第十一話 VS魔族
2017/06/16 サブタイトル追加&本文を細かく訂正
2017/07/14 本文を細かく訂正
--sideマンティス--
「チッ!」
カマキリの魔族であるマンティスは舌打ちをした。
相棒と共に人間の国の1つ、玄武の国の首都であるタートルへと向かう途中で人間の子供達が草原でのんきに食事をしていた。
それを見た相棒は「おっ俺達も食事にしよう」と言ってきたが無視する。
俺達には使命がある。
あんなガキ共に関わっている暇はないのだ。
一刻も早くタートルへ行き、使命を果たさねばならない。
だから大食いの相棒の『食事』になど付き合っている暇はないのだ。
だからマンティスは何もせずに通り過ぎるつもりであった。
しかし彼の持つスキル『聴覚強化』が子供の1人の会話を拾った。
「父さん、あの二人おかしくありませんか?」
「? 何がだナイト」
「いや明らかに農民には見えないのに、武器も荷物も持っていない……」
ここまで聞いて、マンティスは皆殺しを決定した。
『人型』に化けていたのでバレないだろうと油断していたら、あっさりと子供に看破されてしまった。
俺達の使命は暗殺だ。
不確定要素は排除しなければならない。
故にマンティスは化けるのを止めて、腕を鎌に戻し、子供達の首を撥ねるつもりで襲いかかった。
しかし彼の思惑は外れてしまう。
キイン!
必殺だと思っていた横薙ぎを、少年の父という男が見事に受け止めている。
驚いたマンティスだが、まずは邪魔な男を殺害するために高速で腕を振り続ける。
これまで多くの首を切断してきた必殺の鎌だ。
人間程度すぐに仕留められる筈であった。
しかし男は剣1本だけでマンティスの猛攻を凌ぎ切る。
そして僅かにできたスキに剣を大きく薙ぎ払われ、フードが剥がれ落ちてしまった。
「やはり魔族か」
戦っている男の呟きにマンティスは戦慄する。
この口調、この態度。
明らかに魔族を見るのが初めてではない。
魔族の顔は人間の顔と元となったモンスターの顔が混ざり合った顔となっている。
それは人間から見ればとても気持ち悪いものらしい。
だから初めて魔族を見た人間は、まず人型魔族の顔を見て動きを止めるのだ。
しかしこの男はそれをしない。
それどころかこちらの正体を看破していた様な呟きだ。
まさかこちらの正体も目的もバレているのではないか。
マンティスは背中に冷や汗を1つ流した。
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--sideナイト--
突然襲い掛かってきた魔族の乱入で、まったりとした食後の一時は戦場へと様変わりした。
父さんだけがカマキリの魔族と睨み合い、俺達子供組は呆然としている。
それは『王女』であろうと、『天才』であろうと、『勇者』であろうと、『転生者』であろうと同じことだ。
俺達は今日が初陣なのだ。
突然魔族に襲い掛かられて、咄嗟に対応など出来はしないのだ。
しかし先程の戦いを見る限り、父さんの方がカマキリの魔族よりも強そうだ。
だから大丈夫、大丈夫だから落ち着こうと考え、こいつらは凸凹コンビだった事を思い出した。
もう1人横に広い、面倒臭いな、太った男が一緒に居た筈だ。
魔族と一緒に歩いていたのだから、あいつも魔族の筈だ。
焦ってそいつを探すと、街道の方からこちらに向かって走って来ているのが見えた。
その速度はカマキリの魔族と比べれば遥かに遅い。
しかし着実にこちらへと近づいて来ている。
対してこちらは父さん以外が動けていない。
これは不味いと、俺は声を張り上げた。
「父さん、街道からもう1人来てる!」
「くっ! 2対1か。ナイト、動けるか!?」
「大丈夫!」
そう言って俺は立ち上がって飛び跳ねた。
突然の襲撃で驚きはしたが、父さんが互角以上に戦っているために余裕が出来たのか、無事に動くことに成功した。
「よし、ならば3人を連れて下がっていろ! こいつらは私が1人で相手をする!」
「分かりました!」
「『分かりました』じゃねぇ! 何余裕こいてやがる、人間ごときが!」
激高したカマキリの魔族が父さんを無視して俺の方へと向かって来る。
