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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
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第四十四話 天使の食卓

2017/07/14 文章の途中にある『!』や『?』の後に空白を追加しました。

2017/08/18 本文を細かく訂正

 「うめー! やっぱ魔族産の魔石は最高だな!」

 「体に力が満ちて行きますわ。モンスター産も悪くはありませんが、やはり魔族産の魔石は他とは一線を画しますわね」

 「本音を言えば生で食べたかったけどな!」

 「仕方ありませんわ。採りたてを食べられるのは狩った者だけの特権ですもの」



 俺達の目の前では、いささか猟奇的とも言える光景が繰り広げられている。


 土の勇者と闇の勇者の旅立ちを称える夕食会において、天使であるゲンとヨミの食事が魔石であると知らされた俺達は、国王陛下に頼み込んで亀岩城に貯蔵されている魔石を少し融通して貰ったのだ。


 そしてゲンとヨミの為に作られたお子様用の食事は下げられ、皿の上に乗った魔石が二人の前に山盛で運ばれて来た。

 二人はそれらを素手でつかみ取り、次から次へと口の中に放り込んでいる。


 ちなみに二人が食べているのは、過去の王族やら勇者やらが魔族やモンスターを倒した後、記念に取っておいた魔石の中でも余り価値のない3級品らしい。

 魔王の魔石やドラゴンの魔石といった一級の魔石は国宝扱いされているため、流石に食べさせる訳にはいかなかったのだ。


 そんな魔石を二人はモリモリ食べていく。

 それを見て俺達はこの二人が本当に人間とは違うのだなと自覚した。

 魔石とは呼んで字のごとく『石』なのだ。

 固くて食べられた物ではないし、食べた所で美味しくもない。

 いや、俺は食べた事は無い。

 だが、世の中には物好きがいて、『魔石を食べてみた』という話は意外と転がっているのである。


 普通の食事をしている周囲からすれば相当奇異に映る光景だが、この場にいる全ての人達はゲン達が人間ではなく天使であることは理解しているため、特に気にせずに食事を続けている。

 俺達も自分達の食事に戻ろうとしたが、その前に二人から悲鳴が上がった。


 「熱! アチー!! 何だこれ!?」

 「や~舌がヒリヒリしますわ、この魔石おかしいですわ」


 二人は手に持った魔石を放り投げて、テーブルに突っ伏して嗚咽している。

 気がつけば最初に出された山盛りの魔石はいつの間にか食い尽くされ、隣に置いてあった属性を付加した魔石に二人は手を出したらしい。

 ゲンは火の魔石を、ヨミは雷の魔石を食べたようだ。


 先程まで食べていた魔石は保存加工だけして、属性の付加はしていなかった。

 ひょっとしてこの二人は属性加工した魔石は苦手なのだろうか?


 「はぁ!? 属性付加? 何でそんなことするんだよ!」

 「せっかくの魔石が台無しですわ! 余計な味付けは魔石の良さを殺してしまいますわよ!」



 どこぞの美食家のようなセリフを言いながら二人はぷりぷりと怒っている。

 しかしそうか、魔石にも生とか加工とかあったのか。

 今日は昼から本当に常識が崩されていく日だな。


 「や~も~最悪ですわ! 折角気持ち良く食べていましたのに!」

 「本当だぜ! 大体魔石に属性なんて付加してどうするんだよ!」

 「魔道具を使うには魔石に属性を付加しなくちゃいけないんだよ」

 「何でそんな面倒臭いことを!

  使うにしても、じかに魔力を取り出して使えば良いのに!」

 「誰も彼もが魔法を使える訳じゃないからな。

  誰でも便利な道具を使えるようにする為に編み出された技術なんだよ」

 「はぁ、人間の欲望は果てしないですわね。

  初めて魔法を使えるようになった頃はそれだけで満足していましたのに」

 「使い手を選ぶ技術より、選ばない技術の方が万人受けするってことさ」



 結局二人は属性加工した魔石をそれ以上食べることは無く、残っている保存加工された魔石は価値のある物ばかりだったので、天使の食事は終了となった。


 ちなみに夕食会が終わった後で気がついたのだが、二人はロゼの知っていること以外は知らないという話ではなかったのか?

