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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
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第四十八話 旅の始まり

2017/08/18 本文を細かく訂正

 タートルの町での仕事の引き継ぎを全て終えてカメヨコ村へと戻った翌日、俺達はカメヨコ村から少し歩いた先にある別れ道に立っていた。



 昨日まではとにかく大変だった。

 商会の仕事はロックウェル家に任せ、学校の授業は同僚の教師と校長先生に任せ、町長としての仕事は部下達に任せ、孤児院の仕事は新しい担当者に任せた。

 そして最後には改めて陛下に謁見し、全ての引き継ぎを終わらせたのだ。


 言葉にすればこれだけだが、溜まっていた仕事を終わらせ、次に引き継ぐ者に仕事の内容を教え、関係各位に挨拶回りをして、客や生徒や町の住民に別れの挨拶をして回る。

 これが意外と重労働であった。

 どうやら俺はこの8年間の間に、町にとって無くてはならない人物になっていたらしく、しきりに残念がられた。

 しかしやはり『勇者の供』というブランド価値は高く、皆揃って『後は任せろ』と言い、笑って送り出してくれたのだ。

 これは素直に感謝したい。


 唯一手こずったというか、駄々をこねられたのは孤児院であった。

 特にロゼは子供達にしがみつかれて身動きができず、ホトホト困り果てていた。


 「やだー」

 「やだー!」

 「園長先生、行っちゃヤダー!」


 こんな感じで子供達に代わる代わるしがみつかれるのだ。

 殆どの子供が泣いており、必死の形相でロゼの旅立ちを阻止しようと縋り付いてくる。

 勿論ロゼは子供達を振り切って旅立つ事も出来る。

 ステータス4桁は伊達ではないのだ。

 しかしロゼは一週間掛けて、一人一人の子供と言葉を交わし、孤児院のスタッフの力も借りて、子供達とお別れをしていた。

 最終的には孤児院の卒業者たちまでも総動員して、ロゼは孤児院の園長先生を卒業したのだ。

 今ロゼの腕には一枚のバンダナが括り付けられている。

 それは今日、町を旅立つ際に孤児院の子供達から送られたものだ。

 裁縫の道へと進んだ卒業生が作ったバンダナに、子供達が一人一人ロゼへの激励のメッセージを書き記し、ロゼにプレゼントしてくれたのである。


 ロゼは最後まで泣かなかった。

 笑顔で子供達にありがとうと言い、笑顔で子供達に別れを告げていた。

 そしてカメヨコ村に到着するまで、馬に揺られながらずっと泣いていた。

 俺はこの女性に惚れた事を心の底から誇りに思ったのだった。


------------------------------------


 カメヨコ村に到着した俺達は、宿で待っていたロック達と合流し、翌日出発することを決定した。

 この時、俺とロゼは勇者の供として相応しい旅装を身にまとい、俺のアイテムボックスの中には旅に役立つであろう多数の商品が大量に詰め込まれていた。


 一週間掛けて引き継ぎ作業をしていた俺達には、旅の準備をしている暇など一切無かった。

 これらは全て店の従業員達、役所の部下達、学校の同僚や生徒達、そして町の住民達があつらえてくれた物である。

 昨夜、全ての引き継ぎ作業を終え店に帰宅した際に、待ち構えていた町の住民達に取り囲まれ、彼らが総力を結集して揃えた、旅に役立つ品々をプレゼントされたのだ。


 各種アイテムに多数の本、服に靴に日用雑貨、調理器具と食料品。

 俺とロゼの体型に合わせた武器と防具も揃えられ、町の武器屋が総掛かりで採寸し、ジャストサイズに調整したそれらは予備も含めて3セットも存在している。

 これらは全て俺のアイテムボックスに放り込まれ、ロゼの分はアナと合流した後に渡すこととなった。

 それらは決して安くない代物である。

 しかし彼らはそれぞれがお金を出し合い、これから勇者と共に世界を救いに行く我が町の町長と孤児院の園長先生の旅の装備を揃えたのだ。

 俺達は感激し、彼らに感謝を述べた。

 しかし彼らは彼らで、町の英雄が本物の英雄の仲間になれたことを喜び、その門出を祝いたいとやって来たのだ。

 俺達はその夜、出発前の宴会を行った。

 城で行われた夕食会とは比べ物にならない程の安い料理と酒と適当な音楽が流れるその宴会は、俺とロゼにとっては何よりの贈り物となったのであった。



 そうして俺達は町の住民に見送られてもう一度タートルの町を出発し、これから本格的な旅を開始するのだ。

 既に昨日の時点で女性陣へと預かって来た物はアナのアイテムボックスに移されており、アナが持って来ていたアイテムの幾つかは俺のアイテムボックスに入っている。

 今回、俺がロックのパーティーに合流した事で最も恩恵を受けたのは、このアイテムボックス能力だ。

 何しろロックもライもアイテムボックス能力は持っていないため、城の宝物庫からアイテムボックス能力を持つ魔法のカバンを引っ張り出して、装備していたのである。

 これはアイテムボックスを持たない者であっても10~30位の品数なら持ち運ぶことが出来る便利なアイテムであり、旅をしている者にとっては是非とも欲しい一品である。

 本来ロックはこれを持って旅をする予定であったのだが、俺が合流し、千を超えるアイテムボックスが使えるようになったので、持ち出したバックは現在、中の荷物ごと俺のアイテムボックスに収められていた。


