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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
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第四十六話 カメヨコ村の村長の娘の失恋

2017/08/18 本文を細かく訂正

 私はカメヨコ村の村長の娘。

 花も恥じらう17歳の乙女よ。

 村の男達は私の魅力にメロメロ。

 村の女達からは嫉妬の視線を浴びる毎日よ。


 私がこの世に生まれた理由はただ一つ。

 それは勿論、この国の王子様に見初められるためよ。

 玄武の国の王子様であり、勇者様でもあるロック王子は御年18歳。

 私と1歳の年の差なんて嫁にしてくれと言っているようなものでしょう?


 もっとも同じ事を考えている子はとても多いわ。

 大根畑のあの子も、家畜小屋のあの子も、元冒険者の未亡人さんも、みんな揃ってロック王子に見初められることを望んでいるの。


 でも無駄、あなた達ではロック王子の隣に立つ資格は無いわ。

 私は読み書き計算も一通り出来る。

 村の祭りの踊りだって一番の腕前よ。

 そして何より美しいの。

 この村の中で私より美しい女は誰一人として居ないのよ。

 私こそがロック王子に見初められ、ゆくゆくは王妃となるべき女なのよ。


 でも普通なら王子に見初められる機会なんて存在しないわ。

 だって王子様と私のような村娘では住んでいる世界が違うのだもの。

 勿論、同じ世界に暮らしている同じ人間ではあるのだけれど、この場合の世界と言うのは、暮らしている生活範囲のことよ。


 お城で優雅に暮らしている王子様は、普通こんな町の外にある村に来ることなんてないの。

 出会えなければ愛し合えない。

 ある意味当然のことよね。


 でもここは、この村だけは違うの。

 ここはカメヨコ村。

 玄武の国の首都タートルの町から一番近い村。

 そして初代勇者様が冒険の初めに訪れた村。

 歴代の勇者様達はみんなこの村を訪れるの。

 伝統だからといってね。

 私は伝統なんて大嫌いよ。

 古臭いし、意味がないし、ありがたがっているのは老人たちばかりだもの。

 でも、この伝統は素晴らしいわ。

 この伝統があるからこそ、ロック王子は私の村を訪れてくれる。

 つまり私とロック王子の出会いは必然!

 これを運命と呼ばずして何と呼べば良いって言うのかしら。

 私は始めて村に生まれたことを感謝したわ。

 本当は町で生まれていれば、話は早かったのでしょうけどね。



 村の中は1月程前から大騒ぎが続いているわ。

 何故ってロック王子が勇者として旅立つ日が近づいて来たんだもの。

 村長である父さんは頻繁にタートルの町まで出かけて行き、向こうの担当者との打ち合わせに余念がないの。

 『勇者の旅立ちの儀式』とはこの村まで来て初めて終了になるの。

 王族でもある勇者様の受け入れ。

 万が一にも失敗は許されないのよ。


 そして遂にその時がやって来たわ。

 村の中どころか村の周囲に至るまでゴミもモンスターも存在しない完璧な仕上がり。

 十分な食料も用意され、成人を迎えた勇者様の為に、高価なお酒も仕入れてあるわ。

 村唯一の宿は、この日のために村人総出で大規模リフォームを敢行。

 まるで新築のような雰囲気の宿に仕上がっているわ。


 村人全員、この日のために国から支給されたお金を使って身支度を整え、服も靴も農具でさえも新品同然。

 私も当然、行商人から普段は手が出ないような高価な髪飾りを購入して身に付けているの。

 でも私の様に着飾っている者ばかりではないわ。

 折角のお金なのに家を直したり、家畜小屋を建て直したり、娘の結婚資金のために取っておいたりと反応は様々。

 まぁ人のお金の使い方に文句を付ける程無粋ではないわ。

 王妃の座は貰ったけどね。


 準備万端、完全完璧。

 後はロック王子が来るのを待つばかり。

 私はワクワクしながら、未来の旦那様が私を迎えに来てくれる時を待ちわびていたの。

 そして遂に勇者様達が私の村へとやって来たわ。

 そこで私は世界の広さを思い知ったのよ。



 勇者様達は到着予定時刻よりも少し遅れて村にご到着なされたわ。

 何となくやつれているようにも見えるけど、きっと気のせいよね。

 更に言えば子供が3人も居るようにも見えるけど、やっぱり気のせいよ。


 ……いいえ、気のせいなんかじゃないわ。

 私は王妃になる女、生まれ付き目も耳も良いの。

 勇者様の同行者の中に、何故か子供が3人も紛れ込んでいたのよ。


 1人は勇者様と同じく茶色い髪に茶色い瞳をした可愛らしい女の子。

 大人びた服装を着こなし、颯爽と道を歩くその姿は王者の風格を漂わせているわ。

 でもその背丈は酷く小さい。

 よくて10歳、もしくはそれ以下の年といったところかしら。

 恐らくは貴族、それも相当に地位の高い貴族の子供……だと思う。

 だって貴族なんて会ったことも無いし!

