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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 後編
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第九十九話 行軍中の再会

 カワヨコの町の外で白虎の国の魔道士部隊隊長ゼロが率いる玄武の国と白虎の国の懲罰部隊の混成軍と合流した後、俺たちは決戦の地であるカワヨコの町へと向かって移動を開始した。


 先頭は玄武の国の普通の兵士たちが懲罰部隊を率いて進み、その後ろには青龍の国の氷の勇者御一行と朱雀の国の兵士たちが続く。

 白虎の国からやってきた普通の兵士たちは部隊の回りに配置されている。

 これは懲罰部隊の逃走を防ぐことが目的だ。

 そして俺たち勇者一行が乗る馬車は、この部隊の更に後の最後尾であり、この部隊の責任者であるゼロも同じく最後尾にいた。


「って良いのか? 部隊の隊長っていえば一番前で部隊を率いているイメージがあるんだが」

「ククク……それは通常の軍隊の話やぁ。ここに集まった連中は各国から集められた不要な人材ぃぃ。いつ逆らうとも逃げるとも分からん奴らには、後ろから目を光らせておかなければならないのやぁぁぁ」


 そう言ってゼロは思い出したように持っていた杖を振るい、隊列の横に電撃魔法を落とす。

 見ればそこには集団から脱落して休んでいた兵士がおり、すぐ近くに落ちた電撃に驚き、発生源を目で追ってゼロの顔を見ると、一目散に隊列へと駆け込んでいったのだった。


「ククク……このように、通常の軍の兵士と違い、こいつらはすぐに休み、怠けようとするのやぁ」

「なるほどな、見張り役は必要だってことか」

「正確には強く容赦のない見張り役が必要なのやぁ。手心を加えるとこいつらはすぐに調子に乗るのやぁぁ」


 それからもゼロは事ある毎に魔法を撃ち続け、隊列の乱れをほとんど許すことなく行軍を続けた。

 そして日が落ちる前には、前々から予定されていた1日目の目的地に予定通り到着したのであった。

 一行は疲労困憊の様子だ。

 無理もない、本来ならばもっと余裕のある行程だったはずなのだから。


「ククク…スマンなぁ。実はカワヨコの町へと到着する直前に部隊の中から脱走者が出そうになったのやぁぁ。対応に時間を取られて到着が遅れてしまったのやぁぁぁ」

「ああ、だから到着時間が少し遅れたのか」

「それはもっと早く言うべきだったのではないか?」

「ククク……言い訳の仕様もないぃ。遅れを取り戻そうと躍起になっていて報告をど忘れしていたぁぁ。反省するぅぅぅ」

「まぁ良いけどな。これで明日からは予定通りに行動できるわけだし」


 俺たちは到着後、キャンプを張り、夕食の支度を開始する。

 同行している部隊の面々も同じ様に食事の準備を始めた。

 俺たちはアナのアイテムボックスの中に今回の作戦の最中に使うであろう道具類や食料品を全て預けているが、彼らは違う。

 各国から集められた部隊それぞれには糧食を運ぶ係がおり、4ヶ国それぞれに味付けの違う料理が目の前で調理され配られていたのであった。


 玄武の国と白虎の国の懲罰部隊の者たちはここまでの道中と同じように用意し、同じ様に食べて、同じ様に時間を過ごしているのだろう。

 しかし青龍の国の氷の勇者様御一行と、朱雀の国の兵士たちは今日が初めての全体行軍だ。

 彼らは各々料理をこしらえ、そして平らげていく。

 その顔にはなぜ自分たちがこんな事をしなければならないのだという不満がありありと浮かんでいた。

 俺はそれを見て、この部隊は何事もなく目的地に到着できるのかと不安に思っていたのであった。


 夜間は見張りだけ残し、揃って野宿だ。

 季節は夏、大陸の中でも比較的過ごしやすいとされる玄武の国であってもこの時期は夜も暑い。

 おまけに日が落ちれば蚊を始めとして様々な虫たちが焚き火の明かりに引かれて近付いて来る。

 しかしだからと言って、馬車の中に入りクーラーで涼むほどでもないため、俺たちは部隊の一番後方にテントを張り、そこで野宿をしていた。

 そしてこのテントの周辺には、今回の旅が始まる前にタートルの町で仕入れておいたナイト商会の新商品が備え付けられ、その威力を存分に発揮していた。


 ブ~ン……ボトッ


 テントに近づいてきた蚊が新商品から出る煙に殺られて地面へと墜落する。

 それを見た白虎の国から来た兵士たちが物珍しそうな顔をしているのを見て、俺は得意げな顔をしていた。

 テント周辺に配置してあるこれは、ナイト商会のこの夏の新商品である『蚊殺し香』だ。


 前世の蚊取り線香からヒントを得て、独立した当初から研究を進めてきたこの蚊殺し香が完成したのは、俺が勇者の供として旅立った後の話であった。

 俺の店の従業員たちは店主である俺や開発室長であったエルが店を離れた後も、残された研究を続け、新商品を世に送り出していたのだ。


 そんな彼らの研究成果の1つのお陰で俺たちは非常に快適な夜を過ごすことができている。

 この世界にも蚊帳はあったし、虫よけの塗り薬やモンスターよけの香草などは存在していたが、『近づいてきた虫を追い払う』だけではなく、『殺害』までしてしまうほどの強力な香は存在していなかった。

