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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第五章 戦勝式編
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第百三十二話 戦勝式その2

 鳳凰競技場の端に着席していた俺たちがスキルの更新を行うために競技場の中心部、つまり鳥の体の前にまで移動するには多少の時間が必要だった。

 俺とロゼはアナとエルとゲンとヨミと共にジェイクが待つ競技所のメインステージへと向かっている。

 当初の予定ではスキルの更新を行う俺とロゼだけで移動するつもりであったのだが、朱雀の国の者たちが何か仕掛けてくる可能性も否定できないので、護衛として闇の勇者一行が付いてくることになったのだ。

 ちなみに火の勇者殿との因縁が出来てしまったロックは留守番である。

 俺だけが1人、土の勇者のパーティーから離れることになったのだ。


 俺たちは競技場のど真ん中をメインステージへと向かって歩いて行く。

 そこからは競技場の羽の部分に設置された座席に座る朱雀の国の貴族たちの様子がよく見えた。


 彼らの俺たちを見る目付きは中心部へと近づくに従って険しいものへと変化していく。

 この競技場の一番良い席に座っているのは、朱雀の国の上層部に存在する腐敗貴族たちであり、彼らに近ければ近いほど中心部付近に着席している。

 つまり俺たちが座っていた競技場の端にいればいるほど、彼らとは距離を置いている者たち、すなわち良識派の貴族であることとなる。

 だから臆せずにど真ん中から中心部へと向かって行く俺たちは、この国の腐敗の中心へと突撃していく勇者のようにも見えたのだろう。

 スキルの更新をするためだけに向かっているにも関わらず、俺たちの背後からはなぜか応援の声援が途切れることはなかった。


 そうして到着した俺たちはジェイクに出迎えられ、打ち合わせ通り早速スキルの更新を開始した。

 あまり時間を掛けていると何らかのイチャモンを付けられる可能性もあるし、正直こんな事は早く終わらせて、とっととこの最悪な戦勝式を終わりにしたかったのだ。


 この会場は元々はこの町に存在した光の神殿を改修して作られた競技場であるという。

 だからここではスキルの更新が出来るのだ。

 逆に言えばここでなければこの町の住人はスキルの更新が行えない。

 そして腐敗貴族たちはこの競技場を一般市民には開放していないため、通常この町ではスキルの更新を行えない。

 流石にスキル授与の儀式ばかりは禁止していないらしいが、スキルの更新が行えないのならば以降の成長は不可能となる。

 他の町へ出向くという手もないわけではないが、誰だって一番近い場所で更新を行いたいに決まっている。

 ジェイクはこの競技場の開放とスキルの更新の認知度の上昇、そしてこのままの状態では他国との差が広がってしまうという危機感を上層部に持ってもらうことを狙って、俺たちにこの場でスキルの更新をすることを頼んできたのだ。


 まず初めにロゼがスキルの更新を行うこととなった。

 身分差の激しい朱雀の国で行うわけであるから、俺よりも身分の高い王族であるロゼからのほうが文句も出ないだろうと考えたわけである。


 ロゼは会場の真ん中におもむき一度目を閉じた。

 途端に彼女の上にいつもの巨大スクリーンが登場し、勇者の供の選別の日以降の彼女の人生がダイジェストで映し出されていく。


 天使を名乗る謎の二人組、ゲンとヨミとの邂逅

 幼馴染との酒盛りと翌日の国王陛下からの説教

 勇者の旅立ちの儀式とカメヨコ村での歓迎

 タートルの町での引き継ぎと孤児院の子供たちとの涙の別れ

 冒険に出発してからの戦いの日々

 北ヤマヨコの町で発生したエルを巡る騒動

 ダンジョンに潜り続け、偶然魔王を発見してしまったヤマカワの町での思い出

 シャインとの意外過ぎる出会い

 テルゾウ殿との戦いと魔王軍との死闘

 そして魔王討伐の後の忙しくも充実した日々と朱雀の国での冒険


 ロゼの体験した短くも濃い数ヶ月の人生経験を見た観客たちは驚き、感心し、そしてそれをなし得た女性の見た目が幼いことに思い至って驚愕するのだった。

 ロゼが成長停止の呪いから解放されてからまだ一年も経っていない。

 だからロゼの肉体年齢は未だ10歳のままであるので、子供がこの激しい戦いの日々を潜り抜けてきたように見えたのだ。


 そうして映像は終わり、いよいよロゼのスキルの更新が開始された。

 だが俺の意識はそこから逸らされることになってしまう。



「氷の勇者であらせられるサム=L=アイスクリム様のおなーりー!」


 その声がメインステージに響き渡った瞬間、ロゼから視線を切って声のした場所へと顔を向けてしまった俺のことを一体誰が責められようか。

 自分の顔の筋肉が変な動きをしていることを自覚せざるを得ない俺の目に飛び込んできたのは、先程の懐かしい記憶を呼び覚ます発言をして周囲の者たちに取り押さえられているエースらしき人物と、2人の女性に抱え上げられた状態で会場に姿を表した俺の実の弟にして氷の勇者であるサムらしき人物であった。


