第百三十三話 戦勝式その3
ロゼが行ったスキルの更新。
その衝撃の結果に会場の興奮が冷めやらぬ中、俺はロゼと入れ違いでジェイクの待つ鳳凰競技場のメインステージへと上がっていく。
そこから上に顔を向ければ、朱雀の国の上層部を牛耳る腐敗貴族たちを力づくで排除し、彼らが座っていた席に腰掛けた青龍の国の一行の姿がよく見えた。
女性の体の上で踏ん反り返っているサム。
サムを体の上に載せたまま微動だにしない2人の女性。
エースは相変わらず口を塞がれており、エースの口を塞いでいるのは、確かにナインのようであった。
その他の人員は僅かに6名。
となると、その内訳はキング+5人といったところか。
ひょっとしたらあのエースに惚れていたムツキとかいうサムの元婚約者も入っているのかもしれない。
だが顔が見えないため、断定はできない。
そもそもどうして彼らは揃いも揃って深々とフードなんぞを被っているのだろう?
サムに至っては女性たちとローブが交差して、融合しているような見た目になってしまっているじゃないか。
そんなことを考えていると、ざわめきが収まるまで待つつもりなのか、ジェイクが話し掛けてきた。
「いや、驚いたな。本当に驚いたよ」
「ロゼが新たに授かったスキルはそんなに凄かったのか? 実はサムたちの出現に気を取られて見ていなかったんだが」
「いや、そっちではない。確かにロゼッタ姫のステータスは破格なものとなったが、勇者を知っている私としては正直物足りない気分だ」
「じゃあ何にそんなに驚いたんだ?」
「サムと共にやってきた女性に驚いたのだ。一人は初めて見る顔だが、もう一人のほうが見知った顔でね」
「へぇ、あんな真似をされて黙っているなんて一体どんな女性なんだ?」
「水の勇者だ」
「何だと?」
「サムが体を横たえている女性の内一人は間違いなく青龍の国の水の勇者なのだよ」
ギョッとして俺はサムと共にいる女性へと目を向けた。
彼女たちの姿はローブに隠され、その全貌はうかがいしれない。
僅かに顔の部分が覗けるくらいであり、一人はサムと同じく光り輝く青い瞳と髪を持ち、もう一人は水色の瞳と髪をしていた。
そして俺はどちらの顔にも見覚えがなく、額も隠れているために勇者の印も確認できない。
だがジェイクが言うのならばそれは間違いないことなのだろう。
となると、髪と瞳の色から判別して、水色のほうが水の勇者ということになる。
青龍の国の水の勇者。
彼女はある意味ではあまりにも勇名な人物であり、同時に全く詳細のしれない人物でもあった。
勇者としての活動期間は僅か数日しかなく、以降は青龍の国の図書館に閉じこもり本の虫と化しているという噂を聞いているだけだ。
サムの早めの勇者としての活動開始の説得と並行して、彼女の活動再開についても青龍の国はアプローチしていたと聞くが、結果は芳しくなかったという。
そんな水の勇者が戦勝式にやってきた?
しかもサムに付き従う形で?
一体何がどうなっているんだ?
