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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
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第二十九話 マジックアイテムを回収せよ

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

 薬師の修行期間を僅か3年で終え、俺はナイト商会を立ち上げた。

 そしてあっという間に2年が経過した。

 俺は先日15歳になり、ロゼは19歳となった。



 この2年間の出来事を一言で言うのならば『商売無双』と言った所だ。

 ナイト商会は儲かった。

 物凄く儲かったのだ。


 大通りに面しており、しかも薬局のロックウェルの隣という好立地。

 しっかりとした店舗とテキパキと働く従業員達。

 もはや隠すこともないロックウェル家のバックアップ。

 孤児院の子供達も町の兵士達も積極的に商売を手伝ってくれている。



 闇の勇者であるアナと共同で開発した料理は売れに売れた。

 更に店の技術顧問としてエルに協力を要請し、俺の前世の知識をフル稼働させて大量の便利グッズを作成。

 『玄武の国の技術革命』とまで言われる状況を作り出し、街の風景すら様変わりを始めていた。

気がつけば設立して2年しか経っていないというのに、ナイト商会はタートルの町の店の中でも中堅位の地位にまで上り詰めていた。


 ちなみに稼いだ金額だけでいえば、ダントツでトップだ。

 ただ設立して僅か2年ではどうしても信用も歴史も足りないため、中堅呼ばわりされているのである。


 勿論批判がなかった訳ではない。

 商会の店主はまだ10代の若造。

 それなのに名門ロックウェル家の後ろ盾に加えて、幼馴染とは言え、闇の勇者と天才として有名な宮廷魔道士長の娘が協力しているのだ。

 文句の一つも出てくるだろう。

 しかし俺が金の使い方を公表した所、その動きは一気に沈静化した。

 むしろ町の住民達も積極的に応援してくれるようになり、俺の店は更に儲かっていったのだった。


 俺の店は儲かった。

 物凄く儲かったのだ。

 だから俺の店には大量の金が集まった。

 だが俺は決して贅沢はしなかった。

 前世の知識の中にこんな言葉があったからだ。

 曰く『金はどうやって貯めるかよりも、どう使うかが重要である』と。


 俺は必要以上に稼いでしまった金をどう使うか考えた。

 考えた末、俺は世界の為、国の為、そして幼馴染達の為に使おうと決めた。

 そこで俺は何をしたのか?

