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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第五章 戦勝式編
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第百三十一話 戦勝式その1

「玄武の国の皆様、つい先程から『予定通り』鳳凰競技場において戦勝式が開始されております。いかな来賓とはいえ、公式行事に揃って遅刻とは如何なものかと。大至急準備を整えて、ご出席くださりますようお願い申し上げます」


 ロックがその若さを暴走させて火の勇者をボコボコにしてしまった翌日早朝。 俺たち玄武の国一行が滞在する屋敷を訪れた朱雀の国の兵士が告げた内容は予想外の代物であった。


 当初その報告を聞いた俺たちは、揃って誤報だと判断した。

 予定通りも何もそんな話は一言たりとも聞いておらず、そもそもこんな朝っぱらから公式行事が始まるわけがない。

 おまけに他国から呼び寄せた来賓の到着を待たずに重要な式典を開始するなど意味が分からないではないか。


 俺たちは一方的に報告を告げて、あっという間に屋敷から立ち去った兵士の後ろ姿を見て、これはひょっとしなくても昨日のロックの暴走に対する地味な意趣返しなのかなと考えていた。


 だがそれからしばらくして、今度は外交官の1人が屋敷を訪れ、戦勝式の開始を俺たちに報告したのだ。

 彼の顔は赤くなったり青くなったりと大変忙しい。

 怒りと焦りで点滅を繰り返す彼の顔色が事態の深刻さを際立たせていた。


「つまり本当に戦勝式が開始されてしまっていると?」

「そうです。昨日未明、我が国の上層部から突然の通達があり、本日早朝からの戦勝式の開始が報告されたのです。誠に申し訳ございませんが、皆様大至急戦勝式への出席をお願い申し上げます」


 そう言って俺たち担当の外交官殿は深々と頭を垂れる。

 あまりの急展開に頭がついていかないのだが、こういった事はよくあることなのだろうか?


「あるわけがないだろう。来賓に話も通さずに勝手に式の日程を早めるなんぞ常識があるのならば選択肢にも上がらない行為だ」


 そう言ったのは父さんである。

 だが言いながらも父さんは服を着替えて着々と準備を整えている。

 それを見た俺たちも会話をしながら準備を開始したのだった。


「恐らくこれは昨日ジェイク殿が言っていた向こうからの仕掛けだ。彼は戦勝式が終わった後に行動を起こす、つまり戦勝式が終わるまでは何も起こらないと考えていたようだが、その予想は外れたということなのだろうな」

「戦勝式の開始を早めることで向こうにとって何の得があるのですか?」

「分からんが何かしらの考えがあるのだろう。まぁだがまず間違いなく碌な事ではあるまい。来賓が揃っていないのに戦勝式を始めるなんて正気の沙汰とは思えんからな」


 そうだよな、だからジェイクもこのタイミングでの先制攻撃は考えていなかったんだからな。

 魔王討伐を成し遂げた他国の英雄を呼び寄せての戦勝式。

 これをまさか出席者が揃っていない状態で始めるなんて、いくらなんでもありえないからなぁ。


「一応聞いておきますが、青龍の国の一行は?」

「まだ到着しておりません。ただ先触れは来ておりましたので、恐らく本日の昼頃には到着の予定かと」

「先触れが来た? ……ひょっとしてそれがあったからこのタイミングで始めたと?」

「その可能性もございます。『3ヶ国が揃って式に遅参した』という状況になりますので」

「遅れたからってどうだというのです?」

「それはなんとも……」



 外交官殿は実に困った顔色をしている。

 俺も少し考えてみたが、相手の意図が全く読み取れなかった。

 こんなことをしでかしたら朱雀の国は常識のないアホ国家だと他の3ヶ国に宣言するようなものではないか。

 子供の駄々じゃあるまいし、一体何を考えて……子供の駄々? まさか……


「まさかとは思いますが、これは火の勇者殿の考えなのですか?」

「は? いや、申し訳ありませんが、まだ調査も開始していない段階でして」

「何でそう思ったのですか兄さん」

「いや、ほら、昨日出会った火の勇者殿は何と言うか昔のサムがそのまま大人になったみたいな方だっただろう? だからあの後駄々をこねて、俺たちを困らせてやろうとこんな子供のような仕返しを考えたとかじゃないかと思ってな」

