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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
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第十八話 襲撃者

2017/07/14 本文を細かく訂正

 冬になった。


 俺達が『薬局のロックウェル』で働き始めて、既に半年が経過している。

 


 この世界にも暦があり、1年は地球と同じく365日だが、うるう年は無い。

 大雑把に春夏秋冬もあり、大体90日間隔で季節が変わる事になっている。

 俺とロゼが働き始めたのは春も終わろうとする頃であった。

 よって、半年後の今は冬に入ろうとする頃合いである。 


 玄武の国は比較的過ごしやすい国だと言われている。


 朱雀の国には活動中の活火山がある。

 青龍の国の国土の半分はぶ厚い氷河に覆われている。

 白虎の国は風が強く、国土の何割かは砂漠らしい。


 しかし玄武の国にはこれと言った自然災害は存在しない。

 強いて言えば他国に比べて山が多く、平地が少ないのが欠点ではある。

 しかし、モンスターが蔓延り、魔族と日夜戦っている世界では平地が少なくても人口が増えないため基本的に問題は起きないのだ。

 

 現在進行形で危険地帯がある訳ではないので、国中何処だろうと安定しているのである。

 住んでいる場所の気候が安定しているだけでも大分余裕が出来るものだ。

 冷たい風が吹く中、俺はロゼと共に歩きながらそんな風に言ってみた。



 「そう言われても寒いものは寒い」

 「うん、まぁそうなんだけどな」


 俺達は市場で仕入れた食材を抱えて店に向かって歩いている。

 秋になったくらいから大通り以外の場所にも出向いて良い事になり、俺達の仕事に市場での仕入れが追加された。

 俺達の仕事は日々の雑用に加えて、買い出しやら御用聞きやらが追加され始めていたのだ。

 もっともまだ簡単な仕事しか任されてはいなかったが、店から一歩も出ない仕事はいい加減飽き飽きしていたので、良い気分転換になっている。


 俺達は山と積まれた荷物を落とさないようにとゆっくり歩いているが、同じ道を行く商人達は軽快に進んで行く。

 彼らが手に持つ荷物は最小限だ。

 何故なら彼らは皆アイテムボックス持ちであるからだ。


 『商人』というスキルが存在する。

 その効果は『レベルが1上がる毎に、アイテムボックスが10増える』という物だ。

 1つのアイテムボックスの中には1つ物を入れることが出来る。

 レベル1でも10個。

 レベル10なら100個の物を手に持たずに運ぶことが出来る。

 おまけにアイテムボックスの使用にはMPは使わないので、満タンに入れても魔力切れを起こすことはない。

 アナの持つ『無限収納』は規格外としてもやはりアイテムボックスの能力は素晴らしい。

 アイテムボックスは『当たり』と呼ばれているスキルの1つだ。

 しかし俺達にはアイテムボックス能力は存在しない。

 だから地道に手と体を使って運ばなければならないのだ。



 今日仕入れた物は冬を越すための保存食がメインである。

 日持ちする食料を今の内に仕入れておかないと、冬が越せないのである。

 本格的な冬が来たら物流が止まってしまうからだ。

 というか、そもそも冬にはまともな食料が手にはいらないのである


 この世界には冬でも野菜が収穫できるビニールハウスは存在しない。

 勿論、雪道でも荷物を届けられるトラックも存在しない。


 動物の冬ごもりと同じ様に冬支度をしなければ冬を越せない。

 これがこの世界の常識である。

 まぁ一昔前は日本も同じ様に冬支度をしていたのだ。

 俺が生きていた時代は本当に恵まれていたのだなと、冬支度をしているとつくづく実感できる。



 俺達は2人で買い物に来ている。

 そして買い出しのお駄賃として、途中での買い食いが認められている。

 だから俺達は屋台で売っていた串焼きを購入して食べながら歩いていた。



 沢山の荷物を持ちながら、串焼きを頬張る俺達。

 それはつまり、両手が完全に塞がれた状態である。

 そんな俺達は格好のカモに見えたのだろう。

 途中の路地裏から突然小さな影が俺達に向かって飛び掛かって来た。

 俺は冷静に間合いを計り、半歩位置をズラして襲撃者を避けた後、その腹に蹴りを入れ、襲撃者を吹き飛ばした。



 その小さな影は大きく放物線を描きながら吹き飛んで行く。

 そしてかなりの距離を飛んだ後、地面に倒れ動かなくなった。

 そこで俺達は初めて違和感を感じた。

 今までの襲撃者と違って影の大きさも、飛んでいく飛距離もかなり異なっていたからだ。

 そもそも今までの襲撃者は一撃を食らわせたら、大抵すぐに飛び起きて逃げ去ろうとしたのだ。

 しかしこいつは動かない。

 俺達は襲ってきた小さな影をよく見てみた。

 それは子供であった。

 俺達よりも明らかに小さい、ライよりも小さい子供が、道のど真ん中でうずくまっていたのだ。



 ――やっちまった!