 虫は追い払っただけではまたすぐに再訪するのでいたちごっこになってしまう。

 だから俺は追い払うだけではなく、煙を吸ったら死亡してしまう程強力な香を作りたいと思ったのだ。

 人には害を与えず、虫のみを殺害するこの蚊殺し香の開発は困難を極めた。

 だが、我が商会の研究班は俺たちの離脱後も諦めずに良い仕事をしてくれたらしい。

 血を吸われて痒い思いをすることも、不快な音に悩まされることもない俺たちは、野宿であるにも関わらず快適な夜の眠りを堪能していたのであった。



 3日後、俺たち土の勇者一行は、最後尾から離れて玄武の国の懲罰部隊を率いる兵士たちがいる先頭に移動していた。

 ハヤテとデンデが最後尾でゼロと共に行動するのが嫌で嫌で堪らないと不満を募らせ、昨夜俺たちに直談判に来たのだ。

 そこで俺たちは列の最後尾から先頭へと移動し、ヤマカワの町へと向かっている。

 ちなみに俺たちが乗ってきた馬車は最後尾でアナたちが使っており、俺たちは全員徒歩で移動中だ。

 電撃作戦なのだから人数分の馬車を用意して速度重視で移動したらどうかとも思ったのだが、部隊からの脱走の際に馬車を使われては面倒だからという理由で、全員徒歩で移動中である。


 まぁ今日で行程も半分。

 後3日歩けば、翌日には決戦の地へ向けて突撃だ。

 そもそも、この世界では乗り物が発達していないので、一週間ぶっ続けで歩いたところで音を上げる者なんていやしないのだ。

 移動手段が徒歩だけでも特に問題はないのである。


「それでも申し訳ありません。ロック王子にまで徒歩での移動を強いてしまって」

「構わんよ。お前たちはこの部隊を率いているのだ。部隊の上官が馬に乗っていたところで問題になることはあるまい」


 この部隊のほとんどが徒歩で移動する歩兵である中で、馬に乗っているのはゼロを含めた部隊の指揮官たち、いや監視役の兵士たちだけである。

 彼らは生身よりも高い位置にある視界と、生身よりも素早く動ける馬を使って懲罰部隊の兵士たちの逃走を防いでいる。

 部隊全員をグルッと囲んだ配置で移動しており、仮に逃げられたところで素早い捕獲を可能としているのだ。

 通常の部隊ではこのような配置にはなりはしないが、彼らのような問題のある兵士を使おうとする場合はどうしても監視の目が必要となるのである。


 一行はこの3日間、特に問題もなく行程を消化している。

 そして昼になり、食事休憩となったので、俺たちは最後尾へと戻ろうとした。

 しかしそこで玄武の国の懲罰部隊の中から俺たちを呼び止める声が響いたのであった。


「おいちょっと! ちょっと待って下さい勇者様! とそのお付きたち!」


 俺たちは声のした方を振り返る。

 そこにはむさ苦しい男たちに周囲を囲まれた1人の女性が俺たちに手を降っていた。

 いや違う。良く見れば薄っすらと髭も生えているし、声も低い。

 これは女顔の男性だ。

 はて、なぜだろう?

 何となくだが、この男に見覚えがあるのだが。


「その反応は忘れてやがるな! ……いえ、忘れていますね! 俺だよオレオレ!」

「……オレオレ詐欺?」

「何訳分かんない事言っているんですか! ニコです! ヤマヨコの町の町長の次男の!」

「ヤマヨコの町?」

「あの一泊だけした町のことですか」

「誰だよお前ら! 俺は土の勇者であるロック王子に話しかけてんだ、邪魔すんじゃねぇ!」


 ヤマヨコの町は、ハヤテとデンデにとってはタートルの町へ行く途中に立ち寄っただけの町ではあるが、俺たちにとってはそうではない。

 あの町は俺たちが旅に出てから始めて立ち寄った町であり、拠点としてしばらく滞在して周囲のモンスター退治をした町であり、そして町を拠点として悪事を働いていた盗賊団を退治した町でもあった。


 そうだ、思い出した。たしかこの男はその盗賊団の親玉だった男ではないか!


