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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
最終章
173/173

最終話  勇者の隣の一般人(下)

  カラン、カラン


「いらっしゃいませ! 禁煙席ですか? 喫煙席ですか?」

「禁煙席でお願いします。それと、待ち合わせをしているのですが……」

「はい、承っております。それではこちらにどうぞ!」


 喫茶店のドアを開けると、ドアベルが高らかに鳴り響き、カウンターの奥から若い店員が元気の良い挨拶をしてきた。

 俺は店員に案内されるまま店の奥へと向かい、そこで先に到着していた7人の男女に挨拶を交わす。


 唯一地元に住んでいるというのにどうやら俺が最後だったらしい。

 遅刻こそしなかったものの、遅れたことを謝り、俺は席についてブレンドコーヒーを注文した。


 しばらくしてコーヒーを持ってきた店員は訝しげな表情を残しながら厨房の奥へと戻っていく。

 この席に集まっているのは年齢も性別もバラバラな男女なのだ。

 彼女が怪しんだとしても仕方がないだろう。



 俺はコーヒーに口をつけ、喉を湿らせてから集まった仲間たちに目を向ける。

 コーヒーが届いた後で話を開始すると言っておいたので全員仲良く待っていてくれたのだ。



「まずは全員、無事にこうして再会できたことを嬉しく思う」


 俺は一団のリーダーとして彼らに向かって頭を下げた。

 そして頭を上げた先には何と言っていいのか分からないという表情をした7つの顔が並んでいた。

 一番若い朱雀ちゃんはまだ小学生で、最年長は彼女の祖母である天野さんだ。

 まだ10代の学生である青柳さんと白石君は共に制服を着用しており、氷室さんと竹見君は社会人らしくスーツを着用している。

 Tシャツとジーンズというラフな格好をしているのは玄野さんだけだ。

 彼は俺よりも年上で一行の中でも2番目の年長者なのだが、堅苦しい格好は苦手とのことで、普段からこんな格好で働いているらしい。

 まぁ俺も彼のことは言えないのだが。

 会社を辞めて自営業となった俺の格好は飾り気のないシャツにスラックスだ。

 この中では3番目の年長者だというのに威厳も何もあったものじゃない。


「こうして俺たちが集まるのもあの事故から実に1年振りだ。みんな元気にしていたか?」

「おいおい、月詠。その大袈裟な喋り方はどうにかならんのか?」

「仕方ないだろう、玄武。つい一年前まで俺は世界の命運を背負って戦う英雄をやっていたんだぞ」

「リーダー、ずるーい! あたしなんてほとんどなんにも覚えていないのにー!」

「記憶がなくなっているならそっちのほうが良かったんだよ、朱雀ちゃん」

「ぶー」


 彼らは俺とは違い、向こうでの記憶をほぼ失っている。

 かく言う俺も覚えているのはナイト=ロックウェルとして活動していた間の記憶だけであり、その前の勇者、そして神となった時の記憶に関してはもはやうろ覚えだ。


 俺たちは『こちらの世界で』一年前に高速道路の玉突き事故に巻き込まれた。

 運良く即死だけはしなかったものの、怪我を負い炎に焼かれる中で死を覚悟したことは覚えている。

 しかし俺たちは死ななかった。死ぬ直前、俺たちは謎の発光体の手によって異世界に勇者として送り込まれたのだ。

 そして送り込まれた世界を救ってくれという発光体の願いに応え、勇者として世界を守り、経験を積んで国を生み出し、時を掛けて神となって、最終的には世界を育てるシステムの一部となり、それが崩壊したことで、こうして元の世界に帰ってこれたのである。


 発光体いわく、これほど完璧に仕事をこなすとは思っていなかったので、褒美として死んだことをなかったことにしてくれたという。

 俺たちは8人揃って事故が起きた際に、道路から投げ出されたものの、高速の下に広がっていた畑のネットに引っかかることで奇跡的に一命をとりとめたということになり、こうしてこちらの世界での人生の続きを歩んでいるのだ。