 お陰で俺達は全員身軽になり、ここまで足取りも軽く歩いてこられた。

 だが全員で旅をするのはここまでだ。

 『勇者は一箇所にまとまらず、分散するべき』

 これが勇者のルールである以上、俺達はここで別れるべきなのだ。


 俺達は南へ、アナ達は北へと進路を取る。

 俺とロゼは別れる直前まで、抱き合っており、別れを惜しんでいた。

 薬局のロックウェルで働き始めてから実に8年間、俺達は殆ど離れること無く共に過ごして来た。

 本来ならば俺達はそろそろ結婚の準備に取り掛かっていた筈だったのだ。

 それが突然旅に出ることになり、次に会うのは国境の町。

 正直何時になるのかも分からない。

 玄武の国もこれで結構広いのだ。

 だがそろそろお別れの時だ。

 俺達はどちらからともなく体を離した。



 「もう良いのか?」

 「ああ、ありがとうロック。もう十分だ」

 「もう少し抱き合っていても良いんだよ~ロゼ」

 「平気よエル。それにいつまでも抱き合ったままじゃ旅が始まらないでしょう」

 「なっなんか悪いことをしている様な気分になってしまいます」

 「ごめんなさいねロゼ、結果として二人を引き裂いてしまいました」

 「大げさよアナ。そりゃ確かに寂しいけど、二人と一緒に旅が出来る方が嬉しいのだから問題ないわ」

 「ご主人と旦那は別れないで一緒に旅をすれば良いのにな」

 「仕方ないですわゲン、人間には人間の決まり事という物があるのですわ」


 俺とロゼの別れは終了した。

 そして本格的に俺達は別れの挨拶を交わした。


 「ではここで一旦お別れだ。私達は南へ進み、大森林に沿って国境の町を目指す」

 「了解です。私達は北へ進み、大河に沿って同じく国境の町を目指します」

 「気をつけてな」

 「そちらこそお気をつけて」


 前々からここで別れる事は決定していたために、あっさりとしたものである。

 男性陣は南へ、女性陣は北へと進んで行った。


 俺達のパーティーはロックと俺とライの3人だ。

 まずは街道に沿って南へと向かい、白虎の国との国境沿いに広がっている大森林を目指す。

 森の中には多数のモンスターが生息し、所々には盗賊も住み着いているという。

 俺達は街道沿いに点在する町や村を巡りながら、ルート上にある問題を勇者らしく解決していくのだ。


 さて、どんな旅になるのかな、とか考えながら、俺達は街道を進んで行く。


 そして別れて一時間が経過する頃、後ろから聞き覚えのある声が近付いて来た。

 振り向くと、何とゲンが俺達を追いかけて走って来ている所であった。


 「ってどうしたんだゲン。何かトラブルでもあったのか?」

 「違うぜ旦那! ご主人からの命令で、旦那達の仲間になりに来たんだぜ!」

 「俺達の仲間に? そりゃまたどうしてだ?」

 「勿論役に立つからだぜ!」


 そう言ってゲンは急に声色を変えて虚空に話し掛けた。


 「あーあーあー、ヨミ! 聞こえるかヨミ!」

 〈うるさいですわよ、ちゃんと聞こえていますわ〉

 「ほわっ!」

 「なっ何だ! 一体どこから声が聞こえる!?」


 ライとロックがびっくりして周囲を見渡している。

 姿の見えないヨミの声が聞こえて驚いているようだ。

 俺の場合は『天使には電話機能もあるのか』位の驚きだったので、それ程慌てる事もない。

 俺はゲンに遠距離でヨミと話が出来るのかと聞いてみた。


 「凄いぜ旦那! なんで分かったんだ!?」

 〈流石ですわダーリン! これまでの人達は一人残らず驚いていましたのに!〉 

 〈えっ、わっ! 本当にナイトとゲン君の声が聞こえるよ!〉

 〈ナイト、ナイト聞こえる? 私ロゼよ。元気にしている?〉

 「さっき別れたばっかりだろ。元気に決まってるよ」

 〈そっそうよね。でも心配で。あっゲンをそちらに行かせたのは、見ての通りゲンとヨミは離れていても話が出来るって聞かされたからなのよ〉

 〈理論上、この大陸の端から端であっても会話は可能ですわ〉

