第7話 迷宮までの道のり
メルが迷宮に潜ろうと言った日の翌日。
迷宮について、改めて調べ直すことにした。
迷宮
この世界にはいくつかの迷宮が存在する。
迷宮はそれ自体が魔物とも言われている。
迷宮が発生する地域は魔力濃度が濃い。
迷宮の奥深くにはとてつもないお宝や、古代の遺産が残るとも言われている。
侵入者を拒む罠や、強力な魔物も住む。
本来迷宮は人や魔物を取り込み成長(迷宮内のトラップや魔物が強くなるなど)するのだが、数ある迷宮の中には人を全く寄せ付けないような迷宮も存在するらしい。
そういう場所にはそれなりのお宝などが存在している様だ。
「まるで金山みたいなもんだな。人が踏み入れていない場所の方がうまみがあるなんて。」
「ん?なにか言ったタケル?」
どうやら口に出してしまっていたらしい。
「私がタケルを魔族領に連れてきた理由はね、この付近に迷宮があるからなの」
「え!?そうなのか。てっきりメルが自分の部屋で俺を食すためかと思ってた。」
「…もうっ、まぁそれもなくはないというか、その…」
最後の方は小声でゴニョゴニョといってもじもじしてしまったメル。
サキュバスというのは恥じらいのない種族かと思いきやそうでもないようだ。
「で、その場所っていうのは、はっきりわかるのか?」
「目星はついてるの。だから準備が整い次第出発しようと思うんだけど、いいかな?」
「断る理由なんかないよ。」
メルが吸血鬼に送り込んでいる密偵の話によるとふた月後に大規模な作戦があるらしい。
「ふた月後までに必ず強くなって戻ってこよう。」
「うん!!」
そして翌日。俺達は迷宮攻略に向けて出発した。
ピオハの街は年中霧に囲まれている。
この街は山々に囲まれているそして近くには大きな湖?海?があり、通年温かい。
そのために常に霧が発生してしまうそうだ。
この霧、上級魔術で消すことができる。
ただ、その魔術を絶えず使い続けなければならないため。
そんなことをするヤツはいない。
一時的に消しても次の瞬間にはまた霧が発生してしまうのでいたちごっこである。
さてどうしてこの街が霧に覆われているにも関わらずメルたちは迷うことなく、辿りつけるのかというと。
この世界特有の鉱石である。
なんでも街のできる前、100年単位昔のことだが。。。
メルが解放者達をかくまう場所を探していたころに霧の中にその鉱石を発見したらしい。
鉱石の周囲には霧が発生しないということがわかったメル達はこれを用いて、街の通路に鉱石を配置したというわけである。
なので、街の中に霧はなく、そして、その原石を加工したものをメル達は指輪や腕輪、ネックレスとして持っているのである。
街の入り口の目印があり、これに沿って点々と街までの目印も点在している。
霧が深いが故にその目印が見えない為、絶好の隠れ街となっているのである。
さて、周囲1メートルの霧を消したといえど、はるか前方は濃い霧である為はぐれてしまえば完全に迷ってしまう。
メルはそんな俺にピタリとくっつきながら歩く。
間もなくして霧が晴れている場所に到着した。
「メル目星の付いている場所ってどこなんだ?」
「ここから西に1日私たちの街と同じように深い霧が発生している場所があるの。」
「でも、それだけじゃ根拠として弱くないか?」
「うん、もうひとつは、その霧の中から魔物が発生しているってこと。魔力のある場所からは魔物、果ては魔獣が発生するっていうのは知ってる?」
魔獣…魔物がワンランク進化したもので人語を操るものや複雑な魔法を操ったりするとかしないとか…
「その発生源は迷宮か。」
「正解っ!!なので私たちはそこを目指そうと思います。」
「ちなみに…移動手段は?」
「んっそりゃもちろん飛ぶんだよ?」
何言ってるの?といった顔のメルは既に羽を広げていた。
「安心して、大分、魔力量が上がったから前みたいにはならないって!!…多分。」
「おいっ!今多分って言ったよな?メルさん?」
「…さぁ!れっつごー。魔力切れたら血お願いね♡」
そう言って俺の手を取り宙に飛びだすのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日、結局なんだかんだ吸血され貧血気味の俺とメルは霧の中を歩いていた。
周囲の霧については消せるのだがなにせ目印がない。
手当たり次第この辺りを探索するしかない。
「う~~~~~ん、やっぱりなかなかみつからないね。」
迷宮の入り口ってのはどうやらいつでもウェルカムなものと、来るんじゃねぇよの2種類で、地表に入り口が前者、地表かどうかもわからず入り口が秘密なのが後者だ。
かれこれ霧の中を歩き回って半日が経つ。
魔物はちらほら居たのだが、叩き伏せてしまった。
まぁなんとも強くなったものだ。
出現した魔物は、
赤い牙を持った白い大蛇
体長約10メートルほど、でかいのにやたら早かったがメルと俺の敵ではなかった。
虹色の気持ち悪いカエル
カラフル過ぎて気持ち悪い上に毒を吐く。一刀両断にしてしまった。
極めつけは2メートルほどの蜘蛛
蜘蛛の糸ってのはかなりの強度を誇るらしい。
強さは鋼鉄の約5倍、直径1センチの太さの糸でクモの巣であれば飛行機を捕まえることもできるそうだ。
が、しかし炎剣で燃やしながら切った為、全く問題がなかった。
この辺の魔物はどうやら視力に頼っていないらしい。
この深い霧の中どうやって俺達を感知しているのか、蛇はともかく。
魔物なんでその辺が特化しているのだろう。なんて適当な理由をつけて深く考えなかった。
そろそろ日が暮れる、ひとまず行った場所には目印を立て濃い霧の中をマッピングしてみたのだが、入り口は未だ見つからないままだ。
とりあえず今日はここらで野宿をすることにした。
とはいうものの寝込みを襲われてはたまったもんではない。
山の斜面に穴を掘り、奥にちょっとした空間を作る。
簡易防空壕のようなものを土魔術でさっと作った。
入り口を塞いでしまうと窒息してしまうので、入口は限りなく狭め、
火を使うので煙の逃げ場として上方に穴をあけた。
「入り口見つからないね。」
「そうだな。」
「まぁ焦っても仕方ないか、今日はゆっくり休んで明日に備えよ!」
というわけで早々に休むことにした。
夜中。
なにやらガサゴソと動く気配がした。
何を隠そうメルだ。
どうやらいつものをしたくなってモゾモゾ近づいてくる。
「ふふふ、寝てるタケル、頂きます♡」
なんて小声で言っている。
全部聞こえてるっつーの…
「…メル」
「え、タケル起きてたの?」
メルはうろたえていた。
「明日に備えて寝るんだろ?今日はお預けだぞ。」
「ううぅぅぅ~~~」
メルはちょっとだけ!先っちょだけだからと、あきらめない。
おま、どこのおっさんのセリフだ。普通逆だろ。
「だめだ!もしかして魔物が襲ってきたらどうするんだ。緊張感を持て!!」
「…ごめん。」
しょぼくれたメルに口づけをする。
「家に帰ったらな?」
あまりにもしょぼくれるのでフォローを入れておく。
「うんっ!!!おやすみ」
とりあえず、乗り切ったようだ。
家に帰った時が恐ろしいが、今この場で何もかも絞り取られるよりはいいだろうと思い、タケルも眠りに落ちた。