15 職業勇者は無気力が基本
完結させられない自信がでてきました。お久しぶりです。
「おーけー。わかった。何もしたくない」
「あんたねえ」
俺は異世界転生に夢を抱かないタイプだ。なんでかって、世の中そんなに甘くないからに決まってる。
いいか、20年も生きてみろ。世の中なんて大体不条理だし女の子とキャッキャウフフできるのなんてカースト上位だけだ。
俺はこの肩書きをはやらせたいから何度でもいうけど、平凡むしろマイナスってのはなかなかに胃痛がするもんなんだよ。陰キャに優しい世界なんて存在しねえんだよ!
この世界の勇者という職業はいわゆる天性で、すごいことなのだが名誉だからこそなのか勇者適正があるやつには職業選択の自由が与えられない。まず聞かされたあれ、ルートってやつはほとんどは「予言」みたいなふわっとした効力しかないらしい。本来は。
「勇者にも人権をください」
「答えはノーよ」
ひどい話だ。
「ウタキの適正はもう勇者になるために生まれてきた!ってくらいあるのよ。あなたがいるうちはこの世界にほかの職業勇者は生まれないから魔王側にどんどん街を壊されていくわ」
「職業って言っちゃったよ」
これから俺はどうするべきなのか。本当だったら武器や防具を調達し、装備を整えて、仲間を募り、旅に出ればいいはずだ。とはいっても先立つものがないし、ぽっと出の転生…いや俺は転移になるのか、してきたヤローに協力しますなんて物好きそうそういないだろう。
こんなルート提示されたら俺はあえて男でパーティ組みたいよ。女ばっかになったとしてうっかり誰かひとりとラッキースケベとか起きたらその時点で死ぬじゃん。魔王どころじゃないよ。異世界での死因が痴情のもつれとかなにそれ超格好悪い。
「わたしはウタキに協力するわ。戦力的には紅薔薇が欲しいけどあの人ウタキに好戦的すぎるからきっと頼んでも厳しいわね」
「仮にあの女騎士さんが来てくれたとしても、それは魔王じゃなくて俺を殺すためだと思う」
背中が寒いのは気のせいじゃないと思う。
「俺、痛いのとか嫌だから話し合いで魔王様と解決する方法ないの?」
「単純な話し合いってのは無理ね。18代目と34代目はボードゲームみたいなもので勝負したって言われてるけど」
「40代くらいまで居てその2組だけって歴代勇者はなんでそんなに血の気が多いんだよ!?」
あとで聞いた話だけど、引退した魔族と人間はいまや仲睦まじく旅行やゲートボールに勤しみ、酒の席なんかでは「こいつ、俺にこうやって負けたんだぜ」「やめろよぉ、昔のことだろ」みたいな和やかさだという。マジの武勇伝を酒の肴にするんじゃねえよ。それを聞いてる周囲も「当時はこうだったなあ」みたいな呑気さがあるという。いや居住区ぶち壊しに来てた相手だよ?なにしてんの?
「先代は女性の魔王だったの、私たちの感覚でいくと今は40代後半くらいの女性でね」
「魔族って長命なんだっけ」
「私たちに比べればね。実年齢は6000歳くらいじゃなかったかしら」
頭の痛くなるような話だ。日本の平均寿命だって80くらいなのに6000て。この世界いつから存在してるの?初代魔王のころから人間存在してるっていってなかった?どういう世界線だよ。歴史の勉強が必要だったら俺は死ぬ。
「先代は世界征服までこぎつけたから魔王側の勝利よ」
「ん?ちょっと待てよ、なんで負けたのにこんなに平和なんだよ、支配されてないとおかしくないか?」
「勇者は魔王を倒し、魔王は勇者を倒すの。チャンスは1回きり。それが終わったらそれで終わりよ、世代交代してまた同じことをくりかえすわ。普通のことでしょ?」
つまりあれだ。
この国は何代にも渡って陣取りゲームをし、それそのものが社会の存在意義に結びついているんだ。王様を据えてるのは統治という目的で実際はたぶんどの国もトップはほとんど飾りだ。高度に政治的な問題に勇者と魔王っていう役割が振られていて…ということは…つまり…
「勇者適正は首相選挙、ってことかよ」
「シュソーセンキョ?」
思ったより難しいし大事だった。もう帰りたい。