 ちなみに召喚された時、俺たちはこちらの世界での姿そのままの格好で向こうの世界に降り立っている。

 そう、俺は事故の後、魂だけが異世界に召喚された転生者だと思い込んでいたのだが、実際には異世界転移した勇者であり、神となって世界を構築するシステムとなっていたところを、奇跡のネックレスの力で精神だけが引っ張り出されて死んだ赤子に乗り移っていたのだ。


 つまり異世界転生ではなく、異世界転移後の同世界転生だったのである。

 奇跡のネックレスには異世界から魂を呼び寄せる力などなかった。だが父さんと母さんの願いは、玄武の国を守護する闇の神ツクヨミに届き、そのツクヨミの核となっていた俺の精神を堕天機から引きずり出して子供の中に定着させたのだ。


 堕天機になった俺は、向こうの世界で神になるまでの記憶を無くしていたから、異世界転生と勘違いしたのである。

 それから先は知っての通りの人生だ。

 俺はナイト=ロックウェルとして新たな人生を歩み、知らず知らずのうちにかつての仲間たちの息の根を止めて回り、最終的にはロックの手で倒されることで向こうでの生活にピリオドを打った。

 そしてそれこそが俺たちの目的だったのである。


 スキルとステータスと魔石とモンスターを向こうの世界から排除すること。

 その過程でエネルギー源である俺たち堕天機を『倒してもらうこと』。

 俺たちはそのために神となり、堕天機となり、システムとなったのだから。



「それっすよ。一体何がどうなったらそんな結論に至るんすか」

「白虎、君の言葉遣いはもう少し何とかならないのか」

「相変わらず青龍はうるさいっすねぇ。天照の婆様を見習ったらどうなんすか?」

「あらあら、嬉しいことを言ってくれるわね、白石君」

「申し訳ありません天野さん。弟が失礼な口を」

「気にしていないわよ竹見君。それよりも2人はいつ見ても仲がいいのねぇ」

「両親が離婚して名字が変わったとはいえ、実の弟と仲を悪くする理由にはなりませんからね」

「そんな武御雷の優しさに氷美子んは惚れたんだよね~」

「久美子よ久美子、氷室久美子! もう朱雀ちゃん! 向こうの世界でのあだ名は忘れて頂戴!」

「やだ~」



 玄野武くろのたけし

 青柳龍子あおやなぎたつこ

 白石虎之助しらいしとらのすけ

 遠藤朱雀えんどうすざく

 天野照子あまのてるこ

 竹見数知たけみかずとし

 氷室久美子ひむろくみこ

 筑波良文つくばよしふみ


 あの時共に死にかけて、共に異世界に勇者として降り立ち、そして人を守って神となった8人はそんな名前をしていた。

 最初に向こうに飛ばされて自己紹介をした時、俺たちのあだ名はすぐさま決定した。

 なにしろ四神が揃っていたのだ。天照もあったし、残りの2人も漢字を変換すればどうにかそれっぽくなった。

 おかしかったのは俺だけだ。だが筑波の『つく』と良文の『よ』と『み』を使って月詠と呼ばれるようになり、いつしか俺はリーダーとなっていた。


 俺たちは謎の発光体の手により、非常に強力な力を与えられ、向こうの世界を旅して回った。

 そしてそう時を掛けずに気が付いたのだ。俺たちが送られた異世界は良くある中世ヨーロッパ文明など及びもつかないほどに文明の遅れていた世界だということに。


 俺たちは頑張った、それはもう呆れるくらいに頑張ったのだ。

 人を救い、集め、村を作り、町を作り、文化を教えて、戦う技術を伝えた。

 しかし彼らはそれらを使いこなせなかった。

 教えてすぐに覚えることができるほどの下地が出来ておらず、周囲の環境は過酷の一言。

 何より彼らの体は酷く弱くて脆かったのだ。

 多少の人数を救ったところで目を離すとすぐに死んでしまう。

 世界を回り、到るところでバラバラに暮らしていた彼らとコンタクトをとった俺たちは、このままでは彼らは遠からず絶滅するという結論に至った。


 俺たちに彼らを見捨てるという選択肢はなかった。

 この辺りは記憶が摩耗していたほとんど覚えていないのだが、どうやら俺たちは不老不死になっており、父のように母のように、そして神のように彼らを慈しんでいたようである。

