第四十三話 夕食会
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余りにも予想外の結果に終わった『勇者の供の選別の日』の夜、玄武の国の首都タートルの王宮である亀岩城では夕食会が開かれようとしていた。
明日になれば勇者であるロックとアナはこの町を旅立ち、
『最低一ヶ月はこの町に帰って来ることは出来ない』
だから最後に豪華な食事会を開いて盛大に送り出そうという粋な計らいなのだ。
「いや、粋な計らいも何も、火の勇者とか水の勇者の現状に危機感を抱いた上層部が、勇者に無理やり旅立って貰う為の仕組みを作っただけなんだけどな」
「言うなナイト。この場にいる全員がその事は理解している」
「でも酷い話ですよね。ロック王子もアナ姉もちゃんと勇者としての活動をするつもりになっているのに」
「私達にその気はあっても、次の勇者がやる気があるとは限らないからな。丁度良いから強制的に勇者に旅立って貰う仕組みを作ってしまったのさ」
「そうですか、確かに次世代の事までは責任持てないですからね」
俺はロックとライと一緒に夕食会の会場である謁見の間へと足を運んでいる。
俺達は三人共正装だ。
俺は町長として用意していた式典用の服装であり、ライは式典用の軍服を身にまとっている。
俺達二人に関しては昼間と服装が変わらない。
変わったのはロックだけだ。
ロックは昼間はライと同じく式典用の軍服を着ていたが、今回の夕食会のためにわざわざ着替えたのだ。
前世の知識だと、こういう場合白スーツとかで決めそうなものだが、土の勇者であり、この国の王子でもあるロックの正装は、シックな茶色の貫頭衣だ。
これは今では誰一人として着なくなった玄武の国古来からの民族衣装である。
何でもこの国が建国される以前からの伝統なのだそうだ。
とは言え、そこは勇者であり王子でもあるロックの衣装だ。
服のあちこちに緻密で精緻な模様がふんだんに織り込まれ、所々に宝石や魔石があしらわれている。
おまけに糸の一本一本が特殊加工されており、こう見えて防御力も高いのだ。
この衣装だけで俺の店の売上の一月分を優に超える代金が掛かっている。
ロックはこの衣装を見て「無駄遣いだ」と言っていたが、上に立つものはそれなりの服装をしなければ下に舐められてしまうので、これはこれで良いのである。
「おい、余りジロジロ見るな。これでもかなり恥ずかしいのだぞ」
「そうは言ってもな、滅多に見ない服装だからどうしても目に付いちまうんだよ」
「面白いですよね。昔のご先祖様達は、皆こんな感じの服を着ていたって事ですか」
「お前達は面白いで済むが、実際に着ている私の身にもなってくれ」
「何だよ、ひょっとして着心地が悪いのか?」
「そうじゃない。この衣装着心地は良いのだが、何と言うかこう、服に密着感が無くてな。着ていると落ち着かないのだ」
「まぁそれは着ている内に慣れていくんじゃないのか?」
「馬鹿を言うな、こんな衣装を着るのは王宮内での式典時のみだ」
「ならこれから先も結構あるだろ」
「国王陛下も同じ服装をしていますしね」
この服装、現在も着ているのは玄武の国の国王陛下とその後継ぎである目の前の王子様のみである。
つまり陛下とロックしかこの服は着ていないのだ。
そしてこれが着れるのは18歳になり成人となってからと決められている。
つまりロックにとって今回が初めての着用になる訳だ。
一日早いんじゃないかという意見もあるが、そこはそれ、柔軟な解釈をすれば問題は無い。
これから先、ロックはこの衣装を着て王宮で何度も式典をこなす事になるのであろう。
やっている内に段々と慣れていくのであろうが、流石に最初の1回目は恥ずかしさが勝ると言う事か。
気がつけば俺達は謁見の間へと続く扉の前に辿り着いていた。
そこで俺達は待機している。
俺達は今回の主賓。
室内で国王陛下が来賓の皆様に挨拶をして、その後呼ばれたら俺達が登場する段取りだ。
ちなみにアナ達は逆方向の扉で待機している。
今回は勇者パーティーが2組も居るため趣向を凝らしたらしい。
そして遂に名前を呼ばれた。
俺達は揃って夕食会の会場である謁見の間へと入場したのであった。
謁見の間は、普段とは違い、綺羅びやかな装飾が室内の至る所の散りばめられている。
金銀細工に宝石・魔石とよりどりみどりだ。
王宮の担当者は今回の夕食会に随分と手間を掛けたらしい。
