第九十八話 ゼロ
第四章後編開始します。
テルゾウ殿と戦い、魔王軍相手の戦争への参加を認められた翌日昼、俺たちは揃って町の外で待機していた。
そこには俺たち土の勇者一行を始めとして、闇の勇者、氷の勇者、そして光の勇者一行が勢揃いし、その後ろには今回の戦いに参戦する青龍の国の氷の勇者御一行と朱雀の国の兵士たちも揃っている。
俺たちが町の外で待っている相手は、これからこの町にやって来る白虎の国と玄武の国の懲罰部隊だ。
予定では彼らは本日昼にこの町に到着し、俺たちと合流。
そして町の中には入らずにそのままヤマカワの町へと向かうことになっている。
町に入らないのは、彼らが懲罰部隊、つまり犯罪者の集団だからだ。
彼らはここまで来る間も、町にも村にも入らずに移動してきたという。
当たり前といえば当たり前の話だ。いくら部隊の名を持っているとは言え、元々は犯罪者の集団なのだから、人の多い場所に入り込ませるわけにもいかないのだろう。
俺たちは昨日の戦いの傷も癒え、覚悟も決まり、万全の状態で待ち構えている。
しかしそれは勇者のパーティーだけの話であり、氷の勇者御一行はオドオドし、朱雀の国の兵士たちもほとんどが浮足立っていた。
無理もない、これから懲罰部隊が合流した後は、そのまま決戦の地までノンストップなのだ。
未だ戦いへの覚悟が決まらない者も多いのだろう。
テルゾウ殿なんかは彼らを見て気の毒そうにしていたが、ジェイクに事前に言われていたためか、特に声を掛けたりすることはなかった。
そして太陽が中点を過ぎてしばらく経った頃、遂にカワヨコの町に白虎の国と玄武の国の懲罰部隊が到着した。
彼らは前後左右を兵士たちに囲まれながらカワヨコの町へと向かって来る。
その数は圧倒的に玄武の国の部隊の方が多い。
当たり前だ、なにせ今回の戦いは言わば地元で行われるホームゲームみたいなものなのだ。
他国で行われるアウェーゲームに来れる人数が絞られるのは致し方ない事である。
見れば玄武の国の懲罰部隊は若者から年寄りまで、強そうな者から弱そうな者まで様々な人員が揃っているが、白虎の国からはるばるやってきた懲罰部隊には屈強な者しか見当たらない。
なぜそんな事が分かるのかと言えば簡単な話だ。
彼らはそれぞれの所属が分かるようにと、各国を示す色で染め上げられた衣服を身に着けているからだ。
青龍の国の氷の勇者様御一行が青一色だったように、朱雀の国の兵士たちが赤い鎧を身に着けていたように、玄武の国の懲罰部隊は黒と茶色で染められた衣服に身を包み、白虎の国から来た者たちは趣味の悪い金色……じゃないな黄色の衣服を身に着けていた。
こうして見ると朱雀の国と玄武の国のデザインは1つ抜けている印象だ。
逆に青龍の国と白虎の国のカラーリングは単一色で趣味が悪い感じである。
お国柄なのか、参加者への対応の仕方なのかは分からないが、どうもこの2カ国の部隊は真っ先に殺られそうな印象を受ける。
まぁ彼らの役目は魔王の部下のモンスターたちの注意を引きつけることだから目立つ格好の方が良いのかもしれない。
後は彼らを率いる指揮官の技量で彼らの生存率が変わってくるだろう。
そう言えば彼ら囮部隊の指揮官は誰になるのだろうか?