 違いなんて分からないわよ!

 

 そして後2人、更に小さい子供達が勇者様達と一緒に歩いて来ている。

 茶色と言うか土色の髪をした男の子は何故か甲羅らしき物を背負っているわ。

 そして真っ黒な長い髪をした女の子と一緒に先程の可愛らしい子供の周りを走り回っているの。


 何なのかしらこれ?

 勇者一行に子供が着いて来るのって当たり前なの?

 村のみんなも勇者様達と一緒に子供が歩いている事に戸惑いを隠せていないわ。

 私も当然戸惑っていて、子供達しか視界に入っていなかったの。

 だから不意打ちで声を掛けられて、飛び跳ねるように驚いたのよ。


 「失礼、お嬢さん。私達はタートルの町からやって来た勇者一行なのですが、村長どのの家に案内して頂けないでしょうか」

 「あ、はい。こちらで……す!?」


 目の前には王子様が居たわ。

 王子様、これが本物の王子様よ。

 茶色い髪に茶色の瞳。

 かなり高い身長と鍛え抜かれた体。

 旅をするために旅装をしているけれど、その内側の服はちらりと見えるだけでも高級品だと分かるわ。

 その所作は洗練されていて、その顔はとてつもなく整っている。

 口から紡がれるお声はまるで優雅な旋律のよう。

 王子様、私が夢見た王子様。

 その王子様が私の目の前で私に声を掛けて下さっているの。


 これがプロポーズ、夢にまで見た王子様からのプロポーズなのね。


 勿論返事はOKよイエスよ、他に有る訳無いじゃないの。

 私は私のフィアンセを父さんに紹介するために案内しようとしたわ。

 でも空気の読めない父さんは、自分から来ちゃったのよ。


 「これはこれはロック王子、遠路はるばるご苦労様です」

 「お久しぶりですね村長。でも徒歩でたった数時間ですよ。大した距離ではありません」

 「お若いですなぁ。私などは馬を使わなければとてもとても」

 「それに道中モンスターも出ませんでしたからね。ピクニックの様に快適な道中でしたよ」

 「それは良かった。軍の普段の仕事ぶりのお陰ですな」

 「そう言って頂けるとありがたいですね」


 父さんはロック王子とにこやかに会話をしているわ。

 ……って言うか父さんはロック王子とお知り合いだったの!?

 何てこと! 折角の婿と父との初邂逅の場面を見逃してしまったわ!

 ああでも、やっぱり結婚の申込みの場面は違うわよね!


 普段着ないような一張羅を身に纏い、菓子折りを持って私の家の門を潜る彼。

 まずは母さんとお茶をして父さんの帰りを待つ彼。

 そして父さんが帰ってきた瞬間に背筋を伸ばして、発声練習をする彼。

 いつもとは違う雰囲気に戸惑う父さん、そして彼からの結婚の申込みに動きを止める父さん。

 落ち着くためにお茶を飲んで、それでもやっぱり落ち着かないで腕を組み、天井や床を見る父さん。


 そして呟くのよ。

 「娘を宜しく」

 とね。


 キャー! やっぱこれよね!

 結婚の申込みはこうでなくっちゃ!

 そうと決まったらまずは挨拶よ!

 私は未来の夫へ最初の挨拶を試みたわ。

 でもその前に父さんは別の人に向かって挨拶をしたの。

 その人を見て私の夢は粉々に打ち砕かれたのよ。


 「ダイアナ様もお久し振りですな。いや、相変わらずお美しい」

 「……お久し振りです。宜しくお願い致します」

 「ハッハッハ! お任せ下さい。村の者達が腕によりをかけて美味しい料理を揃えておりますからな」

 「それは楽しみです」


 ……何これ?

 目の前に立つこの人は何?

 人?

 こんな人が居るの?


