12 貧乳と巨乳の双子
宿屋っていうのは大きな意味を持っている。
泊まる場所だからってのはもちろんなんだけど、宿とか酒場は情報交換のためにすごく重要な場所なんだって。まあ、子供よりは大人のほうがいろいろ知ってるだろうしそう考えたら大人が集まる場所っていうのは情報の湧き出す場所って言っても過言ではない。
人が集まれば情報が集まるのはどこも一緒らしい。ということはたくさん人が集まるところほどたくさん情報が来るのも当然だ。それの真偽はさておいてな。インターネットと同じで。
「あらあら、エレーナさん、ごきげんよう」
「まあまあ、エレーナさん、ごきげんよう」
「ひさしぶり、クレア、クレオ」
まったく同じ顔。双子。服装も全く同じワンピースで同じ色。違うのは左右の泣きボクロくらいなのでホクロがなかったらきっと俺は見分けがつかないだろう。
いや、ごめん、それは嘘だわ、もっと簡単な見分け方があったわ。片方が貧乳でもう片方が巨乳だわ。
すげーな同じ顔なのに大小ニーズ完全対応かよ、運営も真っ青だわ。さすがに俺のソシャゲ脳ではそんな感想しか湧かなかった。ちなみに俺は脚が好きなので大小関係なく良いと思う。
「そちらの方は?」
「まあまあ、クレア、とりあえずお通ししてお茶をいれましょう」
「あらあら、私ってば、そうね、中へどうぞ」
あんまり気にしてこなかったけど、このふたりは「あらあら」「まあまあ」って口癖があるみたいだ。あらあら、って言うほうがクレア。まあまあって言うほうがクレオ。ちなみに巨乳なのはクレアのほうだ。
応接間に通してもらって、お茶をもらう。ガラス製のティーポットには青いお茶が入っていて、その中に花びらの多い花が浮いている。においは完全に紅茶なんだけど、飲んだことない味がした。
「ここの主人は母ですけれど、母は体が弱いものでして。私、姉のクレアです」
「妹のクレオです」
「あ、どうも、俺はウタキです」
「転生者様?」
「転生者様かしら?」
「うん、まあ、はい、そんなかんじです」
「エレーナさんと一緒ってことは王様からのお達しかしら」
俺たちがなにも説明しないうちに二人はおおまかなことを言い当てた。すごいな。
くすくすと笑っている二人はかわいらしい雰囲気で、なるほど宿が繁盛する理由の一つには彼女たちの存在もあるのだろうと思う。
「まあまあ、お部屋はどこにしましょうか」
「3階の私たちのとなりのお部屋はいかが?」
「え、二人は宿の中に部屋があるの?」
「もともとここは、二人のお父様の家なのよ」
要はでかい屋敷だったのを宿屋に改造してしまったってことらしい。二人の父親もまた異世界から来た人で、薬屋として生計を立ててこの家を買い取ったんだそうだ。彼女たちは「この世界」と「異世界」のハーフらしい。確かに、日本人気味のハーフ顔だが転生者とこの世界の人が結婚する例もあるんだな。
「父もウタキさんと同じ黒髪でしたね」
「あらあら、でも歳をとったから今は白銀色よ」
「二人の親父さんって…」
「今は、カルセルム…北のほうの町にいます」
「あそこには医者がいないので」
「もう三年になりますね」
「でもたまには帰ってきますよ」
いい親父さんなんだろうな。もし日本人ならぜひ会ってみたいと思う。多分、日本では医者か薬剤師だったんだろう。
「ふふ、とりあえずお部屋はそれでよろしいかしら?」
「あ、はい、お願いします」
ふと我に返る。
そういや、この二人、まだ俺に対してアクションが起きてないな。




