表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 後編
103/173

第百一話 戦闘の始まり

 ここは地の果て最前線。

 誰が言ったか知らないが、戦場の状況を上手く表した言葉だと思う。

 元盗賊団ビッグ・オーガズのリーダーをやっていた、ヤマヨコの町の町長の次男である俺、ニコは心の底からそう思っていた。


 以前から説明されていた通り、今日は起きてからそのままヤマカワの町まで移動し、そのままノンストップで魔王軍が潜んでいるという島へ向かって渡河をした。

 通常ならば厳密な入場審査が行われる町の入口は開け放たれ、兵士が並ぶ町のメインストリートを走り抜けた先には大量の船が停泊していた。

 俺たちはあらかじめ分けられていた班ごとに船に乗り込み、順番に出発。

 その間最後の逃亡の機会をうかがうも、周囲を兵士に囲まれ、後ろからは勇者を引き連れた冷酷な指揮官に狙われている状況では逃亡は不可能。

 そして船に乗ってしまえば、後は島まで一直線である。

 河に飛び込む? 馬鹿馬鹿しい、これから玄武の国の兵士たちが大量に押し寄せてくるというのに、逃げられるわけがないではないか。


 結果として俺たち懲罰部隊は誰一人として欠けることなく、つまり誰一人として逃亡に成功することなく、魔王軍が潜んでいるという島に到着してしまった。

 そして島に上陸する直前、並走してきた船から装備一式が支給され、俺たちは黙って受け取り、黙々と戦支度を開始する。

 俺たちの個人データは通達済みだったのだろう、この場の全員のサイズに合わせた装備一式が人数分きちんと用意されていたのを見た時は苦笑しか出なかった。


 オーソドックスな皮の鎧と、その下に着用する鎖帷子。

 頑丈そうな兜と篭手とすね当て、そして丈夫で滑りにくい靴。

 腰に巻くタイプの簡易荷物入れも付いていて、中にはポーションやら包帯やらと言った基本的なアイテム一式が詰まっている。

 そして一振りの剣と盾に加えて槍が支給されていた。

 弓の扱いに長けている連中には、槍の代わりに弓矢が支給されている。


 それは朱雀の国や青龍の国からやってきた連中の装備と比べても、決して見劣りしない装備であった。

 それはそうだろう、何しろこの装備は玄武の国の兵士に実際支給されている装備一式の言わば型落ち品だったからだ。

 いくら使い捨ての懲罰部隊といえども、丸腰で突っ込ませて速攻で全滅されては困るのだ。

 きちんとした装備を支給して、少しでも長い時間本隊の損害を減らしてもらいたいという思惑が透けて見える。


 その思惑に乗るのは癪だが、装備を身につければ気持ちが楽になったのもまた事実だ。

 型落ち品とはいえ、正規軍の装備品には違いがなく、盗賊をしていた時の装備と比べても明らかにこちらの方が優れている。


 事ここに至っては誰一人として文句を言う者などいない。

 言っても無駄だし、仮に文句を言って、装備を取り上げられたりでもしたら、一気に死亡率が跳ね上がってしまう。

 それにここで勇者のために働き、手柄の1つでも立てれば刑期の縮小にも繋がるかもしれないのだ。

 逃げれらないのならやるしかない!

