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「昨日・・・嫌な夢を見たのじゃ・・・あにうえがわらわの元からいなくなってしまう恐ろしい夢じゃ・・・」
「・・・そういえば夜、うなされたよ」
「そうであるか・・・ではあの包まれるような安心感はあにうえのおかげじゃな・・・途中からあにうえが戻ってきて、いっぱい甘えられたのじゃ・・・最後は良い夢じゃった・・・」
「・・・それは良かった・・・」
えへへ~、とはにかむ笑顔は最高に可愛かった。
前髪パッツンのロングヘアーのちびっこ、なんて容姿はずるい。
妹です、って言ってるようなもんだ。
僕は何を考えているんだ、いったい。
食堂
「母上、父上、おはようなのじゃ!」
「はいはい、おはようリム」
「おう、クルト、リム、おはよう」
「・・・おはようございます、父上、母上」
「クルトも、おはよう、良く眠れた?」
「・・・はい」
「大方、リムが離れなくて大変だったでしょうけど~」
「な、なんだと、リム!なら、今日はお父さんと一緒に・・・ぐはぁ!なぜ足を踏む・・・!!!」
「朝からセクハラはやめてくださいましね・・・じゃあ、クルトは久しぶりにお母さんと寝ましょうね~」
「だめなのじゃ!あにうえはわらわと一緒に寝るのじゃ!」
「・・・はは」
いつもの城の雰囲気では無かった。
でも、他の人たちもいなかったし、みんなそれを分かっていてやっているのが分かった。
人の目を気にしなきゃいけない、ってのも辛いな。
「む・・・これは」
「とってもおいしい玉子焼きなのじゃ!」
「ふっふーん・・・今日は久しぶりにお母さん頑張っちゃいました!」
「く・・・新婚時代を思い出すなぁ・・・うまいなぁ・・・」
「・・・母上の・・・手料理」
「クルト・・・いっぱいあるから、たくさん食べてね!」
「・・・あにうえ?」
母親の手料理・・・
食べたことあった・・・のかな・・・
思い出せない・・・
でも、なんだか見ているだけで懐かしいような・・・
「あにうえ・・・泣いておるのか・・・?
「クルト・・・」
「はいはい・・・クルト・・・いいのよ、泣きたいときは泣いてもいいのよ・・・」
「・・・母上」
僕は自分でも気づかない内に、涙を流していたようだった。
抑えきれない衝動が、胸の奥を熱くしっぱなしだ。
母上は、そんな僕の頭を優しく胸に抱きしめてくれた。
この感じ・・・包容力・・・匂い・・・
僕の心の奥にある記憶・・・
ゆっくりとその凍てついた部分が・・・溶けていく
「ごめんね・・・今までごめんね・・・これからはいつでも・・・いっぱい甘えていいからね・・・」
「・・・」
「リム、お父さんに甘えたくなったときはいつでもいいんだからな・・・キリッ」
「考えておくのじゃ!」
「リム・・・」
母上の玉子焼きは、とてもおいしかった。
言葉にならないくらいに。
でも女王自ら手料理なんて・・・大丈夫なのかな。
さすがに老人たちも黙っちゃいないだろうし・・・
規律が本当に足かせになってるな・・・
食後の団欒
「あ、そういえば母上!あとで相談があるのじゃ!」
「あら・・・じゃあ時間を作らないとね・・・午後でもいい?」
「いいのじゃ!勉学に区切りがついたら母上の私室までいくのじゃ!」
「はいはい・・・クルトは?」
「・・・大丈夫です。用事が出来たら伺います」
「母の胸が恋しくなったらいつでもいいんだからね?」
ニコっと笑顔になった母上は、とってもまぶしかった。
これが母親の力、なんだろうか。
「謁見とか別に気にしなくていいからね。来てくれたら時間作ってあげるから・・・もし手が離せないときは次の空き時間を教えてあげるわ」
「・・・大丈夫・・・なのですか?」
「ふふふ・・・母の力を甘くみないでちょうだい・・・これでも女王なんですから・・・ふふふ」
今に見ていなさいよ老人共!!
と、リムと一緒になって、こぶしを突き上げながら母上は力強く言った。
やっぱり色々鬱憤溜まっていたんだな。
確かに老人たちの機嫌を伺いながら、言われたとおりっていうのもね。
でも・・・本当に大丈夫かな・・・
「クルト・・・ヒマだったら剣でも教えてやろうか」
「・・・父上」
「だが、スパルタでいくぞ?・・・これでも女王を守る騎士団長なんだからな!はっはー!」
そうだ。
父上は母上の婿を決める武術大会で優勝し、その後の知力試験でも満点突破した実績があるのだ。
見た目は、騎士団員の正装を来ていなければ、どこぞの山賊みたいな面構えだが・・・
ってことは、僕も山賊顔!?