 漆黒の髪に黒い瞳。

 長く伸ばした髪のせいか、その表情には影が差しているようにも見える。

 漆黒の服に身を包み、ロック王子の隣に立つその女性のお顔は整っていた。

 いいえ、整い過ぎていたわ。

 キリッとした細い顔立ち、高い鼻、魅惑的な唇と蠱惑的な瞳。


 美しい人がそこに居たわ。

 美人じゃないわ『美しい人』よ。

 この人に美人なんて言葉を投げかけないで頂戴、この人の美しさを損なってしまうわ。


 顔だけきれいな人なんて幾らでもいるわ。

 でもその人は体も立ち姿も、醸し出す雰囲気も別次元だったのよ。


 出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる魅惑的な体。

 それを漆黒の衣服に包み、村の男達の視線を釘付けにしている。

 身長も高く、ロック王子よりも少し低い程度。

 私よりも頭二つは背が高いわ。


 立ち姿も様になっていて、タートルの町から数時間もの距離を歩いて来たというのに全く軸がブレていない。

 おまけに何となく近寄りがたい雰囲気を身にまとっていて、近づくことすら出来ないの。

 嫌だわ、私疲れているのかしら?

 こんなきれいな人に「近づいたら殺される」とか感じるなんておかしいじゃない。


 「何だお前、食事と聞いて反応が良くなったな」

 「黙りなさいロック、折角の好意を無にする必要は無いだけです」

 「アナは食いしん坊だもんね~」

 「エルこそ栄養が全て胸に行っているのではないのですか?」

 「ちゃんと頭にも行っているから問題無いよ~」


 美しい人に見とれていたらもう一人現れたわ。

 今度の人は灰色の髪で灰色の瞳。

 髪は美しく整えられ、いい匂いがこちらまで漂って来ているわ。


 美しい人程ではないけれど、この人も美人だわ。

 背は私と同じくらいね、女性の平均値からは脱していない。

 でも胸は違う。

 胸は平均値を大きく逸脱して大きく、重ね着した服の上からでもその盛り上がりが一目で分かるわ。


 村の男達は二手に別れたわ。

 美しい人に視線を奪われる人と、灰色の女性の胸に視線を奪われる人。


 私はそっと自らの胸に手を寄せる。

 小さくは……ないと思う。

 平均よりも上の筈よ。

 美しい人にもここの部分だけは勝っている筈だわ。

 でも目の前の彼女とは較べるべくもないわ。


 男は所詮、みな狼。

 食べごろの果実が実っていれば、それに食いつくのは当然の話。

 そんな狼の中で唯一視線を奪われていない男性が居る。

 誰かって?

 王子様よ。

 ロック王子はこの2人の美しさにも胸の大きさにも視線を奪われていないわ。

 何故かって? 決まっているわ。

 この2人はロック王子のものなのよ。

 ロック王子のものになるには、このクラスの女性にならなくてはいけなかったのよ。

 村一番の美人で村長の娘如きでは相手にもならないんだわ。


 私はその事を自覚したの。

 そこで私の初恋は終わりを告げたのよ。



 ああそれと、もう後2人男性が一緒だったわね。


 茶色い髪と茶色い瞳の、背も高くて体も大きい騎士風の男性。

 黒髪黒目で背は普通よりも少し高めの、青い顔をした今にも死にそうな男性。


 この2人も王子様と一緒に居たわ。

 居たけどそれが何?

 どちらも、ロック王子とは比べるべくもない程度の男達。

 きっとあれよ、付き人か何かなんだわ。

 あの2人も大変よね、ロック王子みたいな本物が隣りにいたら常に比較されてしまうもの。

 正直私の視界にはロック王子しか入っていないわ。

 美しい人と胸の大きな人?

 あの人達は視界から意識的に排除しているの。

 いいじゃないの別に!

 初恋が終わったからって、夢を見る権利くらいは残っているでしょう?


 そもそも青い顔の男性は、次の日の早朝には馬を借りてあの可愛い子供達と一緒にタートルの町へと戻って行ったのですもの。

 あの人一体何をしに来たのかしら?

 冷やかしか何かだったのかもしれないわね。


 私は本気でそう思っていたし、村の殆どのみんなも同じ様に考えていたのよ。

 まさかあの人がタートルの町の町長で、子供の1人がロック王子のお姉様だなんて想像も出来なかったのよ。


 私があの2人の正体を知ったのは、いつもより長く滞在していった勇者様達が旅立って、しばらく経ってからのこと。

 勇者様達の活躍が聞こえ始めてきた頃に、ようやくお二人の正体を知ったのよ。


 全く不甲斐ないったらないわ。

 私の人を見る目の無さに、私自身が呆れてしまう。


 だから私は父さんに相談して、村を出て町で学ぶことにしたのよ。

 私はカメヨコ村の村長の娘。

 失礼な態度を取ってしまった、お二人に何時かきちんと謝るために、私は今日も学び続けるわ。

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