 懲罰部隊の面々の覚悟は、上陸寸前でようやく決まったのであった。


 元から装備を身にまとっている朱雀の国の兵士たちと青龍の国の氷の勇者御一行たちは困惑顔だ。

 彼らはなぜ懲罰部隊の面々が急にヤル気になったのか分からないのだろう。

 様々な思惑を持ったその混成部隊は、船の上で装備を整えた後、合図を待って一斉に島へと上陸し、雄叫びを上げながら島の中央へと突撃していく。


 彼らはなぜ恐怖もなく魔王軍が待ち受ける島へと突撃することが出来るのか。

 理由は簡単だ、『そこには何もないようにしか見えない』からだ。

 アナたちがその存在を看破した幻覚魔法は、魔王軍の存在を覆い隠すと同時に、先行した懲罰部隊の恐怖心さえも隠してしまったのだ。


 そして報告にあった幻覚魔法の領域直前まで到達した時、一団の後ろから強力な魔法が放たれた。

 難易度の高いその魔法の正体は、風と雷の混合魔法だ。

 もちろん放ったのは懲罰部隊隊長のゼロである。

 相手の幻覚魔法を破壊し、同時に奥にいるであろう見張りをも吹き飛ばすつもりで放たれた魔法だったが、効果は半分しか得られなかった。

 幻覚魔法の領域を超えた際に、張り巡らされた幻覚魔法の解除には成功した。

 しかしゼロの放った魔法は空中で爆発し、衝撃波は地上へとばら撒かれる。

 なぜゼロの魔法は空中で爆発したのか?

