20 その想いに溺れる
多分、だけど。
これは俺の想像で妄想で、なんの根拠もない、おとぎ話みたいなもんだけど。
それでもアシュタルさんの言う「優しさ」だけはどうしても嘘だと思えない。たったそれだけの理由なんだけど。
「きっと、ずっと一人なんだと思う」
「ひとり……」
「たったひとりで、誰かの痛みを喰ってるんだと思う。俺はそのやり方を許容しないし、受け入れないけど」
アシュタルさんが言っていた。マツリカは以前の様子は見る影もなく、茫然自失といった様子で、独房で死んだって。
もし中身だけどこかにうつす方法があったとしたら? あるいは死んでもまたその記憶を持ったまま生まれ変われるだとか。
食人鬼の出現時期は子供の成長速度と見合わないっていうから俺は魂の移し替えみたいな方法を推すけども。
何度も何度も器を変えているのだとしたら、「世襲」扱いされるのも納得が行く。中身が何者かなんて普通は考えないと思うし。
そんな方法、無いって言われたら。いや、無いよな普通に考えて。けど、なんとなくそんな気がする。
俺がやらなきゃ、みたいな、そういう気持ち。
「器をかえる、みたいな魔法はある?」
「うつわ?」
「俺の魂を別の体に入れたりするとか、なんかそういうの」
「人間には出来ないわ。魔族なら、できるかもしれないけど…」
「そっか、うーん、まあ方法自体はないこともないのか…」
エレーナと一緒に首を傾げる。マスターはさすがに食人鬼の世襲方法までは知らないと首をふった。
まあなんでバグが起きるかは基本的にわかんねーよな。本番環境に移した瞬間バグが起きるのがだるいっていうの聞いたことあるし。
「つっても関係者に魔族がいるとは考えにくいし…」
「魔族じゃなくても、できる者はおりますよ」
「え、マジで」
「ええ、そうですね。例えば……役持ち、とか」
役持ち。
その話を聞いたのはかなり最初の方だ。例えば時間帯、たとえば場所。そういうものに依存した強い加護みたいなものを持つ存在。
特別な力が使える特別な役割。固定じゃない役職の一つでゲームで言うところの「顔があるキャラクター」だ。
役持ちでなにかひっかかる。なんだ? そりゃまあ強い力があるってのは聞いたし、それで俺の思ってることができるのかもしんないけど。
だれかに、なんかを聞いたはず。思い出せ。
『アリアだ』
「……そうだ、そうだ! アシュタルさんが言ってた、事件の収束にアリアさんが絡んでたって。当時もう既にアリアさんが役持ちだったとも!」
「途端にキナ臭いっすねえ……あんま敵にしたくないんすけど、あの人」
「敵かどうかはまだわからんじゃろ、アリアも怖いんか」
「そりゃ見た目は鳥だけど、女の人っぽいじゃん?」
王都に戻る必要が出てきたけど、そのまえにここでとれる情報は全部とりたい。
「おや、なんだいウタキくん? なにか思いついたって顔だね」
「マスター、俺と取引しましょうよ。俺が欲しいのはあんたが持ってる情報全部。俺が提供するのは……
この世界の、食人鬼の抹消だ。」