「クルト~・・・心の中で父を罵倒するのはやめてくれ・・・」
「・・・してないしてない」
「護身術程度じゃつまらなかっただろ?・・・応用や実践は中々やりがいがあるぞ?」
「・・・よろしくお願いします」
父親から教わる。
男同士にしか分からない、汗臭いことだったけど。
父上はずっと笑顔だった。
息子に教えてることが、嬉しくてしょうがないって感じで。
・・・本当にスパルタ過ぎて、へこたれそうになったけど。
「なかなか筋がいいな!さすが俺の息子!だがまだまだだな!」
「・・・く!」
「切り返してみろ!・・・そうだ、その動きだ!」
「・・・はぁはぁ」
「よしよし・・・まぁ、こんなところかな」
僕は疲れて、バタっとその場に仰向けで倒れた。
ここは城の訓練場。
周りには他の騎士団員が訓練をしていた。
・・・つーか、父上が僕だけに付きっ切りで教えていたら、やれ贔屓だのなんだの始まるんじゃないのか。
「クルト・・・別にこれは贔屓でもなんでもないぞ?」
「・・・ち、父上!?」
「お前はまだ剣の基本すらままならないのだ。護身術程度ではな・・・これは入隊試験みたいなもんだ」
「・・・はぁ」
「次からは、みんなと同じ物を着て、同じ物を持って、みんなと一緒に訓練してもらうからな!・・・そうなったらもうただの騎士団員の一人として扱うからな」
「・・・なるほど」
「ま、たまにはこうやって二人でやりあうのも良いと思ってるけどな・・・ま、親馬鹿だな」
がはは、と笑う父上はとっても頼りがいがあった。
オーラが違う。
騎士団員からの信望が厚いとは、本当のことなんだろうな。
「・・・ここだけの話・・・女性団員は綺麗どころばっかりだぞ・・・年上の綺麗なお姉ちゃんばっかりだ・・・どうだ、クルト?やる気が出て・・・」
「・・・父上、後ろ」
「あーなーたー」
「な、な、なぜここに!?・・・ぐはぁ!」
「全く・・・クルト、頑張ってる?・・・もうお昼よ、行きましょう」
「・・・あ、はい」
「ほらほら、あなたも行きますよ!」
「・・・おーいみんな!次は昼からだ!いっぱいメシ食って、力つけろよ!・・・午後からは厳しくいくからな!」
「はい!」と騎士団員たちの揃った声が響き渡った。
いいなぁ・・・こういう軍隊っていいなぁ・・・
少し憧れていたんだよな・・・
「・・・母上」
「なぁに、クルト」
「・・・なぜ腕を組んで歩くのですか」
「お母さんだって息子に甘えたいときがあるのよ~。ダメ?」
「・・・別にいいですけど」
「ク~ルト~空いた腕の方はお父さんと組もうか~?」
「却下」
「なぜお前が応える・・・ぐふぅ!いいパンチだ・・・世界を狙っているな・・・がくっ」
「・・・母上」
「私たちはいつもこんな感じなのよ・・・クルトはお父さんみたいになっちゃダメよ」
「・・・(こ、答えにくい・・・)」
母上と父上のこういった姿は、本当に新鮮だ。
いつもは老人たちがどこで見ているか分からないから、隠していたのかな・・・
もしかしたら、僕とかリムがいるとき限定・・・だったり。
そう考えると、嬉しくなってきた。
母上の胸の間に僕の腕がすっぽり収まっている。
改めて大きいなと感じた。
でも、母親だからな・・・何を言い訳しているんだ、僕は。
母上はやっぱり美人な人で、さすが女王という感じだ。
見た目で年齢が分からない。
もうすぐ40歳って本当なのだろうか。
30にすら見えない。
食堂
「あ!あにうえ、こっちなのじゃ!・・・あー!母上、あにうえと腕を組んでおるとは・・・!!!」
「お兄ちゃんはリムだけのものじゃないのよ、っていうアピールよ~」
「あにうえ!実の母にデレデレするでない!」
「・・・してないしてない」
「うふふ・・・さ、名残惜しいけど離れなきゃね」
これが・・・これが・・・家族なんだ・・・
僕は噛み締めていた・・・幸せを・・・
「いただきまーす、なのじゃ!」
「はいはい、いただきます」
「・・・いただきます」
「ちょおーっと待ったぁ!父がまだ席に着いていないぞおぉ!」
「このパスタ、とってもおいしいのじゃ!」
「ほんとね・・・スパイスが違うのかしら・・・あとでシェフに聞かなきゃ」
「・・・もぐもぐ」
「父は・・・父は悲しいぞぉおおお!」
家族の団欒は、問題なく?進んだ。