13 鬼のこと 愛のこと
まずロータスとマツリカが出会ったきっかけは凡庸で、そこから友人になるのは当然の流れだった。
ただ美しい娘と凡庸以下の男の間に愛が芽生えても、男はそれを認めなかったし許さなかった。
彼女を本気で愛していたから、彼女のために自分は身を引くべきだと考えた。
娘は娘で、愛を告げられるのを待っていた。追いかけたら逃げてしまうことは分かっていたから向こうに来てもらうしかなかったのだ。
結局、2人の愛はすれ違い、悲劇を産み、その産まれた悲劇は〈鬼〉に姿を変えたのだ。
とまあ、ここまではアシュタルさんにも同じ話を聞いたんだったな。
美女と野獣理論だったらもっと幸せになってたかもしれないのにそうならなかったんだから現実っていうのは本当に汚いし悲しい。
だれが非難したわけでもないのに、どうしてそうなっちゃったんだろうな。
「一般的に語られるのはせいぜいここまででしょうけど、あなたは日記を持ってるんでしたね」
「王宮の書庫にあったんですよ、まあ勝手に持ってきたけど」
「見つかることを、望んでたのかもしれませんね。その手記を書いたのはWОMО……世界オンライン医療機構の職員です」
「オンライン医療機構? ってなんすか局長?」
「世界というのは、様々な国が海や国境に隔てられているものです。少なくともウタキさんやマツリカのいた世界というのは」
自分の世界のことを、あたりまえのことを、この世界の人が語っているというのはなんだか不思議な気持ちになる。
同じ転生、転移者たちと話すのとはわけが違う。すべての事情を知ってるってことだもんな。
「転生措置というのはいわゆる重度の患者のための治療のひとつなんです。名医がいるとわかっていても、重病患者をわざわざアメリカまで連れて行くのはリスキーでしょう?」
「ああ、うん。臓器移植の話とかに似てる気がする」
助かるはずのものが、助けられない。そういうのをどうにかするために「電脳空間での治療」を可能にすればいいんじゃないかということで設立されたのがWОMОだという。
ってことはなに、俺も患者ってこと? なんの? なにも覚えがない。だって俺は電柱にぶつかって目が覚めたらここに……
そもそも、オンラインって、なんだ。
ここは、どこ、なんだ?
「ウタキさん」
「えぁっ⁉ はい⁉」
「あなたはもうプログラムを終了しているんです。帰りたいと願えば、帰れます」
「帰る、って……どこに」
「元の世界に」
「ええっ、ウタキさん帰っちゃうんすか⁉」
リトの声が大きく響く。隣ではエレーナが茫然って感じで俺を見ていた。
帰りたいのか、って聞かれた。どうして帰らなきゃって思ってたんだろうって俺自身が不思議だった。だって何ひとつとして覚えてないからな。
帰るって、どこにだよ。
覚えもない場所に、「帰る」なんて変な話だと思うじゃねーか。
「俺は、まだ帰らない。全部、ちゃんとわかるまで」
「……そうですか。まあ、そうですよね。」
ふう、と困ったようにフォルトゥナさんはため息をついていて、エレーナは少しだけほっとしたような顔をした。