 俺は咄嗟にそう思った。



 俺達が市場へ買い物に出かけるようになってからというもの、たまにこうやって襲い掛かってくる連中が現れる。

 その正体は大抵は浮浪者や落伍者であり、沢山の食料を運んでいる子供2人から食料を奪い取ろうと襲い掛かって来るのだ。


 最初は勿論驚いた。

 驚いたが、幼い頃から訓練された体は、襲撃者達を迎撃するために動いてくれた。

 最初の襲撃者は1人で、そいつはロゼを狙って襲い掛かって来た。


 俺はロゼの前に立ちふさがった。

 考えるよりも先に体が動き、散々訓練して来た通りに俺の体は襲撃者に一撃を入れていた。


 そして俺は襲撃者を吹き飛ばした。

 吹き飛ばすことが出来たのだ。

 吹き飛ばされた相手も驚いていたが、吹き飛ばした俺自身も驚いていた。

 しばらく呆けていたが、気がつくと襲撃者は立ち上がり逃げようとしていた。

 しかしすぐさま俺達の護衛をしている父さんの部下の1人が襲撃者に一撃を食らわせ、襲撃者は動かなくなった。

 彼は動かなくなった襲撃犯を部下に任せてこちらへと近づいて来る。

 そして俺達の無事を確認し、怪我一つ無いことが分かると、立ち去ろうする。

 俺は彼を引き止めて、今起こった事に付いて質問をぶつけた。



 「はぁ、つまりナイト様は暴漢を撃退出来た事が、信じられないと。そういう事でございますか?」

 「そうだ。俺は子供で、スキルも1つしか無くて、レベルも10止まりだ。でもあの男には勝てた。というか吹っ飛ばせた。これってどういう事だ?」

 「どうもこうもありません。単純にナイト様の実力があの男よりも上だったという事です」

 「? いやそんな事あるのか? だって相手は大人だぞ?」

 「ナイト様、大人が全員優れているという訳では無いのですよ?」



 彼によると、この世界の一般市民の持っているスキルの数は大体3~6位であると言う。

 当然スキルの内容にも当たり外れがあり、そして当人の資質にも違いがある。

 そして誰も彼もがモンスターと戦っている訳では無いという。

 中には一生モンスターと戦わず、経験値を取得しないまま、レベル0の状態で過ごしている者も居るということだ。


 「ナイト様は確かにスキルの数が1つだけで、レベルも10止まりです。

  しかしそのステータスは平均30を超えております。

  これはレベル0の人間の3倍ものステータス値となります。

  しかも幼少の頃よりハロルド様から直々に特訓を受けているのです。

  町にたむろしている浮浪者や落伍者如きに勝てない通りはありません」

 「いや、でも、何でレベルを上げないでいられるんだ?」

 「ナイト様やロゼッタ様は勇者の供として旅立つことが期待されていたため、町の外へ出る事を前提に活動してきました。

  しかし町に住む市民達の中には、一生をこの街の中だけで過ごす者も居るのです。

  そういった者達にとってレベルは必ずしも必要ではありません。

  恐らくこの町に住む住民の平均レベルは10前後と言った所ですよ」

 「俺と変わらないというのか!?」

 「持っているスキル次第ではありますが、寧ろ訓練をしている分ナイト様の方が実力的には上かもしれません」



 「そんな訳で襲撃されたとしても撃退できる筈ですから気を楽にして下さい」

 そう言って護衛の兵士は俺達の前から姿を消した。

 まぁ姿は見えなくても彼は近くに居るのだろう。

 俺達の護衛をしているという事は、彼は兵士の中でも優秀な部類の筈だ。

 その彼の言う事なら間違いないのであろう。

 と言うかそもそも、本当にやばい相手なら、護衛として飛び出して来ていた筈なのだ。

 それを俺に迎撃させたという事は、『問題ない相手で経験を積ませよう』と判断したのかもしれない。

 いや、父さんからそういう命令が降りて来ている可能性もある。

 父さんはたまにスパルタなのだ。


 ちなみに俺と彼の話が終わった後、ロゼが彼について説明を求めてきた。

 俺は彼が俺達の護衛だということをロゼに説明すると、ロゼはとても驚いていた。

 どうやら彼女は護衛が付いていることに気付いていなかったらしい。

 これはロゼが鈍いのか、彼らが優秀なのか。

 判断に迷うところである。



 その後、俺とロゼは店まで戻って来た。

 そしてジャックに先程起きた事を説明する。

 すると、護衛の彼の言っていた事は正しいのだと証明された。

 実際『薬局のロックウェル』で働いているメンバーの中で、1番レベルが高いのはジャックだという。

 2番目はナインであり、3番目は何とロゼであった。

 つまり『薬局のロックウェル』内で働いている従業員達も、それ程レベルは高い訳では無いという事だ。

 彼ら彼女らは、揃って『レベルを上げる必要性を感じない』と言っていた。


 「折角レベルなんて物が有る世界に住んでいるのに」


