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僕が来月城を出ることに決まってから、日に日にリムの様子がおかしくなってきてるのが分かった。
普段からプライドが高くて気が強かったから、周囲の人間も気を使っていたのだが、最近、当り散らすことが多くなってきているらしい。
僕はいつも罵られているときに、少しおかしいと感じていたんだが。
「リムリア様・・・最近ひどくないか?」
「あぁ・・・こんなこと今まで無かったのだが・・・」
側近の兵士が愚痴ってる。
「リムリア様が話を聞いてくれません・・・」
「私は教科書を投げつけられました・・・」
「私は腕を噛まれました・・・」
リムリアの勉学講師の女性たちも、疲弊していた。
リム。
僕はリムの部屋の扉をノックした。
「・・・誰じゃ!今は誰とも会いとうもないし、話しとうもない!!」
「・・・リム、僕だよ・・・入るよ」
「・・・兄上!?」
「何をしにきた!!ここは兄上が入ってきていいところではないぞ!!!」
「・・・リム」
「出て行け!!早く出て行け!!出来損ないが部屋に染み付いてしまうではないか!!!」
「・・・」
リムは僕に背を向けたまま、叫んでいる。
僕は豪勢な勉強机の椅子に座っているリムを、後ろから抱きしめた。
「な、何をする!!離せ!!変態!!ついに妹に欲情したか!!人を呼ぶぞ!!」
「・・・リム、最後だから聞いてくれないか」
「う、うるさい!!何も聞きたくない!!」
リムは僕から逃れようとと暴れる。
「・・・リムはいつも一生懸命で・・・弱音なんか吐かないで・・・みんなの期待に応えるために努力して・・・」
「何を言い出すかと思えば・・・!!!そんなことはどうでもいいいから早く離さぬか!!」
「・・・どうでもよくないよ。リムはすごい。頑張ってる」
「わらわは・・・毎日毎日ぐうたらしている出来損ないの兄上とは背負ってるものが違うのだ!!頑張るのは当たり前であろう!!」
「・・・そうだね。でも当たり前だけど、続けることは難しいんだよ」
「出来損ないのクズのくせに、年上だからと説教か!?身の程をしれ!!!」
「・・・でも無理してる。毎日毎日、無理する必要はないんじゃないのかな?辛かったら辛いって言ってもいいんじゃないかな?」
「は!!負け犬が馴れ合いを求めているようにしか聞こえんな!!」
「・・・甘えたくても近くに甘えられる人間がいない者からするとさ、話を聞いてくれる人が近くにいるってことは、すごく大事なことなんだよ?」
「わらわは・・・次期女王だから!!甘えているヒマなどないのだ・・・!!頑張らなければ母上や父上に申し訳が・・・」
少しリムの声色と暴れる力が和らいだ気がする。
「・・・たまには肩の力を抜いて、誰かに甘えたっていいんだよ?リムはまだ14歳なんだ。母上や父上だって、リムに甘えて欲しいと思ってるよ」
「・・・甘えるなど・・・弱い人間の・・・すること・・・」
「・・・父上や母上に、次期女王なんだから毎日休む暇も無く頑張り続けて結果を出せ、なんて言われたことある?」
「!?」
「・・・リムは責任感が強いから。周りの人間からの言葉や使命感から、頑張り続けなきゃいけない自分を作っちゃったんだよ」
「わらわは・・・間違ってなんか・・・いない・・・」
「・・・間違ってはいないよ。だけどさ、僕も父上も母上も・・・苦しみながら頑張っているリムは・・・見たくないからさ」
「苦しみながら・・・頑張ってる・・・」
「・・・僕は次期女王の重圧とか分からない。リム本人じゃないから。でもね、家族にぐらい、甘えたっていいんじゃないのかな?」
「あま・・・える・・・」
リムは静かになった。
「・・・リムは一人じゃないよ・・・一人で頑張らないで」
「あに・・・うえ・・・」
「・・・ね」
「あ・・・あにうえぇぇ!!」
リムは椅子から転げ落ちるように、振り向いて僕に抱きついてきた。
リムを泣かせてしまったことは、ちょっと悪いことしたかなって思ったけど。
「今まで・・・今まで辛かったのじゃ・・・!!!」
「・・・うん」
「頑張れば頑張るほど・・・辛かったのじゃ・・・!!!」
「・・・うん」
「みんなが・・・みんなが期待するから・・・!!!」
「・・・うん」
「あにうえにも・・・いつの間にか悪態ばかりついて・・・本当に言いたことは違うことなのに・・・いつも・・・いつも・・・本当は甘えたかったのに・・・」
「・・・リム・・・もっと早く気づいてあげられなくてごめんね」
リムの本音。
周りに影響されやすい子供の頃から、次期女王だの何だの周りの期待が大きかった。
その環境が、リムを追い詰めていたのだろう。
もしかしたら無理しているのかな、と僕は思っていても口にできなかった。
リムの言う通り、出来損ない、だな。