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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
32/173

第三十一話 町長適性検査

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

 玄武の国の王城『亀岩城』

 ここに来るのも随分と久し振りだ。

 ……という訳でも無い。


 本来なら屋敷を出た時点で普通なら城とは縁が切れる所だ。

 しかし俺はサムに会うため国境に出向いて以降、ちょくちょくここを訪れていた。

 理由はロックに会うためである。

 奴の健全な育成とやらのために、月一位のペースで城を訪れ、幼馴染と遊んで帰るのだ。

 最近ではロックに回収したマジックアイテムを渡す為に訪れる事が多い。

 ロックは本格的な勇者としての修行を始めてから既に5年が経過している。

 細長かった体も最近では筋肉が付いて来ており、段々と勇者らしい外見に変わって来ていた。

 最近では、俺が回収したマジックアイテムを使いこなすために、四苦八苦しているとの事だ。

 有効な物、そうで無い物、色々気にせず回収しまくっていたが、何個かは気に入った物があったようである。


 俺はロゼと一緒に亀岩城の城門前で待機している。

 昨日店を訪れた使者がここで待っていてくれと言っていたからだ。

 呼ばれたのは俺だけなのでロゼは来る必要は無かったのだが、「久々に実家に顔を出したい」との事で付いて来たのである。


 俺達が到着したと同時に門番が中に知らせに向かっているので、間もなく迎えが来るだろう。

 その間俺達は門番の1人と会話をしていた。

 俺達は結構頻繁に城を訪れているのですっかり顔なじみだ。

 彼は俺がまたマジックアイテムをロックに渡しに来たのだと考えているらしい。

 だが、今日は違う。

 俺はタートルの町の町長に指名され、その適性検査を受けに来たのである。



 しばらくすると扉が開き、迎えが来たとの報告が上がった。

 俺達は扉の中に入って、迎えの人物と挨拶を交わそうとした。

 迎えの人物はこの国の王子であり勇者であるロック本人であった。


 「っておい! 王子様が直々にお出迎えかよ!」

 「久し振りねロック、また少し大きくなったかしら?」

 「ご無沙汰しております姉上。ナイトも久し振り……という感じはしないな。前に会ったのは一月前だったか」

 「ああ、そうだな。この前『疾風の靴』を渡しに訪れて以来だ」

 「あれは当たりだったな。最近近衛達の間であの靴で走り回るのが流行っているぞ」

 「言っておくが遊ばせるために渡したつもりはないぞ」

 「勿論だ。しかし急にマジックアイテムが増加した現状、全員が一通り使いこなせるようになっておいた方が、もしもの時に役に立つからな」

 「なら良いさ。渡した後の運用にまで口を挟むつもりは無いからな」



 マジックアイテムの優先使用権は当然の事ながら勇者に存在する。

 そして余ったマジックアイテムは国を守る兵士達に渡され有効活用される。

 勇者の戦闘スタイルに合わないアイテムだとしても、他に有効活用出来る人物が居れば、そういった相手にマジックアイテムは貸与されるのだ。

 その方が国の為に役立つからだ。


 「それでどうして今回はお前が直々にお出迎えに来たんだ?」

 「おかしいか? 親友がこの町のトップに立とうとしているんだ。いの一番に祝いたいじゃないか」

 「この町のトップは国王陛下だろうが」

 「父上はこの『国』のトップだ。『町』のトップはやはり町長だよ」

 「そんなもんかねぇ」


 俺達は話しながら亀岩城の入場口である舌の階段を登って行く。

 そして城の中に入り謁見の間へと向かって行く。

 途中ですれ違う人達は皆揃って頭を下げる。

 当然だ、この国の王子であり勇者でもあるロックとその姉のロゼが居るのだから。

 しかし今日に限っては何故か俺に対して熱い視線を向けてくる者も居た。