これだけの人数の厄介者たちをまとめるとなると、相当な人物でないと無理っぽいのだが。
「ああああああ!!」
「お前えええぇぇぇ!」
そんな事を考えていた時だ、ハヤテとデンデが目の前の懲罰部隊を見て絶叫を上げた。
何事かと2人を見れば警戒心を丸出しにして、その顔には敵意を滲ませている。 しかし同時に2人は、育ての親である老師に縋り付き、その体は小刻みに震えていた。
縋り付かれた老師もまた厳しい顔で懲罰部隊ににらみを効かせている。
3人の視線は1人の男へと向けられていた。
その男は迫りくる集団の先頭で馬に乗り、白虎の国の紋章である白い虎の描かれたド派手なマントをたなびかせ、趣味の悪い金色の杖を手にゆっくりと近づいて来る。
痩せぎすな体型を持つデンデよりも更に痩せた骸骨のような体を持つその男は、そこだけは力強いギラギラとした瞳を輝かせ、3人を見つめてニンマリと笑った。
気色悪い
彼の顔を見た第一印象はそれだった。
ゾッとするような目付きではなく、恐怖を感じるような目付きでもない。
ただただ、何をするのか分からないような気味の悪い目をしたその男は、真っ直ぐに3人に近づき、そして話しかけたのであった。
「ククク……老いたフクロウと小鳥が2羽、一体なぜこんなところにいるんやぁ?」
「……知らないわけがあるまい。吾輩たちは今玄武の国の土の勇者殿にお世話になっているのだ」
「ククク……そうやった、そうやったなぁ。全くこれやから城の人間は駄目やというんやぁぁ。野生の小鳥の調教も満足に出来やせんのやからなぁぁぁ」
「誰が小鳥だこの野郎!」
「近づかないで下さい! 我らは貴方が大嫌いです!」
「嫌われたものやなぁ、ワイはただ己の任務を全うしただけやというのになぁぁ」
やはり3人はこの男と顔見知りのようだ。
老師の正体を知っているということは、白虎の国の指揮官だろうか?
そしてその男は3人から目線を外して俺たちの方を見た。
そこで気が付いたが、この男右目と左目の目の色が違う。
左は緑で、右が金色、所謂オッドアイという奴だった。
「おおおお、お初にお目にかかるぅ!! ワイの名はゼロぉぉ、白虎の国の魔道士部隊の隊長をしている者やぁぁぁ!!」
「久し振りだんなゼロ。相も変わらず気色悪い奴だべ」
「テルゾウ! 久しぶりに会った他国の重鎮に何という口を聞いているのだお前は!」
「んだども、気色悪いことは気色悪いべさ。オラこいつの事嫌いだし? 仕方なかんべぇよ」
「ちっ、スマンなゼロ殿。テルゾウは空気を読まない奴なのでな、許してやって欲しい」
「ククク……構わへんよぉ。光の勇者殿とは基より相性が悪いのは承知の上やぁぁ」
どうやらテルゾウ殿とジェイクはこのゼロとかいう男と知り合いのようだ。
まぁ彼は勇者のとしての戦歴が長いから、他国の実力者とも交流があっても不思議ではないのか。
「初めましてゼロ殿、私の名はロック=A=タートル、土の勇者をしております」
「闇の勇者ダイアナ」
「氷の勇者をしているサム=L=アイスクリムだ」
続いてこちらの勇者たちがゼロに対して挨拶を返す。
彼は爬虫類のような視線を3人に向けて、満足したように1つ頷いたのであった。
「ククク……お若い勇者殿たち、お会い出来て光栄やぁ。やはり本物の勇者たちは違うなぁぁ」
「本物の勇者?」
「本国では偽物の勇者たちの捕獲にえらい苦労をしたからなぁ。本物の勇者がいる玄武の国が羨ましいのやぁぁ」
その発言で思い出した。
白虎の国の魔道士部隊隊長のゼロ。
そうだ、この男は当時モンスターだった老師を倒し、ハヤテとデンデを白虎の国の王宮へと連れ帰った『勇者救出の英雄』として有名な男ではないか。
なるほどそれなら3人のこの反応も理解できる。
連れ帰ったとは言ったが、それはあくまでも白虎の国の側から見た話だ。
3人にしてみれば、突然襲われて親子の中を引き裂かれた誘拐犯みたいなものだからな。
敵意を持って当然なのか。
「ほぉ、貴方はハヤテとデンデを偽物だと思っているのですか?」
「当然やぁ。奴らは所詮はモンスターに育てられた人間未満んん。こんな連中が我が国の代表者になるやなんて、想像するのもおぞましいぃぃぃ」
「誰が国の代表者だ!」
