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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
20/173

第十九話 護衛部隊の隊長『エース』

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

--sideエース--


 私の名前はエース。

 ナイト様とロゼッタ様の護衛部隊の隊長を務めている者だ。

 私は今、お二人と共に兵士の詰め所へと向かっている。


 ナイト様とロゼッタ様が町の薬局で働くようになって既に半年が経過した。

 当初は『一月も持たないのではないか』と言われていた、お二人の薬局での修行は順調に進み、今では店の外での仕事を任されるまでになっている。



 私はハロルド副将軍が率いる部隊の兵士の1人であり、ナイト様の稽古にも参加したことがある者だ。

 そのナイト様が屋敷を出ると聞かされた時は、私を含めて兵士全員が驚いたものだった。

 何しろナイト様はロック王子の幼馴染であり、王子が勇者として活動する時期には共に旅立つお供の1人だと言われていた方だからだ。


 しかしその理由を説明され私達は納得した。

 ナイト様はスキル授与の儀式において、スキルを1つしか授かれなかったらしい。

 確かにそれでは勇者の供は無理だろう。

 どれだけ努力したとて最高レベル10では、とても勇者の仲間は務まらぬからだ。



 ナイト様は屋敷を出て『薬局のロックウェル』というロックウェル家が持つ店の1つで薬師としての修行をするという。

 そして何とロゼッタ王女も同じ店で働く事になったと言う。

 おまけにお二人は婚約し、同じの部屋に住むのだという。

 流石は王族と貴族である、平民とはやることが違う。


 口さがない者達は、これを『ハズレ同士の結婚』だの『面倒なことをまとめて処理した』などと言っている。

 実際玄武の国の上層部において問題視されていたロゼッタ王女の結婚相手を『稀代の天才にして変人』エリザベータ嬢の婚約者に押し付けたと見ることも出来る。

 しかし彼らについて少しでも調べてみれば、ロゼッタ王女とエリザベータ嬢が親友だという事は理解できるし、お二人がナイト様を本気で好いていることも分かるだろう。

 

 ロゼッタ王女は4年前のスキル授与の儀式において大外れスキルである『成長停止』を手に入れてから部屋に篭りきりであったが、今回副将軍が引率した町の外でのモンスター退治に参加して、何やら心境の変化があったらしい。


 当日副将軍が引率した一行は、町の外の森にてレベルアップの為のモンスター退治を行なっていたという。

 そこで一行は、ロック王子の暗殺を企む魔族に遭遇。

 闇の勇者であるダイアナ様ですら大怪我を負う死闘だったそうだが、ハロルド副将軍が魔族の1人を打ち取り、暗殺計画を未然に防いだらしい。


 その際、ロゼッタ王女もお怪我をされたらしいのだが、その際に何かあったという事であろう。

 あの日以来、闇の勇者であるダイアナ様は訓練に熱が入るようになったそうだし、エリザベータ嬢に至ってはエリック宮廷魔道士長が涙を流して喜ぶ程の変わり様を見せているのだという。

 同じ様に魔族と対峙したロゼッタ王女の心にも何かしらの変化が起きても何もおかしな事ではないのだ。



 さてお二人が町の薬局で働くことになった経緯は分かったが、それで終わりとは行かないのが困った所だ。

 何しろ相手は現国王陛下の娘であり、軍の副将軍の息子なのだ。

 この二人が無防備に町をほっつき歩いているだなんて、犯罪者待った無しの状況以外の何物でもない。

 よってお二人には厳重な警護が付くことになった。


 そしてその護衛部隊の隊長に私が抜擢される事が決定したのだ。

 理由は至極簡単である。

 お二人がお住まいになる『薬局のロックウェル』には私の姉であるナインが勤めており、その姉がお二人の指導教官を任される事になったからだ。

 『ならば薬局の外の警護は、弟の私に任せよう』という話になったらしい。

 内と外を姉弟で守らせようというのである。

 些か安直な理由では有るが、責任ある仕事に変わりはない。

 私は謹んでその任務を拝命した。

 

