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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第二章 修業編
16/173

第十五話 あれから8年

第二章開始します。


2017/06/16 サブタイトル追加&本文を細かく訂正

2017/07/14 本文を細かく訂正

 澄み切った空に、沢山の歓声が響き渡る。

 今日から2日間はこの町の、そしてこの国にとってのお祭りだ。


 明日はロックの18歳の誕生日。

 つまりロックがスキル授与の儀式を受けてから8年が経過したという事であり、

 それはつまり、明日はロックが勇者として旅立つ日という事なのである。


 俺はロゼと共に通い慣れた道を歩いている。

 ロックが18歳という事は、同い年の俺も18歳という事だ。

 俺はこの8年の間に、随分と背も伸び、体付きもガッシリとして来た。


 対してロゼは8年前のままだ。

 いや、正式には12年前のままの姿である。

 ロゼがスキル授与の儀式を受けてから既に12年。

 スキル『成長停止』の効力は未だ健在であり、彼女は10歳の肉体のまま22歳になっていた。


 あの頃と全く変わらない、可愛らしい姿。

 しかし、8年の歳月で彼女の凍りついた心は、とうの昔に溶解していた。



 「ほら、早く行くわよ。私達も来賓として呼ばれているんだから」

 「落ち着けよロゼ。まだ時間は十分にあるさ」

 「まったくもう! ナイトはのんびり屋なんだから!」


 彼女はプリプリと怒っている。

 しかしその腕は俺の左手に回されたままだ。

 8年前のつっかえつっかえ言葉を話していたロゼはもう居ない。

 彼女は肉体こそ10歳のままではあったが、心は既に立派な女性へと成長しているのだ。


 俺達は8年前から今日までの間、同じ部屋で過ごして来た。

 正確に言うと同棲してきた。

 婚約が正式なものだと分かってから3ヶ月後には恋人として過ごし始め、その頃からロゼ姉とは呼ばずにただ『ロゼ』とだけ呼ぶようになった。


 彼女が20歳になった頃、つまり2年前からは肉体関係にもなり、より一層結びつきは強くなっている。

 見た目は子供、中身は大人の女性と一線を越えるのには相当な覚悟が必要ではあった。

 だが、その頃には既に俺は一端の商人として自立し、金も実績も貯まっていたので、足りない物は彼女と共に歩む覚悟だけだった。

 そんな時、ロゼから『20歳になった記念として一線を越えたい』と提案を受けそれを受諾。

 男から行くべき状況を女性から来られてしまったが、この世界ではそんな慣習は無かったので、それ以来尻に敷かれながらも愛を育んでいる。



 俺達は祭のメイン会場である、闇の神殿前の広場へと向かっている。

 今日は祭りの前哨戦。

 そして明日がメインイベント、『勇者の旅立ちの儀式』の開催日なのだ。


 8年前の魔族の襲撃から今日まで、玄武の国の上層部はロックとアナの周囲に厳重な警護を敷いて、その成長を見守って来た。

 お陰でこの8年間、玄武の国の中では目立ったトラブルは起こっていない。

 結局魔族の襲撃は8年前のあの時だけだった。

 やはりあの二人の独断専行だったのだろうと結論付けられていた。



 しかし他国では様々な状況が起こっていた。



 朱雀の国では光の勇者が大活躍しており、一時期北の魔王軍を壊滅寸前まで追い詰めたらしい。

 しかし目当ての魔王には今一歩の所で逃げられたそうだ。

 理由は朱雀の国のもう1人の勇者である火の勇者にあるという。


 火の勇者は、ロックよりも7つ年上の25歳。

 スキルも充実しており、火の勇者だけあって才能もあるそうだが評判は良くない。

 理由は兎に角、やる気が無いからだ。


 火の勇者は勇者として世直しの旅に旅立つこともせず、普段から取り巻き連中と一緒に酒にタバコに女にと遊び回っているらしい。