そこに集まっているのは本日来賓席に座っていた各国の使者やこの国の重鎮達だ。
出席者達は皆着飾り、俺達の登場を万雷の拍手で迎えてくれた。
広い室内には多くのテーブルが並べられ、その上にはこの城の料理人たちが腕を振るった料理が並べられている。
勿論飲み物も様々な種類があり、水にジュースにアルコールと様々な種類のドリンクが揃っており、現在給仕達が忙しなく来賓の隙間を行き来しながらグラスを配っていた。
俺達は案内されるまま、いつもは陛下が座っているこの広間の中で一段高くなっている場所へと向かって行く。
逆方向からやって来るのは勿論、アナたち闇の勇者一行だ。
アナは昼間も着ていた闇の神殿の巫女服を着ており、ロゼも昼間と同じ礼服を着ていた。
着替えたのはエルだけで、彼女は見る角度によって色合いが変わる不思議なローブを身にまとっていた。
帽子も靴も一目で金が掛かっていると分かる一級品であり、エリック先生が娘の晴れ舞台に如何に気合を入れたのかが分かるコーディネートである。
そして彼女達の後ろにはゲンとヨミがニコニコしながら付き従っている。
あの二人の格好もいつの間にか変わっており、ゲンは俺とそっくりな格好で、ヨミはロゼとそっくりな格好をしていた。
あの服をこの短時間で揃えられる訳が無いので、まず間違いなく例の変身能力で手に入れたのだろう。
流石は天使だ、服装を変えることすらも朝飯前らしい。
そうして今代の土の勇者と闇の勇者の一行が勢揃いした。
そこで国王陛下が一歩前に出た。
「今回の式典に遥々起こし下さった来賓の方々、そしてこの日を待ち望んでいた我が国の国民達にまずはお礼を申し上げる。
今日この日をもって、遂に今代の土の勇者と闇の勇者の一行が決定した。
昼間に起こった状況に未だ認識が追い着いていない者も多かろう。
かく言うワシもその1人じゃ、その気持ちは十分に理解できる。
しかし結果として、土の勇者と闇の勇者が真に望んでいたパーティーを結成することが出来たことは大変に喜ばしい出来事じゃったとワシは思う」
「明日、土の勇者と闇の勇者の一行はこの世界の為に冒険の旅に出発する。
朱雀の国では光の勇者が活躍し、青龍の国の氷の勇者の活躍もこの1年で良く聞こえて来るようになった。
白虎の国では風の勇者と雷の勇者が発見されたと聞くし、これからの世の中は勇者を中心に回って行くことになるじゃろう。
我が国の土の勇者と闇の勇者の一行も、是非世の為人の為にその力を振るって行って貰いたい」
「最後に私事になるが、土の勇者である我が息子ロックよ、父はそなたを誇りに思う。
よくぞ今日まで苦しい修行の日々を耐え、立派な勇者へと育ってくれた。
お主が本来争い事を嫌う性格であることは理解しておる。
しかしそれでもお主は決して弱音を吐くこともせず、この18年間勇者としての修行に邁進してきた。
お主の修行の日々は決して無駄になることは無いじゃろう。
土の勇者として、我が息子として恥じることのない道を歩むが良い」
「そして我が娘ロゼッタよ、父はこの日が来ることを全く想像もしておらんかった。
12年前、そう12年も前にお主が『成長停止』を授かり、神殿から帰還した日から今日この日まで、お主に勇者の供としての働きは期待してこなかった。
しかしお主は最初の数年こそ傷つき苦しんだが、その後は我が義理の息子であるナイトと共に薬師として働き、孤児院の園長として働き、毎日の訓練を欠かさず行い力を蓄えてきた。
その結果お主は今ここにおる。
ここにおるのは間違いなくお主の絶え間無き修練の結果よ。
ハズレスキル、いや呪いスキルに侵されながらもそれを乗り越え、お主はその地位を勝ち取ったのだ。
お主はワシの自慢の娘だ、心から誇りに思う」
国王陛下の熱弁を、謁見の間に集まった人々は皆傾聴している。
特にロックとロゼは俯き、その目からは涙がこぼれ落ちていた。
そして俺は少し挙動不審になっている。
陛下直々に『義理の息子』呼ばわりされてしまったのだ。
まだ結婚もしていないのだが、これはもう結婚したも同然という事だろうか。
「長くなったが、私からは以上だ。
では明日からの土の勇者と闇の勇者の健闘を祝して、乾杯とする」
「乾杯!」
「「乾杯!!」」
昼間の司会の男が乾杯と叫ぶと、広間の全員がグラスを掲げ、配られた飲み物を飲み干した。
そしてグラスを置いた後、入場した時よりも大きな拍手が俺達に送られたのであった。