 かくして私は、この国の王女と副将軍の息子の護衛という、重大な任務を任される事になったのである。



 とは言え、当初は暇で仕方がなかった。

 何しろお二人は最初の3ヶ月間は店から一歩も出なかったのである。

 

 お二人が働き始めてからしばらくして、ナイト様がスキルを1つしか授かれなかったという事と、その理由について王宮から正式な発表がなされた。

 何とナイト様はハロルド副将軍と奥様が倒した魔族の呪いに蝕まれ、生まれてすぐに死亡。

 しかしお二人は家宝の『奇跡のネックレス』に復活を祈り、ナイト様は生き返ったらしい。

 しかしその影響で、スキルの数が1つだけとなってしまったそうだ。

 その涙なくしては語れないエピソードは瞬く間に国中を席巻し、世間はナイト様に同情する意見が大勢を占めていった。


 それと同時にナイト様とロゼッタ王女とエリザベータ嬢の婚約も発表された。

 これについても世間の意見は好意的であった。

 エリザベータ嬢の変人具合は国の内外に知れ渡っていたし、ロゼッタ王女の『成長停止』の効果も、それによって引き起こされた現状も同じく知れ渡っていた。

 そしてロゼッタ王女とエリザベータ嬢が親友であることも有名な話であった。

 だからこの二人が同じ男性と婚約することになったと聞いても世間は納得したのだ。

 幼い頃から見ていたナイト様の結婚が世間に認められて正直ホッとしている。



 だが同時にナイト様とロゼッタ王女が『薬局のロックウェル』で働いてることも世間に知れ渡ってしまった。

 住民達の情報収集力は馬鹿にできない物だ。

 あっと言う間に噂は広がり、店の周囲は昼夜問わず野次馬で溢れ返った。

 この人数相手では流石に守りきることは難しい。

 私は護衛の増援を要請したのだが、店の責任者であるジャック殿はもっと強烈な解決策を提示してきた。

 それは『この騒動が落ち着くまではお二人を店から一歩も出さない』という物だった。

 人の噂も七十五日という。

 結局待てど暮らせど姿を見せないお二人に対する興味は段々と薄れていき、3ヶ月経つ頃にはあれだけいた野次馬は影も形も見掛けなくなってしまったのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 3ヶ月後、遂に護衛部隊最初の仕事が開始された。

 我々の仕事はお二人の生活の邪魔をしないように注意しながら、お二人の護衛するというものだ。

 よって我々は変装してお二人の周囲をさり気なく囲みながらお二人と行動を共にしている。

 お二人は今日は町の大通りの散策をすることにしたようだ。

 幼い少年と少女が手を繋ぎながらキョロキョロと歩いているその姿は、大変微笑ましいものである。

 と、そんな事を考えていたら、ナイト様が私に向かって手を振って来た。

 私は慌ててナイト様の視界から消える。

 驚いた、私の変装は完璧だった筈だ。

 現に式典などで私の姿を見ている住民達は私には気づいていない。

 当然ロゼッタ王女もだ。

 ナイト様だけが気づいた。

 そして次々と上がってくる報告。

 どうやらハロルド副将軍の部下だった者達は軒並み変装を見破られたらしい。

 ――私達のような一般兵の顔もちゃんと覚えていて下さったのだ。

 護衛部隊の士気はこの一件で確実に上がったのであった。



 そしてその日の翌日早朝、夜間から早朝の護衛に当たっていた者達から緊急の連絡が届けられた。

 何とお二人が早朝に店を出て、大通りを闊歩しているというのである。

 幾ら大通りとは言え、早朝は人通りも少ない。

 つまり危険だということである。

 私は急いでお二人の元へと向かって行った。


 私は部下に案内されるままに移動を続け、遂には町の裏手に広がる森まで辿り着いた。

 そこで夜間担当の者達と合流し、状況を共有。

 すると『お二人は森の中の道の上で、雑魚モンスター退治をしている』との報告が届けられた。


 「一体何故そのような事を?」

 「ハッ! 恐らくは昨日大扉前でモンスターハンターを見た事が原因ではないかと思われます」

 「モンスターハンター? ……ああ、そう言えばナイト様はモンスターハンターとして活動したいと言っていたな」

 「はい、私もそれを思い出しました。しかしお二人は町の外には出られず、ジャック殿との約束で、大通りからも外れられない。よって、町の中から大通りを通って最終的に町の裏手の森の中の道まで来たのではないかと推察されます」