魔王を討伐してから僅か3ヶ月、青龍の国に一体何が起こったというのだろうか。
「彼女の正体に関しては私とテルゾウがかつて青龍の国へと出向いた際に図書館を訪れて直に顔を合わせているから間違いはない。本当に驚いたな、一体どうやってあの堅物をあそこから引っ張り出したんだか」
「俺としてはそっちよりも、サムのあの態度のほうが気になって仕方がないんだけどな。さっきのエースの絶叫といい、まさかとは思うが昔のアイツに戻ってしまったんじゃないかと心配でたまらないよ」
「ほほぅ? これはひょっとすると、かの伝説の必殺技を拝めるのかね?」
「止めてくれ。俺だってあれはやり過ぎたと思っているんだ。そうそう弟の息子を握りつぶすわけにもいかないさ」
「しかしいざという時は?」
「……まぁその時は偉大なる氷の勇者様に幼少期のトラウマを思い出してもらうことになるだろうけどな」
「一人の劇作家としては是非とも期待したいところだねぇ。っと、そろそろいい頃合いだな。ではスキルの更新を行ってくれたまえ」
「りょーかい」
ジェイクがマイクを持ち、これから俺のスキルの更新が開始されると告げる。
ざわめき続けていた観客たちはあっという間にお喋りを止めた。
彼らは先程目の前で行われた衝撃の展開をもう一度見ることが出来るのだと期待に目を輝かせている。
俺はジェイクから離れ、ゆっくりとステージの中央へと近づいていった。
そして頭の中でスキルの更新を念じると、例によって更新の可否を問われたので当然の如くYESと答える。
そうしてロゼと同じく俺の人生のダイジェスト映像が映し出された。
その映像は最初と最後はほぼ同じ内容だ。
だがカメヨコ村で別れた後からは内容が変わっていた。
男ばかりの4人パーティーでの冒険の旅路
南ヤマヨコの町で頼まれた山賊退治の時の変装
老師とハヤテとデンデとの出会い
ヤマモリの町解放戦とその後の復興
ダンジョンに潜って罠の解除をしまくった修練の日々
魔王討伐へ向かう前のエルとの一夜
カワヨコの町での朱雀の国の兵士との戦い
懐かしくも輝かしい俺のこの数ヶ月の冒険の日々が大画面に映し出されている。
ちなみに朱雀の国を移動中、アナたちと入った温泉の様子は映し出されなかったので正直ホッとした。
そうして俺の人生の上映は終了となった。
いよいよ俺の2回目となるスキルの更新が開始されたのである。
〈ナイト=ロックウェルのスキルの更新を開始します。
現在のスキル帯はレベル5、スキルの数は15です。
更新特典としてスキル帯をレベル6へと変更します。
新たに6つのスキルが与えられます。
但し、更新されるスキルがある場合にはそちらが優先されます。
・スキル『有名人』はスキル『上級者』に更新されました。
スキル『上級者』を入手しました。
レベルを1つ上げるごとに全ステータスが32上昇します。
・スキル『中級商人』の更新スキルの判定を開始します。
更新スキル名『行商人』
『商人として5年以上のキャリアが必要です』クリア。
『10以上の町や村で合計100人以上を相手に商売をしていること』クリア。
更新スキル名『迷宮商人』
『商人として5年以上のキャリアが必要です』クリア。
『迷宮内で合計100人以上を相手に商売をしていること』クリア。
更新スキル名『上級商人』
『商人として10年以上のキャリアが必要です』エラー。
『自らの名を冠する店舗が10以上必要です』エラー。
『雇用している従業員の数が100人以上必要です』エラー。
スキル『中級商人』はスキル『行商人』及び『迷宮商人』に更新されました。
スキル『行商人』を入手しました。
レベルを最大値まで上げると、『屋台』を召喚することが可能となります。
これはアイテムボックスとは別枠扱いとなります。
スキル『迷宮商人』を入手しました。
レベルを最大値まで上げると、迷宮の中で品物の仕入れを行う事が可能となります。なお仕入れを行う場所の深さにより仕入れ値は変動します。
・スキル『毒薬師』の更新スキルの判定を開始します。
更新スキル名『上級薬師』
『薬師として10年以上のキャリアが必要です』エラー。
『これまでに作成した毒薬を超える量の解毒薬を作成していること』エラー。
スキル『毒薬師』はスキルの更新の要件を満たしませんでした。
スキルの更新は次回に持ち越しになります。
更新できない代わりに、新しいスキルを追加でもう一つ手に入れることになります。
スキル『毒薬師士』はロックされました。
・スキル『中級罠師』の更新スキルの判定を開始します。
更新スキル名『迷宮罠師』
『罠師として5年以上のキャリアが必要です』クリア。
『迷宮内において、10種類以上の罠を100回以上解除していること』クリア。
『迷宮連続滞在時間が100時間を越えていること』クリア
スキル『中級罠師』はスキル『迷宮罠師』に更新されました。
スキル『迷宮罠師』を入手しました。
レベルを最大値まで上げると、迷宮内であれば何処であっても罠の設置が可能となります。また、迷宮内に限り全ての罠を見破ることが出来るようになります。
・スキル『積み重ねし過去』に更新スキルは存在しません。
更新できない代わりに、新しいスキルを追加でもう一つ手に入れることになります。
スキル『積み重ねし過去』はロックされました。
・スキル『先生』の特殊更新判定条件の達成を確認しました。
スキル『先生』の更新スキルの判定を開始します。
更新スキル名『勇者の先生』
『生徒の中にスキル『勇者』の持ち主が存在すること』クリア
『一対一の戦いで勇者に勝利を収めていること』クリア
『生徒である勇者の信頼を得ていること』クリア
スキル『先生』はスキル『勇者の先生』に更新されました。
スキル『勇者の先生』を入手しました。
レベルを最大値まで上げると、生徒である勇者のステータスの1/10が加算されます。また生徒の中に勇者が増える度に効果は重複します。
更新スキルは以上です。
新たなスキルを獲得するためにライフルーレットを開始します〉
最後に物凄いスキルが追加されたぞ!