俺達はそれを真正面から受け止める。
すると急に実感が湧いてきた。
すっかり無理だと諦めていた勇者の供に、俺は今日返り咲いたのだ。
鳴り止まない拍手を全身に受け、俺はその事実を味わっていたのであった。
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鳴り止まない拍手とは言ったが、それはあくまで比喩表現。
当然ながら拍手は止み、夕食会が開始された。
玄武の国の夕食会は立食形式ではなく、各々がテーブルに座って食事をとる形式を採用している。
これは以前、別の勇者の時代に、勇者に自分の領地に来て貰いたい領主やら町長やらが会場で群がって来てしまい、ひっきりなしに訪れる全ての出席者と挨拶をしていた勇者が夕食を食い損ね、翌日腹ペコで力が出ずに、出発初日に大怪我をしたというアホみたいな伝説があるためである。
故に今日の夕食会では勇者に直接声を掛けることも、席を移動して勇者に会いに行くことすらも禁じられている。
しかしそれでも一言くらいは、勇者にお祝いの言葉を贈りたい者が多いので、厳選な抽選の結果、選ばれた僅かばかりの幸運な者達は、夕食会の間に前に出て、勇者に向けてメッセージを読み上げるのだ。
これを聞いて俺は、前世の結婚式を思い出した。
来賓が一人一人目の前でお祝いを述べるあれである。
世界が違っても、目的が違っても、結果的に行う行為自体は変わらないということか。
現在、ステージの横では何処かの領地の領主が勇者にお祝いを述べ、是非我が領地に起こし下さいとお願いをしている。
ロックは一応話を聞いているが、アナの方は完全に目も口も料理の方に集中していて話を聞いてもいない状態だ。
夕食会の料理は当然の事ながら宮廷料理人が腕を振るったこの国最高の一品だ。
そしてアナの趣味は料理であり、食べることも作ることも大好きだ。
一品口に入れるたびに、「これはあの野菜を使っているのか」とか「何故この魚がこんな味を生み出すの?」とかブツブツ呟いており、祝辞が一切耳に入っていない。
祝辞を述べている領主さんが少し可哀想だ。
アナは俺と話す時は基本口下手であるのだが、昼間のように大勢に話しかける時や、料理に集中している時は何故か饒舌になる。
俺がアナにその事を指摘すると、アナは顔を真赤にしてそっぽを向き、しばらく口を聞いてくれなくなるので、最近は指摘していない。
明日になれば俺はしばらくは女性陣とは離れ離れになってしまうので、今夜にでも指摘し、からかっても良いかも知れない。
そんな事を考えていると、アナの隣に座っていたロゼの所にゲンとヨミがやって来た。
二人はそれぞれ子供用の椅子を用意され、料理も子供用の食事が用意されていたのだが、見たところ全く手を付けていない。
天使にとっては宮廷料理人の料理ですら口に合わと言うのだろうか?
「ご主人、ご主人、オイラ達も食事にしていいかい?」
「マスター、皆様が食べているのを見ていたら、あたくしもお腹が空きましたわ」
驚いたことに二人はロゼに食事の許可を求めていた。
どうやら二人はロゼの許可がないと食事もしてはいけなかったらしい。
「えっと、二人共お腹空いてるの? 目の前に用意されていたご飯は食べても良いんだよ?」
「あれは人間用の食事だろ?」
「あたくし達は天使ですもの。人間用の食事は食べる事は出来てもお腹は膨れませんわ」
「あれ、そうなの? じゃあこの場に二人が食べることが出来る物はあるの?」
「一杯あるから大丈夫だぜ!」
「流石にこの量を二人で食べるには骨が折れますわ」
「そうなの、じゃあ二人共遠慮なく食べて「ちょっと待て」いい……あれ?」
俺はロゼ達の会話に不穏な空気を感じて割り込んだ。
ゲンとヨミは天使だ。
天使が人間と主食が違っても別に驚きはしない。
しかしその主食が何なのかによっては対応が違ってくる。
この場にあって二人で食べるには骨が折れる物。
無いとは思うが『実は人間が主食なんだぜ!』とか言われたら大変なことになってしまう。
一応許可する前に何を食べるつもりなのか聞いておかないとな。
「二人共、取り敢えず何を食べるつもりなのか教えてくれ」
「何って魔石に決まってるじゃんか」
「天使は魔石を食すものですわ。不勉強ですわよダーリン」
「オーケー、二人を止めた俺の判断に間違いは無かった」
天使は魔石を食すもの。
旅に出る前日の夕食会で、俺達はその事を初めて知ったのであった。




