表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第一章 プロローグ
4/173

第四話 謁見

2017/06/15 サブタイトル追加&本文を細かく訂正

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

 この世界には4つの国があり、8人の勇者が存在している。


 大陸北部、朱雀の国には『火の勇者』と『光の勇者』

 大陸東部、青龍の国には『水の勇者』と『氷の勇者』

 大陸南部、白虎の国には『風の勇者』と『雷の勇者』

 大陸西部、玄武の国には『土の勇者』と『闇の勇者』


 たまに別の国に生まれる時もあるらしいが、勇者達は高確率でそれぞれの国で生を受け、各国の代表者として育てられる。

 何故なら『勇者』として生まれてきた者は、生まれた時には既に額に『勇者の印』が現れており、スキル授与の儀式の際には必ず10のスキルを授かることが確定しているからである。

 つまりそれは最大数のスキルを手に入れるという事と同時に、最高レベル100に到達できるという証であり、そのままずばり強者の印に他ならないのだ。

 だから各国は勇者を発見したら即座に保護し、国を上げたバックアップ体勢を構築し、勇者が万全な力を振るえるように援助するのだ。

 限界まで鍛えた勇者というのはそれ程までに頼りになる存在であり、勇者でなければ人類の敵である『魔王』は倒せないとされている。



 そんな勇者の1人がこの国の城に住んでいる。

 保護された訳でも連れて来られた訳でもない。

 元々ここで生まれたのだ。

 彼の名はロック=A=タートル。

 玄武の国の皇太子、ロック王子こそが今代の『土の勇者』であった。



 そのロック王子の幼馴染の1人にして親友がこの俺、ナイト=ロックウェルだ。

 俺がロックと親友になった理由は単純だ。

 父親同士が親友であり、子供の頃から一緒に遊んでいたから幼馴染になり、周囲に同い年の男は2人だけだったから自動的に友達になり、親友になったのだ。


 ロックは名前こそロックではあるが、その性格はロックの欠片もない穏やかで優しい性格だ。

 正直言って性格から言えば勇者失格である。

 勇者とは皆の先頭に立ってガンガン行かなくてはならないのだ。

 なのにロックは常に命を大事にをモットーに行動しており、俺はそんな引っ込み思案な幼馴染を引っ張って行く役割を期待されていたのだ。


 しかしその期待は見事に裏切られる事となった。

 スキルが1つだけ、しかも『一般人』では勇者の供には成り得ない。

 最大レベル100に到達することを期待されている勇者の供には、最低でも5つのスキルが必要とされていた。

 つまりレベル50まで到達可能であれば、勇者の供として認められるという事である。


 レベルの差を覆す事は非常に難しい。

 しかし2倍位までのレベル差であれば、創意工夫があれば対処は可能だというのが一般常識として広まっている。

 だが俺の最大到達レベルは10であり、勇者であるロックとは10倍の開きがある。

 これは例え、転生者であったとしても覆せない絶対的な壁だ。


 前世の記憶が戻った今、平和な世界を知っている者としては、勇者の供として戦うことに関して、それ程魅力は感じていない。

 しかし、あの心優しき親友の役に立てないという事に関しては後ろめたさを感じてしまう。


 ついでに父さんの事を余り快く思っていない勢力が、ここぞとばかりに発言力を強めるであろうことにも懸念が生じる。

 『国王陛下の親友』という俺とそっくりな立ち位置にいるハロルド父さんは、陛下に近づきたいと考える者達にとっては邪魔者以外の何者でもないのだ。

 父さんもそれは理解している筈だ。

 しかし俺の状況を説明しない訳にはいかない。

 俺に求められていた役割というのはそれ程に重要だったのだ。

 これから城で起こる騒動を予感し、俺は馬車の中で軽く溜息を吐いたのだった。




 目的地である城の入口に到着したので、俺達は揃って馬車を降りた。

 俺は城をじっくりと眺める。

 今まで何度もこの城には遊びに来た。

 どこに何があるのかなんて下手な使用人よりも知っている。

 しかしこれからの話し合い次第では、ここに来るのは今回が最後かもしれない。

 そう思うと名残惜しくなり、一度じっくりと見ておこうと思ったのだ。


 壁の色も屋根の色も茶色というか土色で統一されており、全体的に丸いシルエット

 中央に大きなドーム型の建物があり、そこから斜め方向に4つの建物が繋がっている。

 入り口は亀の頭のような外観をしており、最奥にある宝物庫は何故か尻尾を模した形をしていた。


 これが玄武の国の城、通称『亀岩城』だ。

 ど○えもんを思い出すがあれは『鬼岩城』だった。

 こちらは鬼ではなく亀だ。

 玄武とは亀の神獣だと言われている。

 よってワザワザ亀の形に似せた城を作ったらしい。


 何度も来た城ではあるが相変わらず面白い形をしている。

 以前来た時は考えもしなかったが、一体どうやってこの建物を作ったのだろうか?