 その事を指摘すると、『あれ~?』と、とぼけた回答が返って来た。


 どうやら天使の決まりとは割りとグダグダであるようだ。

 まぁ別に何か問題がある訳でもない。

 エルが旅に出たら色々と聞き出してやると張り切っていたので、天使の二人に関しては彼女に任せることが決定した。



 俺達もその後はゆったりと食事を楽しみ、そのまま王宮のロックの部屋に泊まることになった。


 思えばサムに会うために国境まで行って以来、幼馴染が全員集まったことはこれまで無かった。

 俺達は、折角の機会だからと、ロックの部屋の中で昔話に花を咲かせている。


 もっとも、次に集まれるのは何時になるのか分からない。

 明日、俺達は旅に出る。

 そして勇者とは基本的に他の勇者とは旅をしない。

 これは貴重な戦力である勇者を一箇所に集めるよりも、分散させた方が世の中の為になるからだという。

 勇者が集まって何かをする時と言えば、精々魔王退治の時くらいだろう。


 だから明日『勇者の旅立ちの儀式』を終えた後は、俺達は男性陣と女性陣とに別れて活動を開始する。

 まずは玄武の国の中で活動し、状況によっては他国に行くという流れになるのだ。


 明日からどんな冒険が待っているのだろうか。

 夜が更けても、俺達の話は尽きることがなかった。



------------------------------------



--sideウメコ--



 怒涛の一日がようやく終わりを告げようとしている。

 今日は昼から本当に色々なことがあった。


 まずは昼に行われた勇者の供の選別。

 まさかナイトとロゼッタ王女が選ばれるとは思っていなかった。

 確かにあたしは、あの2人がロック王子とダイアナの仲間になって貰いたいと願っていたさ。

 だが同時にあの2人は絶対に無理だと考えていた。

 だってスキルの数が少ないのだ。

 ロゼッタ王女は3つしかなく、ナイトに至ってはたった1つだけ。

 これでは勇者の供になれる訳がない。


 ナイトをダイアナの夫として認めさせるのだって物凄く骨が折れたのだ。

 あれは『2人の間に出来る子供は勇者ではない』から認められたようなものなのだ。


 『勇者の子供は勇者にはならない』


 理由は分からないが、これは遥か昔から知られている絶対の法則だ。

 闇の神殿上層部の頭の固いバカ共も、勇者の子供にまで文句をつける事は出来なかったから、ナイトとダイアナの婚約は渋々ではあるが認められた。

 だが逆に言えば勇者の供には文句を付けまくる。

 何しろ下手な相手を選んだりしたら、勇者の命に危険が及ぶのだ。

 選ぶ相手は厳選しなくちゃならないのである。




 「そういう訳ですので神殿長! ナイト町長とロゼッタ王女を勇者の供から外して頂きたい!」

 「何がそういう訳なんだね、バカ言ってんじゃないよ」



 勇者の供の選別が終わって夕食会が始まるまでの間、あたし達は緊急の会議を開いていた。

 メンバーはあたしを筆頭に闇の神殿の上層部が勢揃い。

 ハロルドを筆頭に軍関係者も勢揃い、

 エリックを筆頭に宮廷魔道士も勢揃い、

 そしてこの国のトップである国王陛下を筆頭に国の上層部も勢揃い。

 早い話が玄武の国の上層部が丸ごと勢揃いって訳さね。



 国の上層部が勢揃いして何を議論するのかと思っていたら、ようやく決まった勇者の供を選び直せと来たもんだ。

 あたしはそんな事を言い始めたバカ共と舌戦を繰り広げていた。



 「ナイトとロゼッタ王女はロック王子とダイアナが一番に望んでいた相手だよ。変える必要があるとは思えないね」

 「しかし神殿長! 折角あれだけの候補者が集まってくれたと言うのに、結局元に戻りましたでは外聞が悪いではないですか」

 「知ったこっちゃないよ。勇者の供には優秀な相手が選ばれるのが道理さ。今日集まった連中とナイトとロゼッタ王女を比べたら二人を選んで当然だろう?」

 「確かにお二人は優秀ですが、町長と孤児院の園長ですよ!?」

 「そうです! 勇者の供ならば戦闘力に秀でた者を選ぶべきでしょう!」



 王弟派のバカ貴族やら神殿のバカ支部長やらが文句を付けてくる。

 恐らくこいつらの息の掛かった兵士なりモンスターハンターなりが広場に紛れ込んでいたんだろう。

 勇者の供になれば歴史に名が残るし、その影響力はバカに出来ない物がある。

 ついでに言えば、その勇者の供を援助していた者や血縁者にだってお零れを頂戴することが出来る。

 こいつらはそれを狙ってるって訳だ。

 全くバカげた話だよ。


 「バカ言ってんじゃないよ。司会の男も言っていただろう? 戦闘力に関してはロック王子とダイアナの二人が突出しているんだ。勇者の供には最低限勇者に着いて行けるだけの戦闘力があれば良いのさ」

