16 そろそろ旅に出ろよ
読者のほとんどがそう思ってるだろう。異世界ものなのになんだよこれ!って思ってる人もいるだろう。俺もそう思うし、作者もそう思ってる。思考がメタい?うるせえ、そうでもなきゃやってられるかこんな世界。
とりあえず、初日から詰め込みすぎて俺は案の定パンクした。目が覚めた時、傍らでクレオが水差しを交換に来てくれていて話を聞いたらもう1週間くらい経っているらしく知恵熱で1週間も気絶するくらい自分が軟弱だと気付かされてしまった。死にたい。
「クレアとエレーナさんと交代で看ていたんですがしきりにタンイって言葉をくちにしてましたよ、それもうらめしげに」
「大学生だからな」
「そのダイガクセイというのはタンイがうらめしいのですか?」
「ものによるなあ、楽だったり好きな単位もあるから」
「ウタキさんにそこまで想われてるなんて…うらやましいですね」
何を勘違いしてるのか知らないが、大学生と単位は切っても切れない関係だし頭抱えるほど単位が恨めしいのはなにも俺だけじゃない。あと今のではっきりしたけどクレオの声のトーンがおもくそ下がったのでクレオは男の娘枠として俺のルートであることが判明・確定です。本当にありがとうございました。
「これからどうなさるのですか?昨日から街中では魔物の襲撃が発生しているそうですよ」
「…いやだ、とも言ってられねえよな」
「私は昔からずうっと不思議なのですけど」
「なにが?」
眉間にしわを寄せ、毛先をくるくると指先で遊ばせるクレオ。口を半開きにしては閉じ、唇をなめ、また開きかけてはやめて、と数回繰り返す。言葉を選んでいるらしい。そんなに言いにくいことがかのじ…彼にとって不可思議っていうのも変な話だ。
「この世界で勇者の権限や称号を与えられるのは基本的に男性です、女性もいますが数えるほどで。やることは一緒ですけどね、魔王の討伐っていう。」
「それが不思議なこと?」
「いえ、なぜこの世界は敵対関係がありきで成立しているんだろうということです。敵がいて初めて経済が回りますけれどそもそも私たちが生活するために魔王という存在がいるのですよ?それは逆もそうで、魔王という存在のために私たち無力な人間も存在しています」
「でもこの国は王国だろ?」
「王様は代々人格者ですけど、勇者にはなりえません。戦えない統治者はむしろ象徴のようなきがします」
RPGにおける王様は、勇者を募り旅に送り出すためのファクターであって、王という立場はたしかにとってつけた飾りみたいなところはある。でもここは文字通り異世界であって、ゲームじゃない。そういうラノベもあったような気がするけど、俺はチートじゃないし、ウィンドウもパラメーターも特に可視化するシステムはこの世界にはない。
だからこの世界はゲームじゃないし、同じくらい変だ。
まあ、それをこの世界で生きてるクレオが疑問に思うっていうのははたから見たら少し変わってるんだろうな。だってエレーナは「普通のことでしょ?」と言っていた。
そう、普通なんだ。ここではこれが生活のあるべき姿なんだ。
俺は、日常生活に疑問なんてない。当たり前のように受験勉強をして、大学へ通い、親と軽い小競り合いをし、本気でもなく無気力でもないサークルに入って、そんな毎日に違和感なんてない。
だからクレオは言いよどんだのか。
「俺からしたらクレオ以上に疑問しかないよ、きっとクレオの父さんからしてもな」
「やっぱり、そうなんですね…」
「…大丈夫」
「え?」
「なんかもう仕方ないし、俺も旅するわ。んで、魔王を倒す。そしたらなんかわかるかもしれないし、わかったらクレオにだって伝えに来る。それでいいだろ?」
「ウタキさん…わ、わたし、そんな…」
ぽろぽろとクレオが泣き出した。ちょっと待て俺はこういうときの対処法しらねーぞどうしたらいいんだ。モテ男の神様、今だけ俺に舞い降りてこい。
とにかく次回の今頃はもう旅をしていよう。とりあえずエレーナは一緒に来てくれるっていうし、まずはエレーナと細かい予定をたてて…ってクレオ泣きすぎ。
「もう泣き止めよ、なんか気にくわなかった?」
「だって、変なこと言ったのに…こんなっ、親切にしてくれる男の人…はじめてで…」
「まあクレオも男だしなあ、見た目はすっげーかわいいけど」
「か、かっ、かわいい!?かわいいですか!?」
「おう」
「~~~~っ、うれしい、とじこめちゃいたい…」
おーっと、いい雰囲気ここにきてぶち壊しだまじか。




