30 人間がどうしても勝てないもの
人間の勝てないもの。それはもちろん寄る年波だ。
っていうのは冗談で、得体の知れないあれやこれやがそのひとつで、魔力に飲み込まれるななんて言われても俺達がそれに抗う術すら正直よくわからない。
パキラは笑ってるけど、アリアさんはなにもいわなかった。ってことはなんとかなるぞってことなんじゃないの?って思いたい。思わないとやってられない。
「着陸しますので少し揺れますよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「いえいえ、勇者様の運転手なんて光栄です」
にこにこと笑うこのお兄さんも普段は王室に勤務してて王宮のなかでの雑務をあれやこれややっているらしい。家来って呼べば端的に王宮に居るひとたちをくくれるけど、それこそホテルみたいにみんながみんなやってることが違うからまた個々人の見分けってなると変わってくる。
まあ、たくさんいるみたいだから俺がわかる人なんてごくごく少数だけどね。
「パキラ、魔導適正の強制的な補助っていうと体の中には魔導抑制機構が存在しないんじゃないっすか?」
「いや、水晶水使ってるからそのあたりもひっくるめての魔導適正じゃな。アリアのことだしそれくらい考えておろう」
「こいつはさておいてエレーナが心配だ。吸収量が多いみたいだし、放出させたりできないか?」
「あ、それなら俺がなんとかするっす。俺魔導士資格はないっすけど魔導適正あるから簡単な調整くらいだったらなんとかできるっす」
「リトロスはなんで事務局にいるんだ?」
「戦闘が怖かったっす」
「待って、頼むから俺たちのこと置いてきぼりにしないでくれる?リトはいろいろ説明してほしいし、ティタニアさんもできたらもう少し小さい声でお願い。さすがに心折れるよ俺」
リトさらっと魔導適正あるとか言ってるし、そもそも抑制機構ってなに?そんなものまであるの?
そりゃいろいろと細かい設定があるのはわかるんだけど一度に詰め込まないでほしい、テスト前だってこんなに覚えること多くなかったぞ。
「魔導適正って一言で言うっすけど、魔導適正には放出と吸収の2種類があってそれぞれが呼吸と同じように作用するっす。抑制機構っていうのはそれのバランスをとってくれるシステムのことっすね、ほら過呼吸ってあるじゃないすか。魔力にも似たような状態が起きちゃうことあるんっすけど、基本的にそれをセーブしてくれるのが抑制機構なんすよ」
「こどもにもわかるように」
「いっぱいご飯食べすぎるとげぇってなっちゃうから食べ過ぎないでね、ってお母さんが止めてくれるっす」
「なるほどわかりやすい」
3秒でわかる言い方だった。
つまり、お母さんがいないと食べ過ぎちゃうんじゃないのって心配だってことか。
「それでも食べ過ぎちきゃうときは、第三者・・・お父さんが背中ぽんぽんしてくれるっす。俺はそのお父さんの役割ができるっす」
「お前、先生向いてるよ」
リトの説明が終わったと同時に機体が揺れた。どうやら下船準備が整ったらしい。