 『らしき人物』と表現したわけは、サムたちは何故か全員揃いも揃って真っ青なローブを着用した状態で姿を現したからだ。

 頭からすっぽりと体全体を覆い隠すそのローブを身に着けているおかげで、とっさに中身がサムたちだと断定できなかったのである。

 サムの体を抱えている2人についても同様だ。

 体のラインから女性であることは分かるのだが、ちらちらとローブから覗く横顔はどちらも見覚えのないものであった。


 突如として戦勝式に姿を現した彼らは、人数だけを見ればいつものサムたちのパーティーよりは多いのだが、魔王戦後の生き残りまで含めると明らかに数が足りない。

 どうやらあの時の生存者のほとんどは戦勝式には参列しないことにしたようだ。


 そんな彼らは、突如としてメインステージ近くの客席に姿を現し、この競技会場内の観覧席の中で一番良い席へと向かって歩を進めていく。

 来賓として呼ばれているのだからこの場に来ることは本来ならば間違いではない。

 しかしこの会場の席順は腐敗貴族たちの定めたルールにより到着順となっている。

 だから彼らはそこには座れず、競技場を横切って、奥の地面に用意された席に座らなければならない。


 恐らくそういった説明を駆けつけた兵士は彼らに対しても行ったはずだ。

 だがサムたち青龍の国の一行はその話を聞いても歩みを止めず、朱雀の国の上層部たちが牛耳っている席の前までやって来た。

 そして嫌らしい顔をしてサムたちを出迎えた彼らは、一行の手によって体を摘み上げられると席から無理やり引きずり下ろされてしまう。

 そして空いた席にサムたちは腰掛けた。

 いや、サムだけは腰掛けてはいない。あいつは女性2人に抱きかかえられたままの態勢で彼女たちの体の上で踏ん反り返っていたのである。

 えええ……一体何やってんのあいつ?


 あまりと言えばあまりの事態に頭が正常に働いてくれない。

 引きずり降ろされた貴族たちは当たり前ではあるが激高している。

 彼らの顔色は俺の立つ場所からでも判別できるほどに真っ赤になっていた。

 彼らは口を開いてサムたちへと罵声を叩きつけるつもりであったのだろう。

 だがそのタイミングで、今度は俺たちの背後、競技場の羽の部分とその先の地面の辺りから物凄い大歓声が響き渡ってきた。


 彼らの声援に驚き、俺はロゼのスキルの更新が行われていたのだと思い出す。

 いつの間にかロゼのスキルの更新は終了していた。

 そこに映し出されていたのはまさに驚愕とも呼べるステータスであった。


〈ロゼッタ=A=タートルのレベルを初期値へと戻します。LV50⇒LV0

 ステータスが以下のように変更となります。

 

 『名前:ロゼッタ=A=タートル


  LV50⇒LV0


  HP:2124⇒12

  MP:2120⇒10


    力:1324⇒12

   頑強:1326⇒13

  素早さ:1328⇒14

   心力:2140⇒20

    運:1320⇒10



  所有スキル:『王族LV10』、上級植物使いLV10、『成長停止LV10』『成長停止解除LV10』『引き篭もりLV10』引き篭もり解除LV10、中級薬師LV10、保育者L10、医師LV10


  特殊能力:王族(全ステータス2倍)、成長停止、成長停止解除、引き篭もり、引き篭もり解除、植物生成、薬材料入手、医学書入手残り10、被保護者たちのステータス値上昇容易


  所属天使:ゲン、ヨミ』



 経験値のストックが存在しています。

 確認しています。

 ……

 ……

 確認しました、レベル15までレベルを上昇させることが可能です。

 なおスキル更新の特典として、レベルアップ時のステータスの上昇値が1上昇します。(5⇒6)

 レベルアップ優先スキルが存在します。

 『積み重ねし過去』のレベルアップを開始します。

 ……

 ……

 『積み重ねし過去』のレベルが10まで上昇しました。

 残りレベルアップ数は5です。

 自動配分を開始します。

 スキル『プラントマスター』がレベル5になりました。

 現在のステータスは以下の様になっております。


 『名前:ロゼッタ=A=タートル 

 

 LV0⇒LV15


 ( 『植物使い』による上昇値:HP、MP、心力が200、

                力、頑強、素早さ、運が100。

   『中級植物使い』による上昇値:HP、MP、心力が400、

力、頑強、素早さ、運が200。

   『上級植物使い』による上昇値:HP、MP、心力が800、

                力、頑強、素早さ、運が400。

   レベルアップによる上昇値:90

   合計:HP、MP、心力が1490、力、頑強、素早さ、運が790。)