 散逸したかつての勇者達の持ち物、即ちマジックアイテムの回収を開始したのである。




 この世界の国々は勇者とは切っても切り離せない関係にある。

 故に歴代の勇者達が使っていた武具も国の宝物庫に眠っており、勇者達は旅立ちの際にそれらを持ち出して冒険を開始するものなのだ。

 だが、勇者は強力ではあるが絶対でも無敵でもない。

 旅の途中で力尽きた者、道を誤って邪道に落ちた者、罠にハマって騙された者。

 そういった勇者はとても多く、何の問題も無く冒険を終えた勇者の方が少ない位なのだ。


 そうなると当然勇者が持ち出した武具も消息不明となる。

 それはモンスターの体内から発見されたり、ダンジョンの宝箱の中から発見されたり、裏ルートを通って長い年月を掛けた後、ある日突然発見されたりするのだ。


 火を噴く槍や矢のない弓、強力な術が封じ込められた杖や魔法を跳ね返す盾。

 俗にマジックアイテムとも呼ばれるそれらの武具は巡り巡って貴族の屋敷や、大商人の金庫、犯罪集団のボスの部屋に飾られていたりするのである。


 そう『飾られている』だけだ。

 勇者の手に渡れば世界平和の為に使われるであろう、強力なマジックアイテムではあるが、持ち主が違えばただの部屋の置物でしかない。

 現在の持ち主にも言い分はあるだろう。

 祖先から伝わる由緒正しき物だ、箔をつけるために大金を出して購入した物だなどと。

 だが俺に言わせれば、使われない道具などガラクタと同じだ。

 アイテムとは使われて初めて真価を発揮するのである。

 俺はそれらのマジックアイテムを勇者の手に戻すべきだと考えたのだ。


 ちなみに回収している物は基本的に『マジックアイテムだけ』であり、『魔道具』の回収は行なってはいない。

 マジックアイテムと魔道具の違いは、動力に使用者の魔力を使うか、魔石を使うかの違いが有るが、最大の違いは、人の手で作り出せるか出せないかである。


 人の手で作り出すことが出来る魔道具と違い、マジックアイテムは基本的に人の手では作り出すことが出来ない。

 だから希少性はマジックアイテムの方が高いのだ。

 魔道具はむしろエルが自力で作り出せないかと挑戦中であるので、俺はマジックアイテムの回収に専念していたのだ。


 これが昔のRPGとかなら、勝手に家に踏み込んで部屋の宝箱を荒らし回り、持ち主の許可も取らずに持ち出して使うことも出来たであろう。

 だが現実にそれをしてしまえば、勇者と言えども犯罪者だ。

 犯罪を侵さずに手に入れるにはどうすれば良いのか。

 簡単だ、それらを持ち主から買い取れば良いのである。



 そんな訳で俺は闇の神殿の巫女や玄武の国の兵士に協力を要請し、マジックアイテムを所持している者達をリストアップ。

 ある程度の金額が溜まった後、彼らにマジックアイテムの買い取りを持ちかけた。


 勿論一度で全てが上手く行った訳ではない。

 最初の交渉で売却に同意してくれた持ち主は2割程度であった。

 それも殆どが資金難だったり、マジックアイテムに興味がなかったりした者達ばかりであり、その価値を知っていた者はそう簡単に手放したりはしなかった。

 しかし粘り強く交渉した結果、現時点で持ち主が判明しているマジックアイテムのおよそ4割の回収に成功していた。


 そして俺が散逸したマジックアイテムを集めて回っているという事は、国から直接玄武の国の国民へと大々的に広めて貰っている。

 こうする事で、俺がやっていることが勇者の為になることだとアピールできるし、マジックアイテムを抱えて手放さない者への牽制にもなるからだ。


 実際俺の行動を聞き及んだマジックアイテムの所有者の内何人かは、俺の行動に影響されて俺の店へと直接売却に来たのである。

 更に数人は、俺と同じく勇者へと持っていたマジックアイテムを献上した者もいる。

 こうして俺は儲けの殆どをマジックアイテムの回収に注ぎ込み、王城や闇の神殿の宝物庫を潤しているのであった。


 そうして今日も俺はタートルの町の中でマジックアイテム買い取りの交渉を行っている。

 スムーズに進む時もあれば進まない時もある。

 それが交渉だ。

 そして時にはとんでもない相手と交渉する事もある。

 俺は今、周囲を武装した集団に取り囲まれながら交渉をしていた。




 「さて、そんな訳であんたの持っているその刀を約束通り譲って頂きたい」

 「このガキ、状況が理解できてんのか?」


 ここはタートルの町の中流区の外れ。

 余り裕福でない者達が暮らす地区との境界線に建っている、中々大きな建物の一室。

 俺はそんな場所で、この街の裏の顔役と交渉をしていた。



