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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第一章 プロローグ
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第二話 呪い

2017/06/15 サブタイトル追加&本文を細かく訂正

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

 俺が『一般人』のスキルを獲得し神殿の外に出ると、目の前の広場には人集りが出来ていた。

 原因は理解している。

 それは俺自身だ。


 この国の副将軍である父さんとその伴侶である母さん、2歳年下の弟と沢山の使用人達。

 ロックウェル家の関係者全員が広場で帰りを待っていたのだ。

 その周囲には名門一家の長男のスキル授与を祝おうと集まっていた大勢の一般市民も見て取れた。

 思わず天を仰いでしまった。



 ――くっそおおぉ!

 この状況で獲得したスキルは1つだけで、その内容は『一般人』でしたって言えってか!

 有り得ないだろ、そんな事!

 どうする?

 どう説明すれば被害を最小限にすることが出来る?



 俺は必死に頭を働かせる。

そもそも外で皆が待っていることは事前に分かっていたのだから、神殿内で対応を考えておけば良かったのだ。

 何だかんだでテンパっていたという事か。



 ――落ち着け、問題は何かを考えろ。

 決まっている、スキルを1つしか授かれなかった事だ。

 何故そんな事になったのか? それは俺が転生者だからだ。

 何故転生したのか? 父さんが『奇跡のネックレス』を使ったからだ。

 これだ! これで行こう!



 そう決断すると、俺は颯爽と歩き出し、広場で待っている家族の元へと向かう。

 勿論同じ場所には大勢の一般市民もいるが、今回は全て無視だ。

 声を掛けてくる人達を全て無視して、俺は一直線に父さんの元へと向かって行く。

 その様子にただならぬものを感じたのか、父さんも俺の元へと向かって来た。


 「どうした息子よ、何か変わったスキルでも手に入れたか?」

 「その通りです父さん。それと『ネックレス』についてもお話があります」

 「!? ……そうか。ここでは何だな、屋敷に戻るぞ」



 『ネックレス』と聞いた父さんは事の重要性を理解したのか、すぐさま俺を馬車に乗せた。

 この時、俺は周囲の反応を観察していた。

 『ネックレス』と聞いて反応したのは母さんと長年勤めている使用人のみ。

 弟や他の使用人達は何が何だか分からないという顔をしている。

 やはりあの事は箝口令が敷かれていたらしい。

 まぁ当然だろう。

 長男が呪い殺されて、家宝を使って生き返らせたなどと言いふらす訳がないのだ。

 


 そんな裏事情を知らない人達を置き去りにして、ロックウェル家の関係者を乗せた馬車は屋敷へと向かって行く。

 同じ馬車には父さんと母さんが同乗しており、弟は別の馬車に乗っていた。

 これは恐らく弟に話を聞かせたくないという両親の思惑なのだろう。

 俺自身、同じ考えだ。

 兄が一度死んでおり、別人の魂が乗り移っているなどと告白されても困るだろうからな。



 

 俺は母さんの顔をじっと見つめた。

 彼女とはもう10年の付き合いになる。

 黒い髪に茶色い目をしており女性にしては高身長。

 目鼻立ちは整っており、有り体に言えば美人だ。

 そしてとてもグラマラスな体つきをしており、父さんの好みが見て取れる。

 温和な顔つきをしているが、怒るととてつもなく怖い。

 ロックウェル家を取り仕切っているのは彼女であり、屋敷の全員が彼女に頭が上がらないのは公然の秘密だ。



 対する父さんは茶色い髪に黒目をしており、190近い高長身だ。

 凶悪な顔つきをしており、ガチムチな体つきをしている。

 若くして軍の副将軍の地位に付いており、近い内に将軍の地位を拝命すると噂されている優秀な軍人だ。

 軍人であるがゆえに余り家にはいないのだが、帰って来た時には愛する妻と2人の息子との時間をとても大切にする良き父親だ。

 凶悪な見た目に反して趣味は絵を描くことだったりと意外性も有る男だ。

 そして強い。とてつもなく強いのだ。

 8つのスキルは1つを除いて全てが戦闘系で固められており、国内では未だ敵無しの強さを誇っている。

 家に帰る度に俺と弟は父さんにしごかれているが、全く勝てる見込みが無い。

 愛情深く頼れる男であるのだ。


 

 俺はこの両親が好きだった。

 そしてそう思った瞬間、前世の記憶が蘇っても2人の事を両親だと思っている自分に驚いた。

 よくよく考えてみれば前世の記憶と言っても、それ程強烈な物でもないようだ。

 まぁ当たり前といえば当たり前だ。

 何だかんだでこちらの世界で10年も生きて来たのだ。

 しかも赤ん坊からの10年と言えば、人生で最も密度の濃い期間でもある。

 それに加えて前世を思い出したのはついさっきだ。

 どちらが大切なのかは言うまでもない。

 いや前世も大切な思い出ではあるのだが、記録映画を見たような感覚なのだ。


 前世を思い出したことにより性格が変わってしまった登場人物が出て来る小説や映画を知っていた俺は、どうやら自分はこのままナイト=ロックウェルとして生きていけそうだと考えホッと胸を撫で下ろしていた。


