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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
18/173

第十七話 モンスターハンター

2017/06/16

十話~十五話にサブタイトルを入れました。

十話~十七話の本文を手直ししました。


2017/07/14 本文を細かく訂正

 俺は今ロゼと一緒にタートルの町の中を散策している。

 俺達が『薬局のロックウェル』で働き始めて3ヵ月が経過した。

 俺達は今日始めて店の外に出る許可を得たのだ。


 俺はロゼが働き始めた時、引きこもりの王女様に薬局の仕事が務まるのかと心配していた。


 しかしロゼは至極あっさりとこの生活に順応した。

 朝、日の出と共に起きて訓練をした後、従業員用の食堂で朝食を食べる。

 それから昼までは奥の作業場で仕事漬けだ。

 昼食を食べて、午後は店にある書庫で薬やアイテム作成についての勉強をしている。


 正社員であるならば午後にも仕事があるらしいのだが、修業期間は勉強もしなければならないとの事で、午後は丸々勉学に当てられているのだ。

 そして夕食を食べた後は部屋に戻って就寝。

 夜でも魔石の光が灯る城や屋敷とは違い、町の薬局の従業員宿舎の夜の明かりはロウソクだけだ。

 よって日が落ちたら眠るしか無い。

 実に健康的な生活をしていた。


 いや、城に居た時もロゼの部屋には明かりの魔道具は存在していたが、使われてはいなかった。

 そもそも『引き篭もりは夜遅くまで起きている』というのは、前世での感覚だ。

 こちらの世界にはネットもスマホもテレビも無いのだから、夜遅くまで起きている意味が無いのだ。

 だからロゼは元々健康的な生活サイクルを続けていたのだ。

 ただ引き篭もっていただけなのである。

 それが一番の問題だった訳だが。



 俺達の姿を見ても町の住民達は誰も騒がない。

 当然だ、この世界にはテレビもネットも無いのだから、王女様やら貴族の顔は話には聞いていても誰も正確には知らないのだ。

 『顔も知らないけれど、恐らく立派で頭の良い人達がこの国を治めている』位の感覚なのである。

 まぁ俺だって前世の政治家についてはテレビに映る顔と、マスコミがピックアップした発言位しか知らなかったのだ。

 要は今の生活に不満がなければ、上にいる人物が誰であろうと誰も気にしないという事だ。

 この町の住民達は誰一人気にしていない。

 つまりこの国もこの町も、平和で何も問題は無いという事である。



 俺とロゼは手を繋いで街の散策をしている。

 ラブラブだからという訳ではない。

 単純に子供2人だけだと万が一の危険があるからだ。

 まぁ実際には2人だけではない。

 俺達の周囲にはそれとなく護衛が配置されている。

 流石に一国の王女様を護衛無しで町に放り出したりはしないという事だ。

 良く見れば見知った顔も居たりする。

 ――彼は確か父さんの部下だった筈だ。

 世界が違ってもある程度の立場を持つ者の親類にはそれなりの警護が付くという事なのだろう。

 俺はさり気なく手を振って「気づいてますよ、宜しくね」とアピールをしておく。

 ロゼは何もしていない。

 流石は王女様である。

 護衛ありの生活が当たり前になっているのだろう。



 俺達が歩いているのはタートルの町の大通りだ。

 「お二人はまだ幼いのですから、路地裏などには行かないように」と言い含められているのである。

 まぁ納得だ。

 俺達はスキルも少なく、俺もロゼも見た目よりも内面は年を取っているとは言え、体は子供なのだ。

 無謀なことはするつもりはない。


 それよりも俺達は初めて歩く大通りに感動していた。

 そう、俺達はこの街の大通りを初めて歩いているのだ。

 何しろ俺は屋敷暮らしで、ロゼは城暮らしだったのだ。

 ワザワザ外へ行かなくても、商人が屋敷まで品物を持って営業に来るのである。

 おまけに町の外へ移動する時は、基本屋敷から馬車に乗って移動していた。

 『町中を歩く必要がなかった』のである。

 

 だから俺達が実際に街を歩くのはこれが初めてだったりする。

 やはり俺達は一般人とはかけ離れた生活をしていたと言う事か。

 それなのに授かったスキルが『一般人』とか、皮肉が聞いていて最早笑えない。

 改めて前世とは全く違う環境で過ごしていたのだと身に沁みた。



 大通りには多くの店が軒を連ね、大勢の市民が行き交っている。

 大通りは馬車が余裕を持ってすれ違えるくらいには広く作られている。

 店は何と全て石造りだ。

 耐震性は大丈夫なのかと心配になってしまうが、この大通りは昔の宮廷魔道士達が総力を上げて作ったとされており、街を囲む巨壁、石畳の道路、大通りに面している店舗、そして王宮を囲む城壁は全て彼らが作り上げたらしい。