勇者の先生って! ステータスの1/10が加算って! おまけに効果が重複って!
能力の効果が半端ではないが、判定基準もまた凄まじい。
勇者相手に一対一で勝利した上で信頼を勝ち取れってこれ、普通だったら絶対に不可能な条件じゃないか。
俺の生徒の中にはサムがいる。
俺は初対面の際にサムを倒したが、サムからの信頼もまた得ていたのか。
あのタートルの町での日々が無駄ではなかったのだと証明されたようでなんというか感無量だ。
そしてその生徒の中には将来的にハヤテとデンデも加わるかもしれない。
ということは、ということは!
上手く行けば3000以上の追加?
現時点でも900~1000の追加?
これは……来てないか? 俺の時代が。
現時点でももう十分に俺の時代の到来と言っても良いのではないか?
そんなことを考えていたらいつの間にやらライフルーレットは終了していた。
針が示したスキルの名は『探索者』であった。
〈スキル『探索者』を手に入れました。レベルを最大値まで上げることによりダンジョン内でオートマッピングが発動します。ただしダンジョン以外の地下道や洞窟では発動しません〉
……俺の時代はまだ来なかったようだ。
勇者の先生の凄まじさに一瞬我を忘れてしまったが、迷宮商人に迷宮罠師、そして探索者ってどれだけ迷宮特化のスキル構成なんだよ!
確かに潜っていたけれども! 結構長い間潜り続けていたけれども!
そのうち役に立ちそうなスキルではあるけれども、これっていわゆるスポット参戦キャラが持つスキル構成なんじゃないのか?
ヤマモリの町でお世話になったミスターとかなら持っていても不思議じゃないよなこのスキルは。
なんとなく素直に喜べないままに俺のスキルの更新は終了した。
後はストックされた経験値の配分が済めば終了だ。
俺を含めた全員が、俺の頭上に展開されている巨大スクリーンに注目した。
だがその結果を見た俺たちは、揃って首を傾げることになったのだった。
〈ナイト=ロックウェルのレベルを初期値へと戻します。LV50⇒LV0
ステータスが以下のように変更となります。
『名前:ナイト=ロックウェル
LV50⇒LV0
*スキル『町長』の能力により、基本ステータスが4倍にアップ
*スキル『先生』の能力により、教え子たちのステータスの平均が、基本ステータスに加算される
HP:88+165=253 253/253
MP:40+156=196 196/196
力:72+164=236
頑強:88+165=253
素早さ:72+139=211
心力:80+150=230
運:40+133=173
所有スキル(ロック):『一般人LV10』『初心者LV10』『努力家LV10』『中級者LV10』『商人LV10』『中級商人LV10』、『薬師LV10』『中級薬師LV10』『罠師LV10』『町長LV10』
所有スキル:有名人LV10、毒薬師LV10、中級罠師LV10、積み重ねし過去LV10、先生LV10
特殊能力:アイテムボックス1,100個、薬レシピ入手残り9、薬材料入手、毒薬材料入手、罠材料入手、罠の自動設置』
経験値のストックが存在しています。
確認しています。
……
……
確認しました、レベル18までレベルを上昇させることが可能です。
なおスキル更新の特典として、レベルアップ時のステータスの上昇値が1上昇します。(5⇒6)
自動配分を開始します。
スキル『勇者の先生』がレベル10になりました。
スキル『上級者』がレベル8になりました。
現在のステータスは以下のようになっております。
『名前:ナイト=ロックウェル