 何でも光の勇者が凄過ぎてやる気が無くなったと周囲に漏らしているそうだ。

 だが、俺が仕入れた情報では、火の勇者の育成を任された貴族の影響が強いのだという噂がある。

 その貴族は、朱雀の国の中での勢力争いに勝ち、幼い火の勇者を手に入れた。

 そしてまだ幼かった火の勇者に対して、自分の都合の良い事ばかりを有る事無い事吹き込んで、勇者らしくない駄目人間に育ててしまったという。

 朱雀の国の上層部が気づいた時には火の勇者は駄目人間街道まっしぐらな状況であり、現在に至っても改善はされていないらしい。


 そんな火の勇者であるから、光の勇者と共に魔王軍と戦っても碌に戦えなかったそうだ。

 勇者だけあってスキルは充実している。

 勇者だけあって才能は突出している。

 だが、どれだけスキルや才能に恵まれていても、磨かなければゴミと同じだ。

 雑魚を相手に無双はできても、真の実力者である魔王やその側近を相手どった際にはまるで通用しなかったそうだ。

 結果として、対魔王軍戦において火の勇者が担当していた箇所が抜かれてしまい、魔王を取り逃がしてしまったという。


 朱雀の国の駄目勇者。

 それが火の勇者の二つ名である。


 朱雀の国の本物の勇者。

 それが光の勇者の二つ名である。




 青龍の国と言えば、氷の勇者が活躍している。

 氷の勇者はまだ16歳であり、ロックよりも2歳も若い。

 奴は15歳、つまり去年から勇者として働き始めているのだ。


 その原因は青龍の国のもう1人の勇者である、水の勇者にある。

 水の勇者は光の勇者とは違う意味で有名だ。


 水の勇者は女性であり、今年で30歳だという。

 水の勇者は平和主義者であり、誰とも戦いたくないという。

 水の勇者は読書が好きだ。

 水の勇者は眠ることが好きだ。

 水の勇者は芸術が好きだ。

 彼女のスキルには戦闘系スキルが殆ど無いという。

 だから水の勇者は勇者であるにも関わらず、青龍の国の図書館に篭り、本ばかり読んでいるそうだ。


 彼女が勇者として活動したのは僅かに数日。

 その数日で『勇者』のスキルを最大値まで上げ、他の役に立つスキルを必要な値まで上げた後は、彼女は一切戦っていない。

 青龍の国の上層部がいくら頼んでも梨の礫だそうだ。


 おかげで青龍の国ではモンスターの被害が減らないらしい。

 しかしその事を聞いても彼女は動かない。

 「勇者頼みのこの世界がおかしいのよ」とは彼女のセリフだ。

 妙に納得してしまうのは俺が転生者故なのか。



 まぁ水の勇者の言うことも分からないでもない。

 青龍の国は国土の大半が氷河に覆われた過酷な土地だという話だ。

 一般兵達はそのような場所で戦っているため基本的に強いらしい。

 しかし逆に一般市民は大変だという。

 彼らは過酷な土地で生き延びるために勇者への依存度が他の国よりも強くなり、つい最近までは信仰の域に達していたのだ。


 その為、他の国よりも勇者を求める声が強く、まだ成人前であった氷の勇者がフライング気味に活躍する羽目になったのだ。

 しかしいくら勇者とは言えまだ16歳。

 失敗も多く、やり過ぎることも多いそうだ。

 それでも着実に実績を積み重ね、今では光の勇者に継ぐ程の知名度を誇っている。



 青龍の国の不動(動かないという意味で)の勇者

 それが水の勇者の二つ名である。


 青龍の国の若きホープ

 それが氷の勇者の二つ名である。




 白虎の国では2年前に遂に勇者が見つかったそうだ。

 そう、何と2年前まで白虎の国には勇者がおらず、居場所の特定すら出来ていなかったのだ。


 しかし勇者は遂に見つかった。

 見つかった勇者は風の勇者と雷の勇者。

 彼らは、白虎の国の山奥の村の更に奥、人の住まない未開の地にて発見された。



 人の住まない未開の地に何故人である勇者が居たのか?

