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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
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第三十二話 人になった勇者

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

 あっという間に3年が経過した。

 俺は先日18歳になった。

 スキル授与の儀式を行なってから実に8年の歳月が経過していた。


 俺が18歳になるということ、それはつまりロックもアナも18歳になるという事である。

 18歳になった勇者は世界の為に旅立つことが義務付けられている。

 勿論火の勇者や水の勇者の様に勇者の義務を放棄する事も可能だ。

 可能だがロックもアナもそんな事はしないだろう。

 あの2人は土の勇者と闇の勇者として世界に対する義務を果たすつもりだ。

 そして当然だがあの2人に付いて行く形でエルとライも旅立つ。

 具体的に言うと一月後にロックは誕生日を迎える。

 そしてその日に『勇者の旅立ちの儀式』を行い、ロックとアナは勇者としてこの町を旅立つのだ。


 ちなみに俺とロックとアナは同い年だが、アナが一番先に生まれており、一月遅れて俺が生まれ、更に一月遅れてロックが生まれている。

 だから既に一月前にアナは18歳になっているのだが、ロックと同じ日に二人まとめて旅立ちの儀式を行う事になっていた。

 俺はこの町の町長としてここ最近はその準備に追われている。



 そう、俺は3年前に町長に正式に任命されてから今日までずっと町長であり続けている。

 最初は文字通り右も左も分からなかったが、役所の職員達や町の重鎮達、更には城の官僚たちまでもが揃って未熟な俺を助けてくれたのだ。

 結果として俺は今ではタートルの町の名物町長として人気を博し、吟遊詩人の歌に歌われ、劇作家の手によって物語の主人公として描かれている。

 内容はズバリ『ハズレ者の成り上がりの物語』だ。

 大きなお世話である。


 この世界、スキルの数が少ない人はそれなりにいる。


 スキルの数とはとても重要だ。

 これまでこの世界ではスキル授与の儀式において、どのようなスキルをどれだけ手に入れられるかで後の人生が決まると考えられてきた。

 だが俺のスキルに頼らない生き方は、スキルの少ない人達にとって福音となっているのだそうだ。

 俺から見ればこの世界の人々は頭が硬すぎるとしか思えないのだが、遥か昔から根付いてきた習慣とはそういった物なのだろう。


 ちなみに当人の俺としては最近スキルが欲しくてたまらないのだが。

 一月後には幼馴染達と弟が危険な旅に旅立つのだ。

 一度は諦めた筈であったが、やはり旅立ちが近くなると再びスキルが欲しくなってしまうのであった。



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 そう言えば俺の店で働いていたもう一人の弟にして氷の勇者であるサムはもうここには居ない。

 あいつは1年前に氷の勇者としての旅に出発したのだ。

 本来なら18歳になってから旅立つ予定であったが、3年も前倒しして若干15歳にして勇者の旅に出発することとなってしまった。

 その理由は青龍の国ののっぴきならない事情に拠るものであった。



 「氷の勇者であるサム様、どうか我が青龍の国へとお帰り願いたい」


 そんな事を言う使者が俺の店を訪れたのは今から2年前の夏であった。

 この頃、世間では白虎の国で『発見』された風の勇者と雷の勇者の話で持ちきりだった。

 白虎の国は世界で唯一、勇者の居ない国として有名な国であった。

 それが一気に二人の勇者を発見し、勇者保有国の仲間入りを果たしたのだ。

 この二人は捨て子であり、モンスターに育てられたという野生児であったが、これからの教育次第では立派な勇者へと成長する可能性もある。

 そうなると世界で唯一青龍の国だけが勇者が活動していない国になってしまう危険性がある。


 水の勇者見限られ、氷の勇者に逃げられた青龍の国の上層部は、ようやく重い腰を上げる事となったのだ。


 そして自国の図書館で長い間引きこもっている水の勇者の説得と並行して、生まれ故郷の玄武の国で生活をしている氷の勇者であるサムへの説得活動を開始したのである。


 とは言えそれは簡単なことではない。

 何しろ青龍の国では勇者は信仰の対象にされていたのだ。

 しかも活躍している間は持てはやすが、失敗でもしようものなら手の平を返して排除しに掛かる危険思想だ。

 そもそもサムがここに居る理由は、元からいた従者達に見捨てられたのが原因だ。

 だからサムは最初青龍の国へ戻ることを拒否していた。


 「何度来ても同じことだ。俺様は青龍の国へ戻るつもりはないぞ」

 「そこを曲げてお願い申し上げます。我が国もう長い間勇者の活躍が確認できておらず、モンスターの被害は増える一方です。ここは氷の勇者であるサム様にお縋りする以外方法がありません」