 そんな彼らを救うにはどうすればいいのか。

 簡単だ、彼らを細胞レベルから改造して、あの世界に適合できるように作り変えてしまえばいい。

 そういう結論に至ったようなのだ。

 DNAとか遺伝子改造とかを知っている俺たち現代人だからこそ出てきた発想であった。


 俺たちは彼らを助けるために、自らの力を放出し、彼らを少しずつ改造していくことにした。

 一人一人捕らえて肉体改造をしていくという方式も取れないわけではなかったが、それでは変化が早すぎて、一代限りの特殊個体扱いされかねない。

 だから俺たちは世界中に分散して、謎の発光体から譲り受けた俺たちの力を世界に放出していったのだ。


 そうして彼らは少しずつではあるが力をつけ、体力をつけ、知能を付けて、世界に適合していった。

 しかしこの方法は世界中に魔素をばらまく行為であり、それは時に結晶化して魔石となり、そして魔石からはモンスターが生まれることとなった。


 この事態を受けて俺たちは再度集まり話し合いを行い、結論としてこのまま彼らの強化を続行するという結論になった。

 明確な敵がいたほうが種族としての進化を促すことになるだろうという素人考えに基づいた発想だったが、彼らはモンスターと戦うことで知恵をつけ、団結し、そして予想通り強くなっていった。


 そうして何百年か経った後、俺たちは「もう良いんじゃないか?」と思うようになった。

 彼らは充分強くなった。

 もはや俺たちの助けも強化も必要ない。

 それに俺たちはもう充分に生きた。

 そろそろ引退というか、人として眠りたいと思うようになったのだ。


 だがそれは不可能だった。

 俺たちは神であった時間が長すぎて、もはや死ぬこともできない体になっていたのである。


 だから俺たちは死ぬ方法を考え続け、そして1つの結論に辿り着いた。

 まず自我を保つためにセーブしていた力の放出を強化して、スキルやステータスといったゲームのような能力を使用可能とする。

 そこまですれば俺たちは俺たちの力を暴走させねばならず、俺たちの自我は崩壊し、もはや死に体同然となる。

 更に俺たちの力を同期させた堕天機という人工物を作成し、いつかこのシステムに頼ることのなくなった彼らが俺たちを壊してくれることを願って眠りにつくことにしたのだ。


 それは長い長い眠りとなった。

 長すぎてもはや誰も彼もが詳しい記憶を覚えておらず、最後は全員揃って世界のシステムと一体化していた。

 だがそのシステムにハロルド=ロックウェルとステラ=ロックウェルが干渉したことで歪みが生じて俺の精神だけが取り出されてしまった。

 俺は最後の最後でこのかつての俺たちの計画に気づき、ロックに殺されることで、向こうの世界からの脱出を果たしたのだ。

 向こうの世界でできた親友に最後に罪を背負わせる結果になってしまったが、あのまま残っていたら俺だけが神として永遠を生きる羽目になっていたのでロックには感謝している。



