第三十六話 勇者の供の選別の日3
2017/07/05
日刊ランキング22位に入っていました。
ありがとうございます。
2017/07/14 本文を細かく訂正
2017/08/18 本文を細かく訂正
--sideロック--
目の前で起こっている出来事に理解が追いつかない。
目を擦り、頭を振り、一度空を見てからもう一度目の前を見つめ直す。
結果は何も変わっていなかった。
目の前には信じられない出来事が記されていたのだった。
〈検索項目『過去10年間の実戦の日数』確認しました。
検索範囲内において検索を開始します。
……
……
終了、検索結果上位3名を出力します。
1位:ナイト=ロックウェル(2,800日)
2位:ロゼッタ=A=タートル(2,795日)
3位:ジョーカー(本名は封印されています)(1,127日) 〉
〈検索項目『これまでに討伐したモンスターの数』確認しました。
検索範囲内において検索を開始します。
……
……
終了、検索結果上位3名を出力します。
1位:ナイト=ロックウェル(30,830匹)
2位:ロゼッタ=A=タートル(29,046匹)
3位:ジョーカー(本名は封印されています)(9,968匹) 〉
実戦の日数2,800日、
討伐モンスター数30,830匹。
目の前に意味の分からない数字が並んでいる。
ナイトの名前の横に意味の分からない数字が並んでいるのだ。
その下には姉上の名前も並んでいる。
更に下にはこの町の裏の顔役と呼ばれているジョーカーとか言う奴の名もあるが、これは今は無視だ。
実戦の日数も討伐数も姉の半分以下の数字だ。
無視して構わないだろう。
そんなことよりも今はナイトと姉上だ。
何だこれは、何なんだこの数字は。
そして2人共どうしてそんな苦笑交じりの顔をしているのだ。
私は知っている。
私には分かる。
私はナイトの親友で、姉上の弟だ。
だから分かるのだ。
あれは本当だ。
本当のことだ。
『本当のことが記されてしまい、私とアナの仲間が決まらなかったから困っている顔』をしているのだ。
私は立ち上がり、2人を問い詰めた。
今は式典の最中であり、多数の来賓と多くの一般市民が集まっている。
そんな事は頭からスッポ抜けていた。
「ナイト! 姉上!! これは一体どういう事ですか! 一体何をしでかしたのですか!!」
「ちょっ、落ち着けロック」
「ロック、玄武の国の王族たるもの、この程度のことで慌てふためいてどうするのですか」
「何処らへんが『この程度のこと』なのですか姉上! 落ち着けだと! 落ち着いていられるか! 答えろナイト、何だこれは! 何なんだこの数字は!」
「いやまぁ何だと言われても、俺達の実戦の日数と討伐モンスターの数だけどな」
「何をどうすればこんな数になるのかと聞いているのだ! そもそも2人共町から出ることは禁止されている筈! まさか法を破ったのか!?」
「そんな事はしていないぞ。俺達はサムに会いに行った時を除いて、この8年間、町から一歩も外に出ていない」
「私達はこの町の中で戦い続け、モンスターを倒し続けた結果この数字となったのよ」
「2人合わせて約6万匹ですよ!? これだけの数のモンスターがこの町に居たというのですか!」
「それが居たんだよ」
「取り敢えず落ち着きなさい。詳しい話をしてあげるから」
そうして語られた話は想像の埒外の内容であった。
8年前、ナイトと姉上は私のスキル授与の儀式の日に薬局のロックウェルへと引っ越し、次の日から働き始めた。
だがすぐにそれは町の住民達に知られる所となり、二人は3ヶ月もの間、店から一歩も出ること無く過ごすこととなった。
3ヶ月後、店長の許可を得た二人は揃って町に繰り出し、町の外へと通じる大扉の前でモンスターハンター達の姿を見たという。
そこでナイトがモンスターハンターとして活躍したかったという思いを口にし、姉上がそれを叶えるために、町の中に発生する雑魚モンスター退治を提案した。
そして二人は翌朝から雑魚モンスター退治を開始。