 眼の前に居るのは鋭い眼光を持つこの街の裏社会のボス。

 通称『ジョーカー』と呼ばれる細く白い男だ。

 彼は既に10年近くこの街の裏側を仕切り続けている伝説の男である。

 過去何処で何をしていたのかは誰も知らない。

 年齢も不明、出身地も不明。

 辛うじて分かるのは男性ということくらいだ。

 何時でも白一色のスーツを着込み、長く伸ばした髪も白一色。

 そして強力な怨念を放つ一振りの刀を所持しているのである。


 その刀こそが今回のターゲット。

 300年前の闇の勇者が朱雀の国の『勇者の迷宮』で失ったと伝わっている『妖刀闇斬』だ。


 彼はこの町に住んでいる人間ならば誰もが知っている有名人だ。

 裏社会のボスと言われ恐れられているが、一度たりとも捕まったことが無いことでも知られている。

 彼自身は特にこれと言った犯罪を犯している訳ではないらしい。

 しかし彼の周りには結果的に犯罪者が集まり、マフィアのようになってしまっている。

 俺は商会を立ち上げて、マジックアイテムの回収を計画した際に彼の元を訪れ、彼が持っている刀の購入を持ちかけていたのだ。


 最初は鼻で笑われてしまったが、言い値で買うと言った所、物凄い額を提示されてしまった。

 しかし俺はその場で契約書を交わし、購入の意思を示すために毎月決まった額を『予約金』として支払って来たのだ。

 そして今回、遂に目標金額まで溜まったので、満を持して引き取りに来たのであった。



 いつもの様に応接室へと通され、いつもの様に雑談を交わし、いつもの様に予約金を頂けると思っていたのだろう。

 俺が購入費用を丸ごと持ってきたと話した途端、ジョーカーの周囲に居た連中が俺に武器を向けて包囲してきたのであった。


 「理解出来ているも何も無いだろう? 交渉をして、金額を決定して、契約も交わした。そして予約金を払い続けていたら、購入費用が溜まったから引き取りに来たんだ。一体何の問題があるというんだ?」

 「ふざけんな! ボスがテメェに刀を渡すわけがねぇだろうが!」

 「いやいや、それはこちらのセリフだ。契約通りの金額を用意したのだから速やかに譲ってくれないと困る」

 「おい、坊主。テメェが幾ら天才とは言え、所詮はスキルが1つだけのハズレ者だ。この人数相手に勝てるとでも思ってんのか?」

 「天才? 何だそんな風に言われてんのか俺は?」

 「あれだけの発明をして、あれだけ儲けて、てめぇ一般人のつもりかよ!」

 「持っているスキルは『一般人』なんだけどなぁ」


 どうやら気がつけば俺は天才呼ばわりされていたらしい。

 まぁ少々やり過ぎたきらいはあるが、まだまだ目標金額には届いていないのだ。

 もっと儲けなければならない。

 そうでないととてもじゃないが、全てのマジックアイテムの回収など出来ないのだから。


 「つーか『ジョーカー』、俺が契約を交わしたのはあんただ。

  あんたは俺との契約を履行するつもりはあるのかい?」

 「てめぇいい加減に……」

 「あるぞ」

 「うえぇ!?」


 周囲に居た取り巻き達がずっこける。

 ジョーカーは持っていた刀をテーブルの上に置く。

 俺も同じ様に持ってきた金をテーブルの上に置く。


 ジョーカーは金を数え始め、俺は刀を鞘から引き抜こうとする。

 しかし抜けない。

 『妖刀闇切』は特定のスキルの保持者でなければ抜くことすら出来ない代物なのだ。


 俺は頷き、部屋の隅へと視線を向ける。

 そこには誰も居ない。

 居ないように見える。

 しかし俺が頷いた瞬間、風景の中から突如人のシルエットが浮かび上がって来た。

 彼女は得意とする闇魔法を使い、風景に溶け込んでいたのだ。


 その瞳は黒く、その髪も同じように黒い。

 15歳にして艶めかしいボディラインを持ち、それをピッチリとした黒服で覆っている。

 そして突如巻き起こる殺気の嵐。

 部屋の中に居たゴロツキ達は身動きの一つも取れなくなる。

 動けているのは俺とジョーカーの2人だけだ。

 彼女はテーブルの側まで歩いてくると刀を持ち上げて、それを鞘から引き抜く。

 その刀は彼女の髪と同じく漆黒に輝き、怪しい雰囲気を周囲に振りまいていた。


 彼女は頷くと刀を持ってその場から消える。

 それと同時に殺気も霧散し、部屋の中で固まっていたゴロツキ達はその場に揃って膝をついた。


 「ハァハァ……なっ何だあの化物は……」

 「化物って失礼な奴だな、自分の国の勇者の顔も知らないのかよ」

 「! あれが闇の勇者か!」

 「そういうこと。刀の真贋は俺じゃあ分からんからな、一緒に来て貰ったんだよ」


 

