10 不穏な話、過去の話
「事務局長のフォルトゥナです。こんにちは、勇者様」
「もう勇者じゃないですよ」
「そうでしたね、ふふ、まあどうぞおかけになってください」
転生対応事務局の事務局長、フォルトゥナさんは四十代くらいの男性だった。
髪はほとんど黒に近い紫色。名前が「幸運」なのに闇属性ってのもなんだか不思議だ。
リトは「じゃあ俺はこれで!」とか言って出ていこうとしたので椅子の足に括り付けておいた。(「どうして! どうしていつもこうなるっすか!」とかわめいているが傍にいるパキラも助ける気はないようだ。)
「それで、私のところになんの御用ですか?」
「マツリカさんとロータスさんの話聞きに来ました」
「おやおや……また不穏な名前を」
「知ってますよね、本当はなにがあったのか」
管理事務局の局長様だ。当時はどうであれ、今なら知っていることもたくさんあるだろう。
なにか記録があればそれが一番いいけど見れるとは思ってないし、なにかきっかけさえつかめたらラッキーくらいのもんだけど。
「なにが知りたいのですか、ウタキさん」
「どうして血の零時事件が起きたか、ですかね」
「真相は闇より深いのです、マツリカもロータスもいない今語れることは」
ちらりとエレーナを見るフォルトゥナさん。
ああ、やっぱり知ってるんだ。エレーナは知らなくても、エレーナを取り巻く人たちは知っている。守られてるんじゃないかって俺の想像は当たらずとも遠からずなんじゃないのか。
「知ってどうするのです?」
「俺がもとの世界に帰る方法がわかるんじゃないかと思って」
「どこまで、わかっているのですか」
「DtMとWOMOのIR部門について」
「!! そう、ですか。もうそこまで」
なんてね! なんてね! それっぽいから言ってみたけどビンゴかよ。
その名前以上の情報なんてなにも持ってないんだけど、フォルトゥナさんはそれらについて何か知ってるらしい。
困ったように考えこんでしまう。
「ねえ、ウタキ、DtMって? WOMOも、さっき聞いた話のこと?」
「おう、多分だけどそこが一枚噛んでるんだと思って。理屈はわかんないけど……おいリト、もう泣くなよ顔がうるせぇ」
「ひどいっす! ひどいっす! 俺はシリアスパートきらいっす!」
「そうだな、シリアス向きな顔ではないのは確かだわ」
「あら、真面目な顔してたら似合うのよそういうのも」
「リトが1分以上真面目な顔できると思うか?」
「思わないわ」
「びゃあああああ! 二人なんかきらいっすうううぅぅ!」
かたや長考。かたや号泣。
ああもうどうしてこう、緊張感がねえんだこの連載は。