 「嘘だな、俺様は知っているぞ。青龍の国の兵士やモンスターハンター達は強者揃いと評判じゃないか。そもそも勇者が居なくて国が潰れるというのなら、とうの昔に潰れているだろう。今まで何だかんだで大丈夫だったのだ。これからも大丈夫さ」

 「そんな! 仮にも神ともあろうお方が我が国を見捨てると!?」

 「俺様は神じゃない! 勇者に選ばれただけの普通の人間だ。勇者として働いて欲しいのならまずその神扱いを止めるんだな」


 話し合いは平行線を辿っていた。

 神として国を救ってくれと懇願する青龍の国の使者。

 そしてこの国で過ごした4年の間に自分が神ではなく普通の人間であると自覚したサム。

 会話は噛み合うことはなく、結果としてサムの氷の勇者への復帰は無いように思われた。


 だが青龍の国の上層部は、思いの外本腰を上げて勇者獲得に乗り出してきたのだ。

 何と今まで築き上げてきた『勇者=神』説を撤廃し、勇者からの自立を国是として提唱してきたのだ。

 そもそもこの勇者は神である説を表明したのは青龍の国の上層部であったのに、酷い手の平返しである。

 どうやら勇者不在という状況は、思っていた以上に青龍の国を切羽詰った状況に陥らせているらしい。


 これは当初国内で猛反発が起こったそうだ。

 当たり前だ、今まで信仰していた宗教の鞍替えを強制的に命じられたのだから、反発するに決まっている。

 しかし反発していたのは町や村の住民達ばかりで、現場の兵士やモンスターハンター、そして国の貴族連中は揃って簡単に鞍替えに同意したという。

 彼らは知っていたからだ、勇者はあくまでも勇者でしかなく、神では無いということを。

 彼らはただ、国の運営に有益だからという理由で勇者を神扱いしていただけだったのだ。


 結局青龍の国の上層部は自国民に対して他の3カ国が眉をひそめる程の弾圧を行い、国内に存在する大多数の勇者を神扱いする人々を一掃してしまった。

 そして改めてサムの元へと氷の勇者としての活躍を求める使者が訪れた。

 ちなみに前回とは違う男性であった。

 話を聞くところによると、前回の使者は鞍替えに同意せず、刑務所行きになったという事だ。

 恐ろしい国である。


 

 「さぁ、サム殿。我が国の勇者を神と崇めていた馬鹿どもは一掃致しました。我が国の国益を守るため、是非とも勇者としての活躍を期待致します」

 「……済まない、少し待って貰っても良いか?」

 「勿論です。幾らでも待ちましょう」


 使者の余りの変わりようにサムは困惑気味だ。

 当然である。

 『サム様』と呼んでいたのに『サム殿』と呼ばれ、

 『神』として扱っていたのに『神と崇めていた馬鹿ども』と罵り、

 我が国の国益を守るために戦ってくれとストレートに要請されたのだ。


 『勇者とは世界の為に戦う者である』という建前すらも通り越して本音だけで説得に来るとは正直思っても見なかった。

 青龍の国とは勇者を信仰するやばい国というイメージであったが、その本質は国を維持する為には手段を選ばない危険な国だったという事か。

 この場に立ち会っている俺達も引く程の変わり様である。


 「あ~そのな、俺様を人として扱ってくれるのは大変ありがたいのだが、如何せん今までの青龍の国の印象が悪すぎてな」

 「だから我が国のためには戦いたくないと?」

 「まぁ有り体に言えばそういう事だ。そもそも俺様はまだ14歳だ。勇者の旅とは18歳から始めるものだろう?」

 「それは違いますな。勇者が18歳になったら旅立つというのはいわば古くからの習慣に過ぎません。もっと早くから旅立つ者もおりますし、突発的な事態に巻き込まれて早くから戦いに明け暮れる者もおります。若くして勇者として立ち上がることは決しておかしな事ではないのですよ」



