05 世界を見つめる
「漠然と帰らなきゃ、って思ってたけどそんな理由とかないかも」
「ふうん?なんか意外ね」
「そうかぁ?俺彼女も友達もいないから未練とかたぶんないよ」
「でも自分の世界でしかできないことってあるでしょ?」
「あるけど、できなくて困ることなんてきっとそんなにないんじゃねーかな」
たとえばネットとか、大学とか、アニメとか、洋服とか。そういう流行とか技術の進化とかならいくつも気になることがあるけど、それがないから生きていけないのかって聞かれたらそんなことはまずない。スマホがなくて困るって俺はそこまで依存気味でもないし、本読むのはまあ好きだけど、この世界にだって本はあるし。ジャンルが違うだけで。
「じゃあ帰らなくてもいいのね」
「そうなるな」
「ずっとここにいたらいいわ」
「・・・ま、そんときそんときで考えるよ」
忘れてることさえ忘れてたんだから変な話だ。こっちに転移してきた弊害とかそんな感じなんだろうか。でもタカミツ先生は覚えているって言ってたしもしかして個人差?たくさんいるはずの転生・転移者なのに街中で全然見かけないから真面目に考えたこともなかったけど。
・・・そうだよな、街中で全然見かけねえよな。不思議な話だ。だって転生はともかく転移者は髪が黒のままのはずだ。固定役職につくことは普通はありえなくて魔法は使えたとしても髪の色が変わることなんかない。だったらもっと街中で黒髪の人間が目についたっていいはずだ。
「なあ、この世界で髪を染めることはあんのか?」
「ほかの色に?うーん、できなくないけど、よっぽどよ。それこそ王様が単身でお忍びで国外に行くから、とかそんなレベルだわ」
「そのへんで簡単に染めたりは・・・」
「まずできないわ。それにする必要がないもの」
髪の色は属性の色。たしかそんなこと言っていた。
魔族だったフィーアやアリアドネたちは関係ないとして、エレーナは青、リトは白、王様と姫様は緑、ティタニアさんは赤とそれぞれ属性の強さによって濃さが変わると言っていたはずだ。だからエレーナは初見は水色だったのに今は深い青になってるし。
属性は身体能力だって言ってたから変えようがないはずだ。でも俺たちはそんな「ここでの常識」まかり通らない。なんせ「髪が黒いなんてここではありえない」って最初に言われたんだからな。
「エレーナ、俺以外の転移者ってどこにいるんだよ」
「え、どこにでもいるわよ。多いのはトストリアでしょうけど」
「王都にもいる?」
「いるわよ。あ、ほら、あの角の席の男の子、髪が黒いわ」
「は?」
振り向いてエレーナのいう「角の席」を見る。そこに座っていたのは高校生くらいの男の子だったけれど、その髪は間違いなく赤だった。