LV0⇒LV18
*スキル『町長』の能力により、基本ステータスが4倍にアップ
*スキル『先生』の能力により、教え子たちのステータスの平均が、基本ステータスに加算される。
*スキル『勇者の先生』の能力により、生徒『サム=L=アイスクリム&フローズン・クイーン』のステータスの1/10が加算される。
( 『一般人』による上昇値:10
『初心者』による上昇値:20
『努力家』による上昇値:40
『中級者』による上昇値:80
『有名人』による上昇値:160
『上級者』による上昇値:256
『勇者の先生』による上昇値:3016
レベルアップによる上昇値:108
合計:3690)
HP:253+3690⇒3943 3943/3943
MP:196+3690⇒3886 3886/3886
力:236+3690⇒3926
頑強:253+3690⇒3943
素早さ:211+3690⇒3901
心力:230+3690⇒3920
運:173+3690⇒3863
所有スキル(ロック):『一般人LV10』『初心者LV10』『努力家LV10』『中級者LV10』『有名人LV10』『商人LV10』『中級商人LV10』『薬師LV10』『中級薬師LV10』『毒薬師LV10』『罠師LV10』『中級罠師LV10』『町長LV10』『先生LV10』『積み重ねし過去LV10』
所有スキル:上級者LV8、行商人、迷宮商人、迷宮罠師、勇者の先生LV10、探索者
特殊能力:アイテムボックス1,100個、薬レシピ入手残り9、薬材料入手、毒薬材料入手、罠材料入手、罠の自動設置』
スキルの更新は以上です。
次回はレベル60で更新が可能となります〉
……
…………
………………
……あれ?
何だこれ? おかしくないか?
目をこすり、深く息を吐き、もう一度巨大スクリーンに目を向ける。
結果は変わらず、俺のステータスは全てにおいてロゼを越えていた。
つまり俺はこの時点で勇者に次ぐ実力者となったのだ。
いやいや、待て待て、おかしいおかしい。
そもそもこれまで真っ先に経験値の配分がされていた一般人からの更新スキルである上級者が後回しにされて、勇者の先生が先に更新されたのはどういうわけだ?
簡単だ、これはステータスがより高くなる方を優先的に更新しているだけなのだろう。
単純な疑問は一瞬で解けた。
では次の問題だ。
『勇者の先生』による上昇値が3016って一体何の冗談だ。
そもそもサム=L=アイスクリム&フローズン・クイーンって一体何処のどちら様のことだよ。
サムだよな、サムしかいない。サムの名前が増えているってことはあれか? あいつまさか結婚したのだろうか。
そう考えればあの2人の女性についても納得がいく。
何が起きたのかは分からないが、サムは青龍の国で結婚し、名前にフローズン・クイーンと追加されたのだろう。
なんだがアイスクリームメーカー同士の合併のようだ。
「サムエル=アイスクリム社とフローズン・クイーン社はこの度合併することとなり、サムエル=アイスクリム&フローズン・クイーン社となります」とかな。
どちらの名前も残したいからと、無理やり名前繋ぎ合わせたおかげで、長くなりすぎた面倒臭い会社名みたいだ。
だがそれでは上昇値の説明がつかない。
載っている名前はサムだけなのに、上昇値は3000超え。
これって要するにサムのステータスが3万を越えているってことになるじゃないか。
そもそもサムはあの謎の耐性スキルのおかげでステータスがバラバラだったのに、全部揃って同じ上昇値ってどういう事だ。
何らかのマジックアイテムを使っているのか?
