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リムの部屋
「・・・ほら、動いちゃだめだよ」
「あにうえに髪を乾かしてもらうのは本当に気持ちいいのじゃ・・・」
「・・・はいはい」
「こんな・・・些細なことでも・・・幸せを感じることができるんじゃな・・・」
「・・・リム?」
「あにうえにとってわらわは妹・・・わらわにとってあにうえは兄・・・家族の絆は、いつまでも変わらないことなのじゃ」
「・・・大人になっても甘えっぱなしじゃ困るけどね」
「甘えてやるのじゃ!あにうえに毎日!」
「・・・はいはい・・・次は髪梳かすからじっとしてて」
「あにうえは本当に優しいのじゃ・・・手つきから愛を感じるのじゃ!」
「・・・リムの髪は綺麗だからね。慎重にやらないと」
「・・・わらわは今、世界一幸せな妹なのじゃ!」
「・・・はい、終わったよ」
「ありがとうなのじゃ!さ、次はあにうえの番じゃ!」
「・・・僕はいいよ」
「だめなのじゃ!いつもろくに乾かしもしないでいるのは見栄見栄じゃ!わらわの兄として、恥ずかしくないようにするのじゃ!」
「・・・男なんてそんなもんだよ」
「だーめーなーのーじゃ!」
妹に髪を乾かしてもらう兄。
仲良し兄妹ってことで勘弁してもらいたい・・・って誰に言っているのだろう。
「あにうえの髪もすごく綺麗なのじゃ~」
「・・・そうかな?自分じゃ分からないよ」
「ふふ~ん・・・なぁ、あにうえ」
「・・・ん、なんだい、リム」
「もう・・・この城を出て行かなくても・・・いいのではないか?」
「・・・え?」
「わらわは考えたのじゃ・・・今日、あにうえから言われて我に返ったように・・・自分の家族を大切にできない人間に、国民の家族たちを大切にできるわけないのじゃ!
古臭い風習など変えてしまえばいいのじゃ!王族だからなんだというのじゃ!わらわたちだって、家族があるのじゃ!」
「・・・リム」
「あにうえも・・・甘えていいのじゃ・・・辛いときは辛いっていうのじゃ・・・」
「・・・ありがとう、リム」
リムは僕の髪を梳かすのをやめ、そのまま僕の頭を抱きかかえた。
あたたかい。
やわらかい。
安心・・・という気持ちを久しぶりに感じた。
「! 今すっごく良いことを思いついたのじゃ!」
「・・・なんだい」
「ふっふっふ・・・秘密じゃ・・・これは明日、母上との秘密会議が必要じゃ・・・」
「・・・?」
「あにうえとはずっと一緒じゃ!・・・さぁ、夜も遅くなってきたし、そろそろ寝るのじゃ」
「・・・うん、おやすみ」
「あにうえ、どこへ行く!・・・一緒に寝るのじゃ!」
「・・・はいはい・・・って、えええええ?」
リムのベッド
「思った通り、二人でも全然余裕なのじゃ!」
「・・・にしては、くっつきすぎじゃない?」
リムは僕の背中に文字通りしがみ付いている。
やわらかでしなやかな感触が背中に広がっている。
「あにうえ、こっちを向くのじゃ」
「・・・ん」
「あにうえ・・・今までずっと寂しい思いをしてきたのは・・・わらわじゃない・・・あにうえなのじゃ」
「・・・そんなことないよ」
「わらわは・・・さきほどまで浮かれすぎていた・・・あにうえの気持ちも考えんと・・・本当にただの馬鹿じゃ」
「・・・リム」
「あにうえは物心ついたときから一人で・・・母上や父上に甘えることもできず・・・会うことさえままならず・・・わらわはそんなあにうえに対して罵詈雑言で・・・本当に気づかなきゃいけなかったのは・・・わらわの方じゃ」
「・・・リム、泣かないで」
「あにうえの心の叫びが・・・どうして聞こえなかったのじゃ・・・わらわはあにうえの妹なのに・・・同じ血が流れているのに・・・」
「・・・いいんだ、もういいんだよリム」
「良くないのじゃ!あにうえこそ強がってばかりなのじゃ!今までの分も・・・甘えるのじゃ・・・お互いに支え合っていくのじゃ・・・わらわに任せるのじゃ・・・必ずあにうえに幸せになってもらうよう頑張るから・・・」
「・・・リム・・・立派になったね」
「・・・あにうえのおかげじゃ!」
お互いに泣きながら、抱き合っていた。
でも・・・国の規律を変えることなんて・・・そう簡単にいくとは思えない。
審議会やら何やら、うるさい老人どもが多い。
変化を拒むのは、分かる気がするが。
果たして、変えることが良いのか、古くからの風習が良いのか。
分からない。
誰にも分からない。
僕とリムはいつの間にか、眠りに落ちていた。
「おにいちゃん・・・おにいちゃん・・・」
「・・・ん、リム?・・・なんだ寝言か」
「どこにも行かないで・・・リムを置いていかないで・・・一人に・・・しないで・・・」
「・・・リム・・・僕はここにいるよ」
少し強く抱きしめてあげたら、リムの顔が安らいだ。
寂しがり屋のリム。
昔は、おにいちゃん、って呼ばれていたんだよな・・・
なんだか懐かしい響きだ・・・
もし、今日あのまま僕が何も言わなかったら・・・
そう思うと、家族の関係を修復できたのは良かったと思う。
でもそれは、国の規律に違反することばかりだったけど。
僕とリムが仲良くするのもそうだけど、母上と父上と近く接触したのはちょっとまずい気がする。
頭の固い老人どもが、気づいていない訳が無い。
一緒のご飯を食べるわ、一緒に風呂に入るわ、普通に会話してるわ・・・
本当に何も考えず、家族の時間を楽しんでしまった。
母上、父上・・・
朝
「・・・あにうえ!あーにーうーえー!朝なのじゃー!起きるのじゃー!」
「・・・うーん・・・リム・・・?」
「早く目を覚ますのじゃ!おはようのチューができんではないか!」
「・・・ん」
「あ、起きた、のじゃ」
「・・・おはよう・・・リム・・・おはようのキスは将来の旦那さんに取っておいてあげようね・・・」
「キスではない、チューじゃ!チューなら許されるのじゃ!」
「・・・違いが分からないんだけど」
「んー・・・おはようなのじゃ!!」
「・・・(ほっぺたはセーフ・・・なのかな)」
リムに起こされて、ほっぺたにおはようのチュー。
か、家族としては、度が過ぎている気がしないでもないが、リムが喜んでいるならそれでいい!!
深く考えたら負け・・・深く考えたら・・・