 

 「それでナイト、一体どうしたというのだ?」


 父さんが状況の説明を求めてくる。

 この2人に嘘は付きたくない。

 少し迷ったが、俺は先程起こった出来事をありのままに伝える事にした。


 神殿の一室でスキル授与の儀式を受けたこと。

 それに先立ち、自分の人生をダイジェスト映像で垣間見たこと。

 最初に映し出されたのは、別の世界で暮らしていた男の30年に及ぶ人生だったこと。

 そして次に見た場面では赤ん坊だった自分が呪いで死んだ場面だったこと。

 父さんが『奇跡のネックレス』を使って空間に亀裂を生み出し、男の魂が赤ん坊だった自分の体の中に入って来たこと。

 つまり自分は別の世界から来た転生者であること。

 それからの映像は『こちらの世界』での10年間であったこと。

 映像が終わって現れたライフルーレットは75%が『一般人』で締められており、スキルを授かる針の数も1つしか無かったこと。

 そうして得たスキルは『一般人』だけであり、効果も貧弱なハズレスキルであったこと。

 最後に、前世の記憶を思い出したが、それでも自分は2人の息子であるナイト=ロックウェルであることに変わりはないこと。



 以上の内容を包み隠さず両親に伝えた。

 父さんも母さんも話を聞いている間に表情がコロコロ変わっていった。

 特に『別の世界で死んだ男の魂が死んだ息子の体に入ったことで生き返った』と聞いた時の顔は衝撃的と言っても過言ではなかった。


 2人は揃って暫くの間絶句していた。

 そうしてどうにか口を開こうとした矢先に、馬車が停止し、御者が扉を叩く音がした。


 「旦那様、奥様、ナイト坊っちゃん、お屋敷に到着致しました」

 「……ああ分かった、2人共降りるぞ」

 「あなた……」

 「とりあえずナイト、お前は私の部屋へと来なさい。そしてステラ、あの時の事を知っている使用人達を別室で待機させておいてくれ」

 「分かりました。ただ全員は無理ですよ。実家に帰った者や屋敷を退職した者もおりますから」

 「分かっている。今屋敷に居るものだけで構わない」

 「ではそのように」


 そう言って母親は執事を呼び何人かの使用人達を別室に待機させとおくようにと命じていた。

 一方俺は父親と共に父親の部屋へと向かった。

 ちなみにこの部屋に入るのは今回が初めてだ。

 いつもは鍵が掛けられており、中には入れないようになっているのである。


 一体部屋の中はどうなっているのだろうと考えて部屋に入ったが、見た目は普通の執務室といった感じであった。

 いや、これは俺が前世を思い出したからそう感じるのだ。

 こちらで過ごした10年間で執務室なんぞに入った経験は無いのだから。


 入って右手にはソファーとテーブルが設置され、壁は本棚で埋まっている。

 床には大きな絨毯が敷かれていた。

 太陽の光を取り込むための窓は広いが、はめ殺しになっており開けることは出来ない。

 恐らく暗殺者対策といった所か。

 その窓の前には大きな机が置いてあり、父さんは奥の椅子へと腰掛けた。



 ――さーてどうするのかな? 父さんは。

 よくある話だと、秘密が漏れるのを防ぐために『殺害』

 スキルが1つしか発現しなかったことを恥じて『監禁』

 家の恥だと罵倒した後、『追放』

 殺したいけど流石に血の繋がった息子は殺せないから『飼い殺し』

 顔も見たくないから『奴隷落ち』

 こんな所か。

 ……いや無いな、父さんに関してはこれは無いだろう。



 小説や漫画でよくあるパターンをシミュレーションしてみたが、どうにもしっくりこない。

 10年間父親だった男はこんな非道な事をする人間には見えなかったのだ。

 では自分はどうなるのだろう? と考えていた所にノックの音が響き、母さんが入室してきた。

 随分と思い詰めた顔をしている。

 不可抗力とは言え、非常に申し訳ない気持ちになってしまった。



 「あなた、言われた通りにあの時の事を知っている使用人達はを屋敷の一室に集めておきました」

 「そうか、ありがとう。ではまずこの場の3人だけでこれからの事を話し合いたいと思う」

 「分かりました、父さん」


 そう言って父さんは立ち上がり、本棚へと向かう。

 そして本棚の内の1冊を移動すると、その裏にレバーが在り、それをひねると本棚が静かに移動。

 本棚の裏に隠し部屋が現れた。



 「うおっ! 何ですかこれは!」

 「まぁいわゆる隠し部屋という奴だな。2人共入って来なさい」


 俺が驚いている間に父さんと母さんは突如現れた隣部屋に入っていく。

 するとそこは見知った場所であった。

 忘れる訳がない。ここは先程神殿内の一室で見た、俺が復活した部屋であったからだ。


 隠し部屋と言うだけあって中は殺風景であり、置いてある家具はベッドと物入れだけだ。

 父さんはその物入れを開けて、中に入っていたネックレスを取り出した。