 青龍の国の使者はここぞとばかりに畳み掛けてくる。

 しかしサムは首を縦に振らない。

 青龍の国に対する信用度が限りなく低いからだ。

 これは今回も物別れに終わるかなと思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。




 「ではこういうのはどうでしょう? 『我が国のために戦う必要はありませんので、勇者として活躍して戴きたい』というのは」

 「は? どういう事だ?」

 「そのままの意味ですよ。我が国に入国する必要はありません。我が国のモンスターを退治する必要はありません。我が国の中で魔族と戦う必要もありません。その代わり勇者として活躍して戴きたいのです」

 「……いやいや、それはありなのか? というかそんな事をしてそちらにどんな得があるのだ?」

 「勿論得は御座います。『我が国の勇者が他国の問題を解決して回っている』と声を大にして表明することが出来ます。正直に申しましょう、重要なのは勇者が国内に居ることでは無く、『我が国所属の勇者が活躍している』という状況なのです。活躍の場は敢えて問いません。とにかくサム殿には氷の勇者として活動を開始して戴きたい。それだけで我が国の立場は良くなるのですから」



 幾らなんでもぶっちゃけ過ぎだろう!

 青龍の国の使者の顔を俺はマジマジと見つめてしまった。

 こいつは要するに『国内問題はこちらだけで何とかするから勇者が活動してるという事実だけが欲しい』と宣言したのだ。

 つい先日まで勇者を神扱いしていた国とはとても思えない。

 勇者を完全に外交手段の1つ位にしか考えていないのだ。


 だが確かに有効な手であるとも言える。

 何しろサムにとって鬼門である青龍の国の中に入る必要が無いというのが大きい。

 玄武・白虎・朱雀の国の中でも勇者を必要としている場所は沢山ある。

 そこで活動していれば文句は言わないという話なのだから。



 「更に今ならば勇者への活動助成としてこの薬もご提供出来ますよ」


 怪しげな通信販売のような口上で使者の彼は一本の瓶をテーブルの上に置く。

 それは一目で高級と分かる瓶に詰められた薬品だった。

 虹色に輝くそれはまさしく伝説のエクスポーションにも似て……

 

 「なっ! これはまさかエクスポーション? 本物か!?」

 「ほほう、流石は天才薬師と謳われるサム殿の兄上殿ですな。一目で看破致しますか」


 俺は目の前の薬品に目が釘付けになった。

 エクスポーション、それは世界中に散らばる薬師達の夢の1つ。

 あらゆる病気を治すと言われる『万能薬』と並び称される伝説の薬。

 あらゆる怪我を治すと言われている霊薬だ。

 だが、レシピは何処にも存在せず、作り手も居なくなった筈だったが?


 「ご承知の通りこれはエクスポーション、本物です。あらゆる怪我を回復させる幻の霊薬と呼ばれている代物ですな」

 「やはりそうですか! でも何故ここにあるのですか?」

 「何故これを私が持っているかと言えば、このエクスポーションを作ることが出来た最後の作り手が先代の水の勇者だったからに他なりません」

 「先代の水の勇者? つまり青龍の国にはエクスポーションの在庫がまだあるという事ですか?」

 「仰る通りです。数は少ないですが、我が国の宝物庫にはエクスポーションの在庫が眠っております」


 それが本当なら物凄いことだ。

 エクスポーションはポーション系の最上位と呼ばれる特別なポーションである。

 失った四肢ですら回復させると言われるその回復力は他を圧倒しており、これを超える薬は伝説どころか神話クラスの神の霊薬『エリクサー』のみだと言われている。

 これを使えばあらゆる怪我を立ち所に直すことが可能だ。

 その価値は金額ではとても換算できないだろう。

 そこまで考えて気がついた。

 青龍の国は『あいつ』の状態を知っている。

 この使者はサムの勇者への復帰のためにエクスポーションを持って来たのだ。


 「さてサム殿、確か貴方にはこの玄武の国で出来たお友達が1人いらっしゃいましたね」

 「ああ」

 「そしてそのお友達は、何でも兵士としての仕事の最中に大怪我を負い、今も生死の境を彷徨っているとか」

 「ああ……」

 「この国にも優秀な薬師はいらっしゃいますし、回復呪文の使い手も揃っているとお聞きしています。しかしこと回復に関しましては、水の勇者のお膝元である我が青龍の国が一歩先を行っております」