 それは『相手方から放たれた魔法』が、ゼロの魔法と空中で激突したからだ。


 幻覚魔法が破れた先に見えた風景は、懲罰部隊が聞かされていた話とは異なっていた。

 今回の戦いは魔王軍相手の『奇襲作戦』だ。

 だから相手はこちらへの対処が間に合わないため、最初は一方的に攻撃できるはずだという想定であった。

 しかし幻覚魔法が消えた後に現れた景色には、一方的に攻撃出来るような状況は存在しなかった。


 今回の作戦の肝である奇襲攻撃に関しては間違いなく成功している。

 相手は突然の島への上陸と奇襲に右往左往しており、万全の状態とは言い難い。

 それでも一方的な攻撃が出来ないと見て取れた理由は単純だ。

 幻覚魔法の先、まだ見ぬ魔王軍の陣容は、こちらの想定と違っていたからである。


 大体にしてこれまでの魔王軍というのは個々の力と、数に物を言わせた戦闘を好んでいた。

 だから想定では幻覚魔法の先には魔王に従うモンスターたちが各々好きな場所に散らばっているのではないかと考えられていた。

 しかし幻覚魔法の破れた先の光景はそうではなかった。

 そこにはまるで人間の砦の如き陣地が広がっていたのである。


 入口には長堀を築き、そこに水を貯めて一度に大勢が渡れないようにしてある。

 敵の突撃を阻むように、柵が何重にも張り巡らされている。

 中央と両端には物見やぐらも建てられており、その上には遠距離攻撃の出来るモンスターが配置されている。

 奥ではモンスターたちが右往左往しているが、中には冷静にこちらへと対応している者もいる。

 中でも中央の物見やぐらの上に立つ魔族の男は火を噴く右腕をこちらに向けており、どうやらそこから何かしらの攻撃を放った後のようだ。

 恐らくその攻撃が先程のゼロの魔法と空中で激突し、爆発したのであろう。


 その魔族の姿を見た瞬間、ゼロは相手の正体を即座に看破した。

 失くした右腕から火を噴く姿。

 左腕は巨大な鎌の形をしており、その刃は妖しく煌めいている。

 そしてその顔は人とカマキリの顔を混ぜ合わせたようなおぞましい顔であった。

 間違いない、奴は報告にあった魔王軍の幹部の1人にしてかつて土の勇者の暗殺のために玄武の国に入り込んだという、マンティスという名の魔族だ。


 想定では島の最奥で魔王と共にいると考えられていた相手が最前線にいるとは。

 ゼロは想定外の出来事に動揺したが、すぐに立て直し、冷静に次の行動へと移ったのであった。



 島の中からは戦闘の音が響いてきている。

 白虎の国からやってきた、勇者救出の英雄ゼロが率いる懲罰部隊を主軸にした先遣隊は既に戦闘を開始しているようだ。

 彼らの切り開いた道を進み、同じように魔王配下のモンスターの注意を引き付け、後に続く息子たちを無傷で魔王の下へと届けなければならない。

 玄武の国の兵士たちの指揮官を務めるハロルドは、島に上陸しこれから共に突撃する部下たちを眺めて気合を入れた。



 玄武の国の正規部隊は全体を2つに分け、一方は上陸部隊に、もう一方は島の半分を包囲する部隊へと振り分けている。

 ここからは見えないが、朱雀の国の正規部隊も同じ様に島の反対側から上陸し、同じ様に島の半分を包囲しているはずだ。

 これは事前の取り決め通りの行動であり、その理由は魔王の逃亡の阻止が最大の目的である。


 以前の朱雀の国との決戦の際、魔王の逃亡を許した朱雀の国から提案されたこの作戦を玄武の国上層部は採用し、玄武の国の軍の指揮権はハロルドに託されたのだ。

 ちなみにこちらに先遣隊が派遣されているのは、勇者がこちらに集中しているためである。

 その勇者たちを載せた船が、そろそろ島へと到着するころだ。

 その前にこの場の兵士を使って魔王までの道を作り、勇者たちの活躍の舞台を整えなくてはならない。


 ここに来るまでの間に既に必要な事項は全て伝達してある。

 事ここに至っては特に言うべきことなど何もない。

 ハロルドは一言「行くぞ」と告げてわざわざここまで船に乗せて運んできた馬に乗って突撃していく。

 そして同じく馬に乗った各部隊の隊長がそれに続き、その他の兵士たちも彼らに続いていった。

 そして遂に彼らは前線に到着する。

 そこで見たのはたった1体の魔族に進軍を阻止されている先遣部隊の姿であった。


 ニコはまさしく地獄を見ていた。

 まさかの陣地の構築をしていた魔王軍に対し、先遣部隊の指揮官であるゼロは迷わず突撃を命令した。

 今回の作戦が奇襲攻撃である以上、もたもたしているわけにはいかない。

 それに陣地の構築は想定外だったが、奇襲自体は成功しているのだから、仕切り直しは論外だ。

 だからゼロは突撃を命じ、部隊はそれに従った。


 彼らは長堀に掛けられた橋を目指し突撃していく。

 物見櫓や正面からはその突撃していく部隊に向けて攻撃が加えられるが、突然の奇襲に慌てているのか、余りにもお粗末な迎撃内容であった。

 結果的に先遣部隊の大部分は突撃する勢いのままに橋を渡りきり、設置してある柵を壊しながら相手陣地の中へと侵食していく。

 そして全体の2/3が陣地に入った頃、様子を見ていたのかこれまで動きのなかった朱雀の国の兵士たちと氷の勇者御一行が遂に行動を開始した。


 彼らと共にニコも橋を渡ろうとしたが、突然起きた衝撃波に吹き飛ばされ、気がつけば橋から転落し、橋の下の水堀の中へと落下していた。

 鎧の重みで沈みそうになるが、何とか堀の出っ張りに掴まり上を見上げると、橋を渡ろうとしてた朱雀の国の兵士たちと氷の勇者御一行の面々が細切れになって橋から落ちて来る場面を見てしまった。

 彼らの血と肉と色鮮やかな装備が雨のように降り注ぎ、さして広くもない長堀はあっという間に地獄の川へと変貌する。

 そんな中でニコは見たのだ。

 先程まで味方が通っていた橋の上、そこに1体の凶悪な顔をした魔族が現れ、味方を細切れにしながら橋を渡っていく悪夢のような光景を。


 橋の上では突如現れた1体の魔族が先遣部隊の進軍を防いでいた。

 そいつは幻覚魔法が破れた際に中央の物見やぐらに陣取っていたカマキリの魔族であった。

 先程まで遠距離攻撃を行っていた奴は下へと降り、直接攻撃に切り替えたようである。

 その判断は実に正しかった。

 橋を渡ろうとしていた先遣部隊は次々と殺害され、奴は橋の袂に陣取ってこれ以上の侵入を防いでいる。

 実力に差がありすぎるからだろう、誰一人として奴には近づけないが、奴も奴で橋から離れてまで攻撃は加えては来ないようだ。

 そんな奴に向かって矢や魔法が襲いかかるが、奴は涼しい顔で受け流していく。


 奴はこれ以上の攻撃は出来ないが、こちらもこれ以上の攻撃を止められてしまった。

 戦場に一瞬の膠着状態が生まれる。

 しかしその膠着状態はすぐさま解除された。

 先遣部隊に遅れることしばし、その場に現れたのは玄武の国の正規部隊だ。

 そして彼らを見た瞬間、その魔族は橋の防衛を離れ、玄武の国の正規部隊へと襲いかかったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