 不思議がっている俺を見て、ロックが説明をしてくれた。


 「どうした変な顔をして。何か問題でもあったか?」

 「いや、城の中の人達の俺に対する態度がいつもと違うなと思ってな」

 「それはそうだろうさ。何しろお前はこの町の新しい町長になる訳だからな。一都市のトップの座に就く人間に敬意を払うのは当然の事だ」

 「まだ本決まりじゃないだろう」

 「本決まりでなくとも、ほぼ決まりだ。適性検査は殆ど建前みたいな物だからな」

 「そういや適性検査って具体的に何をするんだ?」

 「特にこれといったことは無い。父上と会話をして『この人物ならば首都を任しても良い』と思わせれば良いのだ」

 「駄目かもしれないじゃないか」

 「お前が駄目ならこの町に住んでいる全ての住民が駄目だろうさ。

  自信を持て、お前は絶対に良い町長になれる筈だ」

 「そう言われてもな、昨日指名された時点で寝耳に水だった訳なんだが」

 「お前はそれだけ町の住民達の信頼を得て来たという事だろう。っともう着いたか。入るぞ」

 「あいよ」「良いわよ」


 そう言って俺達は謁見の間へと入って行った。

 中には国王陛下に父さん、そしてガイアク大臣を含めた玄武の国の中枢で働くほぼ全ての重要人物達が勢揃いしていた。

 ロックは俺とロゼを引き連れて彼らの元へと向かって行く。

 俺とロゼはいつもの様に少し手前で立ち止まり、膝をついて臣下の礼をした後に挨拶を交わした。


 「お久し振りでございます国王陛下。ナイト=ロックウェル、お呼びに従い参上致しました」

 「同じくロゼッタ=A=タートル、参上致しました。ちなみに私の要件はただ実家に帰って来ただけです」

 「うむ、苦しゅうない面を上げよ。それとロゼッタ、お主はワザワザ礼を取る必要はないと何度言えば分かるのじゃ」

 「そうは言いましても私は城を出た身ですから。人前では最低限の礼は取るべきかと」

 「元気になってくれたのは喜ばしいがな、他人行儀になってしまい父は少し寂しいぞ」

 「まぁまぁ父上、姉上なりの線引なのでしょう」



 目の前では何時もの漫才が繰り広げられている。

 ロゼは城に帰るとまず最初にこの様な挨拶を交わして場を和ましているのである。

 ロゼなりに実家との距離を計っているのかもしれない。

 『自分はあくまでも、もうこの城を出た身なのだ』と宣言しているのだろう。


 そして俺である。

 国王陛下との謁見と言えば普通なら人生の一大イベントである。

 しかし俺にとっては子供の頃からこの城へは通い詰めていたせいもあり、正直何時もの事でしかない。

 しかし今日は違う。

 今日は初めての町長の適性検査であるからだ。


 「さてナイト、本日お主を呼び出した理由は分かっておるな?」

 「はい。町長になるに当たっての適性検査です」

 「そういうことじゃ。それにしても齢15にして町長に指名されるとはな……正直言って驚いておるぞ」

 「私にとっても寝耳に水の出来事でございました」

 「とは言え、それ程肩肘貼らんでも良い。この町の町長は他の町とは違いそれ程権限も無ければ背負う義務も責任も無いからな」

 「それでも町長ですからね。身が引き締まる思いでございます」

 「ふむ、お主が町長になったらこの町をどんな町にしたいと考えておるのじゃ?」

 「そうですね、まずは『学校』を作ろうと考えております」

 「学校とな?」

 「はい。孤児院に於いて私は子供達に読み書き計算とこの国の歴史を教えております。それをもっと多くの住民に開放したいと考えているのです」

 「ほほう、面白いことを考えるのぅ」


 国王陛下は俺の提案に乗り気のようだ。

 この世界、未だに義務教育は存在せず、生まれついた家柄で受けられる教育水準が変わるのが当たり前だ。

 俺はその常識にメスを入れるつもりであった。


 「はん! くだらんな、下々の者達が教育を受けた所で一体何になるというのか!」


 だからこういう意見が出てくるのは予想通りだ。

 俺は反対意見を述べた貴族に教育を開くメリットを説明した。