 それはモンスターに育てられていたからだ。

 風の勇者と雷の勇者はモンスターに育てられた捨て子だったのである。


 彼らを『発見』したのは白虎の国で活動しているモンスターハンターの一団だった。

 珍しいモンスターが山奥の更に奥で暴れ、今までそこを縄張りにしていたモンスター達が山奥の村へと押し寄せて来たと連絡があったのが3年前。

 そしてそのモンスターを脅威と捉え、白虎の国の上層部は退治を決定した。

 国の兵士を動かすには遠すぎると考えた上層部は、有名なモンスターハンターの一団に討伐を依頼。

 彼らは依頼通りモンスター達を蹴散らし、山奥の村の更に奥まで向かった先で、モンスターに育てられ野生化していた幼い勇者達と遭遇した。


 通常、いくら有名なモンスターハンターの集団であっても勇者の相手はまず不可能だ。

 しかしこの勇者達はスキル授与の儀式を受けておらず、レベルは0のままであった。

 モンスターハンター達は倒そうと思えば倒せたらしい。

 しかし幾ら何でも勇者の印が額に輝く本物の勇者を殺害する訳にはいかないと、生け捕りにしようとして苦戦をしていたそうだ。


 彼らを育て上げたのは、山奥の村の更に奥を統括していたモンスター。

 魔族になる寸前まで透明度が下がった『モンスターオウル』だったそうだ。

 森の賢者とまで言われる『モンスターオウル』の薫陶を受けた勇者達はあの手この手でモンスターハンター達に戦いを挑み、モンスターハンター達は生け捕りを諦めて撤退した。


 その後、報告を受けた白虎の国の上層部は国を挙げての山狩りを行い、勇者達を生け捕ることに成功したという。

 その際モンスターオウルは体を張って幼い勇者達を守ろうとしたらしい。

 そして勇者達も死ぬ寸前まで追い詰められたモンスターオウルを助けようと死に物狂いで抵抗したそうだ。


 結局その場の責任者が、『育ての親の命は助けるから黙って着いて来い』と二人を説得し、風の勇者と雷の勇者は白虎の国の王宮へと連れて来られたそうだ。

 その際、モンスターオウルの悲しげな声がいつまでもいつまでも山道にこだましていたという。


 この余りに衝撃的な話は、今や世界中の吟遊詩人や劇作家の手によって世界各地に広まっている。

 ちなみに王宮に着いた二人は、到着するなり王様をぶっ飛ばし、貴族もぶっ飛ばし、晩餐会の食事を素手でむさぼり食って、王宮を阿鼻叫喚の地獄に変えたという。

 結局二人は未だにスキル授与の儀式を行ってはいないそうだ。

 『人間らしさを身につける前にスキルを授けさせる訳にはいかない』という判断らしい。

 実に懸命な判断である。


 それと二人の両親だが、白虎の国の山奥にある別々の村に住んでいた2組の夫婦だったそうだ。

 まともな教育も受けてこなかったこの夫婦達は、勇者の印を見て『子供に魔族が宿った』と勘違いし、それぞれ別々の時期に山の奥に生まれたばかりの子供を捨ててしまったのだそうだ。

 それを聞いた白虎の国の上層部は、国中の町や村に教師を派遣し、必要最低限の知識を国民に広め始めた。

 すると、相当数の国民がまともな教育を受けていないことに気づき、現在教育制度の改革に着手し始めている。

 その為に去年から、玄武の国へと白虎の国の特使が派遣されて来ている。

 この世界で最も教育制度が進んでいる国は玄武の国だからだ。


 彼らに血の繋がりは無いが、二人は自分達は兄弟だと認識しており、周りもそれを認めている。

 と言うか、兄弟扱いしないと怒って襲い掛かってくるのだそうだ。

 幼い頃から共に育った相手を大切にしているのだろう。



 白虎の国のモンスターに育てられた野生児兄弟。

 これが風の勇者と雷の勇者の通り名である。



 そんな風に他国の情勢について思いを馳せていると、何時の間にやら闇の神殿が視界に入ってきた。

 神殿前の広場は多くの人でごった返している。

 俺達はそれを迂回して進んで行く。

 俺達の目的地は闇の神殿の前に設置された、特設ステージの上だからだ。


 そこには既に多くの来賓の姿があった。

 国王陛下とエリック先生。

 闇の神殿の神殿長のばっちゃん。

 父さんと母さんと弟のライ。

 ガイアク大臣やロリコーン伯爵も参列している。

 その他、他国からの招待客やら世界を股にかける大商人やらが勢揃いだ。

 それだけ勇者の旅立ちの儀式は注目されているのである。


 父さんやライには黄色い声援も飛んでいる。

 父さんはこの8年で着実に実績を積み重ね、副将軍から将軍へと昇格。

 そしてライは若手のホープの1人として名が売れ始めていたのである。

 家族としてとても誇らしいことだ。


 そんな事を思っていると、何時の間にやらステージの裏へと辿り着いた。

 俺は警備に就いている兵士に挨拶をしてステージの上へと上がって行く。

 そして俺とロゼがステージに登場すると、広場から歓声が爆発した。



 「うおおおぉぉぉ! 町長ー!」

 「社長ーーー!!!」

 「ロゼッタ様ーーー!!!」

 「ロゼッタ王女ーー!! 愛していますーー!!」

 「誰だ今のセリフは! 殺すぞコラァ!!」

 「若奥様ーー!!」

 「兄ちゃーーん!!」

 「先生―ー!!」

 「園長せんせー!」

 「キャー!! ナイト様! こっち向いてーー!!」

 「副園長ーーー!!」



 凄い熱気と歓声だ。

 音が現実の圧力となってステージに襲い掛かって来ている。

 参列している来賓達は驚く者、顔を顰める者、そして誇らしく胸を張る者と様々だ。

 俺とロゼはしばらく歓声に応える為に手を振っていた。


 それからしばらくして、ようやく歓声が落ち着いた頃に、俺達は用意された席へと移動する。

 そしてこんな状況に陥った原因を考え、1つの結論に辿り着いた。


 俺はどうやら『やり過ぎた』らしい。


 俺はこの8年間に起こった出来事を思い返すのだった。

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