町中に発生する雑魚モンスターは町の住民が倒してしまうため、二人は人の居ない町の裏の森まで行き、モンスターハンターの真似事を始めたのだそうだ。
その際に二人はある決まり事を定めた。
1人1日10匹以上の雑魚モンスターを倒す。
これをノルマとして設定したのだ。
今まで行っていた早朝の訓練の時間をモンスター退治にあてがった結果、それは二人にとって日常へと組み込まれた。
それから8年。
サムに会いに行った時と、たまに病気に掛かった時を除いて8年間。
毎日10匹、多い時にはもう数匹の雑魚モンスターを仕留め続けて来たという。
一年は365日。
365日×8年で2,920日。
その内最初の3ヶ月は動いていなかったので-90日、
これで2,830日。
そこに初めてレベル上げに向かい、魔族に襲われた日を含めて2,831日
サムに会いに行くために往復14日、向こうでの滞在日数が5泊で-19日。
そしてたまの病気で休めば2,800日となる。
姉上の活動日数が少し少ないのは、病気になった日数が多いからだそうだ。
そして2,800日の間、毎日10匹ずつモンスターを倒せば、それだけで28,000匹。
たまに多く仕留めれば30,830匹になる訳だ。
説明を聞いた者達は皆戦慄している。
何より恐ろしいのは、これをナイトと姉上が行ったという事実だ。
スキルが1つだけのナイトと3つだけの姉上。
姉上のレベルはとうにMAXまで上がっていることだろう。
しかし2人はそこで止まらなかった。
8年もの間、毎日毎日モンスターと戦い続けた。
その有り得ない継続力に戦慄したのだ。
例えスキルの数が少なくても、人間本気になればここまでの事ができる。
この場に居た全員は、今まで培ってきたこの世の常識が、ガラガラと崩れる音を確かに聞いたのであった。
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--sideナイト--
予想外の結果に呆然としているその場の人達を見ながら、俺はステージの上で困っていた。
国王陛下も父さんもこの質問ならば大丈夫だと思っていたのだろう。
まぁ普通は大丈夫な筈なのだ。
俺とロゼがおかしいだけで。
この8年間、ほぼ休み無しで俺達は雑魚モンスターを退治し続けてきた。
それは習慣だったからだ。
そもそも俺達は元々勇者の供として物心付いた頃から訓練の日々を送って来ていた。
それは最早当たり前の日常になっており、例え屋敷を出て薬局で働くことになっても訓練は続けていたのだ。
正確に言うと続けないと気持ち悪かったのである。
俺達にとって戦闘訓練とは、日々の習慣というか毎日の常識の様に体に刷り込まれていたのだ。
そして早朝訓練の時間を雑魚モンスター退治の時間に当て嵌めたら、丁度良く嵌ってしまったのである。
しかし8年間も同じ事をしていては流石に飽きてしまう。
飽きてしまうが、習慣になっていたこともあり、やらないと落ち着かなかった。
だから手を変え品を変え、様々な方法でモンスター退治を繰り返してきたのだ。
武器を換え、罠を張り、毒物を精製し、あらゆる方法を用いてモンスターを狩り続ける日々。
最近では最早武器も使わずに素手でモンスターを仕留めている始末である。
最早モンスターを退治することよりも、退治する方法を考える事の方が重要になっていた程であった。
だからこの数字は必然である。
俺達の人生において訓練を日常の習慣にしてしまう様な教育を施した父さんや陛下が悪いのである。
「え~……え~……どっどうしましょう。
流石にこれは予想外です。
いや、流石は町長と姫様と言えなくもないのですが……
え~、しかしこれではまたしても決まりません。
いや、流石にジョーカー殿を勇者の供にする訳にも行きませんし……
と言うか、ナイト様とロゼッタ王女が凄すぎるのが原因では無いのでしょうか!?
お二人にこの場からの退去を求めた方が良かったのでしょうか!?
それともお二人のスキルの数を増やす方法とかを聞いた方が良かったのでしょうか?