「……可能性を否定できないところが恐ろしいですね」


 馬鹿みたいな考えではあるが、可能性は高そうに思えた。

 もしかしたらもっと深い理由があるのかもしれないが、正直今の段階では判別は不可能だ。

 まぁ相手がどう出てこようと、俺たちは堂々としていればいい。

 相手が何を言おうが、この件に関しては俺たちに落ち度はないのだから。

 昨日の件は落ち度なんてレベルではないのだとしても。


 そんな感じで話をしているうちに俺たちの準備は整った。

 だが準備が整ったのは男性陣だけで、女性陣の準備はまだ終わっていない。

 男の簡素な準備と違い、女性陣は化粧やらなにやらで時間が掛かるものなのだ。

 父さんは他の幹部兵士と一緒に懲罰部隊の面々や一般兵士たちの準備具合を見るために屋敷の外へと出て行く。

 そうして俺はロックと戦勝式が終わった後の話を始めたのだった。


「それじゃあロック、昨日話した予定と順番は前後することになるけれど、火の勇者殿の見舞いと、朱雀の国の上層部への謝罪は戦勝式が終わった後で良いな?」

「ああそうするしかないだろうな。『例の土産』はナイトのアイテムボックスの中に入れておいてくれ」

「元々俺が持ち運んでいた物だから問題はないが、果たしてこれで良かったのかな?」

「現在私たちが渡せる贈り物としてはベストな選択だとは思う。これなら突き返されることもないだろう」


 本来ならば今日は昨日の件を詫びるために鳳凰城へと出向く予定になっていたのだ。

 その際、手ぶらでは何だからと、手持ちのアイテムの中から贈り物に最適な物を選び、綺麗にラッピングして用意しておいたのである。

 俺はその箱をアイテムボックスの中へと収納する。

 苦労して手に入れた品ではあるが、俺たちの誰も使いこなせないので、持っているよりも贈り物として渡してしまったほうが良いという結論に至ったのだ。


 そんな話をしてしばらくすると女性陣の用意も終わったというので、俺たちは一糸乱れぬ隊列を組んで、鳳凰競技場を目指して出発した。

 そして到着した鳳凰競技場では、更なる悪待遇を受ける羽目になるのであった。



「……このように我が国から派遣された優秀な兵士の1人であり、アムステルダム伯爵の嫡男であらせられるムノー=アムステルダム殿は勇敢にも魔王軍との戦いに赴き、世界のために身命を賭したのです。しかし相手もまた強大なる魔王であり、光の勇者も土の勇者も闇の勇者も氷の勇者も彼を助けることはなく、その栄光のむくろは決戦の地である魔王島に横たわることになったのであります」

「おおおおぉぉぉ!! 息子よ! 我が誇り高き息子よ! 我が領地と国を背負って立ったはずのお前が何故! 何故死ななければならなかったのか! そして何故勇者たちは我が息子を助けてはくれなかったのか!」

「……よって我が国は彼の功績を讃え、戦時勲章第一等を授けるものといたします」


 パチパチパチパチ! パチパチパチパチ! パチパチパチパチ!

 パチパチパチパチ! パチパチパチパチ! パチパチパチパチ!


 鳳凰競技場には列席者からの盛大な拍手が鳴り響き、先程まで涙を流していた彼の父親が亡くなった息子の代わりに、何やらやたらと派手で巨大な光り輝く勲章を授けられている。

 だがその光景もいい加減見飽きてきた。

 なにしろ全く同じ内容を延々と続けているのだから。

 大体『魔王島』って何だ、あんな小島にいつの間にそんな仰々しい名前が着いていたんだ。


 俺の隣で盛大に眠りこけていたジェイクが拍手の音に反応して目を開けた。

 だが彼は勲章を一目見るなり、

「魔王どころか魔王軍の幹部とすら戦わずに死んだ役立たずに何であんな立派な勲章を授けているんだか」

 と愚痴をこぼして再び目を閉じてしまった。


 朱雀の国から今回の魔王戦に参加した者たちは大きく2つに分けられているという。

 テルゾウ殿と共に俺たちと合流し、最初に島の内部へと突撃していった腐敗貴族の息子たちと、島の半分を包囲し、島にも上陸して魔王軍のモンスター軍団と戦った正規兵たちだ。

 なんでも戦勝式が開始してすぐに正規兵たちはまとめて功績を祝われ、簡単な勲章を渡されて、その後は延々と腐敗貴族たちの息子たちへの過剰な勲章授与式が続いているのだという。

