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王位継承  作者: るーく
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「・・・落ち着いた?」


「うむ・・・あ、あにうえ・・・その・・・甘えてもいいであろうか・・・?」


「・・・出来損ないの人間のクズで良ければ」


「あれは・・・!!!あれは本心ではない!!!わらわが作り出していた幻想の自分が勝手に言った言葉じゃ!!」


「・・・はいはい、ほら、涙を拭いてあげるから」


「ぐす・・・あにうえには本当にごめんなさいなのじゃ・・・家族に辛く当たるなど・・・わらわの方が人間のクズじゃ・・・」


「・・・リムは本当は優しい女の子だってこと、ちゃんと分かってるから、もう忘れよう」


「あにうえ~・・・はぁ・・・この感触・・・あにうえの感触・・・安心するのじゃ・・・」











リムはそれから1時間以上、僕に甘えた。


それは何年か前の自分を取り戻すかのように。


これで、良かったんだよね。











「もう・・・大丈夫なのじゃ」


「・・・ん」


「本当に・・・あにうえにはひどいことをしてしまった・・・改めてごめんなさいなのじゃ・・・」


「・・・もういいんだよ、リム。じゃあ迷惑をかけちゃった人たちに謝りに行こうか」


「・・・わかったのじゃ!!」





リムは僕の手を取ると、前に立って走り出した。





「早く!早く!あにうえ!」


「・・・リム、はしたないから走っちゃだめだよ」


「少しくらいいいのじゃ!」


「・・・ちゃんと前見てね」











リムと一緒に、兵士やら講師やらに謝りに行った。


どちらも、僕とリムが手を繋いで仲良く歩いている姿を見て、驚いた顔をしていた。


リムが素直に謝ると、みんな許してくれた。

一部の兵士は、そんなリムを見て卒倒してしまったが。



リムはずっと、周りを気にせずに、僕と手を繋ぎ続けていた。












廊下



「あらあら」


「母上!謁見はもう済んだのであるか?」


「今日の分は今終わったところよ・・・お兄ちゃんと仲良さそうねぇ」


「兄妹なんだから当たり前じゃ!」


「・・・」


「ふふ・・・クルトも大変ね」




母上は僕とリムを見て、優しい笑顔になった。


こんな顔、久方ぶりに見た。


ちょっと、家族っぽい感じがなんか、くすぐったかった。


母上とすれ違うとき、僕の耳元で「ありがとう、クルト」と囁かれた。











訓練場前



「お、クルトにリムか」


「父上!」


「リム~お父さんともたまには手を繋いでくれ~」


「嫌なのじゃ!あにうえがいいのじゃ!」


「・・・クルト~恨んでやる~」


「・・・はは」


「父上の呪いなんか屁でもないのじゃ!」


「・・・リム~・・・ぐすん」




父上も、僕とリムが仲良く一緒にいるところを見て一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。


別れる間際、父上は僕に寄ってきて、バシバシと背中を叩いて、豪快に笑っていた。



これが・・・本来あるべき姿の家族像に近いのではないだろうか。












リムの部屋



「あにうえ~あにうえ~」


「・・・リム・・・さすがにくっつきすぎじゃないかな」


「いいのじゃ~今までの分、たっぷり甘えないといけないのじゃ~」


「・・・はは」




リムの頭を撫でたら、少し照れたような、はにかんだ笑顔を見せてくれた。


く・・・我が妹ながら破壊力は凄まじい・・・











夕食時



「・・・リム、そろそろご飯の時間じゃない?」


「む・・・まことか。あにうえに甘えるのに集中し過ぎてしまったのじゃ・・・時間の流れとは残酷なものじゃのぉ」


「・・・ほら、父上も母上も待ってるんじゃない?早く行っておいで」


「あにうえも一緒にいくのじゃ!」


「・・・へ?」












食堂


そこには家族4人分の食事が用意されていた。



「ふふ・・・ほらね、私の言った通りになったでしょ?用意しといて良かったわ~」


「む・・・」


「・・・母上・・・父上・・・」


「今日から毎日毎食一緒に食べるのじゃ!」


「私は・・・規律に縛られて・・・本当に大事なことを見失っていたわ・・・女王としても母親としても失格ね・・・」


「・・・母上」


