19 利己的で道徳的で献身的な愛のカタチ2
たとえば、
そこから救われたとして、救われた連中はいいかもしれない。
取り残されたマツリカさんの、心はどこで救われるんだろう。
結局聞いた話ではあの人は捕縛された後なにも語らないまま亡くなったそうだから言えないことをかなり多く抱えていたはずだ。
「別ベクトルの勇者といえば聞こえはいいんだけどな。方法が間違ってる」
「勇者ねえ、ウタキくんもそうだったね」
「マスター。俺はフォルトゥナさんにはプログラムは終わってるって言われた。あんたはまだ治療中だって言ったな。もしなんかそういう、俺がいわゆる患者だとしてマツリカさんもそう?」
「もちろん、最初はね。タカミツ先生もね」
固定役職、とは言うけどその存在はバグだという。
想定してないバグが独り歩きして、いつのまにか肉を付けた。
ロータスさんが旦那さんを殺したことも、そのあと彼女が南の谷で死んだのも、それによって血の零時事件が起きたのも、きっとなにか、もっとなにか、理由があるはずだ。
そこまでして、マツリカさんが他人を救おうとしていた理由みたいなものが。
「エレーナ、食人鬼は世襲だっていってたな」
「そうね、世襲って、まあ厳密にはそういう種族に該当するのが一人ずつしか出現しないってだけなんだけど」
「しないんじゃなくて……一人しか、いないんじゃないのか?」
「? どゆこと?」
「マスター、これは俺の、何の根拠もない仮説なんすけど」
ぼんやりと頭の片隅で聞こえるなにか。いつも音になりきらないそれ。
規則的な電子音。俺は、どうやってここに来たんだったか。
エロ本読むのやめたら異世界転移したんだよ。でも、そもそも、俺はここに来る前どんな生活をしていた? 本当にそれは俺なのか?
「リト、あの四角いの持ってるか、番号がなんとかってやつ」
「へ? あ、あるっすけど、なんすか急に?」
「番号があれば、調べられるか」
「もちろんっす」
「調べてくれ、番号は5532765600」
手記にわざわざこの人が書いていた。
なんで王宮にあったのか、なんでわざわざ手記にしたのか、だってここで作ったもので、外のことを知っているんだとしたらこれは意図的に情報を隠してるってことにならないか。
「出たっす、けど……これ、は」
「俺の予感が正しければ、まだこの世界にいるはずだ」
「これ、待ってくださいよウタキさん。おかしいです、処刑記録は陛下が厳重に管理されてるんですよ?」
「ロスくん、あのな、たぶんだけどバグっていうのはそんなに可愛いもんじゃない」
「どういうことですか……」
管理番号、5532765600。
マツリカさん、もといオガワマサトさんの識別番号。
「どうして、生きてることに、なってるっすか?」