 「そうですねぇ、『何になるのか』という質問には『何にでもなれるようになります』と答えましょうか」

 「何にでもなれるようになる?」

 「はい。実際孤児院を卒業した子供達は、それぞれ本人の希望する職場での修行が認められております。

  やりたくない仕事に就くよりも、やる気のある仕事に就く方が生産効率も上がり、経済も活性化します。

  そうすれば税収も上がるでしょう。

  子供達は未来が広がり、国としては税収が上がる。

  やらない理由は無いように思えますがね」

 「そんな簡単に税収が上がってたまるか!」

 「貴様は国の財源にまで口を出そうというのか!」


 王弟派の貴族達が足並み揃えて俺に文句をつけて来る。

 俺は彼らに対して毅然とした態度で意見を述べたのだった。


 「そんなつもりは毛頭ありません。

  今のはあくまでも『上手く行った時に起こる可能性』の1つです。

  そして例え失敗したとしても今と対して変わらない訳ですから、やって見る価値はあると思いますがね」

 「随分簡単に言うではないか、しかしお若い町長殿には分からないかも知れないがな、何をするにも金が掛かるものなのだぞ?」

 「そうだ! 住民全てに開かれた学び場なぞ、一体どれだけの金額が掛かるのか想像も出来ん!

  魔王軍の動きが活発になっている昨今、そんな余計な金は我が国には無いのだ!」

 「ご心配には及びません。実は前々から孤児院と学び場を分けた方が良いのではないかと考えておりましたので、大まかな計画は既に出来ているのです。

  その際、国からの援助は必要ありません。

  タートルの町の財源のみで設立から運営まで可能な計画となっております」

 「なっ!?」

 「なん……だと……」


 居並ぶ貴族達が絶句している。

 はて? 何か変なことでも言っただろうか?


 「学校設立に必要な、場所の選定・教師の確保・授業に必要な教材等は全て必要数は確保できております。

  本来なら俺の店の売上を使ってやろうと考えていた計画でしたが、一商会が行うよりも町の行政機関主導で行った方が住民達のウケも良いかと思いましてね。

  ちなみにこれが計画書になります。

  急な作成でしたので未だ不十分ですが、形にはなっていると思います。

  確認の後、宜しければ学校設立の許可を認めて下さる様、お願い申し上げます」


 そう言って俺は国王陛下に夜なべして作った学校設立の計画書を手渡す。

 まぁ夜なべしたと言っても、元々作ってあった計画書を清書して見栄えの良い表紙を着けたくらいだ。

 国王陛下は黙って受け取り、黙々とそれを読み始めた。

 しばらく謁見の間には紙をめくる音だけが響く。

 そして最後まで読み終えた後、陛下は「詳細は後で通達する」と言い、俺は退出を許可された。


 そして俺は城に来たついでにロックやエルと食事をしてから自分の店へと帰って行った。

 そして帰ってから、結局町長の適性検査の結果を聞いていなかったと思い出したのだった。

 ――まぁ良いか、学校設立の可否と共に連絡が来るだろう。

 俺はそう考えて、翌日には通常業務へと戻った。


 俺の町長就任と学校設立の許可が出たのは、その1週間後であった。


-----------------------------------


--sideロリコーン--


 化物だ。

 目の前に居る少年は少年の皮を被った化物に違いない。


 玄武の国の謁見の間。

 この私、ロリコーン伯爵家3代目当主であるトライ=ロリコーンは心の底からそう思っていた。


 私は彼のことが嫌いであった。

 彼に何か非があった訳ではない。

 私が一方的に嫌っているだけだ。

 私が彼を嫌っている理由。

 それは彼がロゼッタ王女の心を奪ったからに他ならない。



 私は昔から伯爵家の跡取りとして早くパートナーを見つけて世継ぎを作れと急かされていた。

 故に私は昔から何度も何度も見合いをし、パーティーに出席し、数々の女性達とお近づきになってきた。

 しかし私はどのようの女性と出会っても全く心が動かなかったのだ。


 よもや私は男色なのではないか?

