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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第一章 プロローグ
12/173

第十二話 VS魔族2

2017/06/16 サブタイトル追加&本文を細かく訂正

2017/07/14 本文を細かく訂正

 アリジゴクの穴の中、俺達は仲良く喰われてジ・エンド。

 に、なるかと思っていたが、そうは問屋が卸さない。


 俺達は穴に落ちた。

 俺達は穴の中にいる。

 しかし俺達は穴の底には落ちていない。

 俺達は穴の中で宙吊りにぶら下がっていた。



 俺達は現在4人ひとまとめになって穴の中でぶら下がっている。

 まとまっているのも、ぶら下がっているのも、アナから伸びている影のおかげだ。

 スキル『影使い』、その能力は影を自在に操ること。

 アナは咄嗟に影を伸ばして俺達をまとめて巻き付け、森の木に影を縛り付けて落下を防いだのだ。



 「無事かナイトーーー!!!」

 「無事な訳ねぇだろおっさん! あんたの息子は勇者と一緒に死んだんだよ!」

 「無事です父さーーん!」

 「何で無事なんだよ糞ガキがぁ!」



 地上ではマンティスと父さんが未だ戦いを続けている。

 マンティスは強いが、真っ向勝負なら父さんの方が強い。

 だからマンティスは無理には戦わず、俺達がアントリオンに殺されるまで粘るつもりの様だ。

 懸命な判断である。

 敵でなければ賞賛したい位だ。

 しかしこれをやられる方はたまった物ではない。

 父さんの助力が仰げないという事は、俺達だけでこのアリジゴク野郎を仕留めなければならないのだから。



 俺達は地上に開いた穴のすぐ下で宙吊りになっている。

 スキル『影使い』のレベルが低かったので、それ程影を伸ばすことが出来なかったのが幸いしたようだ。

 しかし同時に精密な動きはまだ出来ない。

 だから地上に戻ることも出来ないのだ。



 「さて、そんな訳で俺達だけでアリジゴク野郎を仕留めなきゃならんのだが、アナ、アイテムボックスの操作は出来るか?」

 (フルフル)

 「だよなぁ、『影使い』の制御で精一杯か」

 (コクコク)


 地面の下の空洞の中で吊り下げられた状況で、その空洞の一番下で待ち構えている相手を倒す方法は、やはり上空からの攻撃が一番に思い浮かぶ。

 というか、影を伸ばすことも出来ないし、落ちたら砂に埋もれて身動きが取れなくなるから直接攻撃は出来ない。

 そして俺達には遠距離攻撃の手段が無い。

 そしてアイテムボックスから道具類を出すことも出来ない。


 うん、詰んだ。

 これは父さんの突破を待つか、救援が来るのを待った方が良いのではないだろうか?

 俺がそう言うと、アナが首を激しく振り続ける。


 「ひょっとして長くは保たないのか?」

 (コクコク!)


 アナの影は長くは保たないらしい。

 まぁそれはそうだろう、何しろ今日が初陣なのだ。

 『影使い』のレベルも低く、そもそも使うことすら今日が初めてでは長く保たなくても無理はあるまい。


 まぁ俺は良いのだ。

 元々がオマケの人生だったのだから。

 だからこんな絶体絶命な状況でも冷静に考えていられるのだろう。


 でも他の3人は違う。

 ロゼもエルも泣いているし、アナは歯を食いしばって頑張っている。

 この3人は救わねばならない。

 幼馴染3人が一度に死ぬなんて俺にはとても耐えられそうにない。

 まぁ死ぬ時は一緒になるだろうが。


 そもそも俺はロックと約束したのだ。

 3人を宜しく頼むと。

 約束は守らなければならない。

 これ以上あいつとの約束を破る訳にはいかないのだ。



 考えろ。

 この状況は詰んでいる。

 詰んでいる様に見えるが、本当にそうか?

 武器も無い、防具も無い、攻撃力が無い、防御力が無い、逃げられない、助けも来ない。

 確かに詰んでいる。


 何よりもアナが動けないというのが問題だ。

 全てにおいて俺達よりも優れているアナが動けないのなら、どうしようもない。

 いや、本当にそうか?

 勇者の供とは勇者だけではどうにもならない事態に対応するために居るんじゃないのか?

