第1話 異世界に招かれて
目を開けるとそこは…
黒光するパルテノン、もともと柱と床のみの基礎部分だけだったのだが、確かに壁があり天井がありちゃんとした部屋になっている。
周りを見渡すと唖然とするクラスメート達、皆なにが起こったのか完全にフリーズしている。
「ようこそいらっしゃいました」
そこには、いつの間に現れたのか聖職者の様な格好にどこか気品のある髭を蓄えた老人が立っていた。
「皆様には説明が必要ですな。まずここはあなた方の世界とは異なる世界ベルム…おっと立ち話もなんですのでこちらへ」
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現在クラスメイト15名+教員1名は一つのテーブルに着席している。
この部屋に歩いてくるまでに分かったこと
現代の建築様式には有り得ない建物だということ。
全てがレンガ?石でできているかのような建物である。
現代日本においてそんな建物、ましてや学校の近くにそんな建物があった記憶はない。
そして、極めつけが執事、メイドである。
現代日本において、アニメの世界でもない限りコスプレで給仕など…それなんのエロゲ状態だ。
「申し遅れました、私ヴィック・クレメンツといいます。皆様には説明をさせていただきます。」
とそれから約1時間ほどヴィックはこの世界の概要となぜ俺達が呼ばれたのかについてを話した。
要約すると、この世界ベルムは、様々な種族の暮らす世界らしい。東の魔族、中央大陸の人族、南の獣族、おおまかに種族は三つ。
現在では確認できていない種族に幻獣族(どこに住んでいるか、生きているかさえ不明)、北には天族、西には妖精族が暮らすらしい。というのも天族、妖精族の暮らす地域は人が足を踏み入れるにはとてつもなく大変らしいのだ。
そして中央大陸の人族も王が束ねる王国と、皇帝の統治する帝国があるようだ、俺達が召喚されたのは王国である。王国と帝国この二つは昔争っていたが今は停戦状態にあるらしい。
というのも東の魔族、南の獣族この二つの種族から同時に攻撃を受けるという異常事態に俺達が召喚されたらしい。
そんなもんこの世界の人間で解決してくれ。。
「皆様はベルムの住人よりもはるかに高度な世界より来られたと認知しております、そこでぜひ我々に手を貸して頂き救って頂けないでしょうか。」
何を根拠にそんなこと認知してんだと内心ツッコミを入れながら苦笑する。
唖然とする俺達を尻目にヴィックは話し終えると、質問は?といった顔である。
「勝手に召喚しておいて、勝手なことを言うんじゃない!!!!今すぐ全員を日本に帰してくれ!!!」
声をあげたのは我妻正義だ。名前の通りの正義漢である。
「皆様の帰還は神の思し召しなのです。我らでは元の世界に返すことはできません。」
「召喚できたのならその逆も可能だろう!」
「召喚の魔法陣の構成が我らにはわかりませんが、おそらく一方通行の魔法陣であると思いまする。」
え…
勝手に呼ばれて、使命を果たしても帰還の保証はないのだから…
「とにもかくにも、使命を果たさないとオレらにも害が及ぶってことだろ?」
「勝手に呼んでおいて大変済まなく思っておりますが、このままでは人族は滅びの道の一途ですので…」
「だったらやるしかねぇか!みんなやってやろうじゃないか!!」
光ヶ崎英雄だった。彼はクラスのリーダー的存在でイケメン文武両道、非の打ちどころといえば名前が「ひでお」ではなく「えいゆう」くらいだ。
冷静に考えるとここにいる以上、自分たちにも害が及ぶのは間違いないのだ。
戦わずして逃げることもできるが、この世界のどこに逃げ場があるかわからない以上、解決するしかないのか?
「…英雄君が言うなら私も!!!」
「私も…やるわ!!!」
「しかたねぇか。やるしかないな!!」
次々とクラスメイト達は決意を示した。
「やってくれますか!では今日はゆっくりと休んで明日皆様にはこの世界を理解して頂きたい。」
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その日の夜。
なんとも豪勢な夕食の後、各人には部屋が与えられた。
部屋はビジネスホテルの一室くらいの広さなのだが、装飾品が豪華絢爛である。
高そうな絨毯にベット、ベットサイドにテーブルが置かれたシンプルな部屋だった。
俺と澪は夕食後、
「異世界なんて…テレビや漫画だけだと思ってた。」
「そうだな。こんなことになるなら冷蔵庫のプリン食っとくんだった。」
「…こんなとこに来てまでプリンの心配なんてタケルには食欲しかないのね…」
「澪は不安なのか?」
「そんなわけ!…ないじゃない」
だんだんと声が小さくなっていく。
やはり女の子だな、普段あまり見ない澪に戸惑う…
「大丈夫だよ!お前は俺が守ってやるから!」
「!!!」
「何驚いた顔してやがる、俺だって剣道やってたんだ、澪の一人や二人くらい守ってやるよ。」
「…ありがとう」
「幼馴染なんだから当たり前だろう」
「うん!じゃあまた明日ね!!おやすみ。」
そういうと澪は部屋を出て行った。
「さて、どうしたものか…」
この世界で生き残る為にはまず何をしなければならないのか。
どうやって帰還するのか、そんなことを考えながら知らない天井を見ながら眠りに落ちるのだった。