 向こうの人間たちを強化し、強化の副産物として生み出してしまった魔石やモンスターを排除し、彼らが自らの足で生きていくことこそが、この計画の狙いだった。

 その過程で、神となり死ねなくなった俺たちが死ぬように仕向けただけの話なのである。

 なにしろこうでもしなければ死ねない体になっていたのだ。

 最終的に向こうの戦死者は大変な数になってしまったが、それでも元よりも遥かに多いし、彼らはこれから先、スキルやステータスがなくても立派に生きていけるだろう。


 残酷な運命であることは間違いないが、神のやることだ、諦めて受け入れてもらいたい。

 俺は集まった仲間たちにそういう風に説明した。

 彼らはすっかり忘れていた自分たちの活動内容と、最終的に出した結論に驚いていた。

 だが最終的には受け入れていた。

 俺たちは向こうの世界に勇者として送られ、最終的には神様となった。

 だが俺たちは所詮は一般人なのだ。どれだけ経験を積もうが、何百年と生きようが、出来るのは神様の真似事だけで、真の神様にはなれなかった。


 恐らく俺たちは向こうの世界に送り込んだあの発光体こそが本物の神様だったのだ。

 真の神のやることは唐突で意味不明だが、しかし確かに効果があった。

 そして俺たちがやったことは神様の真似事だ。

 真似事ゆえに即効性はなく、迷ってばかりで、被害は甚大。

 それでもどうにか結果を得ることができたのだ。



 俺たちが本格的に世界のシステムとなろうとしていた頃、俺たちは連日連夜スキルの効果や内容を作ることを楽しんでいた。

 誰が初めに言ったのかは覚えていない。

 だが誰もが賛成したのだ。『勇者』を超えるスキルとして『一般人』を作ろうと。

 俺たちは勇者ではない、一般人だ。

 一般人だから間違えることも、やりすぎることもある。

 でも地道に努力を重ねていけば、いつかは勇者を超える日がくるのだという願いを込めて、俺たちは『一般人』というスキルを作り、スキルの更新というシステムを作り上げた。

 そして最後に俺を、勇者から神に至った俺を倒したのは『勇者』を失い、『一般人』を手に入れ、努力を続けた俺の親友だった。

 俺は満足し眠りについた。

 まぁそれなのにあの発光体が元の世界に戻したのは予想外だったのだが。



 一通り向こうの世界での流れを話したところで俺たちは解散した。

 あの日々を俺たちはもはやほとんど覚えていない。

 それでもあの日々は確かにあった。だからそれを忘れないように年に一回、事故が起きた日にこうして皆で集まることにしたのである。


 俺は喫茶店を出て、駐車場に止めてある車へと向かっていく。

 その背中に声が掛けられた。

 先程話した近況の中の一コマ、俺がこの話を小説にしようと思っているという話を聞いて、そのタイトルを尋ねられたのだ。

 だから俺はこう答えた。


 我が親友に感謝を込めて「勇者の隣の一般人」というタイトルにするのだと。



終わり

あとがき


これを持ちまして『勇者の隣の一般人』は終了となります。

終了というか打ち切りです。前作『堅実勇者』に続いて2回目になります。


元々は第六章までを第一部、そして10年後の世界を第二部とする予定でした。

しかし第六章の最終話を書いた翌日に書籍版の打ち切りのお知らせが届いたことで予定を変更することにいたしました。


作品を打ち切ることに迷いがないかと言えば嘘になるのですが、このまま書いていても途中で力尽きると考え、打ち切りを決定いたしました。

完結させずに放置するよりもきっぱりと終わらせたほうが良いという判断です。

読者の皆様にもご了承いただきたいと思います。


この作品は私にとって2回目の長編作品であり、始めて書籍化された作品でもあります。

おかげさまで多くの人に読んでもらい、たくさんの感想をいただくこともできました。

中には厳しい意見もありましたが、楽しい! や面白い! という感想を受け取った時はとても励みとなりました。ありがとうございます。


そして私の拙い作品を本にして世に出してくださった双葉社様には改めてお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございました。



次回作の構想はまだありませんが、次に書いた作品も皆様に楽しんでいただけたらなと思います。




それではまた、再び『小説家になろう!』でお会いしましょう!


2018年10月31日  髭付きだるま

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― 新着の感想 ―
[良い点] 想像を裏切る展開で驚いた。 [一言] 残酷な部分と残された家族に未練がないかと思いつつ、神となった一般人の精神は擦り切れていたんだなと自己納得。
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