 『妖刀闇切』

 かつて、歴代の闇の勇者達が愛用していたという伝説の妖刀。

 あの刀の使い手になるために必要なスキルは3つ。

 『暗殺の天才』『闇の加護』『忍者』の3つ。

 それを持っている人物は、この世界広しと言えど、アナと目の前のジョーカーの2人だけだと言われている。


 あの刀を持った闇の勇者は、正に向かう所敵無しだったと伝わっている。

 向かう所敵無しという事は、つまりアナの生存率が格段に向上するという事だ。

 そんな伝説のチートアイテムを手に入れることが出来て大変満足だ。

 俺は礼を述べて帰ろうとした。

 しかしその前にジョーカーが俺に話し掛けて来た。

 


 「一つ聞いていいか少年」

 「良いぜ」

 「貴様は何故稼いだ金を自らの為に使わない?」

 「は?」

 「私が今まで見てきた商人という人種は、皆自らの為に稼ぎ、そして使っていた。

  だが貴様は世界とか国とか勇者とかいう得体の知れない物の為に金を使っている。

  今回もそうだ、私の提示した額は生半可な額ではなかった。

  それなのに貴様は揃えた。

  これだけの金があれば相当な事が出来た筈だ。

  何故それをしないのだ?」


 ジョーカーは心底不思議だという顔をして俺に質問をぶつける。

 だから俺はジョーカーの質問に真正面から答えた。


 「ジョーカー、あんたは勘違いをしているよ」

 「勘違い?」

 「俺は得体の知れない物の為に金を使っているつもりはない。

  勇者の2人は俺の幼馴染だ。

  あいつらが死ぬのは嫌だから俺はあいつらの為にマジックアイテムを集めている。

  そしてそれは結果として国や世界を救うことに繋がっているに過ぎない。

  生半可な額ではない金を使って、あんたの持っていた刀を購入する事は俺にとって『相当な事』に値するのさ。

  安心してくれ、俺は俺の為に金を使っているつもりだ」

 「そうか……貴様はそういう人種か……クッ、クックックッ、クハッハッハッハ!」



 ジョーカーは少し呆然とした後、突然笑いだした。

 そしてひとしきり笑い終えると俺にある提案をして来たのであった。


 「気に入ったよナイト=ロックウェル。どうだ、私と商売をしないか?」

 「商売?」

 「ああ、私の持っているマジックアイテムは先程の刀一本だけだったが、その他のマジックアイテムの情報を調べて貴様に売ってやろう」

 「情報を?」

 「玄武の国の兵士に闇の神殿、そしてロックウェル家。貴様のバックに居る連中は強大だがそれでも絶対ではあるまい。取りこぼしている情報もあるのではないか?」

 「……まぁ正直、所在不明のままのマジックアイテムの方が多いからな」

 「だろうな。そして私には幾つか心当たりがある。その情報を貴様に売ってやろうじゃないか」

 「それは助かるが……どういう風の吹き回しだ?」

 「言っただろう? 気に入ったんだ貴様が。理由はそれだけさ」

 「そうか、では出来るだけ安く頼むよ」

 「クックックッ、面白いなぁ本当に」



 一体何処が琴線に触れたのかは分からないが、俺はジョーカーに気に入られた。

 そうして俺はこの街の裏社会のボスにコネを作り、そしてそのお蔭でマジックアイテム探しははかどって行った。


 マジックアイテムの収集は順調だ。

 このままいけば遠からず殆どのマジックアイテムを回収できるだろうし、それが終われば出費も無くなり、後は金が貯まる一方だ。

 俺はこのままこの街で商人として暮らしていくんだろうな。

 そう考えていた。



 しかし周囲はそれを許さなかった。

 俺は俺が思っているよりも周囲に影響を与えてしまっっていたようだったのだ。

 春が終わり夏が始まる頃。

 俺はこの町の町長に任命されてしまったのである。

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