第9話 迷宮の最奥にて
目を開けると、そこは天国でした。
小鳥の囀る声、温かい陽が燦々と降り注ぎ、良い風が吹いていた。
そして家が2軒建っている。
「ここは…どこだ?」
「えーーと。私たち洞窟にいたはずよね?」
隣のメルもキョトン顔だ。
「ようこそいらっしゃいました。」
その時、唐突に声がかかる。
目線には誰もいない。
「ここだよ!ここ!」
どうやら下の方から声が聞こえる。
「失礼しちゃうなぁ、下だよ!」
見ると、5歳児くらいの男の子がいた。
「わっ!いつの間に。」
「…ずっといたよ。」
「で、ボクここはどこだい?」
「えーとこんな成りをしているけど、君より遥かに長生きしてるよ。となりのサキュバスのお嬢さんよりもね。」
「「えええええ」」
「改めまして、僕は幻獣族のニクス、種族は不死鳥。」
「…幻獣族?がなんでここに?」
「僕はここの迷宮の守護者さ。」
「つまり、試練を与えてるのは幻獣族なのか?」
「そうだね。僕達に手を貸してもらおうと思ってね。」
「手を貸す?なににだ?」
「”神殺し”に。この世界はもっと平和であるべきなんだ。なぜ人族と魔族と獣族は争っているんだい?どうしてみんなが争わなくちゃいけない世の中なのか。君たちは疑問に思わなかったかい?それもこれも神が仕組んだことさ。今の魔族を率いている人物も神が寄越した”使徒”なんだ。使徒は種族を問わない。なんせ神が創り給うたモノなんだから。」
「じゃあ私たちの戦いは予め仕組まれてたってことなの?…許せない。」と、メルが拳を握りしめる。
「そうだね。神にとっては盤上のゲームに過ぎないのかもしれない。僕達は駒さ。そして絶対的な力を持たせた駒を送り込んで、最後は絶対自分が勝つようにしているのさ。」
「そんなっ……。」
「でも安心して欲しい。僕達は神に至る方法と神を倒す力の手がかりを見つけた。」
「それが迷宮ってことか?」タケルが聞く。
「素晴らしい。君は若いのに聡明だね。そう、この迷宮で得られる力”重力魔法”君たちも自覚してるんじゃないかい?」
タケルとメルはここにくる魔法陣に乗った時。
なぜか重力魔法の概念を理解した。
概念と転移を併せ持った魔法陣だったのだ。
「君たちの手に入れた神級魔法はこの世にいくつか存在する。迷宮を探して、それを手に入れれば神に到達できるというわけさ。」
「ちなみにほかの迷宮はどこにあるんだ?」
「天族領アナスタシアのテンプス迷宮、妖精族領ファンタセスのエスペス迷宮、あと人族領のガイア迷宮だね。」
「そこまでわかっててなぜ自分たちで”神殺し”をしないんだ?」
「おっと、勘違いしないでくれよ?決して恐れている訳では無いんだ。ただ、僕らは神に気付かれてしまってね、神は自分で作ったこの迷宮内に関しては感知できないようでね、灯台もと暗しというやつかな?水面下で事を進めるために隠れているんだ。だから手を貸して欲しい。」
「そうか。でも俺達には目的がある。まずは魔族と人族の争いを止めたい。その使徒とやらを倒して。」
「ああ、もちろんだとも、神の使徒を倒すのは僕達にとっても願ったり叶ったりだ。」
と言うと、ニクスは微笑んだ。
「聞いてもいいか?」
どうぞと言わんばかりにニクスは頷く。
「迷宮の主の能力と倒した時に光を受けて俺の目は赤くなったんだが、アレがなんだがわかるか?」
「ああ、邪視だね。君は邪眼を手にしたんだよ。」
「邪眼?」
「邪眼、魔眼、魔力眼呼び方はそれぞれだけど。まあ迷宮の主と同じ能力を発揮できるのさ。もちろん君の訓練次第でね。」
「あと、他にも”使徒”は存在するのか?」
「それは、わからない。ただ現在確認しているのは魔族と獣族の2体だ。」
ニクスの話を聞き、神をなんとかしなければならないと思った。
「それと、君たちは迷宮の主を倒したなら魔石を持っているかい?」
「ああ、魔石ならここに。」
「それならば僕が加工して君たちに防具を与えるよ。」
「本当か?」
「ああ、向こうに家が見えるだろう?君たちも疲れているだろう。好きに使ってくれて構わない。時間はそうだな3日もあればできる。」
ニクスは家から離れた工房に篭るようだ。
絶えず、魔物に襲われ、眠ることもままならなかった。
家があるのは助かった。
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」
俺達は家に向かった。
「どうやらこれで僕らの悲願は叶いそうだよ。」
ニクスは虚空に向かって呟くのだった。
「ほへぇぇ」
「これはすごいな。」
外観の質素さからは想像出来ない様な作りだった。壁は白塗り所々にきらびやかな装飾。
家の中には、天蓋ベッドの部屋が2部屋、豪華なお風呂、キッチン、トイレがあった。
タケルとメルはまず風呂に入ることにした。
タケルは湯船に浸かりながら、疲れを癒していた。
そこへ、当然の様にメル乱入。
まさかの展開に戸惑う俺。
ここは天国ですか、、いや天国です。
「背中お流しいたしますわ。」なんて言われてしまった。
風呂に入りサッパリすると、ベッドに倒れ込み。
それからは泥のように眠った。
ニクスが魔石を加工している間、神級魔法、重力魔法の使い方を訓練した。
重力魔法
物体の重さの操作。
周囲の重力操作。
また、重力を操ることによって小さなブラックホールを作り出すことが出来る。
上二つに関しては俺にも扱えたが、ブラックホールはメルにしか作り出せなかった。ただし、途方もなく魔力を消費する為、メルも扱いになれる必要があった。
模擬戦にて重力魔法と既存魔法を組み合わせたりして、俺達は2日を過ごした。
そして3日後、ニクスがなにやらコートを持って現れた。
ニクス曰く、
「触手能力を応用した形で、衝撃を吸収するようにしている。また、破れても元通りになる。」とのことだ。
タケルには白い触手の特性、魔法耐性の白地に黒いラインが入ったコート。メルには黒い触手の特性、物理耐性の黒地に白いラインのコートが渡された。
一応、俺のコートにも物理耐性が、メルのコートにも魔法耐性がついているらしい。
それを羽織り、ニクスに礼を言った。
「ちなみに出口はどこだ?」
「出口はこっちにあるよ。」
そこは泉だった。
「入口と出口ってつながってんの?」
「いや、出口は君たちが入って来た泉の底さ。入口と出口はちゃんと一方通行だから、出口から入ることは出来ない。」
「なるほど。」
「じゃあ、いろいろとありがとう。ニクス」
「ああ、気を付けて。」
そう言ってメルと共に泉に飛び込んだ。
「ぷはっ」
2人は霧の中の泉から出てきた。
「よし、メルこのまま使徒を倒しに行こう。」
「うんっ。今の私たちなら、大丈夫だよね。」
「ああ、必ず人族と魔族の争いを止めよう。」
そして俺達は、”使徒”吸血鬼がいる魔族の城に向かうのだった。