 俺は8年後の旅立ちには付いて行けないが、今日はまだこいつらとはパーティーなのだ。

 諦める訳にはいかないのだ。

 


 取り敢えず動いて見ようと考え、俺は手に持っていたナイフを、下にいるアリジゴク野郎に向けて投げてみた。

 アリジゴク野郎はかなりのデカさだ。

 ナイフは相手に当たった。

 当たったが、硬い皮膚に弾き飛ばされた。

 それを見てロゼとエルがまた泣き出した。

 鳴き声が聞こえたのか、アリジゴク野郎が話し掛けて来た。



 「むっ無駄だ。俺の皮膚は硬いから、人間の子供の投げる刃物では傷1つ付かない」

 「ご丁寧にどーも。ついでに俺達を地上に返してくれると嬉しいんだけど?」

 「だっ駄目だ。俺は動物を食べるのが好きだ。人間の子供は特に好きだ。

  だから逃がさない。絶対に逃がさない。というか逃げられない」

 「逃げられない?」

 「こっここは俺のスキルで作った密閉空間だ。出口は上だけ。

  だからあのおっさんが助けに来ても穴に落ちて来るだけだ」

 「引っ張り上げてくれるかもしれないじゃないか」

 「そっその時は穴を広げて落とすだけだ。本当のアリジゴクの穴はすり鉢状になっていてかなり広い。この形は獲物が藻掻く様子を良く見る為の形だ」

 「いい趣味してるよ、あんた」

 「あっありがとう。褒められたのは初めてだ」

 「皮肉だよ馬鹿野郎」



 さて、情報収集をしようとして話し掛けたが、益々絶望っぽくなってしまった。

 しかし魔族と会話をしていると、最初は泣いていたロゼとエルが泣き止んでいた。

 どうしたのだろう?

 何か解決策でも見つけたのだろうか。


 「二人共どうしたんだ? 何か突破口でも見つかったか?」

 「違う……でも……」

 「ねぇナイトは何で泣いたりしないの?」

 「は?」

 「あたしめっちゃ怖いの。死にたくないの。だから泣いちゃったの。

  でもナイトは泣きもしないで魔族と話をしたりしてる。ねぇ何で?」

 「だってまだ死んでないだろ?」

 「えっ?」

 「死んでない限り生きてるんだから、生きるためには足掻かないと駄目だろ」



 俺はそう言って何か方法は無いかと考え出す。

 すると突然エルが下に向かって手を伸ばした。

 何をするのかと思ったら、エルは下のアリジゴク野郎に向かって魔法を唱え始めた。


 「ライト!」

 「クール!」

 「カップウォーター!」

 「ダークアイズ!」

 「グラウンドダウン!」


 エルは次から次へとアリジゴク野郎に向かって魔法を唱え続ける。

 しかしこれといった効果は認められない。

 当たり前だ、エルが使っているのは基礎的な魔法ばかりだ。

 どれもこれも、この状況を突破するには物足りない魔法である。

 そもそも攻撃力がまるで無いのだ。

 攻撃魔法を学んでいないのだから、使える訳がないのである。

 つまりこれは完全に意味の無い行為だ。

 だから俺は魔法の事を考えから放棄していたのだ。


 しかし例え意味の無い行為であってもエルは諦めない。

 ――大好きな幼馴染が諦めずに足掻いているのだ、お嫁さんになる自分が諦めてどうするのだ。

 エルはそう考え、魔力が尽きて魔法がもう放てなくなるまで唱え続けた。


 結果として、エルの魔法は効果が無かった。

 目潰しが聞いても空間はそのままだったし、地面が沈んで砂に潜ってもアイツはすぐに戻って来た。

 ただ随分と砂を食らったらしく、しきりに深呼吸を続けていたが。


 「ゲホゴホ! あっ諦めの悪い子供達だ。

  美味しく食べてやるから、もういい加減に諦めろ!!」

 「無茶苦茶言ってんなお前。絶対嫌だね、最後まで諦めないぞ」

 「目潰しをしても、地面を下げても何にもならないぞ!」

 「そうでもないさ。お前を倒す方法を見つけたぞ!」

 「「「えっ?」」」


 最後のセリフはロゼとエルとアナのセリフだ。

 武器も無い、防具も無い、攻撃力が無い、防御力が無い、魔法も効かない、逃げられない、助けも来ない。

 それでもこいつは倒すことが出来る。

 それをエルに教えて貰った。

 何が『生きるためには足掻かないと駄目だろ』だ。

 エルの魔法を『攻撃力が無い、意味のない行為』だと考えから放棄していた、さっきまでの自分を殴ってやりたい。

 エルが足掻いた結果、突破口が見えたじゃないか。



 「アナ、これからアイツを倒すためにロゼが頑張る。だからアナも頑張ってくれ」

 「ん!」

 「え? ……私?」

 「ロゼ『植物操作』で穴の上からモエモエソウを持ってこれるか?」

 「え? ……で……出来ると思う」

 「ならやってくれ。アナが影を操るにも限界がある。これは時間との勝負だ」



 ロゼが穴の上に向かって『植物操作』の能力を発動させる。

 ここは森の近くだ。

 だからアナの影も木に巻き付ける事が出来たし、ロゼの『植物操作』の能力も発動する。

 そして伸びてきた植物を俺は適当な長さで切って下に捨てて行く。


 ちなみに切っているのもナイフだ。

 ナイフは2本持って来ていた。

 カッコつけて二刀流を決めていたのだが、持って来ておいて正解だった。


 ロゼは何が何だか分からないという顔をしているが説明している時間が無い。

 アナは『影使い』の制御で手一杯で、エルは魔法の使い過ぎで動けない。

 そしてロゼは『植物操作』の能力の発動で手一杯だから俺しか手が空いていない。

 