 と考えたが、そこで俺は前世を思い出したのだった。



 前世の日本で俺は一般人として過ごしていた。

 世の中には毎日走り込んでいるスポーツ選手や毎日訓練をしている警察官や消防隊員、自衛隊の皆さんも居た。

 だからと言って一般人が彼らと同じ様に訓練をしているかと言えば、答えはNOだ。


 モンスターと戦い、経験値を得て、レベルアップをする。

 これは要するに、前世の日本における、スポーツ選手や警察官、消防官、軍人達がやっている事だったのだ。

 世界が違った所で、一般人は一般人として生きており、レベルアップが出来るからと言って、全員が全員レベルアップに邁進している訳では無かったのだ。


 それが理解出来てからというもの、俺は外出時の警戒レベルを1つ下げた。

 訓練している兵士や本格的に活動しているモンスターハンターでも無ければ、俺と互角程度の実力でしか無いのなら何とかなるだろうと判断したのである。

 そして次に襲われた時、今度はロゼが襲撃者を撃退する光景を目にして、俺は自分の判断が間違っていないと確信した。

 10歳の外見のロゼが大人の襲撃犯に勝利する光景はかなりシュールであった。


 ロゼは『成長停止』の為にステータスが成長しない。

 ステータスが2倍になるという『王族』の効果も発揮していない。

 しかしロゼは10歳までに鍛え上げたステータスと、国内最強クラスの兵士達から直々に教え込まれた戦闘技術があるのだ。

 ロゼも決して劣っている訳ではないのである。


 俺達は襲撃者に容赦などしなかった。

 そもそも勇者の供として活躍した場合、盗賊とか山賊とかを退治する場合だってあるのだ。

 問答無用で襲い掛かってくる暴漢相手に遠慮するような教育は受けていないのである。


 それからと言うもの、俺達はたまに現れる襲撃者をぶっ飛ばして、護衛に引き渡すようにしていた。

 だから今回も同じ様に浮浪者か落伍者のおっさんが襲って来たのだと思っていたのだ。


 いつもの様に襲われた。

 だからいつもの様にぶっ飛ばした。

 しかし俺がぶっ飛ばしたのは、まだ幼い子供であった。

 幼い子供ということは、まだスキル授与の儀式すら行っていないという事だ。

 冗談抜きに殺してしまったかもしれない。

 俺とロゼは荷物を放り投げて、子供の元へと駆け寄った。



 「おい! 坊主無事か! 死んでないよな?」

 「しっかりしなさい! ああもう、何でこんな事に!」


 俺達は子供に声を掛け続ける。

 すると、子供は呻き声を挙げて、苦しそうに腹部を押さえ出した。

 俺は持っていたポーションを子供に飲ませる。

 すると怪我が治ったのか、子供の容態は落ち着き、そのまますやすやと眠りに着いた。



 気が付けばいつの間にか目の前にはいつもの護衛が現れており、「ご苦労様です」と礼を言ったかと思うと、いつもの様に子供を連れて行こうとしていた。

 俺は彼を引き止めて話をする事にした。


 「待て待てちょっと待て! お前そいつをどうするつもりだ?」

 「どうと言われましても……お二人を襲ったのですから、いつもの様に見回りの兵士に引き渡すつもりですが」

 「まだ子供じゃないか!」

 「ナイト様それは違います。例え子供であっても犯罪者は犯罪者なのです。どのような理由があったとしても、事に及んだその瞬間に加害者となるのです。それに年齢は関係ありません」

 「それはそうかも知れないが……ああもう分かった! じゃあ俺も一緒に行く!」

 「どちらにですか?」

 「見回りの兵士の所に決まっているだろう! どうせ今日はこのお使いが終われば勉強の時間だったからな」

 「行ってどうするのですか?」

 「そんな事は知らん! だが話を聞けば何か出来る事があるかもしれないだろうが!」

 「何故ナイト様がそのような事をしなければならないのですか?」

 「『しなければならない』ではなくて、『俺がしたい』んだよ。大体この国もこの町も比較的治安は良い筈だろう? それなのに子供が襲ってくるなんておかしいじゃないか。ロックの国に問題が起きているなら、少しでも片付けておけば後々あいつが楽になるだろうが」

 「賛成。私も行く」

 「ロゼッタ様まで……分かりました。しかしまずはお二人のお仕事を終わらせてからに致しましょう」

 「そうだな」



 俺達は道端に散乱していた荷物を回収し、一旦『薬局のロックウェル』まで戻った。

 そしてジャックに事の次第を伝えてから見回りの兵士を探したが、運悪く見つからなかったので、護衛の彼と一緒に兵士の詰め所まで向かって行った。



 この時の判断が俺の運命を大きく変える事になるのだが、その時は誰一人その事に気づいていなかったのであった。

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