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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
35/173

第三十四話 勇者の供の選別の日

2017/07/03

ブックマークの数が前作『堅実勇者』を上回りました。

これからも応援宜しくお願いします。


2017/07/14 本文を細かく訂正

 そうして遂に俺の意識は現在へと戻って来た。

 今日は明日行われる『勇者の旅立ちの儀式』の前哨戦、

 『勇者の供の選別の日』である。



 勇者の供。

 それは勇者と共に世界を巡り、勇者を助け、支え、鼓舞し、背中を守って背中を押し、共に笑って共に泣く、苦楽を共にするパーティーメンバーの事を指す。


 本来ならばそれは俺とロゼの役目。

 しかしスキルの数が足りていない現状、俺もロゼも勇者の供には成り得ない。

 それなのにロックもアナも今日のこの日まで2人揃って新しい供を選ぶことを拒んできたのだ。


 だがそれも今日までのこと。

 明日になれば二人の勇者はこの町から旅立ち、世界を回る。

 そして初代勇者に習い、勇者は3人パーティーを組むことになっているのだ。

 これはどこの国でも変わらない絶対の法則だ。

 とは言え、初めて会ったサムのように、大勢の供を引き連れても問題はないという。

 だがしかし、供の数が少ないのは駄目だ。

 勇者の供とは2人以上が絶対条件。

 ロックにはライが、アナにはエルが居るが、現状1人ずつしか存在しない。

 どうしても後1人、新たな仲間が必要となるのである。



 「でもやっぱりロゼが良いよ~」

 「僕も兄さんと一緒に旅立ちたいです」



 闇の神殿前に作られた特設ステージの上、エルとライのぼやきが来賓席まで届いている。

 ロックとアナは黙っている。

 黙っているが、あの二人はそれこそこの8年間、あの手この手を使って俺達と一緒に旅に出ようと画策してきたのは知っている。

 しかしどれだけ頑張ろうとも、俺達のスキルの数は増えず、スキルの数が足りなければ勇者の供には成り得ない。

 あの二人は既に運命を受け入れているのだ。

 だが、共に旅立つ二人は未だに駄々をこねていた。



 「あんた達いい加減にしな! これから旅立つ勇者の仲間がいつまでも子供みたいな事言ってるんじゃないよ!」

 「でもばあちゃん、ロゼは8年間も薬師として働いてきたんだよ~。

  孤児院の園長先生として凄く頑張って来たんだよ。

  ナイト商会の副社長としても、町長の恋人としても頑張って来たんだよ。

  それは考慮して貰いたいな~」

 「同じくです。

  兄さんも薬師として頑張ってきました。

  計量器を生み出して、薬を効率良く作れるようにし、

  孤児院の不正を明るみにして、子供達を救い、副園長として活躍。

  サム兄さんをまっとうな人間に育て上げて、子供達にも教育を施しました。

  ナイト商会を知らない人はこの町には居ませんし、

  兄さんが集めたマジックアイテムはかなりの数に登ります。

  更に町長としてこの3年間働き続け、住民誰もが学べる学校を開校。

  オマケに明日の『勇者の旅立ちの儀式』と今日の『勇者の供の選別の日』の準備まで完璧にやり遂げたのです。

  兄さん以外の一体誰がこんな真似が出来ると言うんですか」

 「あたしも天才って呼ばれてるけど、今じゃすっかりナイトの天才具合に隠れちゃってるからね~」



 エルとライが最後の抵抗を試みている。

 しかしそれは意味のない抵抗だ。

 俺達は確かにこの8年間、成果を上げ続けてきた。

 だがそれは、勇者の供の選別に当たっては考慮にも値しない成果なのである。



 「あたしだってこの2人がこの8年頑張ってきたことは理解しているさ。

  実際積み重ねた実績は大したもんだ。

  心の底から賞賛するよ。

  正直言ってあたしもこの2人をロックとダイアナに付けてやりたいよ。

  でも駄目なんだよ。

  勇者の供に求められている能力は何処までいっても戦闘能力だ。

  この2人にはそれが絶対的に足りていない。

  どれだけ頭が良くても、人格が優れていても、金儲けが上手くても、国の役に立ったとしても、強くなければ駄目なんだ。