 先程も見た、そして年に1度だけ『家宝』として見ることが許されていたあの『奇跡のネックレス』だ。

 しかし映像で見た時の様な輝きは存在していない。

 あの時は光り輝いていたように見えたのだが。


 「確認するぞ、お前が見たネックレスはこれで間違いないな?」

 「はいその通りです。でも映像ではネックレスは光り輝いていたように見えましたが」

 「そうだな、10年前お前が殺され、生き返らせた後、ネックレスの輝きは消えてしまった。恐らくは力を使い果たしたのだろう」

 「やはり俺は殺されたのですか?」

 「そうだ。かつて私とステラが力を合わせて倒した魔族の呪いのせいでな」



 父さんは歯を食いしばりながらその時のことを説明した。

 それは10年以上前、俺がまだ生まれておらず、父さんがまだただの優秀な兵士でしか無かった頃の話だ。

 

 この世界は人間とモンスターが長い間戦い続けている世界だ。

 ある時、この国に強力な魔法を使いこなす魔王軍の幹部の1人が襲撃を掛けてきた。

 呪いや病を操ることに長けていたその魔族は国中の村や町に呪いと病をばら撒き、甚大な被害を出し続けた。

 その際、当時神殿の治療院で働いていた母さんと兵士の一団を率いていた父さんが赴任していた町に、元凶である魔族が現れ直接住民を害し始めたそうだ。

 父さんと母さんは奮戦し、どうにかその魔族を退治することに成功。

 しかし死ぬ間際に魔族は母さんに強力な呪いを打ち込んできたのだそうだ。


 「私とステラはその騒動が起きる前から愛し合っていたのでな、国を救った英雄となった後、結婚式を挙げ夫婦になったのだ」

 「それからすぐに私の妊娠が発覚したの。

  つまりナイト、戦いの時には既に貴方が私のお腹の中に入っていたのよ」

 「奴が打ち込んできた呪いは、私達の宝、つまりお前を呪い殺すものだったのだ。私は己の不明を恥じたものだよ。お前が生まれて呪いが発動するまで、奴の最後の呪いは失敗だったのだと思い込んでいたのだからな」



 そうして待ち望んでいた我が子がかつて倒した仇敵に呪い殺された父さんは、我が家に伝わっている家宝『奇跡のネックレス』の奇跡に最後の望みを託した。

 そうして願った結果、ネックレスの輝きは消え去り、同時に我が子は蘇った。

 だから2人はこのネックレスの奇跡とは『死者蘇生の奇跡』だと今まで思い込んでいたらしい。

 

 「まさか別の世界の魂を呼び寄せるとはな、正直想像もしていなかったぞ」

 「でもナイトはナイトなのでしょう? だったら何も問題はないわ」

 「そうだな、実際どのような感じなのだ? 前世の記憶を持っているというのは」



 俺は2人に前世の記憶を持っている感覚というものを説明する。

 早い話が30年間過ごした別人の記憶を持っているだけだと。

 『向こうの世界』と『こちらの世界』では色々と違う所もあるが、人類が住み暮らしている所は変わりはないと。

 そもそもそんな昔の記憶は、こちらの世界の10年間の記憶のせいで殆ど忘れていると。



 「成程な、つまり大量の本を読み大量の知識を持っている様な状況と言う訳か」

 「そう言えば神殿に入る前よりも落ち着いている様に見えますものね」

 「しかしそれならば別の世界の知識とやらも手に入っているのではないか?」

 「はい、それは勿論あります。

  しかし『向こうの世界』には魔法も無ければモンスターもいません。

  『こちらの世界』とは基本となる環境が違い過ぎますので余り参考にはならないかと」

 「そうか、そもそも前世では軍人ではなく一般人だったと言っていたしな」



 恐らく父さんは軍人として地球の兵器や戦い方を知りたいと考えたのだろう。

 とは言え俺は所詮一般人だ。

 銃や爆弾の作り方など知らないし、知っている軍事知識は小説や漫画が元になっている物ばかりだ。

 「これでは正直参考にはならない」と考え、俺は父さんに話すことを止めた。



 もっとも父親はナイトが前世では一般人だったと聞いて、大した知識は持っていないだろうと考えただけであったのだが。

 『こちらの世界』の一般人というのは碌に勉強をしておらず、知識も大した事は無いのだ。

 そう考えても無理はないのである。



 「それであなた、一体どうするおつもりなのですか?」

 「うむ、それなのだがな。ナイト、お前が転生者であるという事はこの三人だけの秘密としようと思う」

 「えっ!? いやそれは構いませんが、どう説明するつもりなのですか?」

 「お前が転生者だという部分だけを言わずにスキルが1つしか手に入らなかったと説明すれば良いだけだ。つまりだな……」



 俺と母さんは父さんの話に耳を傾ける。

 その話は確かに統合性があり、問題は無いと感じた。

 そして軽く打ち合わせを行なった後、俺達は使用人達の待つ部屋へと向かったのであった。

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