 自宅の屋敷もそうだが、こちらの建築物は地球の物と比べても決して劣ってはいない。

 恐らく魔法や魔道具が関係しているのだろうが、詳しいことはさっぱりだ。


 目の前には長い階段がある。

 ちなみにこれは亀の舌を模しているらしい。

 つまりこれから俺達は亀の体内に入って行くという訳だ。


 この城を設計した人物は絶対に変わり者だったに違いないと考えながら階段を登って行く。 

 先頭は父さん。母さんと俺がそれに続き、後ろには使用人達が着いてくる。

 そして階段を登りきると、そこには大きな扉が存在していた。

 

 後ろを振り向くと、今登ってきたばかりの長い階段があり、その奥には城壁と城門が見て取れた。

 この城は周囲をグルリと壁に囲まれており、馬車はそこにある門を通って舌の下まで来ていたのだ。

 ちなみに壁の向こうにはタートルの町が広がっている。

 俺達が住んでいる屋敷も町の中に存在している。


 扉から先は城の内部という事もあり、普段から守備兵が守りに付いている。

 そこで父さんが事情を説明し、国王陛下への謁見を求めていた。


 普通、突然訪れて会いたいと願った所で国王陛下と会うことなど出来ない。

 しかし軍の副将軍であり、陛下の親友であるという関係は無理を通す力となるのだ。

 しばらく待たされたが、通行許可が降りたのでそのまま進み、全員揃って謁見の間まで進んでいった。



 そこには突然呼ばれたにも関わらずきっちりとした身なりをした国王陛下が、守備兵や文官達と共に俺達を待ち受けていた。

 茶色い髪に茶色い目をしており、背は高く筋肉もついている理想的な体型。

 彼こそがこの玄武の国の現在の国王、ゴック=A=タートル陛下その人である。


 名前からすると水中戦が得意そうに見えるが、彼は確かカナヅチだった筈だ。

 いかん、前世の記憶のせいで余計な思考が入り混じってやがる。

 そもそもあれは『ゴッグ』だった筈だ。いや『ゴック』もあったんだったか?

 どうでもいいか。

 ガ○ダムの事は横に置いておいて、父さんと陛下の話に耳を傾けた。



 「御久し振りで御座います陛下。本日は急な謁見の申込みにも関わらず時間を割いて頂き、まことにありがとうございます」

 「よいよい、気にするな。ワシとお主の仲ではないか。して本日は何の要件なのじゃ?」

 「はっ!本日は我が息子ナイトのスキル授与の儀式で起こった問題に関する報告に参りました」

 「ふむ、そう言えば今日じゃったな。何ぞハズレスキルでも引いてしまったのか?」


 陛下も周りに居る人達も、この時点では動揺は見られない。

 ハズレスキルを引くことなど良くあることだからだ。

 しかし父さんの次の報告を聞くと、皆の顔色が変わっていった。


 「それ以上の問題で御座います陛下。ナイトは1つしかスキルを授かることが出来ませんでした」

 「……何じゃと?」

 「ナイトの得たスキルは『一般人』というスキルのみ。しかも全てのステータスがレベルを上げる毎に1しか上がらないというハズレスキルで御座いました」



 父さんの報告に謁見の間がざわめき出す。

 やはりスキルの内容よりも数の方が重視されている。

 分かってはいたが、スキルが1つだけというのは相当にレアな状況らしい。


 俺はと言えば、父さんと余り年が変わらない筈なのにやたらと年寄り臭い会話をする陛下を見て国王も楽じゃないなと考えていた。

 俺は父さんから聞いているのだ。

 陛下は昔は普通の話し方だったらしいが、国王となった後、周りに舐められない様にと服装や普段の立ち居振る舞いまで改め直し、口調も威厳を出すためにワザワザ年寄り臭くしているという事を。


 何でも陛下には出来の悪い弟がおり、その男を国王にして権力を握ろうとしている『王弟派』という一団が国内には存在しているのだという。

 そいつらはあの手この手で国王陛下の邪魔をしており、国の景気や治安を良くするための改革が中々進まないらしい。

 だから父さんはそんな陛下を支えるために頑張っているのだと語っていた。


 そして今回、俺自身が陛下の息子であるロックの友としての活躍を期待されていたのに「やっぱり無理でした」と報告に来たのだ。

 それはざわめくだろう。

 何人かほくそ笑んでいる連中が居るが、奴らは王弟派だ。


 ――くそっ人の不幸を笑いやがって!

 権力が欲しければ父さんの様に自力で偉くなってみろってんだ!