 切る。

 切る。

 切りまくる。


 穴の底はバラバラにされたモエモエソウで埋め尽くされた。

 それを見てアイツは笑っていた。


 「なっ何のつもりだ? 植物で埋め尽くした所で、俺は埋まったりしないぞ」

 「そんなつもりは毛頭ないよ。これはあくまで準備段階だからな」

 

 俺の手には切り取ったモエモエ草が束で握られている。

 俺は「もう良いよ」とロゼに言い、ポケットからハンカチを取り出した。

 

 「ロゼ、エル、アナ、ハンカチを使って鼻と口を塞げ」

 「えっ……何で?」

 「説明してる暇が無い! 早く!」

 「わっ分かった!」

 「ん!」


 そうして三人は各々ハンカチを取り出した。

 ここら辺は流石に上流階級だ。

 ちゃんとハンカチを持って来ている。

 俺は全員がハンカチで鼻と口を押さえたのを確認してから、手に持っていたモエモエソウに火打ち石で火を付けて、穴の下へと放り投げた。



 「「「なっ!?」」」


 火種は穴の底に敷き詰められたモエモエソウの上に乗ると凄い勢いで穴の底中に広がった。

 火打ち石で簡単に火が付いた事からも分かるように、この植物はとにかく燃えやすい。

 だから燃える。

 よく燃える。

 燃えたら当然煙が発生する。

 俺達は煙に包まれた。



 「ゲホッ! ゴホッ! 何するのナイト!」

 「耐えろ! しばらくの辛抱だ!」



 煙の勢いは止まらず、最早何も見えなくなった。

 目は見えず、呼吸は出来ず、状況判断も碌に出来ない。

 しかし、しばらくすると突然体が浮き上がる感覚があり、その後地面に打ち付けられた。

 気づいた時には穴の中から脱出していた。

 というかいつの間にか穴その物が無くなっている。

 俺達がいる場所は穴が出来る前の地面の上だ。


 どうやら上手いこといったらしい。




 奴は『グラウンドダウン』で地面に埋まった時、すぐに砂の中から出て来ていた。

 しかも砂を思い切り吐いていた。

 つまり奴は砂の中では息が出来ないのだ。

 俺達と同じで酸素を必要としていたのである。


 それがアリジゴクの元々の習性なのか、魔族に進化した際に出来た弱点なのかは分からない。

 しかし『酸素が必要』という習性さえ分かれば、『密閉空間』はこいつにとっても弱点に変わる。

 だからモエモエソウをばら撒いて火を充満させ、酸素を奪い取ったのだ。


 これなら、『酸素不足で酸欠』『煙に巻かれて一酸化炭素中毒』『単純に火に焼かれる』といった死因を作ることが出来るし、最悪でもこの状況からは脱出することが出来ると考えたのだ。

 あいつは言っていたのだ『これは自分のスキルで作った空間だ』と。

 つまりスキルを解除させれば空間からは脱出出来るのだ。


 そうして俺達はアリジゴク野郎の作った密閉空間からの脱出を果たした。

 さて、次はどうなるかと考えていると、途端に地面が光り輝き、俺達の元へと巨大な光が押し寄せて来た。


 《経験値が一定値に達しました。レベルが7に上がります。全ステータス値が1上昇しました》


 《経験値が一定値に達しました。レベルが8に上がります。全ステータス値が1上昇しました》


 《経験値が一定値に達しました。レベルが9に上がります。全ステータス値が1上昇しました》


 《経験値が一定値に達しました。レベルが10に上がります。全ステータス値が1上昇しました》


 《経験値が一定値に達しました。エラー、レベル上限に達したのでレベルを上げることは出来ません》




 《レベルを上げるスキルを選択して下さい。エラー、スキルが1つしか存在しない為、スキル『一般人』のレベルが4上がります》


《スキル『一般人』がレベル10になりました。スキルの効果により全ステータス値が4上昇しました。スキル『一般人』は最大値まで上昇しました》



 巨大な光の正体はアリジゴク野郎の経験値だったらしい。

 気がつけばいつの間にか地面の上には、アリジゴク野郎の心臓であろう、大きな魔石が残されていた。



 こうして俺達は絶体絶命の状況を潜り抜け、俺は無事にレベル上限までレベルアップを果たしたのであった。

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