15 いつかどこかで誰かの見た夢
「あなたの髪、とても綺麗ねえ。まあ、わたくしの好みとはちょっと違うけど」
「え? なんでついでのように上げて落としにきたの? いる? その一言?」
エレーナと俺の会話に似てるなって思った。
「まあ私の好みじゃないけど」とか、彼女の常套句だ。それが本気で言ってたり、冗談だったりそのトーンは変わるけど、それが冗談かどうかは、話してればわかる。
「あなたがどうであっても、わたくしが一番わかってると思うの、ねえ
マツリカ」
「はっ!」
「お、起きたっすか? 気絶するように寝たっすよ~疲れてるんすね」
「い、ま……どのへん?」
「まだ半分くらいです」
リトとロスくんの声がする。
ああ、そうだ、トストリアに行きたいって相談したら王様が飛空艇貸してくれたんだった。ロスくん付きで。
俺のルートは、ヤンデレハーレムだ。
勇者役っていうのはいわば一過性の、それこそゲームのシナリオ部分の話であって、シナリオをクリアした後に2周目は存在しない。
だから今やってるのは、クリア後の探索だ。図鑑埋めたり、洞窟もぐったり、アイテム回収したり、通信対戦したりするようなそんなやつ。
まあ生きてる以上ゲームみたいにはいかないんだけどな。そんなのは俺にだってわかってる。
まあちなみに最近はエレーナ以外を避けてるから俺にハーレム要素はないけどな! まだ死にたくねえし俺!
「なんか顔色悪いわね、大丈夫?」
「その位置でかがむとパンツ見えんぞ」
「ちょっと! 心配してあげてるのになによそれ!」
ぼんやりした頭の片隅に、綺麗な空色の髪の女性が居る。エレーナに似てる。誰だろう、会ったことない人だと思う。あんな綺麗な人、一度見たら忘れないだろう。
その目線が、幸せそうに見つめていた誰かは……さっぱり思い出せない。特徴のないその姿は靄のようにのぺっとしていて人なのはわかるんだけど、誰なのかとか聞かれても特徴は出てこないような気がする。
ああ、夢か。この世界に来てから初めて夢を見た。最近寝たら朝までぐっすりだったもんな。変な時間に寝たから夢を見たのかもしれない。なんか首がいてェと思ったらパキラが乗っかってたぽいし、なるほどそうなるわ。
覚醒していくと頭の中から二人の姿も消えていく。夢を、見てた。どんな夢だったっけ。
「にしても驚きっす」
「んぁ? あのマスターの正体?」
「それもそうっすけど、俺を縛り上げてまで同行させようっていうウタキさんに驚いてるっす!」
「おう、運命共同体だ、一緒に死のうぜ」
「不穏禁止いいいいいぃぃぃ! 俺は長生きしたいっすううううぅぅ!」
「あっはははは、お可哀そうですね、リトさん」
「ロスくんそれ可哀想って顔じゃないっす」
いやいやと叫ぶリトを貸してくれと頼んだらフォルトゥナさんはすごくいい笑顔で、すごくいい笑顔で「もちろんですよ!」と快諾してくれた。大切なことなので二回言った。
ロスくんは王様の配慮でついてきた。なんでも、前線から引っ込めて各地のロスくんによる破壊被害(王宮関係者による破壊ってなんだよって感じだが)は減ったがそれによってフラストレーションがたまっているのか訓練している騎士たちから苦情が相次いだらしい。
軟弱め! と最初は檄を飛ばしていたティタニアさんもさすがにこれでは一般兵が全滅……いやあの軍用語としての全滅じゃなくてね? 文字通りみんな死ぬだろうってことでさすがに提言したらしい。アシュタルさんが頭を抱えてた。
ちなみに軍用語での全滅は「みんな死ぬ」じゃなくて「3分の1が戦線離脱」だと全滅っていうんじゃなかったけ。たぶん、おそらく、きっと。
ロスくん頭いいけど、物理傾国だからな。武器ぶん回せないのは彼にとって物足りないらしい。迷惑な話だよなまじで。
「あのときのカフェの場所覚えておいでですか? なにぶんぼくはカルセルムでの記憶しかなくて」
「やめてよ思い出しちゃったじゃん!!」
「ゴキジェットとか言ってたかしら?」
「やめて! 言わないで!」
たしかにあの時の目的はカルセルムだった。というのもタカミツ先生……クレアとクレオの親父さんがカルセルムに居たからだ。
すでに勇者枠だった俺だけど、あの時タカミツ先生がカルセルムに居なかったら俺は助けに行こうとか言えなかったかもしれない。いきなり勇者にはなれないからな。
「大通りの一本裏だよ。猫の看板が出てたからよく覚えてる」
「そうですか、よかった」
「そういやよー、リト。局長ってアマレアさんじゃないの? 俺ずっと不思議だったんだけど」
「局長って役職は全部で5人いるんすよ、事務局ってやること多いんで」
「お前戦力外通告されてなかった?」
「そんなことは!!!!! そんな!!!! ことは!!!!!」
夢を見たことなんてもう忘れていた。




