74 部屋に入るまでで一話になるぐだぐだ勇者たち
なぜ続きを書かないのか。(戒め)
「ぜぇー、ぜぇー・・・ついっ、ついた?もう・・・はー・・・ぅえっほぉ゛っ・・・最上階?はー、ここ、まおうのへや・・・ぜぇ、ぜぇ・・・」
「何も始まってないのにお前が一番死にそうなんだが・・・」
ティタニアさんにまで心配される始末だけど、みんな逆にどうしてそんな涼しい顔してられるの?
意味わからんからね?体感的に2~30階分階段登ったんだよ、しかもほぼノンストップで。むしろ俺がついてこれただけだいぶ奇跡だからね?これ帰りもこれ下りないといけないとか拷問かよ。勇者に優しくない。
「この扉ね」
「いか、はー、いかにも・・・はあ、って感じの・・・げほっげほ、つくりしてんな・・・」
「ウタキ様、もう喋らないほうが良いかと存じます」
ロスくんに水を差しだされるが水を飲む元気がない。おかしくね?いまからボス戦なのにすでに死にそうってどういうこと?なんかのバグ?だれかデバッガー呼んできて。
目の前にある真っ黒な扉はつやつやした木で出来ていた。銀色の取っ手は曇りのひとつもなくて、扉自体には虫眼鏡でみないとわからないほど繊細な意匠が施されている。ベルサイユ宮殿とかにあるドアだ。見たことないけど。
さすがに魔王城ってことらしく、ほかの部屋と比べてもこの部屋だけはドアの前に十段ほどの段差があって、ドアも格段に大きい。両サイドにはなんだかよくわからん銅像?石像?がおいてあって見るからに「偉い人の部屋です」と言わんばかりだ。間違えようがない。
「よおし、じゃ開けよっかあ。もう大丈夫う?」
「うん、もうさすがになんとか」
「クサレ勇者なのは変わらんが、よく今まで生きとったな・・・」
「それは俺が一番思ってる」
あ、これは死んだ。と思ったのは正直一回二回どころではない。ぶっちゃけ食人鬼の話なんて聞いただけでもう終わったと思ったもんね。
みんな食人鬼の話したの覚えてる?珍しくシリアスパート長くて俺は窒息しそうだったっつーの。何度も言うけどこの連載、当初はコメディ路線の予定だったんだよ?おかしくない?魔王戦だって、ラッキースケベでうっかり☆みたいなプロット作ってたのにほんとアホじゃねえのかと思う。
「あれっ?・・・んーっ、ぐぬぬ・・・」
「どうしたリト」
「開かないっすね」
「開かない?」
諸々イベントすっ飛ばしてるからダメとか?いや、そもそも魔王の部屋に来るのがイレギュラーだ。今回城まで来ちゃってもいいよねってなったのは、そもそもこのネズミに会ったからであって完全な偶然。それに階段はほとんど一本道でその途中にミミックボックスみたいなものは無かった。中からカギがかかってるのかなと思ったけど、曰く厨房係は城にいるらしいからカギをかける理由なんてないだろう。
「押したの?引いてみたらどうかしら?」
「引いても開かないんっすよぉ・・・俺の腕力の問題っすかね?」
「・・・だめですね、僕がやっても動かなさそうです」
「もう帰る?」
「すぐそういうこと言うんだから」
ぶっちゃけこれだけで1200字になってるという事実が腹立つ。俺は魔王城に来てまでぐだぐだしたいわけじゃないんですけど、そもそもなんなんですかこのサブタイトル?馬鹿なの?死ぬの?
「やってらっれかよ、もおおおお!」
すぱーん。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・っていや、引き戸かーい!?」
絶対観音開きだろうと思っていた扉はまるまるレールを滑って右にずれていった。
部屋の中では写真でみたロりサキュバスみたいな女の子と執事服の男の子。
大人ではない。どっちも、すくなくとも見た目だけは。まだ15、6くらいの、高校生くらいの見た目だ。実際はロッタさんみたいにとんでもない年齢なんだろうけれど。
「来たよ、アリアドネ」
「思ったより早いね」
「どーも、おじゃましてマス」
背中が寒い。あの二人のまわりに真っ黒い炎みたいなものが見える。オーラとか、じゃなきゃ魔力かな。
とにかく、魔王とその側近だということらしいから今までと違うのは、わかる。
「うちの子が二人もお世話になっているね、勇者殿」
「残念だけど返せるのはこのネズミだけなんだよ」
「それはそれは・・・」
にいっと笑う執事くんは、どっからどう見ても美少年だった。夢女子ルート欲しい感じの。あるよねそういう乙女ゲーム。
「僕は、今代の魔王の側近を務めているアルバートです。よろしくね。・・・そしてこちらが、崇高にして最高たる我々の主」
「・・・アリアドネ。ふふっ、仲良くしてね、勇者サマ?」
後ろでほほ笑む少女はかなり凶悪な笑顔でそう言った。