 何でも当時の土の勇者も作成に参加したという記録が残っており、多少どころか相当な地震が来たとしても建物にはヒビ一つ入らないのだそうだ。

 流石は土の勇者の本場である玄武の国の首都である。

 事、建築に関しては明らかに他国より一歩先んじているのだ。



 店で売られている物は、服に靴にお土産品といった地球でも見かけた物もあれば、武器に防具に魔石に魔道具店等のこちらの世界特有の店も存在している。

 花屋もあったが、売っている花の色が虹色だったり、光り輝いていたりするので、やはりこちらの世界特有の生態系があるのだろう。

 軒下に椅子とテーブルを広げてカフェにしている店やレストランや食堂も存在している。


 とは言え、ここにある店はある意味普通の店だけだ。

 路地裏には怪しげな物品を扱う怪しげな店があるという噂だし、肉や野菜は専用の市場が存在しているとのことだ。

 だが、ここの通りの店を見ているだけでも十分に楽しい。

 俺達は大通りを歩き続けた。



 そして俺達は遂にゴールへと辿り着いた。

 この大通りは城から町の入口まで続く一本道だ。

 そして俺達は城に背を向けて歩いてきた。

 だから最終的には、俺達は町の入口、町の中と外を分断している大扉へと辿り着くのだ。


 この町はモンスターの襲来に備えて、10m位の高い壁で中と外を区切ってある。

 そして唯一中と外の行き来が出来るのがこの大扉だ。

 ここを通るとそこは外の世界。

 俺達も4ヶ月前にこの大扉を通って外の森へと向かったのだ。


 その入口には多くの人で賑わっている。

 町の入口の大扉を守る兵士達。

 これから街を出て外へと向かう者。

 丁度街に辿り着いて一息付いている者。

 その人達に軽食や土産を売りつけようとしている商人達。

 そんな人達で町の入口付近は大賑わいだった。



 そんな中で一際目につくのが『モンスターハンター』達の姿だ。

 彼らは町の外へと出向いてモンスターを狩り、魔石を収集し金品を稼ぐ事を生業としている者達である。


 彼らは剣や槍を持ち、鎧を身に纏い、町の外へ出向いてモンスターを退治する。

 退治したモンスターは魔石を残すので、手に入れた魔石を町の入口である大扉の横に設置してある『魔石回収機』に入れる。

 すると投じた魔石に対応したお金が『魔石回収機』から排出される。

 そういう仕組みになっているのだ。



 この世界の文明の根幹を担っているのは『魔石文化』である。

 『魔石』とは空気中に漂っている『魔力』が何らかの理由で結晶化した物である。

 

