46 そろそろ正規ヒロインの話をしよう
エレーナ。
それが、私の名前。
同じく、ダンジョン調査隊だったお母さんがつけてくれた名前で南の谷に咲く青い花からとった名前なんだって。私自身は本物の花を見たことがないし、どうしてその花の名前をくれたのかすら知らないけど。
意味を聞ける日は、もう来ない。お母さんは幼いころ、先代の魔王戦のなかのとある戦闘で死んじゃったから。死体は幸いにもきれいな状態で帰ってきたから葬儀もできたしなにも悔やむことなって、きっとない。
「エレーナのお母さんって亡くなってるのか」
「うん、まあでもこの世界では大体15歳にはみんなもう自立するから。私だってほとんど適正年齢だったのよ。わたしももう調査隊員だったし」
南側ダンジョン調査隊の第2指揮官だった。それってとってもすごいことだって今になってわかる。家にいることが少ないわけでもなかったから本当に仕事と両立してたってことだと思う。タフよね私のお母さん。
お父さんはいるんだけど、小さいころからあちこち飛び回ってるようなひとで・・・ああ、研究職なの。魔王軍、魔族に対抗できるなにかはそもそも存在しないのかって毒性のあるものの研究してるわ。最後にあったのは半年前とかじゃないかしら。
「寂しくないのか?」
「寂しいけど、どこの家も似たようなものよ、それこそ家業を継ぐようなルートでもなければね」
「固定役職っていうのはそんなに重要なのか?」
「少なくとも王様意外とかかわってみるなんて考えたこともなかったわよ」
だからウタキとであったのってきっとなにか意味があると思うの。それがなんなのかはわからないけど、こうやって魔王と戦うなんてまるでお母さんの追体験でもしてるみたいじゃない?
お母さんは、草属性だったから髪は深い綺麗な緑だった。ああ、あのね、力の強さが強いほど色が濃く深くなるのよ。私って水色っぽいでしょ?まだまだひよっこよ。
リトは、なんていうの、限りなく銀色な白でしょ。光属性は白髪から銀髪になるの。だからわたしよりも強いんじゃないかしら。まあいつも俺にはできないっす!って逃げちゃうけどね。
「怖くないのかよ」
「なんで?」
「俺いまでもめちゃくちゃ逃げ出したいし、正直勇者ルートなのも納得いってないけどエレーナなんてほとんど巻き込まれじゃん。何で平気なのかなーと」
「死ぬってことの実感がないからじゃないかしら。戦闘で人間族が死ぬことはあるけどそれ自体はかなりのレアケースだもん」
「病死とか老衰とか事故が多いのか」
「基本的にはね」
私は私にできることがしたいの。そうやってお母さんの背中を追ってるから、こうやって同じ仕事をしてるんだわ。きっとね。まあそうなるルートだってきまってるようなものだし勝手にそう思ってるだけなのかもしれないけど。
「エレーナさん、もしかして自分の出生とかあんまり知らなかったりしないっすか?」
「え?うん、詳しくないな。攻められてばたばたしてたときに生まれてきて大変だったとは聞いたことあるけど」
「いや、あの、俺が言うのもなんなんっすけどね・・・」
「ウタキ様、そろそろ王都に到着しますよ」
「ありがとーロスくん!・・・で、エレーナがなんて?」
「いや・・・今度にするっす」
別に自分じゃ、何てことない人生送ってるって思ってるけど、これからは少し危なっかしいのかなってわくわくしちゃうわね、ねえウタキ。
全部全部あなたのおかげだわ。わたし、あの日あなたを森で見つけたのってちゃんと意味があったんだなって思ってるもの。
「エレーナ・・・」
「まあ、これで顔が好みならもっとよかったんだけどね」
「何で最後にそういらんこと言って穿ってくるの!?」