 そう考えて眠れぬ夜を過ごした事もある。

 しかしそんな時に理想とする女性に出会ったのである。

 それがこの国の王女、ロゼッタ=A=タートル様だったのだ。



 あの可憐な姿、いつまでの成長しない完璧な体、そしてそれに苦悩する悩ましげな横顔。

 完璧だ。

 私の理想とする女性像がそこにあった。

 丁度上手い具合に彼女の回りには男性の姿はなく、ライバルは見当たらない。

 例え相手が王族であり、自分が伯爵であろうとも、この状況ならば彼女を我が妻にすることが出来る。

 私はそう考えていた。

 実際それはそれ程的外れな考えでも無かったのだ。

 ロゼッタ姫のお心がナイト=ロックウェルという少年に奪われさえしなければ。



 軍の副将軍にして国王陛下の親友でもあるハロルド殿に出来の良い息子が居るという噂は聞いていた。

 彼はロック王子とも幼馴染であり、いずれは勇者の供として共に旅に出るのだという話であった。

 しかし彼はスキルが1つしか授かれず、当然の事ながら魔族襲撃の際にも役立たずであったという。

 それなのに彼はロゼッタ王女の心を掴み、気がつけば婚約者の席に収まっていたのだ。

 彼は何と齢10歳にして、ロゼッタ王女と同棲し、同じ職場で働いているという。


 許せないことだ。

 それはとても許せないことだ。

 そもそも彼はエリザベータ嬢の婚約者だった筈なのに、どうしてロゼッタ王女まで奪って行くのか。

 我が嫁になるべき可憐な少女の心を奪い去った憎き相手。

 だから私はナイト=ロックウェルという男を嫌っているのだ。



 ロリコーン伯爵家3代目当主、トライ=ロリコーン。

 彼は自覚なきロリコン伯爵であり、ナイトの事を勝手に嫌い続けていた。



 しかし一方的に嫌っている彼からしても目の前の計画書には驚嘆せざるを得なかった。

 彼の手にある一冊の計画書。

 これは新町長としてタートルの町の住民達に指名されたナイト=ロックウェルが持ち込んだ学校設立に関する計画書だ。


 まず初めに国王陛下に渡されたその分厚い計画書は、大臣の手に渡り、官僚の手に渡り、そして今はロリコーン伯爵の元に存在していた。

 そこには孤児院で行われている子供達への勉学の場をタートルの町の全住民へ開放するための手段が事細かに記してあった。


 学校設立に必要な、場所の選定・教師の確保・授業に必要な教材等の確保は元より、元々は彼の商会のみで行おうとしていたために、生徒数の集まり具合別の収支計算まで完璧に揃えられていた。

 完璧だ。

 完璧な計画書だ。

 

 数枚の紙に適当な数字を載せて許可を貰っている我が国の専門部署の計画書とは比べるべくもない。

 しかも彼はこの計画書は『未だ不十分ですが』と言っていた。

 つまりこの計画書は完成版では無いのだ。

 完成版ではないのにこの完成度、正直完成版を見るのが怖いくらいである。


 ロリコーン伯爵は一通り計画書を読んだ後、隣の席に計画書を渡した。

 そして横からは唸るような声が聞こえてくる。

 考えるまでもない、私と同じ気持ちなのだろう。

 これを若干15歳の少年が作り上げた。

 私達はこの現実を中々認められないでいたのだった。



 それからしばらくして謁見の間に集められた全ての人間が計画書を読み終えた。

 そのタイミングで陛下は我らにナイト殿の町長就任の可否を問うてきた。

 あんな物を見せられて反対など出来る訳がない。

 我々は一も二もなく賛成した。

 謁見前までなら反対意見を持つ者も多かったかもしれない。

 実際私も反対に回る予定であった。

 しかしこの時点では誰一人反対には回らなかった。

 これ程の計画を練られる者が町長としてどのように腕を振るうのか興味が湧いたのだ。



 「では、ナイト=ロックウェルの町長就任は認めるということで良いな」

 「はっ!」

 「では続いて、学校設立についての案件だが」

 「それも問題ないでしょう。正直我々はナイト殿を未だ過小評価していたのだと考えざるを得ません」

 「やはりそう思うか?」

 「城どころか行政機関で働いた経験も無いのにこれ程完璧な計画書を作り、未だ未完成だと言い切るとは。正直言いまして私は彼に戦慄していますよ」



 ちなみにこの計画書、ナイトが前世の地球で働いていた当時の会社の計画書のフォーマットをほぼ丸パクした物である。

 しかし碌に計画もせずに実行し、その場の判断で当初の予定を変更する事が当たり前のこちらの世界からすれば凄まじく高度な計画書に見えてしまったという訳である。


 結局玄武の国の首脳陣はナイト=ロックウェルを新たな町長として任命した。

 この英断によりタートルの町はさらなる飛躍を遂げる事になる。

 しかしこの時点では、そんな事になるとは誰一人として想像もしていなかったのであった。

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