09 オーケー、リト。転移者の話して。
「リト! いるか!」
「ウタキさん! エレーナさん! なんかご用っすか!」
「用がなくても会いに来いっていってただろうが! 1章の4話くらいで!」
「すぐそういうメタなこという!!」
用はあるのでただ会いに来たのとはまた違うが別に嘘はついてない。そんな話したのは本当だ。
相変わらず事務局内はてんやわんやといった擬音がそこかしこに飛び交っているようでみんな疲れた顔をしていた。
大丈夫なのかな、ちゃんと見合った給料もらってんのかな。どこの世界も人手不足ってのはあるよなあとずれたことを考える。
「聞きたいことがあって来た」
「……なーんかまた不穏な話でしょ? 俺のこと道連れにしたいんすね! それで乱暴なことするんでしょ! エロ同人みたいに!」
「どこでそういうネタ仕入れてくんの?」
まあお茶でも、と個室に通される。あいかわらずよくわからない作りの建物だ。なんていうか、立体に無理がある、というか。
なんでこの壁のこっちに部屋があるのかっていうのが頭の中で組み立てられない。ご都合魔法だと解釈しておく。
「でー、今度はなんすかー」
「自分以外の転生・転移者ってもしかして可視化しづらい?」
「へ? いや、聞いたことないっすけど。だってタカミツ先生? はすぐわかったじゃないっすか」
「言われてみればそうね……」
「でもさっきはわかんなかったぜ」
タケルさんの話をするとリトは眉間にしわを寄せた。本当に知らないらしい。嘘ついてたら針千本のましてやろうとか思ってたけどすぐ顔に出るからなあ。
「っていうか報告があがってきたこともないっすから、たぶんみんな知らないんじゃないっすかね。俺にだってウタキさん以外の人だって黒髪に見えるからそんなこと言われてもって感じで」
「もうひとつ聞いていいか」
「はい?」
「マツリカさんって黒髪なんじゃねえの」
リトの表情が凍り付く。
エレーナはきょとんとして「え、なに、なんで」と首をかしげているがこの反応見るにこいつ食人鬼のことなんか知ってんな?
ずっと不思議だった。アシュタルさんの弟だ。なのに容姿がマイナスで何事にも自信がない人だなんておかしいって。だってアシュタルさんが一緒に生活しててネガティブになれるわけねえもんな。それを覆すだけのなにか「理由」があったはず。
そんで、その理由こそが仮説として挙げてた「転生」じゃないかというあれ。
もし、記憶を持っていたら。髪が黒かったら。それが自分だけだと思っていたら。
人間っていうのは結構どころじゃなく単純な生き物だ。脳が勘違いを起こすことだってある。
「もしかして、気づいてた、とか?」
「さてね、なんの話やら」
「ねえ、私にも説明してよ。さっぱりわけがわからないんだけど」
「事務局長のとこ行きましょうっす。ウタキさん、あんまあぶないことに首突っ込むのは」
「は? 心配すんなおめーも道連れだ」
「なんでええええぇぇぇぇぇ俺だってシリアスパートで意味深なこと言って画面からフェードアウトしたいんっすよぉぉぉぉ」
「仕方ねえ、なんせお前メインキャラだから」
「そうなの!?」
「ええ!? エレーナ知らなかったの!?」