  HP:12+1490=1502×2=3004 3004/3004

  MP:10+1490=1500×2=3000 3000/3000


    力:12+790=802×2=1604

   頑強:13+790=803×2=1606

  素早さ:14+790=804×2=1608

   心力:20+1490=1510×2=3020

    運:10+790=800×2=1600


 所有スキル(ロック):『王族LV10』『植物使いLV10』『中級植物使いLV10』『上級植物使いLV10』『成長停止LV10』『成長停止解除LV10』『引き篭もりLV10』『引き篭もり解除LV10』『薬師LV10』『中級薬師LV10』『保護者LV10』『保育者LV10』『医師LV10』


 所有スキル:積み重ねし過去LV10、プラントマスターLV5、毒薬師LV0、院長先生LV0、中級医師LV0、冒険者LV0


 特殊能力:王族(全ステータス2倍)、成長停止、成長停止解除、引き篭もり、引き篭もり解除、植物操作、植物成長促進、植物生成、薬レシピ入手残り10、薬材料入手、医学書入手残り10、被保護者ステータスアップ10%、被保護者たちのステータス値上昇容易


  所属天使:ゲン、ヨミ』



 スキルの更新は以上です。

 次回はレベル60で更新が可能となります〉



 しまったぁぁぁ! ロゼのスキルの更新を見逃してしまった!!

 サムの奴め、エースの奴め! なんてタイミングの悪い登場の仕方をしやがるんだ!


 新しいスキルの詳細を知れなかったのは地味にキツイな。

 いや、後でロゼ本人から聞けば良いのか。

 今夜にでも屋敷に帰ってからロゼに詳細を教えてもらおう。

 何だったら俺のスキルの更新が終わった後の帰りにでも良いけれど。


 それと予想はしていたけれど、やっぱり出てきたな『積み重ねし過去』。

 アレのおかげでステータスがどえらいことになってしまっている。

 HPとMPと心力なんて3千超えだぞ、どうなっているんだか。


 そして知らないスキルが4つも追加されている。

 『プラントマスター』『院長先生』『中級医師』『冒険者』か。

 プラントマスターは植物使いの上位スキルだろうし、院長先生はまさにロゼのためにあるようなスキルだ。

 中級医師は医師の上位スキルだろうから、冒険者をライフルーレットで授けられたのだろう。


 う~ん……やっぱり詳細が知りたかったな。

 自動配分でプラントマスターのレベルが5上がってはいるけれども、ステータスの数値に変動がないところを見ると、ステータススキルは1つもないのだろうか。

 字面だけを見てもどういった効果があるのか分からないのが実にもどかしい。



 ロゼは驚いた顔をしながら俺たちの下へと小走りで戻ってくる。

 彼女としてもこの結果は予想外だったのだろう。

 いやまぁスキルの更新に関しては分からないことの方が多いのだから、予想外で当然だとも言えるのだが。


 だが俺の予想は外れていた。

 ロゼは全く別の用件で急いでいたのである。


「ナイト、気が付いた?」

「は? 気が付くって何に?」


 いきなり気が付いた? と言われても一体全体何のことだか分からない。

 とりあえず俺は突如現れたサムたちに気を取られてロゼのスキルの更新を見逃してしまったことを侘びたのだった。


「それについては別に構わないわ。詳細は後で教えれば良いのだし」

「そうか、ありがとう。それで結局何の話なんだ?」

「サムたちの話よ。ほら、さっきから口を押さえられているのってエースじゃない」

「やっぱりあれはエースなのか」


 エースらしき人物は先程からずっと口を押さえられたままで椅子に座っている。

 俺たちは聞き慣れていた声とローブから覗く横顔から彼がエースだと判別できたのだが、遠くから見ているロックなんかは何が起きているのか良く分かっていないのではないだろうか。


「一体全体さっきのは何の冗談なんだかな。それともあれか? サムのあのふざけた態度を見る限り、この僅かの間にあいつはまた偉大なる氷の勇者様に戻っちまったってことなのか?」

「そうね、それも問題よね。でも私が言いたいのは、エースの口を塞いでいる人物についてなのよ」

「エースの口を塞いでいる人物?」


 言われて俺は先程からずっとエースの口を塞いでいる人物へと初めて顔を向けた。

 シルエットを見る限りそれは女性のようであった。

 ……なんとなく見覚えがある体型と顔をしている。

 見覚えがある? あるに決まっているじゃないか。

 だってフードから僅かに覗いているあの横顔は……


「ナイン? あれってひょっとしてナインなのか!?」

「やっぱりそう見える?」

「見える……いや間違いない、あれはナインだ」

「そうよね、ああホッとしたわ。取り敢えず一難去ってくれたわね」

「しっかりとまた一難追加されてるけどな」


 遅れて戦勝式に到着した青龍の国の一行。

 彼らの中には青龍の国へと連れ去られていたナインが紛れ込んでいた。

 一体何がどうなっているのかと問い質したいのは山々だが、全ては戦勝式が終わってからになるだろう。

 俺はロゼと交代して、ジェイクの待つメインステージへとスキルの更新に向かったのであった。

勇者の隣の一般人、第一巻は昨日から発売中です。

近所の本屋さんで実際に売られているのを見た時の感動といったらもう、言葉では言い表せないものがありました。

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