「ご安心を! そもそもなるつもりもありませんからね!」
ゼロはハヤテとデンデに侮蔑の視線を隠そうともせずにぶつけている。
どうやらこの男、結構な差別主義者と見た。
「貴方たちもお困りやろうぅ? 全く上層部のカスどもときたら、まさか城から逃してしまうとはぁぁ。ワイがどれだけ苦労して捕まえたと思っているのかぁぁぁ」
「いや、特に困ったことなどないな」
「2人共素直で良い子たちですよね」
「この程度の連中は孤児院にも腐るほどいたしな」
ゼロの意見を俺たちは真っ向から否定する。
この2人は確かにやかましくて面倒臭いが、さりとてそれ程困るような子供たちではない。
ライの言う通り素直な良い子たちなのだ。
しかしゼロにとっては寝耳に水の出来事だったようで目を白黒させている。
しかし不気味だ。
ただでさえ不気味なのに、キョトンとした顔をされると不気味度が更に増すなこの男。
「ククク……そうか、なるほどなるほどぉ。流石は音に聞こえたナイト=ロックウェル町長ぉぉ。問題児の取扱はお手のものかぁぁぁ」
「いや、それは違う。こいつらはそもそもそれ程の問題児では無いってだけの話だ」
「ククク……そのセリフは、この小鳥共が我が国でどれだけ暴れていたのか知らないから言えるのやぁ」
「あぁまぁそうかもな。俺がこいつらと出会った時は、傍らに老師がいたからな」
片や無理やり親と引き剥がした誘拐犯である白虎の国の上層部、片や最愛の育ての親を助けてくれた勇者のパーティーでは対応が違って当然だ。
俺たちは出会った時点で友好関係が築ける条件が満たされていて、ゼロの場合はそれが無かったのだ。
だから2人に対する認識に違いがあって当然なのだろう。
「ククク……、確かにその通りぃ。ワイらは2人とは敵対するしかなかったというわけかぁぁ。ではこれからは改めて、良い関係を築き上げねばぁぁぁ」
「出来るかぁ!」
「兄貴や先生と貴方や白虎の国の人たちは根本から別の人間なのです!」
「ククク……国が違うだけで、同じ人間やでぇぃ?」
「とてもそうは思えんな。貴様と戦った吾輩だからこそ分かる。貴様はナイト殿たちとは別の種類の人間だ」
「ちなみに上層部も貴方寄りですね。故に良い関係になるつもりなどありません」
「ククク……いくら否定したとしても、勇者である以上我が国からは逃げられはしないぃ」
「散々偽物呼ばわりしておいて、結局認めるのか?」
「認めたくはないが認めざるを得ないというだけの話やぁ」
どうやらゼロと3人は分かり合うことはなさそうな雰囲気だ。
仕方あるまい、流石に出会い方が悪過ぎた。
誘拐犯の実行者と被害者が仲良くなるなど有り得ない話だからな。
「おい、いい加減に話を進めさせろ。ゼロ殿がこの場にいるということは、今回の囮部隊はゼロ殿が指揮を執るということなのかな?」
「ククク……その通りぃ。ワイの仕事は貴方たちを無事に魔王の前に送り届けることやぁぁ」
「我が国の者が指揮を執るのではないのか?」
ロックのもっともな質問にゼロはこう答えた。
「玄武の国の主だった者たちは自らの国の部隊の指揮に回ったぁ。しかし露払いの囮部隊は4カ国の合同部隊になったので、ワイが指揮官に選ばれたのやぁぁ」
「……確かに貴様の指揮ならば有効ではあるだろうな」
「ほほぉ、魔族となってもワイに敗れた記憶は残っているのやなぁ」
「その通りだ。吾輩は貴様に敗れた。貴様の性格の悪さは許しがたいが、指揮の的確さは認めざるを得ないところだ」
「父ちゃん!」
「そんな! 父さん!」
「ハヤテ、デンデ。2人共、どんなに嫌な相手であっても、優れている部分が1つでもあるのならばそれは認めるのだ。相手の強さを素直に認められないのならば、今以上の成長は望めないのだからな」
「ククク……まぁそんなわけで宜しくお願いするうぅ」
「良かろう。森の賢者モンスターオウルすらも上回る貴方の叡智に期待しよう」
「なーんか気分が乗らねぇだなぁ」
「まとめに入っているのだ! 黙っていろこの馬鹿勇者!」
ジェイクがまたもやテルゾウ殿に雷を落とす。
しかしテルゾウ殿はのらりくらりとしたままだ。
俺たちはこうして今作戦の初陣を飾る囮部隊の隊長を務める、白虎の国の魔道士部隊隊長のゼロと出会ったのであった。




