16 隠してない聞かれてないだけだ
週一投稿を頑張りたい。
「おや、いつぞやの……いらっしゃいませ。今日はお客さんが一人も来なくてね」
「こんにちは。そんなら都合良かった」
カウンターに近寄って例の手記を置くと、ちらりとそれを一瞥して穏やかに笑う。
「コーヒーでいいかい」と尋ねられ少しばかり拍子抜けしながらうなずくとマスター……シンイチロウさんは楽しそうにお湯を沸かし始めた。
「いやあ、何年ぶりだろう。よく見つけたねこれ」
「偶然ですけどね、逆にどうやってあんなところに?」
「それは内緒。ところでそこの……彼は、なんかそういう趣味でもあるのかい? うちは夜はやってなくてね」
「違います! 違いますっす! ものすごい誤解っす! もう逃げようがないからそろそろほどいてもらえませんかねえ!?」
ロスくんがけたけた笑いながらリトの縄をほどく。リトはリトでロスくんにもぎゃーすかなんか言ってるみたいだけど、つーかあの二人仲良かったんだ?
あ? なに? ホワイトデーを参照? 俺にもわかる話してくれる?
こぽこぽという音と、コーヒーのにおいがいっぱいに広がる。
やろうとしてることが食人鬼探しじゃなければもっとよかったのになあと隣に座ったエレーナを見た。
俺はエレーナが好きだ。
女の子としてもそうだし、仲間としてもそうだ。だから俺は、彼女がなにも知らないままでいいと思うし、その代わりに俺が全部を知っていたいって思う。
アシュタルさんの痛々しい表情がずっと忘れられなかった。
エリューニスの話を聞いたとき。あのときはまだアリアドネちゃんどうするかが先だったからあんまりそればっかりってわけにはいかなかった。この手記だっていわば副産物だ。
けど、それでも、俺はあの人の家族を想う顔がどうしても忘れられない。
そんな気持ちを抱いたまま、エレーナを守ってくれた人たちがいることを、俺は俺のエゴのために覚えていたいって思っている。
「さあどうぞ、熱いので気を付けて」
「いただきます」
「わあ~いいにおい!」
ぱらぱらと手記をめくるシンイチロウさんは相変わらずにこにこしている。
この世界来てからのおっさんのイケてる率isなに? って思ってたがこの人も転生者ってことは別にここが特別ってわけじゃなく俺がうだつが上がらないだけなのが証明されてしまっ……やめよう、悲しくなってきた。
「マツリカの話をしに来たんだね」
「っていうか、転生者だったんなら教えてくださいよ。なんで秘密にしてるんですか」
「だって聞かなかったじゃないか」
「あーーーーーーそういうこと言うーーーーーー」
だれも聞かねえよそんなことと思ったけどおとなしくしておく。
いやまあ、そうだよな、聞かれなかったら自分が異世界人な話しねえよな。なんせたくさんいるんだもんな。
よくよく考えたらたくさんいるって普通に意味わかんなくね?
「WОMОのIR部門、とか。まずそこから聞かせてほしいんですけど」
「うーん、どこまで話していいんだろうなあこれ。君はまだ治療中のようだし……」
「治療、って、別にどこもケガなんか」
ギシ、と頭の片隅で何かが軋む。
「――――――の――――て、いいん―――本当に――――」
「そう―――こんな――――いつかそのまま――――」
「じゃあ―――の―症状―――フル―――オ―――になって――」
「……頭痛でも? 薬はいるかい?」
「いや……いりません。聞かせてくださいよ、その組織のことも、ついでに俺のこともね」
「豪気だねえ」
隣でエレーナが「ウタキのことって?」と首をかしげ、うしろではほどいたはずの縄でロスくんが再度リトを(さっきよりえげつないやり方で)縛り上げていた。
頼むから最後までシリアスパートやらせろよたまには!!!




