36 あっ違います。むす…こさんとは結婚しません。
「あなたのおかげでカルセルムは無事だったんですね、なんとお礼を言ったらいいか… 医師のタカミツです。ミナガワ タカミツといいます。」
トストリアについて早々、英雄の凱旋かといわんばかりの歓迎をされたけどあいにく俺はそんなつもりじゃなかったので、そのへんをすべてエレーナたちに丸投げしてきた。
今いるのは街の中の小さな喫茶店で、ここの店主とタカミツ医師は友人らしく店を貸し切ってくれている。
タカミツ医師は、漢字で書くと南川 孝充さんというそうだ。
歳は今年で48、この世界には転移してきたらしい。もう20年以上前のことだと言っていた。
「当時、私はしがない医大卒のぱっとしない研修医でした。恋人もおらず、医学書とばかり時間を共にするような若者でした。恥ずかしながら友人も少ないタチでしてね、困惑することばかりでしたよ」
転移してきた状況は、俺とさほど変わらないみたいだ。
本を読んでて、電車を待ってたはずで、いつまでも次の電車が来ないなと視線をあげたら森の中にいたらしい。
ぶつかったりっていう物理的な衝撃はうけてないんだな。
「エレーナさんのように私を助けてくれたのが当時調査隊員だった今の妻…エメリアです。目が覚めるような思いでした。美しい人だなと、思ったんです」
「今はあまり具合がよろしくないとうかがいました」
「ええ、原因不明の難病です。分かっているのは「死ねない」ということだけで」
「死ねない?」
「はい、死ねません。罹患してる間は不老不死なんです。だから彼女の見た目は30そこいらのままです。会ってないですか?」
「ええ、お嬢さん方にお世話になったので」
「そうですか、まあそんなわけで原因の研究も兼ねてカルセルムにいるんですよ」
カルセルムの水質や地質、山間にある薬草などの研究のためにこちらに来ていて治療薬を作るために奮闘しているという。
それに合わせて、医者のいないこの街で困ってる人たちを助けているそうだ。
俺なんかより、勇者に向いている。
「ウタキくん、といいましたか。私になにかききたいことがあるそうですね」
「はい。まさかクレアとクレオのお父さんが日本人だなんて思わないじゃないですか」
「あの子達も随分わたしに似てしまって日本人的でしょう、ああでも目はね、妻と同じなんですよ。綺麗な緑色で、髪の色が属性色になってくれたのは幸いですね」
ニコニコと愛おしそうに言った。
ここの家族は仲がいいんだなと微笑ましい気持ちになる。俺は最後に父親と話した時もう少し反抗的だったと思う。なにしてんだろうな、と少し感傷的になった。
「すいませんね遮って」
「いえ。話っていうのは、なんていうか。まずクレオのことから話さないといけないんですけど」
「? クレアのほうではなく?」
「え、はい、クレオです」
「クレオはあんなナリですが男でして」
「はい、存じてますが…」
「まあ、ウタキくんがクレオというなら僕は止めませんがね…」
「あっちがいます結婚のご挨拶とかそういうあれじゃないんです待ってください」
予想以上にお父さん天然のにおいがする。