 魔石はモンスターを倒すことで得ることが出来る。

 また、魔法使いの手によっても魔法を収束させることにより魔石を作り出すことが出来る。

 しかしそれは大変時間が掛かり、かつ非効率であるため、もっぱらモンスター産の魔石がメインとなっている。

 たまに地面の下や鉱山などで魔石鉱脈が見つかることもあるそうだ。


 この世界のモンスターは半透明で、倒すと消える為、いわゆる『モンスターから取れる素材』という物が存在していない。

 よって、よく物語に出てきていた『冒険者ギルド』は存在しない。

 その代わり『魔石回収機』が町の外へ通じる門の内側に設置されており、モンスターハンター達は獲得した魔石をここに投入し、代わりにお金を得るのだ。

 その為、彼らは別名『魔石回収業者』などと言われたりもしている。



 集められた魔石は、『魔石工房』に集められ、加工されて市場に出荷される。

 着火に使う『火の魔石』、水を生み出す『水の魔石』、氷を生み出す『氷の魔石』明かりに使う『光の魔石』など用途は様々。

 電気文明は存在していない為、『雷の魔石』は戦闘用と考えられている。

 『風の魔石』も同じく戦闘用だ。

 移動時に使うことも出来るが、制御が難しいので使いにくいとされている。

 『闇の魔石』は目くらまし、『土の魔石』建築用として用途が多い。



 また『魔石』は魔力の外部出力としても使う事が出来る。

 個人の持つ魔力が切れても『魔石』から魔力を吸収することが可能なのだ。

 また、魔法の威力の底上げにも『魔石』は利用出来る。


 ちなみにモンスターから取れた『魔石』をそのまま持っているのは犯罪行為とされている。

 何故なら加工していない『魔石』は放って置くと周囲の魔力を吸収し、最終的に再びモンスターを生み出してしまうからである。

 しかしモンスターから回収して1ヵ月位は基本的に何も反応がないので、1ヵ月位なら持ち運びは可能とされている。

 過去に討伐したモンスターの巨大な魔石は保存加工され、各国の宝物庫に保管されていたりするのだ。

 宝石代わりという事である。


ちなみに砕けた魔石でも集めれば小銭にはなる。

 勿論ドロップアイテムは倒した者の所有物となる。



 この世界には勇者がおり、各国には軍も兵士も存在している。

 そして彼らは積極的に町の外のモンスター退治を行い、襲い掛かってくる魔王軍とも戦っている。

 しかしそれだけでは魔石の使用量にはとても足りない。

 人が増えれば増える程、生活が豊かになればなる程に魔石の数は必要になるからだ。

 だから国は『魔石回収機』を備え付け、積極的に市民達自ら魔石を集めることを推奨しているのである。


 一般的に腕に覚えのある者や、兵士を辞めて町で働いている者、または軍に属することを嫌う一匹狼などがモンスターハンターとなり日々の糧を得ている。

 街の周辺は定期的に軍が見回りをしているので、それ程強いモンスターは現れない。

 そもそもモンスター達は自分の縄張りから基本的に移動することは無い。

 有名な話では、地上で発生したモンスターは決してダンジョンなどの地下空間には入り込まないという話もあったりする。

 だから街の周辺のモンスター退治に限定すれば、それ程危険度もなく無難に稼ぐことが可能なのだ。


 だからモンスターハンターは戦闘系スキルが1つでもあれば誰でもなれる職業として人気だ。

 当初の予定では、俺も今頃は訓練の傍らモンスターハンターとして活躍している筈であった。

 モンスターハンターとして活躍し、魔石を回収しながら経験値を獲得。

 町の魔石需要を満たしながら、勇者の供としての実力を身に付けるという一石二鳥の作戦だったのだ。

 しかし俺は町の外には出られない。

 そもそも経験値を得た所でレベルが上がらないので意味が無い。

 俺は彼らを見て深い溜息を漏らした。



 それを見たロゼが俺にどうしたのかと話し掛けて来た。

 俺はロゼにモンスターハンターとして活動してみたかったという話をした。

 するとロゼは意外な提案をしてきたのだ。


 「出来るよ」

 「は? 何が?」

 「モンスターハンター。私達も出来る」

 「いやでも、俺達町の外には出られないだろう?」

 「町の外ではなく、町の中のモンスターを狩れば良い」

 「町の中の? ああっ! 父さんの話で出て来てたな!」

 「そう、町の中に発生する弱いモンスターなら私達も狩れる」

 「成程、確かになぁ。そう言えばロゼ姉のレベルはカンストしてなかったもんな。やってみても良いかも」

 「カンスト?」

 「最大値まで上がってないってこと」

 「そう。ところで私は何時までお姉さんなの?」

 「え? いやでも……」

 「婚約者になったんだから、呼び捨てで良い」

 「呼び捨てか。え~と、『ロゼ』……どう?」

 「良い、凄く良い。恋人みたい」

 「あ~それね。良し! ならついでに恋人になる?」

 「良いの?」

 「良いに決まってるよ。そもそも婚約者なのに恋人じゃないってのはおかしいだろ? 順番が逆だよ」

 「そう? なら今から私達は恋人です」

 「宜しくロゼ」

 「宜しくナイト」



 働き始めて3ヶ月後、俺達は恋人同士になった。

 そして俺達は、町に発生する雑魚モンスター退治を開始した。

 しかし町中に発生するモンスター達は町の住人がすぐに始末してしまう。

 よって俺達は早朝、町の裏手に広がる森まで行き、毎日モンスターを10匹ずつ仕留めていった。

 大通りは城の方向へと向かうと、そのまま城をグルっと迂回し、町の裏手の森まで続いているのである。

 これなら『大通りから外れない』というジャックとの約束を守ることが出来たのだ。


 この行動が後にとんでもない事態を引き起こす事になる。

 俺達がその事に気づくのには、実に8年近くの歳月が必要になるのであった。

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