 彼らへの勲章授与が全て終了しなければ俺たちの番は回ってこない。

 俺たちは鳳凰競技場の羽の先っちょ部分、かろうじて座席が存在する場所に着席しながら戦勝式の様子を眺めていた。


 先っちょ部分、そう先っちょ部分である。

 仮にも来賓であり、今回の戦いの功労者であり、魔王にトドメを刺した張本人であり、玄武の国の王子にして土の勇者であるロックですらこんな端っこの席に座らされていた。

 だが俺たちなどはまだ良い方で、俺たちと共にやって来た懲罰部隊の面々や兵士の一部には席がなく、地面の上に用意された椅子に座らされており、その先では突然開始した戦勝式を一目見ようとやって来た町の住民たちが地べたに座って思い思いに過ごしていた。


 何故俺たちがこんな場所に座って戦勝式に臨んでいるのか。

 それはこの鳳凰競技場の席順がまさかの『到着順』だったからである。


 戦勝式の会場である鳳凰競技場に到着した俺たちを出迎えた兵士が案内したのが、俺たちが今座っているこの席であった。

 俺たちはもちろん抗議した。

 当たり前である、来賓やら功労者やらは基本的に一番良い席かその近くに案内されるものだからだ。

 この鳳凰競技場においては、あの屋根の下、日除け雨除けの役割を果たす鳥のくちばしの下の席こそがそれに当たり、先日会った朱雀の国の上層部の面々は揃ってそこに着席していたのだから。


 だが案内の兵士は頑として席の変更を認めなかった。

 彼は「白虎の国の皆様もちゃんと順番通り席に着いているのだからワガママは言わないでください」とクレーマーに対するような応対をしてきた。

 言われて気が付いたが、確かに白虎の国の面々もくちばしの下の席にはいなかった。

 彼らはどうやら俺たちよりも先に到着していたらしく、翼の中程の席にまとめて着席し、戦勝式に参列していたのである。


 俺たちは最早反論するのも馬鹿らしいと呆れ果て、用意された席へと着席し、ダラダラと続く戦勝式を眺めていた。

 そして機会さえあれば勇者を貶める発言をする司会進行役に対して段々と頭にきたので、文句の1つでも言ってやろうと考えていた時、俺たちの側に良識派の貴族の1人が近づいてきて、しばらく我慢をお願いしますと告げてきたのであった。


 何でも当初の予定通りであれば、とっくの昔に戦勝式は終了していたそうなのだ。

 しかし彼らがとにかく過剰なまでに言葉を紡ぎ、勇者を貶め、彼らの息子たちを持ち上げてくれているおかげで、予定時間を遥かに超える長さの式になってくれたのだそうだ。

 上手く行けばまだ到着していない青龍の国一行の到着まで戦勝式が伸びてくれるかもしれない。

 そういう話を聞かされては文句を言うわけにもいかない。

 俺たちはただ黙って時が過ぎるのを待つことになったのだった。


 だが、絶対数が定まっているのだから限界はやがて訪れてしまう。

 朱雀の国から出た『栄光のむくろ』とやらにも限りは存在しているのだ。

 朱雀の国からの参加者の勲章授与が終了し、いよいよ俺たちの番となったのだが、それぞれの国の代表として父さんとゼロが呼ばれたと思ったら国ごとにまとめて感謝の意を示されて、速攻で俺たちの番は終了してしまった。


 これでこの場に参列していない青龍の国は戦勝式を欠席扱いとなるのかと思ったが、その前にジェイクが司会進行役の下へと向かい、そうして何やら言葉を交わしていたと思ったら、最終的に彼の持っていたマイクを奪い取ってしまった。


 そうして奴は告げたのである。

 この場で行ってくれと前から言われていたことを俺とロゼに告げたのだ。


「以上をもって勲章授与式を終了する! 続いて玄武の国からお越しいただいたロゼッタ王女殿下と、ナイト=ロックウェル元町長殿にスキルの更新をこの場にて行ってもらう! 出席者の皆様には是非ともこの大発見を目にし、世界に吹き始めた新しい風を感じ、新たな時代の到来を思い描いていただきたい! ではお二方、どうぞ!」


 何がお二方だ。

 心にもないことを言いやがって、本当に良く回る口をしているものである。

 だがそれはそれとしてようやく俺たちも次のステージへと進めるようだ。

 俺たちは揃って、神殿の役目も兼ねているという鳳凰競技場の先端部、競技場のメインステージへと向かったのであった。

遂に発売日当日となりました。

勇者の隣の一般人、第一巻は本日発売です!

よろしければお手にとっていただけると嬉しいです。

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