「過去は過去なのじゃ!今から変えていけばいいのじゃ!」


「・・・リム」


「クルト・・・さぁ、冷めないうちに食べよう」


「・・・父上」





前に家族4人で食事をしたのは、いつだっただろう。


思い出せないくらい、過去の記憶だ。



みんな、笑顔だ。


今この場には、次期女王だの王位継承権など何も関係なかった。




家族が、当たり前に一緒に食事をしている。


当たり前の光景が、目の前にあった。










「あにうえ、あーんなのじゃ!」


「・・・自分で食べられるよ」


「あーんなのじゃ!」


「・・・あーん」


「あらあら・・・まぁまぁ」


「リム~お父さんにもあーんは・・・って、いてて!」


「あなた~?娘にセクハラはやめてちょうだいね~?」


「あにうえ~わらわにもあーんしてくれなのじゃ!」


「・・・はい、あーん」


「あーん!あむ!・・・うーん、おいしいのじゃ!すかさずわらわの好きなものを選ぶなんて・・・あにうえは良い男すぎるのじゃ!」


「・・・クルトぉ~」


「はい、あなた、あーん」


「あーん・・・うまいうますぎるぞぉ!ほら、おかえしのあーんだ!」


「・・・ふふ・・・新婚時代を思い出すわぁ・・・」


「・・・はは」




これが、家族。


うちの家族の・・・形。


僕は、自分が笑顔になってることに気づいた。



そういえば・・・声に出して笑ったり・・・笑顔になったり・・・忘れていた。











「あにうえ!お風呂なのじゃ!」


「・・・いってらっしゃい」


「久しぶりに一緒に入るのじゃ!」


「・・・それは色々とまずい気が」


「わらわに欲情したら、責任持って面倒みてあげるのじゃ!さ、早く!」


「・・・さらに色々とまずい気が!」











風呂場



「いっつも一人で入ってて、つまらなかったのじゃ」


「・・・さすがに風呂は一人で入るものかと」


「あにうえ、なぜ顔を背けておるのじゃ?」


「・・・(リムは妹、リムは妹、リムは妹)」



がららら、と風呂場の扉が開く音がした。


僕とリムは同じタイミングで扉の方を向いた。



「お母さんも一緒していいかな?」


「もちろんじゃ!」


「・・・」


「クルトとリムと一緒にお風呂なんて何年ぶりかしらね~」


「・・・父上は?」


「え?・・・うふふ~」


「? まぁいいのじゃ!みんなで背中流し合うのじゃ!」


「あらあら、じゃあお母さんはクルトに流してもらおうかな?」


「わらわはあにうえの背中を流すのじゃ!」


「・・・うん」



これが、家族・・・


にしては、16歳の息子と14歳の娘と一緒にお風呂っていうのは・・・


でも・・・こんなこと今まで無かったし・・・


僕らは家族になるのが・・・遅すぎたのかな。


家族になったのは、今日といってもいいし。










湯船



「はぁ~・・・今日もいいお湯ですこと~」


「むー・・・なのじゃ」


「どうしたの~?リム」


「母上は胸が大きい上に、びにゅう、ってやつなのじゃ!わらわは14歳になったのに、まだぜんぜんなのじゃ・・・」


「・・・(びにゅう・・・母親に対して言う言葉か?)」


「あらあら・・・リムは私の娘なんだから、そのうちグングン大きくなるわよ~」


「早く大きくなって欲しいのじゃ・・・あにうえにわらわの胸で甘えてもらえるようになりたいのじゃ・・・」


「・・・ぶふ!」


「うふふふ・・・リム~、別に胸が大きいからって甘えてもらえるってわけじゃないのよ?」


「じゃが、大きいに越したことはないと思うのじゃ!」


「うーん・・・クルトはどう思う?」


「あにうえはどう思っておるのじゃ?」


「・・・えーっと」



くすぐったい。


すごく、くすぐったい。


この気持ちはなんだろう。


そして、すごく答え辛い質問のような気がしないでもない。










「・・・気持ちが大事なんじゃない」


「ほらね~やっぱり気持ちよ、気持ち!」


「あにうえは本当に優しいのじゃ!」


「・・・」


「ねぇ、クルト。久しぶりに母の胸に甘えてみる?」


「・・・遠慮します」


「え~、どうして~?」


「母上ずるいのじゃ!あにうえ、わらわに甘えるのじゃ!」


「・・・困った」


「ふふ・・・リムも、お兄ちゃんを困らせちゃだめよ?」


「いつでも待っておるのじゃ!」



家族って、暖かいな。


そう思った。

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