それを見た父さんは素早く動いて俺の前に立ち塞がり、相手の攻撃を受け止めた。
「クソッタレ! 邪魔だ、おっさん!」
「見ての通り、こちらは大丈夫だ。早く下がれ!」
「はい!」
俺は魔族の相手を完全に父さんに任せて、まずは近くに弾き飛ばされていたロゼの元へと向かう。
ロゼは突然の出来事に動けないままだ。
ロゼは王族として10歳まで英才教育を受けてきた。
しかしそれ以降、実に昨日まで4年間も引きこもりだったのだ。
突然こんな戦場に放り込まれて、咄嗟に動ける訳がない。
「ロゼ姉、立って! 早く!」
「あ……う……」
「時間が無い! ゴメン!」
「はうっ……」
俺はロゼが動けないと判断すると彼女を抱き上げて走り出す。
ロゼは14歳だが、『成長停止』の為に体は10歳のままだ。
オマケにロゼは昔から小さかった。
だから軽い。
午前中にレベルアップしていたのも良かったのだろう。
10歳の女の子位なら軽々と持ち運ぶ事が出来た。
子供扱いを嫌っているロゼだが、今は緊急事態だ。
俺はロゼを担いだまま、エルとアナの下へと急いだ。
二人は上手い具合に固まっていたのだ。
「二人共すぐに立って! 逃げるぞ!」
「あ……でも……」
「でもじゃない! 俺達は弱いんだ! 足手まといは父さんの邪魔になる!」
「にっ逃げよ! 早く逃げよ! 死んじゃうよ!」
すぐに飛び起きて逃げようとするエルと違い、アナは何故か躊躇っている。
しかしいくらアナといえどもこの場に残す訳にはいかない。
勇者とは言え今日が初陣で、現在のレベルは僅かに6。
例え勇者であろうともレベルが低ければ対抗出来ないのが魔族なのだ。
そして俺達がもたもたしている間にも事態は動き、太った男がカマキリの魔族と合流を果たしてしまった。
それを見たカマキリの魔族は勝ち誇ったような笑みを向ける。
「ハッ! 勝負あったな! おっさんかなり強いけどよ、2人がかりなら勝てねぇだろう!」
「やってみなければ分からないさ」
「まっマンティス、食べて良い?」
「良いぜアントリオン! 勇者の前の腹ごしらえだ!」
「勇者?」
魔族の言葉に反応したのはアナであった。
マンティスと呼ばれた男はアナの反応を見て、何が面白いのかゲラゲラと笑い始めた。
「ハハッ! そう勇者さ! つってもそいつはまだスキルを授かってないから勇者になってないらしいけどな! 俺達の目的は玄武の国に居るっていう、勇者になる予定のガキを殺す事さ!」
「勇者を殺すだと!」
「おいおい糞ガキ、何でテメエが切れてんだよ。当たり前だろ? 殺して当然だろ? 育つ前に殺しとかねぇと俺らが殺されちまうだろうが。光の勇者の野郎が魔王を1人仕留めて以来、魔族は押され気味だからな。ここらで景気良く勇者の1人でも殺しとこうと考えたのさ!」
「ふざけんな! お前らなんかにロックを殺されてたまるか!」
「あっ? 何だお前、知り合いなのか? そいつは良いや! テメエの死体を勇者の所に届けてやるぜ!」
マンティスはアントリオンと呼ばれた魔族と連携を組んで父さんに襲いかかる。
父さんも何とか捌いてはいるものの、2対1では分が悪いのか押され気味だ。
しかし俺達ではどうにも出来ない。
そもそも遠くから見ていても『何となく押されているように見える』程度にしか分からないのだ。
悲しいかな、本日初陣のレベル一桁なんてこんなものだ。
俺達に出来ることは父さんが後ろを気にせず戦えるようにと、一刻も早くこの場から逃げることだけだ。
だから俺はアナを説得するためにもう一度話し掛けようとした。
しかしその前に、よりによってそのアナが魔族と父さんの戦いに乱入してしまった。
「なっ!? アナ!」
「ハァ!? 何だこのガキ?」
「ダイアナ! 何をしに来た!」
「戦う!」
「待て、何を!」
「私、勇者! 戦う、守る!」
そう言ってアナは魔族に向かって攻撃を仕掛けた。
魔族は驚いたもののこれに対処。
しかし予想外の威力だったのか、マンティスと呼ばれた魔族の体が吹っ飛ばされた。
「グハッ! このガキ! まさか本物か?」
「戦う、戦う!」
「待てダイアナ! 今のお前では!」
「アントリオン! おっさんの足止めをしろ! このガキに大人の戦いって奴を教えてやる!」
