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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 後編
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第百四話 勇者上陸

 ゼロが率いる懲罰部隊を主軸とした先遣部隊、そして父さんが率いる玄武の国の正規軍に遅れることしばし、俺たち勇者一行は火の魔王軍が隠れ潜む島へと上陸を果たし、島の内部へと向かっていた。


 まずは2つの先行部隊が島内にいるであろう魔王の部下のモンスターたちを引き付け、遅れてきた俺たち勇者一行が素早く消耗することなく魔王の前へと到達出来るようにとの作戦であったが、中々想定通りには行かないようだ。


 俺たちがアナたちが発見した魔力の揺らぎがあった場所まで到達した時に見た光景は、予想に反して砦化されている火の魔王軍のアジトの姿と、地面にばら撒かれている巨大な船の残骸、そして先発部隊を率いているはずのゼロと父さんが何故か2人揃って取り残されているという予想外の光景であった。


 船の残骸の中からはうめき声も聞こえてくる。

 どうやらここに来る途中で聞こえた巨大な轟音の正体は、この船がここに落下した時の音だったらしい。

 船のカラーリングを見る限り、2隻とも朱雀の国の軍船のようだが、一体何があれば、島の反対方向の海に浮かんでいるはずの船が島の内陸に落ちることになるのだろうか。


 俺たちは彼らを助けようと思い船に近づこうとしたが、テルゾウ殿がまずは父さんたちと接触することを優先すると言ったので、俺たちはそれに従う。

 懲罰部隊の指揮官はゼロ、玄武の国の正規軍の指揮官は父さんで、俺たち勇者一行のリーダーはテルゾウ殿だ。

 俺たちは魔王軍相手の戦争は初体験なのだ。

 百戦錬磨の光の勇者の指示を無視するような無謀な真似は出来はしないのである。


 そして俺たちは船の残骸を通り過ぎ、堀の前で俺たちを待ち受けていた2人と合流を果たした。

 しかしその際、俺たちの口から悲鳴が漏れる。

 角度の関係で見えなかったが、父さんの左腕が半分無くなっていたからだ。


「父さん! ひっ左腕が!?」

「うむ? ああ問題無い。ちゃんとここにあるぞ」


 そう言って父さんは右腕で掴んでいる切断された左腕を見せつけるが、問題ないわけがない。

 切り口がブスブスと焼け焦げている左腕を見せつけられ、俺たちは揃って息を呑んだのだった。


「ククク……ハロルド殿、流石にそれでは説明不足やろうぅ。勇者殿たちに説明するぅぅ。ワイら懲罰部隊と玄武の国の正規軍は、魔王軍のアジト入口で魔王の側近であるカマキリ男、報告にあったマンティスと名乗る個体と遭遇! ワイとハロルド殿が奴を足止めし、そのスキに部隊はアジト内部へと侵入したのやぁぁぁ」

「マンティスが!?」

「何と! 魔王の側近が最前線にいたというのか!」


 アナとジェイクが別々の理由で驚きを露わにする。

 他の者たちも同様に驚いている。

 まさかいきなり敵の幹部と戦闘になるとは考えても見なかった。

 歴代勇者の魔王戦でも、魔王の側近は常に魔王と共に行動していたからだ。


「ゼロ殿の言う通りだ。そして奴はどうやら私を恨んでいたようでな。最初の一撃で盾ごと私の左腕を切断し、その後も執拗に狙ってきたので、これは惹きつけるチャンスだと考え、私とゼロ殿で奴の相手をしていたのだよ」

「しかーし、バーニング・フロッグの邪魔が入り、奴は逃亡ぅ! 堀の橋も落とされ、逃げられてしまったぁぁ。そしてそのタイミングで勇者様方が到着したというわけやぁぁぁ」

