閑話 澪の苦悩
澪視点
完全に暗くなってしまったことと、私が気絶していたこともあり、騎士たちはタケルの捜索は困難と判断し一時撤退を言い渡した。
翌日、明朝よりタケル捜索が開始された。
捜索範囲は昨夜、レッドアイウルフ奇襲場所から魔族領の境までに及んだ。
崖の上でレッドアイウルフの両断の半身死体は見つかったのだけどタケルの姿は発見されなかった。
タケルはレッドアイウルフを両断したが、その後、別の魔物に襲われ逃げたか、あるいは崖から落ちたのだと推測された。
私はその場で泣き崩れ。
「私のせいだ、私のせいで…タケルは……」
そんな中、タケルの生存を信じて疑わない傑君が、
「タケルは絶対生きてるよ。澪ちゃんが信じなくてどうするんだ。」
「うんっ…」
私のせいでタケルが死んでしまったかもと思うと気が気ではない。
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タケル失踪から一週間。
捜索の打ち切りが決まった。
「澪、残念だがタケルは死んだと認定しざるを得ない。」
王国騎士からそう告げられた。
私はその日から部屋に閉じこもった。
クラスメイト達がかける言葉も耳を通り過ぎていく。
タケルがいなくなったことに唯一の大人である不知火先生も塞ぎ込んでいたらしい。先生は剣を持たせれば、生徒達が逃げ回り(剣が重くて周囲に危険が及んだ。)魔法を唱えさせれば、魔力制御がうまくいかずこれまた生徒が逃げ回った。
事態を重く捉えた王国騎士は彼女の職業に着目した。
治癒士
かなりの上級職であり適性があった。回復系の魔法であれば制御出来たため、彼女を後方支援専属要員にしたのである。
また、治癒士はレアな職業である為、魔族、獣族が攻めて来て怪我人が多く出ている王国内でかなり重宝した。
そのため、タケル失踪時、美南はファリダットから離れた場所に居て、彼女が到着した時には既に捜索打ち切りとなって数日が経っていた。
「上原さん…五十嵐くんはきっと生きてるわ。」
「はい…私もそう思ってます。」
先生から話しかけられるも、私は自責の念から抜け出せない。
タケルがいなくなっても無論、訓練は続いていた。
そんな訓練が終わったある日の昼下がり。
私は相変わらず自室で塞ぎ込んでいた。
コンコンっ
ドアがノックされる。
「…どうぞ」
「失礼しますわ。」
桜花が訪ねてきた。
「澪さん。ずいぶんと塞ぎ込んでいますのね。今の澪さんを見たらタケルくんはなんと仰るでしょうね。髪はボサボサ、顔はボロボロ。今の澪さんにでしたら負ける気がしませんわね。」
桜花に焚き付けられてるのがわかるが、言い返す気力はない。
普段、桜花は人を逆撫でするような発言はしない。
桜花は恋敵がタケルの死体も発見されてないのにすでに諦めている態度が許せなかった。
「澪さん、貴方私よりもタケルくんとの付き合いが長いのに、タケルくんを信じれないなんて、幼馴染み失格ですわね。」
その言葉に私はムッとし言葉を返す。
「桜花に何がわかるのよ。タケルは私の為に魔物を追いかけたのよ。私が強ければあの時、気絶なんかしなければ、タケルは…」
「笑わせないでください。そんなタケルくんに想われてる澪さんがそんな調子でどうするんです?誰よりも澪さんがタケルくんの生存を信じなきゃいけないんじゃないんですか?」
びっくりした。
普段ニコニコして人に対して怒ることのない桜花が怒気を出していることに。そして桜花の言う通りだった。今の私に出来るのは、タケルを信じて待つこと。そして次こそタケルに我を失わせないで済む様、強くなること。
「わかったわ、私…もっと強くなる。」
「吹っ切れたようですね。それでこそ、私の恋敵です。」
と、柔らかく微笑むいつもの桜花だった。
「桜花、ありがとう。」
「私としたことが敵に塩を送ってしまいましたわ。でも、それでこそ澪さんです。では失礼しますわ。」
桜花は部屋を後にした。
翌日、訓練で魔物を屠り。
”狂戦士帰還”とクラスメイト達は喜んだ。
美南も澪が元気になったのでホっと胸をなでおろすのだった。