  そして強さとはレベルだ。

  高いレベルに必要な物とはスキルの数だ。

  それが無い時点でこの2人は戦力外なのさ。

  これはどうしようもないこの世界のルールなんだよ」



 ばっちゃんは苦しそうに、本当に苦しそうに自分の心の内を吐露している。

 この8年の間、ばっちゃんもばっちゃんで戦ってくれていたのだ。

 俺達を勇者の供にすることは幾ら何でも無理だった。

 しかしマジックアイテムを集めて戦力を底上げした功績を餌に、周囲に根回しを進め、俺とアナの婚約を認めさせたのはばっちゃんだ。

 過去数百年誰も成し得なかった事をやり遂げた功績だとばっちゃんは言っていた。

 しかし反対意見が大勢を占めている状況で、僅かでも勇者の為になる事を成そうとしてくれたばっちゃんには頭が下がる。

 俺はばっちゃんにこれ以上嫌な役目を押し付ける必要は無いと考え、エルとライへと声を掛けた。


 「二人共そこまでにしておけよ」

 「兄さん……」

 「でもナイト……」

 「デモもストも無いんだよ。

  俺の、俺達のスキルの数は少なかった。

  足りなかった。

  これはどうしようもない事だ。

  俺は納得しているよ」


 「納得って! でも兄さん、今でも毎日訓練しているんでしょう!?」

 「まぁ既に習慣になっちまってるからな。

  でもあれだけ頑張ってもどうにもならなかったんだ。

  俺もロゼもこの8年、手を抜いたことは一度も無かった。

  努力した。

  頑張った。

  成果も出して、実績を作った。

  だからもう十分だ。

  俺達は満足している。

  だからもうお前達も諦めて前を見ろ。

  お前達の仲間に成りたいって連中がこれだけ集まっているんだから」



 俺はステージの下を指し示す。

 そこには多くの兵士やモンスターハンター達、即ちロックとアナの仲間に成りたいと願っている者達が集まっていた。

 その数はとても多い。

 ステージの下には闇の神殿前の広場がある。

 その広場の実に半分はロックとアナの仲間候補で埋まっていた。


 彼らの殆どは玄武の国出身の者である。

 しかし中には他国からわざわざここまで来ている者もいる。

 通常勇者の供とは所属している国の出身者から選ばれる事になっている。

 しかし最近活躍中の氷の勇者であるサムが、青龍の国の者ではなく、玄武の国の者を仲間にしているという話が広まり、万が一のチャンスにかけてわざわざこの町までやって来たのだ。


 彼らの目は一様にギラついている。

 当然だ、何しろこれから始まるのは勇者の供を決める催し。

 勇者の供として認められる事。

 それは歴史に名を残し、世界中から賞賛される事を意味している。

 特にロックもアナも勇者としての活動には前向きだという話が効いているのだろう。

 火の勇者や水の勇者の様に、活躍どころか活動しないという危険性が無いので、安心して参加しているのである。



 「え~何か嫌だな~」

 「誰も彼も目がギラギラし過ぎですよ」

 「良いことじゃないか。やる気があるって事なんだから」

 「ナイトは前向きに捉え過ぎ! 見てよ、さっきからあたしやアナを気持ち悪い目で見て来る男の多いこと多いこと」

 「男なら仕方ないさ。女性を選べば問題ないだろ」

 「甘いよナイト。女の敵は女だって知らないの? 女同士で腹を割って話せる相手って本当に少ないんだよ?」

 「いやそんなドロドロした話をされてもな……」

 「その女性達は皆さん揃ってロック王子の顔ばかり見てるんですけどね」

 「アイツはモテるからなぁ」

 「勇者で王子ですからね。でも明らかにロック王子の嫁狙いじゃ困りますよ」

 「そっちはそっちで男を選べば良いだろうが」

 「ああ見えてロック王子は結構面倒臭いんですよ。誰を選んでも失敗しそうなんですが」

 「そこをどうにかするのがお前の役目だろうが」



 そんな事を話している間にいつの間にか選別が開始される時間となった。

 笛が吹かれて鐘が鳴らされ、詰めかけていた一般市民や集まった勇者の仲間志願の人達は皆揃って押し黙る。

 そのタイミングで、ステージ上から拡声器の魔道具(要するにマイクである)を使って『勇者の供の選別の日』の開始を告げるアナウンスが流れた。



 ウオオオオオオォォォォォォ!!!!