 「ですから! お二人は町長と園長で!」

 「ああそうだよ、二人は町長と園長さね。

  モンスターを3万体も殺しまくってスキルの数が15もある町長と、

  同じく2万9千ものモンスターを殺しまくって、天使を授けられた園長先生さ」

 「ぐっ!」

 「いや、それは……」

 「一体何が不満なのかあたしには分からないね。

  ナイトの知識はロックやライに足りないものを埋めるだろうし、

  ロゼッタ王女のステータスは勇者に次ぐ程の高さだよ。

  あの二人を選ばないなんて事になったら、それこそ意味が分からないよ」



 そう、あの二人は選ばれるだけの実績を引っさげ、選ばれるだけのステータスを示したのだ。

 仮にあたしがあの二人と勇者の供の座を競ったならば、悔しいけれど大人しく引き下がるだろう。

 どう考えてもあの二人の方が勇者にも世界にも貢献する事が分かるからだ。


 「文句があるならあの二人と張り合える程の実績とステータスを持つ者を連れてくるんだね」

 「いや、それは……」

 「出来ないだろう? 出来る訳がないんだよ。

  あたしはね、別にあの二人と知り合いだから二人を認めた訳じゃないのさ。  8年もの間、毎日欠かさずモンスターを倒し続けた継続力、

  呪いスキルに潰されずに今日まで立派に生きてきた精神力、

  孤児院を救い、新製品を生み出し、町も店も大きくして、学校を設立して、失った魔道具やマジックアイテムを回収したという実績、

  そしてスキルの更新という誰も知らなかった事実を発見し、実際に目の前で勇者の供になるための要件を満たしたこと。

  これらを鑑みてあたしはあの子達を認めたのさ」


 「言っておくがね、こんな事他の誰にも出来やしないよ。

  あたしだって不可能だし、この国の他の誰だって無理だろうさ。

  勇者の供は重要さ、選ぶ相手は厳選しなくちゃいけない。

  そして厳選した結果、あの二人が選ばれたってだけさね。

  これ以上文句はあるかい? ないね? ならあたしは少し休ませて貰うよ」



 そうしてあたしは席を立ち、会議室を後にした。

 それを誰一人として遮る者は居ない。

 全員が理解したからだ、最早二人の旅立ちを妨げるのは不可能なのだと。


 結局その後会議は終了し、そのまま夕食会となり、そして一日が終わろうとしている。

 明日は遂にロック王子とダイアナ、二人の勇者の旅立ちの日だ。

 あたしは明日に備えて闇の神殿の自室で眠ろうとしていた。

 そんな時に、こんな夜更けにも関わらず扉をノックする音が響いたのだった。



 「失礼します神殿長、まだ起きていらっしゃいますか?」

 「もう寝る所だよ。一体何だい、こんな夜更けに?」

 「はい、それが……」


 あたしはその報告を聞いてベッドから飛び起き、寝間着姿のまま自分の部屋から飛び出して、そのまま神殿の外へとすっ飛んで行った。

 今日はダイアナは城に泊まっていてここには居ない。

 だからこの神殿にいる人間で最強で最速なのはあたしということになる。

 あたしは追いかけてくる他の巫女達を置き去りにして、神殿前の広場へと辿り着いた。


 そこは漆黒の闇に覆われていた。

 夜更けだからか? いや違う。

 これは広場が人為的に闇に覆われているのだ。


 「ふん!」


 あたしは魔力を開放して目の前の闇を吹き散らす。

 すると月明かりに照らされた闇の神殿前広場が視界に映った。


 大勢の群衆が詰めかけていた昼間とは違い、そこは不気味な程に静まり返っている。

 そこには1人の男が佇んでいた。

 その男は白一色のスーツに身を包み、長く伸ばした髪も白一色。

 そして遠目からでも分かる程の圧倒的な強者のオーラを身にまとっている化物だった。



 「ジョーカー!!」



 あたしは目の前の男に戦いを挑む。

 しかし以前戦った時とは別格の強さを誇る相手に、手も足も出ずに完敗してしまった。

 だが奴はあたしの命を取ることはせずに、音も無く広場から消え去って行った。


 奴はここで何をしていたのか?

 決まっている『スキルの更新』しか考えられない。

 奴は昼間の最後の質問の際にナイトとロゼッタ王女に継ぐ実績を示した化物だ。

 まず間違いなく、新しい力を身に着けに来たのだろう。



 「闇の神殿前広場で何者かがスキルの更新をしているようです」

 と連絡を受けて駆けつけてみたらこれだ。


 昼間見たスキルの更新には1つ重大な欠陥が存在する。

 それはスキルの更新前に必ず、それまでの人生のダイジェスト映像が流れることだ。

 他人に誇れるような人生を歩んで来た者ならば良い。

 だが人間誰しも聖人君子ばかりである訳じゃあるまいし、多くの人が大なり小なり人に言えない事をしているものだ。

 あれはそれすらも当たり前のようにその他大勢に見せてしまうのだ。

 特に犯罪者などは困るだろう。

 何しろ下手に大勢の前でスキルの更新をしてしまっては、秘密にしていた過去の罪がバレる可能性があるからだ。


 ジョーカーがこんな夜更けに、広場に居たのだって同じ理由だ。

 奴は裏社会の顔役としてこの街で名が知れ渡っている。

 そんな奴がバカ正直に真っ昼間にスキルの更新なんてする訳がない。

 だから奴は夜更けに来たのだ。

 わざわざ広場を闇で覆うといった安全策を取ってまで。

 誰も知らない自らの過去を、誰にも知らせずに新たな力を得るために。


 「これからは24時間体制で広場を警戒しなくちゃいけないね」


 あたしはやれやれと息を吐いて、ようやく追い着いてきた闇の神殿の巫女たちを出迎えたのだった。

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