「魔王の側近が2体もこの場に現れたと?」

「いいや違う。奴はあそこだ。あの山から舌を伸ばして島の反対側の船を絡め取り、ここまで投げ飛ばして来たのだ」


 そう言って父さんは島の中央にある山の中腹を指差した。

 するとそこには燃え盛る巨大なカエルが、山の中腹から山の下へと向かって余りにも長いその舌を連続して突き出している光景が見て取れた。

 遠くて判別できないが、奴が舌を巻き取るたびに、何か小さなものが宙を舞っているようにも見える。

 ……おい、まさかあれって人間じゃあるまいな。

 と思ったが、俺たちの中には一際目の良い弟が含まれており、ライは1人息を飲む羽目になった。


「ヒッ! ひっ人が宙を舞って……」

「ライ、余り見るな。この場からではどうにもならん」

「いかんな、直ぐに助けにいかんとアカンベェ」

「待て待て、テルゾウ。猪勇者め。奴の相手は貴様ではない。もう忘れたのか、健忘症か」

「んだども、グズグズしてたら被害が増える一方だべさ」

「分かっている。あれは危険だ、倒さねばならん。サム殿、打ち合わせの通り、奴の相手はおまかせして宜しいですな?」

「ああもちろんだ。俺様たちに任せておいてくれ」

「ではすぐにお願いする」

「了解だ。エース! キング! 出番だ、行くぞ!」

「「了解!!」」

「兄さんたち、お先に失礼します!」

「ああ、気を付けろよサム」

「ではまた後で!」


 そう言ってサムたち氷の勇者一行は、バーニング・フロッグのいる山へと向かって先行していった。

 目の前の堀をエースとキングを掴んだサムが軽々と飛び越えてアジトの中へと消えていく。


 この島へと到着するまでの間に、俺たちはそれぞれ役割分担を決めていた。

 敵の頭である火の魔王の相手はテルゾウ殿が、そして最近側近になったというマンティスの相手はアナたちが名乗りを上げ、バーニング・フロッグはサムたちが、そしてバーニング・スネークは俺たち土の勇者一行が相手をすることになっていたのだ。

 理由は簡単で、サムのパーティーには毒に対して耐性のあるエースがいるため、バーニング・フロッグの毒攻撃に対して有利に立てると考えられたからだ。

 ちなみに俺たちの相手は単に消去法だったのだが、地面から離れられない蛇の相手は土に勇者的にはおいしい相手なので、全く問題はなかった。


 状況によっては相手が変わることも考えられていたが、予定通りに行けるのならば迷う必要が無くて良い。

 そんな訳でサムたちは、山の上から猛威を振るっているあの巨大毒ガエルの退治へと向かったのであった。



 そして残った俺たちは、この場でやるべき事を開始した。


 俺はまず父さんの切断された左腕の治療を行った。

 止血処理されている腕の断面をそれぞれヤスリで削り上げてわざと治療跡を無くした後、軽く水で洗って付着しているゴミを洗い流し、腕を接近させてハイポーションの振り掛ける。