 「成程な、ちなみに危険は有るか?」

 「いいえ。森の中とは言えここはタートルの町の中にある森ですから、町の中に発生する雑魚モンスターである事に違いはありません。お二人共危なげ無くモンスターを退治し続けております」

 「だろうな。お二人は何だかんだで戦闘訓練を受けていたのだ。雑魚モンスター如きでは傷一つ付かないだろう」

 「如何致しますか? 何でしたらお止めすることも出来ますし、我々が先んじて森の中のモンスターを殲滅しておくことも可能ですが」

 「いや、辞めておこう。お二人は勇者の供としてはもう旅立てぬ身の上なのだ。町の中でのモンスターハンターごっこ位は大目に見るべきだろう」

 「承知致しました」


 私達は森の中から隠れてお二人を眺めている。

 お二人は森の中から現れる雑魚モンスターを楽しげに退治していたのであった。




------------------------------------



 秋になった。


 お二人の仕事は店内での雑用に加えて、買い出しやら御用聞きやらが追加され始めていた。

 この数ヶ月で危険が無いことが分かったので、ジャック殿が大通り以外の場所への移動を許可したのだ。

 お二人はたまに市場まで来ては肉や野菜を購入している。

 そして買い物袋一杯に詰め込んだ荷物も持って店まで歩いて帰るのだ。



 今でこそ普通に買い物が出来ているが、初めて市場を訪れた時は大変だった。

 何しろお城暮らしの箱入り娘と、お屋敷暮らしの箱入り息子だったのだ。

 初めて見るのであろう、料理になる前の野菜を見て感動し、肉にされる前の動物を見て血の気が引いていた。

 その際「アナだって通った道だ」と、ブツブツ呟いていたのを聞いた者が居た。

 どうやら闇の勇者であるダイアナ様が行っていたという、家畜を殺す訓練に付いてお二人は話を聞いていたらしい。


 普通、あれ位の年齢の貴族の子供が初めて家畜が殺される現場を見たら、泣き叫んで取り乱し、しばらく肉が食えなくなる筈だ。

 しかしお二人は、青い顔をしていても決して叫ぶことも取り乱すこともしない。 やはりこの二人は普通の貴族の子供とは違うのだなと感心してしまった。


 しかも最近は段々と慣れてきたのか、肉屋の店主と軽い挨拶を交わしながら買い物をするようにもなった。

 そして店主も当たり前のように大量の荷物をお二人に渡している。


 当初、店主はお二人の買い物に対して懐疑的だった。

 何しろお二人は見た目10歳の子供であり、ナイト様は現実に10歳なのだ。

 そんな子供が大量の荷物など、普通は重くて持ち運べない。

 しかし初めて市場を訪れた時に、ナイト様もロゼッタ王女も当たり前のように大量の荷物を軽々と運んでいた。

 それを見た店主たちは『ステータス系のスキルを上げているのだな』と勘違いし、今では大人と同じ重さの荷物を渡している。

 実際はスキルよりも、物心付いた時から行われてきた訓練の賜物であるのだが。


 初めてその光景を見た一般市民はぎょっとした顔をお二人に向けている。

 あれ位の年齢でレベルを上げている者は稀だ。

 だから基本的に子供は小さな荷物しか持てない。

 しかしお二人は並の市民よりもステータスが上なので楽々と持ち運びができる。

 お二人のこれまでの修行は決して無駄ではなかったのだ。




 そんないつもの光景を見ていた時だ。

 部下の一人から緊急の報告が上がって来た。


 「報告、お二人を付けている者がおります」

 「どんな奴だ?」

 「推定50歳前半、男性、武器は無し、仲間もいません。

  足取りがフラフラしている事から食い詰めた浮浪者ではないかと」

 「そうか……ん、あいつだな。良し、手出し無用。待機せよ」

 「手出し無用? 排除しなくても宜しいのですか?」