 途端にステージの下に集まった民衆から物凄い大歓声が響き渡った。

 彼らは興奮しているのだ。

 これから始まる新しい勇者の伝説に。

 そしてその伝説に記される新たな歴史上の人物の登場に。



 しばらく歓声は止むことはなかった。

 しかしいつまでも続くと思われた大歓声も、ステージの上に1人の偉丈夫が現れると、途端にピタリと停止した。

 彼は玄武の国において式典の際に使われる銀色に磨かれた鎧を着込んでいた。

 その体躯は大きく、その腕も足も丸太の様に太く鍛え抜かれている。

 その眼差しは鋭く周囲を睥睨し、逆らえば一撃の下に葬られるような圧迫感を与えている。

 しかし俺は知っている。

 その男は家では妻に頭が上がらない頼れるお父さんだということを。


 その男の名前はハロルド=ロックウェル。

 俺の父親であり、そしてこの8年間、いやその前からずっと勇者であるロックを鍛え続けてきたこの国の将軍だ。


 父さんは周囲を睥睨し、マイクを手に持ち、静かに語り始めた。


 「諸君、ここにこうして集まってくれたこと誠に感謝している。

  明日、この国の王子にして土の勇者であるロック王子が18歳の誕生日を迎える。

  即ち明日になれば、土の勇者であるロック王子も、闇の勇者であるダイアナ様も、勇者としてこの町を旅立つことになるのだ。

  私は現在この国の将軍の1人に任ぜられている。

  しかしその前から、この国における最強の兵士として、ロック王子の戦闘訓練を私は任されてきた。

  王子は本来、戦闘行為を余り好まない御方だ。

  諸君も噂で聞き及んでいるだろうが、10有るスキルの内容は決して戦闘寄りではない。

  だがそれでもロック王子は勇者としての義務を放棄したりはしない。

  特にこの8年間、ロック王子は歯を食いしばって訓練の日々に耐え忍んできた。

  それもこれも明日から始まる勇者としての冒険の日々の為である。


  勇者としての冒険の日々。

  聞こえは良いが、その内容は決して楽しい事ばかりではない。

  モンスターと戦い、魔族と戦い、道を外れた外道共とも戦い続け無くてはならない。

  剣で切られ、槍で貫かれ、弓で射られ、火で焼かれ、毒を受け、罠を張られ、血を流す。

  同時に敵を殴り、蹴り、切り裂き、貫き、押しつぶし、焼き殺し、毒殺し、罠にかけ、血を浴びる。

  それは正に修羅の日々だ。

  そしてその背に背負うのは1人の人間の運命ではない。

  一つの村の、一つの町の、一つの国の、そして世界の命運を背負って旅をするのが勇者なのだ。


  勿論勇者と言っても義務を放棄する勇者も存在している。

  しかし朱雀の国の光の勇者の様に、

  青龍の国の氷の勇者の様に、

  我が玄武の国の土の勇者と闇の勇者は世界の命運を背負って義務を果たそうとするだろう。

  この場には多くの腕に覚えの有る者達が集まっているように思う。

  だがどうか誰が勇者の供になったとしても、我が国の勇者達と供に修羅の日々を歩んで行って貰いたい。


  勇者の供。

  それは決して勇者と共に旅をするだけの付き人ではない。

  勇者と共に戦い、勇者の背中を守り、悩める勇者の背中を押し、苦しむ勇者を助けることが出来る者でなくてはならない。

  先程ロック王子のスキル構成は戦闘寄りでは無いと説明した。

  しかしそれでもロック王子は強い。

  スキル『勇者』と『王族』の効果は眼を見張るものが有る。

  単純にステータスだけを見れば光の勇者であってもロック王子には勝てないだろう。

  勿論ダイアナ様も相当に強い。

  勇者は『勇者』があるだけで強さが保証されているからだ。

  だがどれだけ強くてもロック王子もダイアナ様も人間だ。

  人間である以上、ステータスが如何に高くても、負けることも、追い詰められる事も、死ぬこともある。

  歴代の勇者達を見てもそれは明らかだ。

  1人の人間としてロック王子とダイアナ様を支え、世界の命運を共に背負う覚悟がある者。

  そういう者に勇者の供として共に旅立って貰いたい。

  私からは以上だ。

  それでは諸君の覚悟に期待する」



 そう言って父さんはステージから身を引いた。

 会場内はドン引きだ。


 勿論彼らだって勇者がただ格好良い英雄ではない事くらい分かっていただろう。

 でもこれから供を選ぶという段階で、そこまで現実を叩き付けなくても良いのではないだろうか。

 いや、だからか?

 父さんは覚悟が必要だと言った。

 つまりこれから先、ロックやアナには覚悟が必要な状況が訪れるという事なのだろうか。

 それとも単に勇者の供を名乗るには、これ程の覚悟が必要だという事なのだろうか。


 分からない。

 分からないが、会場に充満していた浮ついた空気が一気に引き締まった事は理解できる。


 再び司会がマイクを手に取った。

 そして遂に勇者の供を決める催しが開始された。

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