 すると見る見るうちに切断された腕は癒着し、2本目を振り掛けた際には切断跡は綺麗サッパリ消失していた。

 失った血を回復させるために父さんにポーションを飲ませたら治療は終了だ。

 父さんは玄武の国最強の兵士にして、今回の玄武の国の部隊の隊長でもある。

 この後先行させた部隊と合流して指揮を取ることを考えれば、腕をなくしたままで放ったらかしておく訳にはいかないのである。


 その間、ロックは土魔法を使い、堀に頑丈な橋を渡し、通行が出来るようにする。

 アナはスキル『影使い』を使い、堀に落ちていた味方を地面へと引っ張り上げる。

 ほとんどは死亡していたが、中には運良く生き残っている者もおり、彼らはアナのアイテムボックスから取り出したポーションを掛けられ、何とか行動が可能となった。

 そして彼らにはゼロから1つの命令が下された。

 それはこの場の生き残りの手で、朱雀の国の船の中から乗組員を救出せよとの命令であった。

 本来なら彼らの救助も俺たちが行いたいが、奇襲作戦である以上、味方の損害を気にして足を止めている時間はない。

 今回堀に落ちた彼らを救出したのも、あくまでも父さんの治療の間、僅かな時間が出来たから行っただけの事である。


 そうしてこの場に救出用の土木道具と治療で使うポーションを置いた後、俺たちは魔王軍のアジトの中へと突入を開始した。

 ちなみにこの土木道具はアナのアイテムボックスの中に保管されていた物である。

 懲罰部隊の生き残り十数名をアジト入口に置き去りにして、俺たちはアジトの奥へと突き進んでいく。


 アジトの入口から先は坂道になっており、侵入者防止のための柵やら罠やらが設置されていたが、先に侵入していた部隊の手で道が作られていたので快適に進むことが出来た。

 足の遅いエルやジェイクは、それぞれの勇者が担いで進んでおり、移動速度は維持できている。

 通行途中には、激闘の後を物語るようにモンスターの魔石が散乱し、それと同じく俺たちの道を作るために先行した部隊の死体も散乱していた。

 しかし良く見れば、怪我をして動けないだけで生存者も結構な数がいるようである。

 彼らを一人一人を治療して回りたいが、そんな時間はもちろん無い。

 しかし放ったらかしにして行くわけにもいかないので、まだ息のある者には通りしなポーションを振り掛け、動けそうな者の前にはポーションを束で置いていく。

 直接の救助が出来ない分、支援物資は置いていくから自力で助かってくれという訳である。


 坂道を登りきるまでに取り出したポーションの数は四桁に迫るだろう。

 流石はアナの『無限収納』である、事物量戦に関しては右に出るものはいそうにない。


 そうして遂に俺たちはアジト入口から始まる坂を登りきった。

 その先には広い平地が広がっており、そこでは多数のモンスターと上陸部隊が戦闘を繰り広げていた。

 平地の右端にはモンスターが密集しており、彼らは後ろにある山のたもとで歪な三角形の陣形を形作っている。

 そして先行した上陸部隊はその三角形の両辺から、モンスターたちへと攻撃を仕掛けていた。

 なぜそんな形を取っているのかと見てみれば、平地の中央には多数の船の残骸が散らばり、中央の移動経路が塞がれていた為、無事な両サイドから攻撃を仕掛けざるを得なくなっていたようだ。。

 どうやら最も人が密集していた平地の中央へと山の上のバーニング・フロッグが船を落として部隊を2つに分断してしまったようである。

 しかし結果としてこの状況は人間側に有利に働いており、モンスターたちは2方向からの攻撃を捌く羽目に陥っていた。


 俺たちがいる方の部隊はもちろん先行した懲罰部隊と玄武の国の正規兵の集団であり、もう片方の部隊は赤一色の装備を身にまとった朱雀の国の兵士たちであった。

 どうやら朱雀の軍も予定通り島へと上陸し、逆側から攻撃を仕掛けてくれていたようだ。

 戦場の様子をざっと見渡した後、父さんとゼロは急いで部隊の下へと向かって行く。

 マンティスの足止めのために離れていたそれぞれの部隊の隊長が戻った部隊は、急激に秩序とヤル気を取り戻し、戦場は益々と人間側有利の状況へと移行していった。


 俺はモンスターたちが背中を向けている山の方へと視線を移す。

 つい先程まではその山の上から強力な援護攻撃が降ってきていたはずであったが、現在はそんなことはない。

 何故なら現在、山の中腹では魔王の側近であるバーニング・フロッグと氷の勇者一行の戦いが繰り広げられており、山の上からの援護が食い止められているからだ。


 モンスターたちは味方の部隊が足止めし、敵の側近の内の1体も氷の勇者一行が足止めしている現状、残った勇者3組の邪魔をするものはこの場には見当たらない。

 俺たちは戦場を迂回し、火の魔王がいるとされるこの島の最奥部、つまり山の裏手へと向かって行く。

 途中俺たちに気付き遠距離から攻撃を仕掛けてくるモンスターもいるが、間の兵士に阻まれて、俺たちまで攻撃が届くことはない。

 山の上に陣取るバーニング・フロッグも俺たちに気づき攻撃を加えようするが、サムたちの相手で手一杯のようだ。

 俺たちは当初の予定通り、全く消耗することなく、島の最奥へと到着できたのであった。


 ところが魔王が待ち受けているはずの場所に到着した俺たちが見たものは、魔王どころかモンスターの影も形も見当たらない、ガランとした空間であった。

 驚いて周辺を捜索するが、周囲には気配すら存在しない。

 俺たちは魔王への奇襲作戦が失敗したことをこの時点で認識したのであった。

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