 「そうだな」

 「そこでどうでしょう? このエクスポーションをお1つお分け致しますので、我が国の勇者として活動を開始して頂けないでしょうか。勿論お金の請求など致しませんよ? 我が国が我が国の勇者に援助をするなど当然の事ですからね」

 「……そうか」

 「ああでも、なるべく早くに活動を開始して頂けると助かります。何しろエクスポーションの在庫には限りが御座いまして、次に何かしらの災害が国内で起こった場合にはそちらに優先して対処しなければなりませんのでね」



 サムは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 彼の言った通り、現在サムの友達のキングは、生死の境を彷徨う程の重症を負って闇の神殿の治療院に入院しているのだ。

 その怪我は極めて重く、俺の作るポーションや、ナインの作るハイポーションではとても治すことが出来ない程だ。


 こいつはサムの初めての友達の命と氷の勇者としての活動を天秤かけ、サムを強制的に勇者として働かせようとしているのである。


 そしてこれは極めて魅力的な提案でもある。

 現状玄武の国の中で、エクスポーションを始めとしたキングの怪我を治す薬は手に入れることは出来ない。

 回復魔法も同様だ。

 この国の回復魔法の使い手ではキングの怪我を完治させることは出来ないのだ。


 だがこの条件を飲めばキングは助かる。

 助かるのだが、代わりにサムは氷の勇者としての活動を開始しなければならない。

 親友の命を助けて貰っておいて、何もしない訳にはいかないからだ。

 青龍の国を嫌っているサムからすればそれは苦虫を噛み潰すような行為だ。

 だが所詮は苦虫を噛み潰す程度でしか無い。

 そんな物と友の命では比べ物にならないからである。


 「分かったその条件を飲もう」

 「おお! 本当ですか! では早速勇者と共に世界を旅する従者を我が国より呼び寄せましょう」

 「いや、その必要はない」

 「どういう事です? まさかお1人で勇者の旅に出発するつもりなのですか?」

 「流石にそんな事はしない。俺様が勇者として旅に出る際に、供として一緒に旅をする相手はこの国で既に選んであるだけだ」

 「なっ! しかし氷の勇者の従者が青龍の国の者でないというのは……」

 「それを言ったらこの年齢で旅に出ること自体が問題だろう。お前が出した条件は『可能な限り早く勇者としての活動を開始すること』だけだ。従者に関しての縛りは無いのだから俺様の選んだ相手に決めさせて貰う」

 「くっ……分かりました。それで出発は何時になるのですか?」

 「1人はすぐにでも旅立てるのだがな、もう1人は回復待ちだ」

 「何ですと?」

 「俺様の勇者としての旅に付いて来る供の1人はな、この薬で復活する予定のキングの奴だからだよ」



 そうしてサムは青龍の国の氷の勇者として活動することを承諾し、キングの怪我を治癒し、戦闘に支障がない程に回復してからこの町を旅立っていった。

 エクスポーションの回復力はまさに伝説の名にふさわしい物ではあったが、幾ら怪我が治ったとは言え、長期間の入院は患者の体力を奪い、筋力も低下する。

 怪我が完治したキングはすぐには動けず、リハビリが必要だったのだ。


 14歳だったサムとキングはその頃には15歳となり、2人の戦闘教官であり2人に一番信頼されていたエースを引き連れて三人で勇者の旅へと旅立って行った。



 それから1年、我が弟である氷の勇者は4カ国の国境近辺を主な活動拠点とし、中々の成果を上げていると聞く。

 そんなサムから先日送られて来た手紙には、こんな事が記してあった。


 「あの日、兄さんに倒されて本当に良かったです」と。


 俺の弟である氷の勇者サムは5年掛けて神から人へと無事に戻ってくれた様だ。

 俺は氷の勇者をしているもう1人の弟、サムの活躍を祈るのであった。

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