「りっ了解」
アナの元へ駆けつけようとする父さんをアントリオンと呼ばれた太った魔族が足止めする。
その間にアナはマンティスへと攻撃を仕掛ける。
マンティスはアナの攻撃を捌いていたが、笑みを受かべると余裕を持って攻撃を避け始め、アナの攻撃の隙間を縫ってアナの体へと鎌を打ち込み始めた。
「あうっ!」
「あ? 何だ、攻撃の効きが弱えな。黒髪黒目……そうかお前『闇の勇者』か。道理で俺の攻撃が弱くなる訳だ」
「いかん! 引け、ダイアナ!」
「逃さねぇよ! 闇属性の攻撃が効かねぇってんならこうするまでだ!」
そう言ってマンティスは攻撃目標をアナの足へと変更した。
その攻撃は苛烈を極め、段々とアナの防御をすり抜けて当たっていく。
アナは防戦一方になり、しばらくすると立っていられなくなる程のダメージを受けたのか、地面に倒れてしまった。
するとマンティスは何を思ったのか、倒れたアナを持ち上げて、俺たちに向けて投げ飛ばして来た。
俺は投げ飛ばされて来たアナを受け止める。
しかしロゼと違い、勇者として鍛えてきたアナの体は重く、勢いも付いていた為に、一緒に倒れてしまった。
その際、俺の顔に血がこびり着く。
俺の血ではない、アナの血だ。
アナの両足は切り刻まれて血塗れだったのだ。
「ヤバイ! アナ! ポーションを出せ!」
「あ……う?」
「ポーションだ! アイテムボックスに入ってるだろ! 早く!」
アナは言われたことを理解するとアイテムボックスからポーションを幾つも取り出した。
アナは『無限収納』という大当たりスキルを授かった。
その事を聞いた神殿長のばっちゃんと国王陛下は、今後勇者の旅に必要となるであろうアイテムを片っ端からかき集め、届いた側からアナのアイテムボックスへと放り込んでいたのだ。
当然ポーションも大量に入っている。
異世界物で定番だった傷を治す霊薬『ポーション』
それはこの世界にも当然にように存在しているのだ。
俺は地面にばら撒かれたポーションを片っ端からアナに掛けて行く。
切り刻まれた足は特に重点的にだ。
すると掛けた側から、アナの傷がみるみると治って行く。
流石は異世界、こういう所は最高だ!
もっとも状況は最悪だけどな!
「まっ、そうするよなぁ。でももう立てないだろう? 血を流し過ぎたもんなぁ!」
「ぐっ、うう……」
「喜べよ、お友達と一緒に殺してやろうってんだからさ。アントリオン、交代だ! ガキ共をまとめて喰っちまえ!」
「いっ、良いの?」
「本命は土の勇者だったがな! 前菜で闇の勇者を喰うってのも乙なもんだろ! やれっ!」
「りっ了解!」
そう言うとアントリオンと呼ばれた魔族は父さんから距離を取り、フードを脱いだと思ったら、地面の下に潜って行ってしまった。
「は?」
その意味不明な行動に俺達は一瞬動きが止まる。
止まっていないのは父さんとマンティスだけだ。
マンティスはアントリオンが下がると同時に父さんに肉薄し、父さんと立ち位置を変更して、俺達に背を向けて立っている。
父さんは懸命に俺達に近づこうとしているが、攻撃を捨てて足止めに徹しているマンティスを抜くことが出来ずにいた。
そしてすぐに異変が始まった。
突然地面が揺れたかと思うと、地面が陥没し、土が地中に引きずり込まれ始めたのだ。
驚いた俺達は、懸命に足を動かして距離を取ろうとする。
しかしドンドンと地面が沈み込んで行き、何と地面に穴が空いてしまった。
穴の大きさは少しずつ広がって行く。
その穴の下は何と巨大な空洞だ。
その中は何故か砂地に変わっている。
そしてその巨大な空洞の下には、アリジゴクとしての本性を表したアントリオンが俺達を喰い殺そうと待ち構えていた。
「ってアリジゴクかよ!」
ヤバイヤバイ、この状況はヤバイ!
アリジゴクといえば、罠を張って獲物を喰い殺すトラップのエキスパートだ。
恐らくこれがあいつの技。
地中深くに素早く巣を作り、対象を引きずり込んで殺すのだ。
落ちたらまず助からない。
俺達は懸命に足を動かし脱出を試みた。
しかし相手の方が1枚も2枚も上手だった。
俺達は4人揃って、アリジゴクの魔族が待ち受ける穴の中へと落ちてしまったのであった。