 「ハロルド副将軍より『可能ならば実戦経験を積ませてやってくれ』と依頼を受けているのでな」

 「しかし万が一ということも」

 「その時は俺が対処する」

 「了解しました」



 それからしばらくすると、浮浪者はロゼッタ様に向かって突撃を開始した。

 それを見たナイト様はすぐさまロゼッタ様の前に出られ、強烈な蹴りを浮浪者に食らわせていた。

 浮浪者は吹き飛び地面に倒れる。

 しかしナイト様は動かない。

 見ると呆然とした顔をしていた。

 浮浪者の方も同じ顔だ、どうやら何故負けたのかが分かっていないようである。

 そいつは立ち上がり逃げようとしたので、一撃を入れて沈めておく。

 私は念の為にナイト様とロゼッタ様を一瞥するが、やはり怪我一つ無い。

 私はお二人に一礼して、立ち去ろうとした。

 しかしナイト様に引き止められてしまった。

 ナイト様は何故先程の浮浪者を撃退出来たのか分かっていないようだ。

 私は理由を説明し、ナイト様もロゼッタ様も並の人間よりも優れているのだと告げておいた。


 そうして私はお二人の前から姿を消した。

 お二人はそのまま店まで歩き、店内へと入って行く。

 そこで一息つくと、護衛メンバー達が集結し、ナイト様と同じ質問をしてきた。


 「隊長! あの……一体何が起こったのですか?」

 「あのおっさん吹き飛びましたよ!?」

 「ナイト様強いじゃないですか! 何であれで勇者の供失格なのですか?」


 私は呆れて護衛メンバーに状況の説明をする。

 ナイト様はスキルが1つだけとは言え、今まで鍛えてきた分と、レベルアップの影響で、一般市民よりも強いということを。

 勿論ロゼッタ様も同様だと言う事を。

 そして強いと言ってもそれはあくまで一般市民と比較しての話であり、町の外のモンスターや魔族を相手に出来るレベルではない事を。

 私は懇切丁寧に説明したのだった。


 「うわ~勿体無い! これでスキルの数があれば完璧だったじゃないですか!」

 「だからそれが無いのが大問題なのだ。

  お前、並の男が一国の王女を嫁に出来ると思っていたのか?」

 「そういう理由があったんですね。てっきり幼馴染だからと思ってましたよ」

 「いや、理由はそれで合っているんだ」

 「はい?」

 「ロゼッタ様との婚約が決まったのは、ナイト様が幼馴染だからだ。幼馴染として信頼を勝ち取り、勇者の幼馴染として幼い頃から訓練を積まれてきたから今の状況があるのだ。もっとも並の幼馴染ではとても無理ではあっただろうがな」

 「成程、流石は副将軍の息子さんと言った所ですか」

 「そういう事だな」



 それからもお二人はちょくちょく浮浪者や落伍者に襲われては撃退していた。

 私達は襲撃者を確保し、町の治安維持を担う兵士達に引き渡している。

 ちなみにこの事は周囲には広めていない。

 お陰で、お二人の活躍は広まっておらず、誰が仲間を狩っているのか分からない襲撃者達は次々と数を減らしていった。

 お陰で街の治安が少しずつ良くなって来ているらしい。

 その事を報告すると、ハロルド副将軍はとても嬉しそうな顔をしていた。



 そして今日も、お二人は襲撃者を撃退していた。

 しかし今回の襲撃者は子供であった。

 お二人は子供に暴力を振るったことを悔いている様子だ。

 しかし子供だからと言っても、犯罪者は犯罪者でしかない。

 私はこの子もいつもの様に兵士に引き渡すつもりであった。

 しかしナイト様は待ったを掛け、私達は共に兵士の詰め所へと向かうことになった。


 このナイト様の判断が、私の運命すらも変える事になるのだが、一兵卒でしか無い私にはその事を知る術など存在しなかったのであった。

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