59 リトロスが気にしていたこと
「数時間前っすけど、俺エレーナさんの魔力放出したじゃないっすか」
「そうね、凄く助かったわ」
「いえいえ、で、なんていうかーんーなんだろなー」
歯切れが悪い。目がきょろきょろ泳いでるのでたぶん言葉を探してるんだろう。
エレーナ本人はきょとんとしているし、そばで見ていたティタニアさんも心当たりがなさそうだから、魔力に干渉したらわかるナントカみたいなのが実際にあるのかもしれない。
「エレーナさんの魔力、まあ無理やり溜め込むようになったものだからいわゆるエラーと同じなんすけど、魔力の純度が尋常じゃなく高かったっす」
「純度?」
「魔道適正があっても魔力の純度が低いとたいした魔法が使えない、なんてことも珍しくないんす」
つまりはこうだ。
水と同じで純度が高ければ情報量の伝達だったり利用方法だったりの幅が広い。理科で実験のときに「純水」を指定される項目があるけどあれは水の中の不純物のせいで適切な結果にならないってことがあるから純水の使用を指定されるんだ。
「純度が高いのが問題なのか?」
「まさか、たぶんそんなこと言ったらウタキさんの魔力なんて酸素レベルの透明度っすよ」
酸素レベル。もっと言い方ないのか。
「そだねぇ、ウタキ様の魔力ってアタシたちのそれに近いかもお」
「違いがあるの?」
「んーん、魔法ってやることはいっしょなんだけどぉ、あたしたちの魔力はほとんど呼吸なのぉ。要は基礎代謝だからふつーにできるかんじ?息の仕方教えてください、って言われても難しいでしょお?」
「人間のは?」
「呼吸するための補助道具をつけてる感じぃ」
要は酸素ボンベのあるなしが人間族と非人間族との違いってことか。呼吸の仕方を説明するのは確かに難しい。吸って吐け!としか言えないけど吸って吐く?って聞き返されたらもう教えようがないもんな。
フィーアたちは生まれついて魔力があるから魔法の使い方教えるのが難しいんだろうけど、じゃあ魔法使いは?弟子とるんだよな?
「魔法使いたちの道理の詳しいところはさておいて、魔族のように指を振ればいいわけじゃないから呪文でイメージを固める方法とかを学ぶんだ つまりそれが師弟関係ってこったな」
「学校みたいなもんか」
「そうそう、魔力のあるなしで呼吸の仕方というか、走ってる時の浅い呼吸と大自然での深呼吸の種類を学ぶもんだと思えばいいぞ」
さすが王様。王様自身は魔法使いになれなくても歴代勇者とか文献とか頭に入れてる情報が多いんだろうと思う。チャラ経って認識改める。ごめんな。
「それで、その純度が高いのの何が気になるんですの?」
オデット姫が首を傾げた。たしかに問題はそこだ。
リトはうーんうーんと首を傾げて、でもーとかいやーとかぶつぶつ呟いている。
「おい、軟弱2号!さっさと説明しないか!」
「ひいっ!?すんません!!」
「軟弱2号!?」
ティタニアさんが、がんっとテーブルを叩くとリトは半泣きで飛び上がった。わかる、ティタニアさん怖いもんな。でも軟弱2号には反論してもいいと思うんだ俺。
「これは俺の勝手な推測っすけど「今代の魔法使いがエレーナ可能性がある」
えぐえぐと泣きながらリト…じゃなくパキラが言った。お前喋るの久しぶりじゃない?




