛けてみる価値もある。
俺は父さんの方を向いてお願いをしてみた。
「父さん、ロックもああ言っているし、一緒にレベル上げをして貰えませんか?」
「それは勿論構わないが……正直可能性は0に等しいぞ」
「それは承知の上ですよ。それにロックも実際にレベル10以上に上がらなければ納得するでしょうから」
「そうか。まぁレベル10止まりとはいえ、レベルは上げておくに越したことはないからな」
そう言って父さんは俺から陛下に向き直り、退出願いを申し出た。
「では陛下、突然の謁見を受け付けて下さり、誠にありがとうございました。私はこれより屋敷に戻り、息子のレベル上げのために町の外へと向かいます」
「うむ、分かった。今回の件は誠に残念であったが、ナイトならば戦闘職以外に着いた所で活躍は期待出来るであろう。余り気を落とさずにな」
「ありがとうございます」
「父上! まだそうと決まった訳では!」
「ロック、お主は少し黙っておれ。親友であるナイトがお主と共に旅立たないと決めた気持ちを少しは理解しようとしてみてはどうじゃ」
そう言われたロックはうつむいて唇を噛み締めている。
俺は親友にそんな顔をさせてしまったことを大変申し訳なく思っていた。
「所で先程のレベル上げなのだが、一緒にレベルを上げて貰いたい者達がおるのだが、頼めるかな?」
「はぁ、相手にもよりますが」
「何、心配するな。全員お主とは顔見知りじゃよ。我が娘のロゼッタ、宮廷魔道士長の娘のエリザベータ、そして闇の勇者であり巫女でもあるダイアナじゃ」
「!? あの三人ですか……」
「あの子達もお主の息子とは幼馴染であるし、共に旅立つ予定じゃったじゃろう? 説明をするためにもいい機会じゃと思うのじゃがな」
「それは構いませんが、ロゼッタ王女は外に出られるのですか?」
「幾らあやつでもナイトの事情を聞けば動くであろう。動かなければ叩き出すまでよ」
「それは……陛下、余り過激なことはお避け下さい」
「いつまでも甘い顔はしておれん。厳しさもまた親心じゃよ」
「分かりました。では三人の準備が整い次第出発することと致します」
「頼んだぞ。くれぐれも気をつけてな」
その後、俺と父さんと母さんは城から屋敷へと戻った。
ちなみに使用人達は、事情聴取を受けてから夜遅くに帰って来た。
それから2日後、俺は父さんと幼馴染三人と共にレベル上げの為に町の外へと向かうことになったのであった。