「あ~思い出した。ニコねニコ。盗賊団リトル・ゴブリンズの親玉だったっけ?」

「ビッグ・オーガズだよ! リトルでもゴブリンでもねぇよ!」

「ビッグ・オーガズでは完全に名前負けしていますな」

「やかましいわこの爺! ……いえ、おじい様!」

「誰がおじい様だ、吾輩には息子はいるが、孫まで持った覚えはないぞ」

「だからやかましいって言ってんだろ! あんたにもそこのガキどもにも話しかけてねぇんだよ!」

「久し振りだなニコ。それで一体何の用だ?」

「驚いたな、覚えてたのかロック?」

「いや、綺麗サッパリ忘れていた」

「殺しかけた男を忘れてんじぇねぇ! ……いや、失礼。忘れないでいてくれると嬉しいです!」


 ニコは一瞬激高したものの、すぐに沈静化し謝ってきた。

 確か前回出会った時はロックの正体を疑っていたと思ったが、この状況でこの場にいるロックのことまでは疑えなかったということだろうか。


 俺はすっかり頭から消去していた男の顔を見る。

 この男の名はニコ。

 俺たちが旅立ってから始めて訪れた町であるヤマヨコの町の町長の次男坊で、街の仲間とつるんで盗賊行為を働いていた愚か者だ。

 彼はスキルの更新の際に盗賊行為がバレたために、俺たちが町を訪れた際には牢に閉じ込められていたのだが、スキを見て脱獄。

 町長の依頼を受けた俺たちは、老人と孫に変装してこいつらを一網打尽にしたのだ。


 そしてロックは町長の助命嘆願を聞き入れ、ニコとその仲間は懲罰部隊に送られたのだが……そうか、こいつらも今回の作戦に駆り出されたということか。


「『駆り出されたということか』じゃねぇですよ! 何でいきなり戦い!? しかも魔王軍相手ってあんまりじゃないっすか!!」

「そうは言ってもそれが懲罰部隊の役目だろうが」

「俺と入れ替わりで出ていったおっさんは、数年間の労働だけで済んだって言ってたんすよ! 俺もそっちに回して下さいよ!」

「駄目に決まっているだろう。今回の作戦の成否によっては国民にも被害が出る可能性があるんだ。打てる手は全て打つに決まっているだろうが」

「まぁ運が悪かったと諦めるんだな」

「それ以前に町での行いが悪かったんですけどね」

「くっそおおおぉぉぉ! 分かった、分かりましたよ! どうせ俺が悪かったんですよ!」

「何キレてんだ、当たり前の事だろうが」

「認めます。認めますけど、お願いがあります! 頼むから配置替えをしてくれ! いや、して下さい!」

「配置替え? 何でまたそんな事を?」

「見て分かんないんすか!? 俺の回りには俺の仲間が1人もいなくておっさんばっかりが集まってるじゃないっすか!!」


 言われてニコの周囲を良く見てみる。

 確かに言われてみれば、彼の回りには彼の仲間だったヤマヨコの町の盗賊団の姿は見当たらない。

 その代わりに彼の回りにはむさ苦しいおっさんたちで埋め尽くされている。

 犯罪者の集まりである懲罰部隊だからなのだろうか?

 何となく怪しい雰囲気が彼らを支配しているように見える。

 そう、彼らの顔には唾棄すべき下卑た思考が張り付いていて……おい、まさか。


「そのまさかなんです! ここ数日俺はこのおっさんたちに狙われているんです! このままじゃ俺は掘られちまう! 俺はノーマルなんです! 頼むから助けてください! お願いします!」


 そう言って頭を下げるニコに向かって、彼を取り囲むおっさんたちが欲の混じった視線を向けているのが見て取れた。

 確かにこれは危険かもしれない。

 ニコはれっきとした男であるが、女顔をしており、それでもOKな男には魅力的に映ることだろう。

 なにせ彼らは懲罰部隊。

 普段から女性に縁のない生活をしてきていたのだから、女顔の男であっても守備範囲になっていたとしてもおかしくはないのだ。


 俺たちは彼をとっ捕まえ、彼を懲罰部隊に送った張本人である。

 懲罰部隊が戦争に投入されて、消費されるのは仕方のないことだ。

 だが、それ以外で意図しない屈辱を受けさせることは本意ではない。

 俺たちはニコの意見を聞き入れ、ニコの仲間たちが担当していた糧食運搬の仕事へとニコを転属させるよう、見張りの兵士に働きかけた。

 その仕事はこの行軍の中で最も大変な仕事であり、懲罰部隊の中でも新参者たちに集中的に割り振られていた仕事でもあった。

 しかしニコを狙う古株の連中が、上手いこと彼だけを除外し、仲間から遠ざけて孤立させ、ニコの体を狙っていたらしいのだ。


 彼は自らの尊厳を守れたことを感謝し、ニコを逃した連中の鬱憤は溜まっていった。

 そして事件が起きる。


 行程の6日目、明日には決戦の地へと到着するという時に、懲罰部隊の反乱が勃発したのだ。

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