 「これぞ天使の能力の1つ! 念話なんだぜ!」

 〈周囲にいる人にも声を聞かせられますから、離れていても会話は可能ですわ〉

 〈すっごーい! ダンジョンから発見される高機能通信機みたいだね!〉

 〈まぁ間違ってはいませんわね。でも通話には大量の魔力を必要としますから、そう安々と使用することは出来ませんわよ〉

 「っておい! またロゼが倒れたら大変だろうが!」

 〈そうですわね。ではそろそろ切りましょうか〉

 〈ええっ、そんな! 短いよ!〉

 〈余り長時間の念話はマスターの魔力量では不可能ですわ。旅の最中はモンスターや野盗にも注意しなければなりませんし、緊急時以外の連絡は控えるべきでしょう〉

 〈そっそんな……うっ〉

 〈あらやだ、本格的に不味いですわ。ゲン、切りますわよ。詳しくは貴方が説明なさいな〉

 「あいよ! ご主人を宜しくなヨミ!」

 〈任されました。皆様、ゲンを宜しくお願い致します〉


 そう言ってゲンとヨミとの念話は終了した。

 ロックとライは驚いて声も出ないようだ。

 まぁ当然か、この世界電話もなければテレビも無いのだ。

 『遠く離れた相手とリアルタイムで会話が出来る』なんて、想像の範囲外なのだろう。


 「それで? ゲンが俺達と合流したのは念話能力の説明をしたからなのか?」

 「そういう事! 別れた後でエルっちが根掘り葉掘り質問して来てさ。『離れていても会話が出来る』って説明したら、俺は弟のパーティーに入れってお願いされちゃったのさ」

 「ちなみにこの念話はどれくらいの頻度で使えるんだ?」

 「そこら辺はご主人の魔力量次第かな。

  距離が離れれば離れる程、使う魔力の量は増えるぜ。

  後、ご主人の体調にも影響されるかな」

 「ロゼの体調?」

 「怪我をしてたり、病気になったり、精神的に参っていたりすると、その分魔力効率が落ちるのさ。

  例えば『ずっと一緒にいた愛する人と離れ離れになった直後』とかな」

 「あ~成程」

 「まっ、もう少し経ってご主人の気分が落ち着けば、距離が離れていても数分は話が出来ると思うぜ」

 「それは助かるな。いざという時の連絡手段があると便利だ」

 「ふむふむ、……で、本音は?」

 「ロゼの声が聞けるのは大変嬉しい」

 「大変宜しい。じゃ、そ~言うわけで宜しくな旦那! 弟! ライちゃん!」

 「僕って『ライちゃん』な訳!?」


 そんな訳で俺達の仲間に新たにゲンが加わることとなった。

 男ばかりの4人パーティー。

 俺達は気持ちを新たに街道を南へと進んで行くのであった。


------------------------------------


 変わってこちらは女性陣。

 街道にうずくまっていたロゼッタはようやく落ち着きを取り戻した。


 「ロゼ、大丈夫ですか? 余り無理をしてはいけませんよ」

 「そうだよ! ただでさえ孤児院の子供達とお別れしたばっかりなんだから。

  ナイトと別れて苦しいのなら無理をしないで一旦カメヨコ村に戻ろうか?」


 ダイアナとエリザベータはロゼッタの体調を心配していた。

 二人は幼馴染としてロゼの強さを知っている。

 同時に幼馴染としてロゼの弱さも知っているのだ。

 二人の親友であるロゼッタはこの8年で強くなった。

 しかしその強さの大部分はナイトに依存して手に入れた強さだ。

 そのナイトと仕方がないとは言え別れてしまったのだ。

 その胸の内は押して知るべしである。


 「へっ平気よ二人共。こんな事で一々村に戻っていたら、勇者の供として活動なんて出来ないでしょう」


 だが、ロゼッタは二人の気遣いをありがたいと思う反面、ここで甘えてはいけないのだとも思っていた。

 ナイトが側に居ないことは正直苦しい。

 苦しいけれどナイトは私の弟であるロックの供の一人として活躍するのだ。

 それを邪魔するような無粋な女にはなりたくない。

 ロゼッタはそう考えて敢えて空元気を発揮した。


 「それにほら、ゲンとヨミのお陰で一日数分とはいえ会話は可能なのだし問題はないわ。それに旅をしていればその内出会える訳だしね」