 俺が内心怒っている間にも事態は動いていく。

 父さんは今、陛下に対して何故俺がスキルを1つしか手に入れられなかったのかの説明をしていた。


 「何とあの魔物の呪いで! お主の息子は1度殺されたと申すのか!」

 「その通りです陛下。ナイトが生まれた正にその瞬間に呪いが発動し、赤子であった息子は抗うことも出来ずに殺されてしまいました。そして私は家宝である『奇跡のネックレス』を持ち出して息子の蘇生を祈り、奇跡が起きて息子は生き返ったのです」

 「お主の祖先が迷宮の底より持ち帰ったというロックウェル家の家宝か。ではその時の復活が原因で?」

 「断定は出来ませんが、恐らく間違いは無いかと」

 「ううむ……確かに死者の蘇生ともなれば何の代償も無しにとは行かないという訳か」



 陛下は父さんの説明に上手い具合に納得してくれている。

 これはこのまま行けるかな? と考えたが、やはりというか待ったが掛かった。



 「おやおや、名門ロックウェル家の嫡男ともあろうお方が手持ちのスキルが1つだけですか。ハロルド殿は息子思いでいらっしゃいますな。この様な言い訳まで持ち出してくるとは」

 「ガイアク大臣、言い訳とはどういう意味ですかな?」

 「言い訳は言い訳ですよ。スキルが1つしか授からなかったのはあなたの息子が無能である証拠ではないのですかな?」



――何だとこの野郎!

 俺は文句を言おうとして立ち上がろうとしたが、横にいた母さんに制された。

 その目は俺にこう伝えていた。

 「お父さんを信じて黙って見ていなさい」と。

 俺は動くことを止めて父さんの背中を見つめ続けた。


 「それは違うなガイアク大臣。スキルの数とその者の能力に因果関係が無い事は長き時の中で証明されている。それに妻が10年前の魔族討伐の際に、最後に呪いを受けた事は正式な資料に残っている出来事だ」

 「まぁ確かにスキルの数が少なくても優秀な人材はおりますが、スキルがあればそれだけ活躍の場が増えることは間違いない話でしょう? そもそもあなたの息子が1度死んだのだとどうやって証明するお積もりなのですか?」

 「そう言われると思ったのでな、当時から屋敷に務めている使用人達を全てこの場に連れて来ている。証明は彼らがしてくれる筈だ」

 「それはそれはご丁寧に。しかし彼らが虚偽の説明をする可能性もありますな」

 「ふむ、ジャック。大臣はこう言っているがどう思う?」

 「全くの心外といった所ですな。我らロックウェル家使用人一同、陛下の御前での証言に虚偽を混ぜるなどありえないことです。何でしたら魔法や薬物を使用して下さっても構いません。ナイト様を襲った呪いの恐ろしさと復活の奇跡を詳細に語ってみせましょうとも」



 父さんと爺がガイアク大臣を睨みつけている。

 あの人は王弟派のトップとして有名な人だ。

 大臣になったのは実力なので、既に相当な権力者なのだが、それ以上を望んでいる野心家でもある。

 俺的には、ロックと遊んでいる時に小言を言ってくる嫌味なおっさんという印象だ。

 父さんや陛下よりも年配の方なので2人共いまいち強く出られないらしい。

 と言うか、今気づいたが名前が酷過ぎる。

 名前も本質も害悪な人物ではシャレにもならないではないか。



 「まぁ落ち着け2人共。ハロルドよ、ワシはそなたを疑うような真似はせんよ。あの時の魔物の被害は相当な物じゃったしな。奴が残した最後の呪いならば赤子では太刀打ち出来ないのも無理はあるまい」

 「はっ! ありがとう御座います」

 「ガイアク大臣もここは引いてくれ。使用人達にも後で全員に聞き取り調査をするが、ロックウェル家の使用人と言えば公明正大で有名な者達じゃ。ワシに対して虚偽の説明するとは思えんしな」

 「まぁ陛下がそうおっしゃるのなら私からは何もありません」

 「それでハロルドよ。ナイトのスキルが1つしかないという事は、我が息子ロックと共に旅立てぬという事になるな」



 全員が「ハッ」とした顔をして俺を見つめてくる。

 ――止めてくれ、そんな目で見ないでくれ。

 俺のせいだけど、俺ではどうにもならないことだったんだよ。



 「正にその通りで御座います陛下。本日はその件でお話に参った次第」

 「つまり8年後にロックの供として旅立てぬから、勇者の仲間として活動する事を辞退すると?」

 「そういう事です」

 「ダメだぁ!!!」



 突如謁見の間に大声が響き渡る。

 声がした方向を見ると、謁見の間に通じる扉の1つが開け放たれ、陛下をそのまま子供にして少し細くしたような子供が仁王立ちしていた。


 茶色い髪に茶色い目、10歳にしては背が高いが筋肉が無いのでひょろ長の印象。


 奴の名はロック=A=タートル。

 玄武の国の王子にして、今代の『土の勇者』が泣きながら突っ立っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