それともまさかこの短時間でスキルの更新を行ったのだろうか。
俺はサムの方を見た。
ありえない結果を示し続けるスクリーンから目をそらし、青龍の国一行が座る座席へと視線を向けたのだ。
だがその時、俺の目に映った光景を見て、俺の脳は反応を停止してしまった。
その場にいた青龍の国一行は、いつの間にか全員、席から立ち上がっていた。
そのうち何人かは着ていたローブを脱いでいた。
そしてその中の2人は観客席から文字通り飛び出しており、アナたち闇の勇者一行が待機している場所へと向かっていた。
その2人はエースとキングであった。
もっとも、エースは全身を金色に輝かせ「逃げろー!」と絶叫しながら冗談のように肥大化した拳をアナたちへと振り下ろしており。
キングはV○なのかフ○ーダムなのかは知らないが、とにかくシャインのように全身で発光しながらビーム砲のように光魔法をぶっ放し、それも同じく一直線にアナたちの下へと向かっている。
そしてその時サムの前では水の勇者が心臓を握りつぶされていた。
握りつぶしているのはサムと共にいたもう1人の女だ。
彼女はその細腕を用いて水の勇者の体を刺し貫き、心臓を抉り出して、俺たちに見せつけるようにして勇者の心臓を握りつぶしていたのである。
その時サムは女と共にいた。
いや、ここに到着した当初からサムは常に女と共にいたのだ。
共にいて当たり前である。何しろサムの体は女の体と融合していたのだから。
女の腹からはサムの腰から下、つまり下半身が生えており、上半身は背中側だ。
サムの頭は自然後ろを向く格好になってしまうので、その表情は伺いしれない。
女は真っ直ぐに立っているのに、サムの体はエビ反り状になっており、足は地面から浮いていた。
腕はどうやら紐か何かで縛っておいて、垂れ下がらないようにしているようだ。
ああ成程、あんな状態だったのならそりゃあ席には座れないだろう。
だからあんな風に席の上でふんぞり返っているように見えたのか。
俺は更生した実の弟が、再び道を外したのではなかったことにホッと息を吐くところであった。
だがその瞬間に聞こえてきた叫びが俺を現実へと引き戻した。
「ご主人!」
「マスター!」
ゲンとヨミの切羽詰まった声が俺の視線を移動させる。
雨あられと降り注ぐ光魔法の直撃を受け、ゲンとヨミは体をバラバラに引き裂かれて消滅した。
そしてアナたち3人は、エースの一撃は避けたものの、その攻撃により砕けた地面の下へと落ちていった。
もちろんアナは闇の勇者だ。彼女は咄嗟にロゼとエルを両手に抱え、崩れ行く足場を伝って脱出を試みる。
だがそうはさせじとエースの追撃がアナへと迫る。
何故かエースは「防御しろぉ!」と大声で指示を出しており、足場の悪さとエースの攻撃の大きさを見て避けることは不可能と判断したのだろう、アナは2人から手を離して直撃を受けた。
それが決定打となったようだ。
アナたち3人は揃って俺の前から消えてしまった。
土煙が舞っているおかげで見えにくいが、どうやら間違いないようである。
俺の婚約者3人と2人の天使で構成された闇の勇者一行は、エースとキングの奇襲攻撃により鳳凰競技場から姿を消してしまった。
ここまでが一連の流れだ。
あっという間の出来事であり、反応できた者などほとんど誰もいなかった。
ほとんど誰もいなかった、つまりほんの僅かではあるが反応できた者は存在していた。
その中の1人、光の勇者テルゾウ殿と共にあらゆる危機を乗り越えてきた光の勇者の唯一の供、劇作家ジェイクの反応は素早かった。
彼はすぐさま俺と合流を果たし、持っていたマイクの音量を最大に上げて「逃げろー!」と絶叫を繰り返している。
そこにエースの魔の手が迫る。
俺はジェイクの体を抱きかかえ、間一髪でその攻撃を回避した。
しかしその時にジェイクの持っていたマイクが手から滑り落ちてしまう。
そのマイクはエースの手の中へと収まった。
どうやらエースの目的は攻撃ではなく、マイクを手に入れることにあったらしい。
そしてマイクを手にしたエースは声を大にして報告を開始した。
それは世界の崩壊を告げる絶望的な内容であった。
「青龍の国に封印されていた氷の大魔王が復活した! 氷の勇者サムは敗れた! 青龍の国は滅んだ! 全員今すぐこの場から逃げろ!」
これにて連続更新を終了します。
次回からまた週一での更新に戻ります。