 「それはそうだけどさ~」

 「エルさん、余りマスターを甘やかさないで下さりませ。マスターはダーリンの妻として相応しい女になるためには、この旅での成長が欠かせないと考えているのですわ」

 「ちょっとヨミ!」

 「いい機会ではありませんか。この旅の間に内面を磨いて、再会した時にダーリンを惚れ直させれば良いのですよ」

 「ほっ惚れ直させるですか……」

 「『男は惚れるより、惚れされろ』という言葉もある位ですから。

  3人共ダーリンの事が好きなのでしょう?」

 「え?」「うん」「まぁ……」

 「ならばしっかりなさいませ! ダーリンは勇者でこそありませんが、並の男ではございませんことよ。あの方の嫁になるのでしたら、たかが王族、たかが勇者、たかが宮廷魔道士程度では到底足りませんわ」

 「たっ、たかが王族……」

 「たかが勇者……」

 「たかが宮廷魔道士ですか……」


 3人はヨミの言葉に圧倒されている。

 町でも城でも、王女だから、勇者だから、宮廷魔道士だからと褒めそやされ、持ち上げられる事の多かった3人だ。

 それを『たかが』と切り捨てられたのだ。

 その衝撃は半端ないだろう。


 「それにゲンを向こうに行かせたのは念話の為だけではありません。

  悪い虫が付かないようにするためでもあるのです」

 「わっ悪い虫ですか……」

 「何しろ『勇者御一行』ですからね。並から超一流まで、様々な女性達に言い寄られることになるでしょう。あの3人も所詮は殿方。女性の柔らかな体、豊満な胸、くびれた腰や大きなお尻に抗うすべなど持たぬのです」

 「……確かに、ナイトはああ見えて結構エッチだしね」 

 「そんな事ないよ!」

 「結婚もしていない男女が淫らな行為に走ることなどあり得ません!」


 ロゼッタはナイトの『そういう』部分を知っているため、『もしかして』と考えたが、エリザベータとダイアナは真っ向から否定した。

 何故ならこの二人はまだ知らないのである。

 ロゼッタとナイトが『どこまで行っているのか』を何も知らないのである。


 「だ、そうですよマスター。何か言っておく事はありますか?」

 「あっうん。えっと言わなきゃ駄目かな?」

 「言っておくべきだとワタクシは考えます。それに、先程の話は皆様にも当てはまります。これから貴方達は多くの殿方達から一方的に愛を告白され、体を求められることでしょう。『男とはどういうものなのか』という知識を教えるためには、マスターの実体験を聞かせるのがベストな選択です。アナさんもエルさんも自分が魅力的な女性であるという認識が足りないように見受けられますので」


 ヨミのそのセリフに二人は頭に疑問符を並べた。

 その顔を見てロゼッタは、この二人はまだまだ初心な乙女なのだった、と思い出した。


 考えてみれば当たり前だ。

 アナは闇の神殿の巫女として、エルは宮廷魔道士として、純粋培養されてきた女性なのである。

 当然、彼女達の周囲に近づく大人も男も厳選された人材で固められており、『世間一般の男性像』を二人はよく知らないのだ。


 思い返してみれば、スキルの更新の際にも『そういう場面』はチラッとだが映っていたのに、二人は何も反応していなかった。

 ひょっとすると二人にはあれが何だったのかも分かっていなかったのかもしれない。

 ――これは確かに、二人に説明をしておかないと、後々マズイことになるかもしれないわね。

 8年もの間町の中で生活し、多少は世間慣れしたロゼッタは、未だ純粋であり続けている幼馴染達へと、自らの実体験を話すことを決めたのだった。


 こうして闇の勇者一行の最初の旅路は、ロゼッタの語る2年前から今日までの、ナイトとの愛の物語で始まった。

 その話は、この8年間ひたすら修行に邁進してきた二人にとって、とてつもない衝撃をもたらしたのであった。

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