いや、申し訳ありません。
どうやら私も相当混乱してしまっているようです。
既に質問も終わっているのに何を言っているのでしょうか。
そもそもスキルの数を増やすなんて、そんなことが出来たら苦労はしないと言うのに……」
〈検索項目『ナイト=ロックウェルとロゼッタ=A=タートルのスキルを増やす方法』確認しました。
検索範囲内において検索を開始します。
……
……
終了、検索結果上位3つを出力します。
1位:スキルの更新
(各地の神殿において、『最新獲得スキル数×10』のレベルを上げるとスキルの更新が可能となります。
なお、初めてのスキル獲得時は個室でしたが更新は広場でする必要があります。
更新希望の方は、各地の神殿前広場において、『スキルの更新を希望する』と念じて下さい、スキルの更新が開始されます )
2位:ダンジョンの攻略報酬
(勇者のダンジョンを攻略し、最下層の勇者の試練を突破。攻略特典で『スキル獲得』を選択すれば何かしらのスキルを授かることが出来ます)
3位:スキル『譲渡』の所有者よりスキルを授かる
(検索範囲内には存在しておりません)
……
……
今回の検索でエネルギーが空になりました。
以上を持ちまして、今回の質問の受付は終了致します。
次回ご利用時まで8年間の休眠が必要となります。
ご利用ありがとうございました。
それでは失礼致します〉
そんなお知らせが出たと思ったら、勇者の検索機はその機能を停止した。
先程まで文字が浮かんでいた表面は今はもう何も映してはいない。
そもそも形も立方体へと戻っている。
それは良い。
それは良いが最後のあれは何だ。
『スキルの更新』?
スキルの更新なんて初めて聞いたぞ。
と言うか、スキルって更新ができたのか。
俺は闇の神殿のばっちゃんに話し掛けた。
「ばっちゃん、ばっちゃん。何今の? スキルの更新って何よ? 俺初めて聞いたんだけど」
「アタシに聞かないでおくれよ、アタシだって初耳さね」
「闇の神殿の神殿長なのに?」
「神殿長ってのは神様じゃないんだよ。知らないことの方が多いのさ」
「まぁそりゃそうか。あ~じゃあさ、俺ちょっとやってみて良い?」
「スキルの更新をかい? そりゃ構わないが、出来るかどうかなんて分からないよ? そもそも出来たとしても何が起こるのかなんてこの場の誰にも分からないんだからね」
「それについては問題ないでしょ。だって俺のスキルは『一般人』だけだし。最悪スキルが消滅した所で対して影響無い訳だしさ」
「確かにそう考えれば、試すにはあんたが一番適切か」
「そういう事」
「よしやってみな! 骨は拾ってやるよ」
「失敗前提で話を進めないでくれませんかねぇ!」
そうして俺はステージの上へと移動した。
俺の目の前にはこの場に詰めかけた大勢の町の住民達と、勇者の仲間へと立候補して来た多くの腕に覚えの有る者達が勢揃いしている。
俺の後ろには多くの来賓達が椅子に座って控えている。
前も後ろも人だらけだ。
そしてその全員が、興味津々という目つきで俺の事を見つめていた。
『スキルの更新」
その聞き慣れない単語に、皆の興味は集中しているのだ。
俺も勿論その1人だ。
もし仮に今回の更新が上手く行き、スキルを5つ以上手に入れることが出来れば、勇者の供としてロックやライと共に旅に出られるかもしれない。
ああ、でもロゼを置いていく訳にはいかないか。
でもロゼもスキルの更新が上手く行けば良い訳か。
その前にスキルの更新が出来るかどうかが問題だな。
俺は意識を集中した。
そして検索機に表示された通り『スキルの更新を希望する』と念じた。
すると突然頭の中にメッセージが流れて来た。
〈スキル『一般人』は最大値となっています。
その他のスキルは存在しません。
スキルの更新が可能です。
更新しますか?〉
俺は『はい』と念じた。
すると俺の目の前に巨大なスクリーンが登場した。
これはあれだ、8年前のスキル授与の儀式の時に見た、俺の人生が映し出された画面だ。
前回見た時は室内だったからかTV位の大きさだったが、今回のこれは映画館並の大画面である。
これで俺は俺の人生をダイジェストで閲覧し、それが終わった後でライフルーレットが発現したのだ。
そこで俺は気がついた。
これが公衆の面前で流れるという事は、俺が転生者だとバレるという事ではないのか。
俺は焦った。
焦ったものの、時既に遅し。
目の前の巨大スクリーンが俺の人生を映し出し始めたのだった。
第二章終了




